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今年いちばんパワフルな漫画『ダンダダン』の抜群のテンポ感を現役漫画家が読み解く──勢い溢れる構成の秘訣をひとコマずつ徹底解説

 本格マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」にて、2021年4月6日より連載が開始した『ダンダダン』。新連載ながら、10話まで公開された時点で、累計1200万PVを突破するほどの話題作となっています。

 ニコニコ生放送「山田玲司のヤングサンデー」にて、漫画家・山田玲司氏は、本作で特徴的なコマ割りや登場人物、素早いテンポ感などについて言及。『ダンダダン』1話をひとコマずつ取り上げながら、本作の持つスピード感について読み解いていきました。

(画像は[第1話]ダンダダンより)
左上段から山田玲司氏、奥野晴信氏。左下段から久世孝臣氏、シミズ氏。

※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。

▼タイムシフト視聴はこちら▼
『どうすれば「漫画の勢い」は生まれるのか?〜今年いちばんパワフルな漫画「ダンダダン」1話目から読み解く「漫画をパワフルにする三原則」スペシャル!!』Cバージン第12巻

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■セリフがひと言もないし説明も全部カットな見開き

奥野:
 今回は玲司さんが『ダンダダン』第1話をネームとして書き起こして、詳細な解説をしていただけるということです。『ダンダダン』第1話は無料公開中なので、まだ作品を読んだことない方はぜひご覧ください。めちゃくちゃおもしろいので。

→『ダンダダン』第1話

山田:
 では『ダンダダン』のオープニングから解説していきます。まずカラーページの部分なんですが、普通は左ページから始まって、反対側がなかったりするんですけど、ウェブ連載ということもあって、見開きからスタートしています。

 最初の見開きで注目したいポイントがあって、セリフが一言もないんですよ。アオリが4行だけあるんですが、そのアオリの文字数さえも少ないです。「恐怖が蠢き未知に戦慄ス──…」という非常にシンプルなアオリになっています。

 そして見開きの1ページ目、2ページ目とどちらも目が描かれています。作品を読んでいくと何の目かわかるんですが、これは右側が幽霊の目で、左側が宇宙人の目なんですね。

 1ページ目には幽霊の目の下に不気味なトンネルがある。2ページ目には古ぼけた病院と宇宙人の目がセットになってるんです。

 この2ページが漫画の肝になっている部分なんですが、何も言わないし、説明も全部カットされている。「これがいまの漫画ですよ」という感じで説明なく進んでいきます。

 ページをめくっていくと、メインとなるような登場人物のギャルが出てきて、タチキリ(紙いっぱいに絵を描く漫画のテクニック)で描かれています。

 バッとフルショットになっていますが、膝より下を描くと顔が小さくなってしまいますし、胸や脚もよく見えなくなるので、膝上で切っているんですね。

 その横に「金貸してくれねえなら今日デート無し」と言っているなんか嫌な感じの男が出てくるんですが、見せたいのは女の子のフルショット。

 そのうえで、ふたりの対立がこのカットでわかるようになっています。しかも、男のほうは「ヤラしてくれるならいいぜ。ラブホ代そっちもちで」と言いながらベルトに手をかけ、足元も描かれている。

 この男のゲスな感じをカットで見せている。そして、この男が出ている3つのコマは、彼女から見た視点のようにもなっています。これで最初から臨場感が出てきます

 しかもこの男のゲスっぷりによって、1発目のほんの数コマで圧がかかるんです。「可愛いじゃん、この女の子」と感じた後に「この男、マジで嫌なやつだ」となるように、わずかなページで表現してるんですよ。非常にうまいです。

 だから「何こいつ、ラブホ代? ふざけんな」と思って、この男を殴りたくなるじゃないですか。すると、女の子が蹴りを入れようとするんです。

 女の子は蹴りを入れるんですけど、男はかわします。そして、女の子が路上に倒れてしまう。メインのキャラクターが負けるところから始まることになるんです

 この女の子が気が強いギャルということで、「ちょっと嫌だな」と思った人も「かわいそう」と、ほんの数ページで共感できるようになるわけですね。

 この後、ギャルは何があったかという話を教室で友達としゃべっています。「学校で起こってる話ですよ」とか、そんな説明は何もありませんが、このコマで高校生だってことが分かるし、友達もギャルなんだとわかる。

 なんであんな男と付き合おうと思ったのかということに加えて、失恋について騒いでる女の子たち……。『SLAM DUNK』もそうでしたよね。失恋から始まる数ページは、僕も散々描いてます。

 鉄板中の鉄板のテンプレです。非常に多くの作品が失恋で始まってますよ。なんでこの始まりかたが多いかと言えば、失ったものに対しては、読者からの共感が生まれるんですよ

 見てる人は、みんな何かを失っているので、どこか自分のことのように「この女の子が幸せになってくれればいいのにな」と思うんです。そして「こんなゲスな男、蹴っ飛ばしてくれればいいのにな」とも思うんですが、蹴っ飛ばせなかったというのが後半に効いてきます。長い物語における圧が、ここからスタートするんです。

 それでこのときに女の子がまたキーワードを言います。「どうしてそんな男と付き合ったの?」と聞かれて「高倉健に似てた」と答えるんです。そして「不器用な男が好きなんだ」と続けるんですが、友達からは「そんな奴いないよ、絶滅してるよ」と言われてしまうんです。

 その直後、とくに説明もなく瞬時に、ひとりぼっちな男の子を女の子が見つけるカットに入ります。

■「女の子が男の子を守る」この漫画の構造を開始9ページで全部説明

山田:
 ひとりぼっちのメガネ君を見つけるギャルの女の子。この構造、ここでも鉄板の設定がきましたね、オタクとギャルです。見つめられている男の子は、ひとり夢中で本を読んでいます。

 しかも友達がいなくて、いじめが起こっているんですね。何かを投げられて、その方向を見ると「こっち見んな」といじめっ子に言われている状況です。

 女の子が見つめているなか、さらにいじめがエスカレートして、いじめっ子は磁石が入った紙を投げようとする。ここが引き(次のページをめくってもらうための最後のコマ)になっています。テンポいいですよね。

 ページをめぐるとどうなるか。女の子が男の子の前にガタンと座っているんです。

 女の子の魅力的な姿と脚が描かれています。セクシーさも含めて。

 それで女の子が男の子をガードしてますよね。「これがこの漫画の構造ですよ」ということを開始わずか9ページで全部説明しています。

 何もセリフで言っていなくとも、このメガネ君を彼女が守っているんですよ。そしていじめていた男たちは、彼女に目で見られただけでいなくなります。

 その後に「何読んでるの。それ」と彼女が話しかけてきます。ここは読者がみんな気持ちよくなれる部分ですよね。そして、いじめてるやつを撃退したときに、女の子が「クズしかいねえのか。この世は」と言うんですよ。

 このセリフは読者全員の気分を代弁していますよね。そして、そういう気持ちを代弁しながらも、女の子はほとんど何も言わずに去っていきます。

 ふつうはここで別れるんだけど、男の子が彼女の名前をフルネームで呼びます。彼は女の子のことを意識してるから名前がわかるんです。

 じつに見事だよ、この9ページ、10ページ。助けてくれてたうえに、共感させられた女の子が去ってしまった。そこで助けられた男の子がフルネームで呼ぶので、絶対に読者はこの後を見ようとするでしょ。

 そうして名前を呼んだ男の子が次のページでは「好きなのはわかってるんですよ!」というセリフを言うわけですよ。

 ここでまたポイントが出るんですけど、この人は大きな声でセリフを言いながらも、女の子が近くにいるから相手の方向を見れないんです。この男の子は、女の人を直視できないメガネ君なんです。もうここだけで読者は共感マックスですよ。

 私も含めて日本人男性のほとんどが「こいつ、いいな」と思います(笑)。そして女の子が「は?」というリアクションをした後に、ロングショット(引き)でふたりの位置関係がわかります。

 そして、男の子のセリフが続いて「オカルトが好きなんでしょ、あなたは」と次のページで言います。さらにこのページで「オバマは火星に行ったんだ」とか、なんだかんだと言って説明をし始めるんですけど、ここで初めてオカルトの話になるんです。

 内容がわかんなくても、何か変な奴というのが伝わればいいんです。この説明中は、女の子を直視できないという面も一貫されていて、左側ページの最後にいたるまで、彼女の方を1度も見てません。

 しかも「僕のこと好きだってことは、わかってるんですよ」じゃなくて「オカルト好きなのは、わかってるんですよ。あなたも僕と同じ変人じゃないか」という風に、彼は吹っ掛けてくるんですね。

 ここからページを省略していきますが、13ページから15ページは、さらにテンポがよくなっていきます。

 男の子のオカルト話に登場するような「宇宙人はいない」と彼女が否定します。だけど「幽霊は信じる」と言うんですね。ここがポイントで、宇宙人と幽霊は違うんだという話になるんです。

 ここでふたりの対立構造が生まれて、15ページで幽霊がいるのか、宇宙人がいるのかと口論になって「じゃあ確認しよう」と言い出して17ページ目。もうすでに場所を移動してるんですよ。ここもテンポが早いんです。

 女の子は、宇宙人がいると噂のある古い病院へ、その所在を確認しに行くことになります。それで宇宙人がいないことがわかれば女の子の勝ち。男の子は、幽霊が出ると言われるトンネルに行くことになって、幽霊が出たら男の子の負けという勝負が始まります。

 対立したふたりがそれぞれ別の場所に行くことになるんです。これは冒頭2ページのつなぎになってますよね。だから冒頭の2ページには、トンネルと病院が描かれていたんです


 ここからさらにおもしろくなっていく『ダンダダン』第1話のネーム解説。その後の展開については番組後半の有料パートで語られているので、解説の続きが気になった方はぜひ番組にてご覧ください。

・「山田玲司のヤングサンデー」YouTubeチャンネルはこちら

・「山田玲司のヤングサンデー」ニコニコチャンネルはこちら

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