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漫画は本来、週刊で描くものではない? 『ベルセルク』三浦建太郎さん死去から考える漫画家の働き方【話者:久田将義・吉田豪】

 漫画『ベルセルク』などを執筆した漫画家の三浦建太郎さん(54)が、5月6日に急性大動脈解離のため亡くなっていたことがわかりました。

 久田将義氏吉田豪氏は自身がパーソナリティをつとめるニコニコ生放送「久田将義と吉田豪の噂のワイドショー」でこの話題について言及。

 過去に漫画家の編集を務めた久田氏は「描き込み系(の週刊連載)は本当にきついですよね」と述べました。

 プロインタビュアーでプロ書評家の吉田氏は「本来、月刊連載で成立していたものが週刊連載の時代になって以降、肉体的な消耗がとんでもない」と漫画家の過酷さを述べ、「自分も同じ大枠での物書きとして思うのは、やっぱりもっといろんな作品を書きたかったはずですよね。大ヒット作に縛られちゃったのはちょっとかわいそうだと思う」と早すぎる死を悼みました。

『ベルセルク (1)』
(画像はAmazonより)

※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。この番組は2021年5月24日に放送されたものです。


■漫画家は肉体的な消耗がとんでもない

左から吉田豪氏(@WORLDJAPAN)、久田将義氏(@masayoshih)。

久田:
 三浦さんは54歳で亡くなられたわけですが、まだまだ若いですよね。

吉田:
 ボクたちとほぼ同世代じゃないですか。

久田:
 『GANTZ』の奥浩哉先生(53)とか『代紋TAKE2』の渡辺潤先生(52)とか同じぐらいの年代が多いんですよね。
 僕も一年間、漫画の仕事をしていましたけど漫画家の人は辛いですよね。重労働というか……。

吉田:
 漫画家って消耗の仕方がすごいじゃないですか。

 ボクもベテラン漫画家を取材する連載でよく聞いた話なんですけど、本来、月刊連載が当たり前だったものが週刊連載の時代になって以降、普通なら成立しないようなことを誰もがやるようになったことで肉体的な消耗がとんでもないんですよ。
 忙しくしていた漫画家はとにかく早死じゃないですか。江口寿史先生が元気なのは早々に週刊連載から降りたからだと思いますね。

久田:
 本当にそうだよね。

吉田:
 江口先生も「漫画は週刊で描くものではない」って言ってましたよ。

久田:
 特に江口先生はギャグ漫画だからね。

吉田:
  ギャグ漫画家も絵の部分ではそれほどしんどくなくてもやっぱり消耗が激しくて、短命に終わりがちなことでも有名ですからね。江口先生の場合、『すすめ!!パイレーツ』の頃はよかったけど、画力がアップして絵を描き込むようになると、もう週刊連載なんかできるわけがないんですよ
 ましてや『ベルセルク』級の描き込みは、『ヤングアニマル』は週刊ではなく隔週だけれども、そのペースで描けるものじゃないんですよ。あれはボロボロになるでしょうね。

 『ドラゴン桜』の三田紀房先生みたいに、「絵は適度に力を抜きつつストーリーで読ませる」「アシスタントがモブキャラとかもかなり描く」スタイルの方が週刊連載にはいいんでしょうね。

久田:
 ストーリー系じゃなくて描き込み系だと本当にきついですよね

 過去に僕が週刊連載でペアを組んでいた時は、数ヶ月に一回休載していましたね。これは担当編集から言われて「今は、そういうシステムなんだ」と軽く驚きました。

吉田:
 昔と違って一応休めるようにはなったんです。ローテーションとか組んで月3本とかでもできるようになってるんですね。

 しかも三浦建太郎先生の場合は、初連載がそのまま続いて遺作になって、未完で連載32年。
 昔と違って「漫画が終われなくなった」とよく言うじゃないですか。昔は長く続いても20巻とかで終わっていたのが……。

久田:
 今では50巻とか。

吉田:
 それどころか100巻を超えたりとか意外とそれが珍しくなくなった。

 ただ、自分も同じ大枠での物書きとして思うのは、やっぱりもっといろんな作品を描きたかったはずですよね。大ヒット作に縛られちゃったのはちょっとかわいそうだと思う

 ボクとかの仕事だと一個に縛られるということがないじゃないですか。連載であってもいろいろな人に話を聞いて常に新鮮な思いでいられるし、忙しくてもここまでの消耗はしないんですよね

久田:
 特にギャグ漫画と描き込み系漫画はすごい辛いと思う。
 僕が経験した限りでは、ストーリー漫画は展開の変化でまだなんとかできたりするんですよ。

 過去にジャンプの編集長を務めた鳥嶋さんが「同じ漫画は10年まで」と言ってましたっけ。
 「それ以上続くのは駄作だ」まではいかないけども、そういうことを言っていたような気がしてそれに反発していた人もいましたよね。

※電ファミニコゲーマーに掲載されたインタビュー記事で鳥嶋氏は「身も蓋もない言い方だけど、同じ漫画を10年も20年もやっちゃダメ。なぜかというと、週刊誌って年間50冊でしょ。50話だよね。ということは、10年間やったら500話だ。それで完結しない話って何なの?」と発言している(一部抜粋)

■関連記事(外部リンク・電ファミニコゲーマー)
『ドラゴンボール』と『ナルト』の元担当編集が語る「ジャンプ」の裏側 ― 絶対に敵わない『ワンピース』に勝つために『ナルト』が取った戦略とは【鳥嶋和彦×矢作康介×鵜之澤伸×松山洋】

吉田:
 ナタリー掲載の三浦建太郎先生との対談では、鳥嶋さんが「キャラに関する展開が急ぎ過ぎかな。3分の1のスピードでようやく読者の視点になります」って言ったら、三浦先生が「死ぬまで終わらなさそうだ(笑)」って返して、鳥嶋さんが「それもいいんじゃないですか? 終わらなくちゃいけないなんてルールはないんだから」っていう話をしていたんですけど、まさにそうなっちゃったという。

視聴者コメント:
 ペン入れを全部自分でやる人は長生きできない。

吉田:
 (コメントを受けて)そんな気がしますね。三浦先生もアシスタントこそいたけれど、キャラクターから背景まで1人で描いてたみたいだし。

久田:
 そうなんですよね、あれ本当に大変ですよ。

吉田:
 『ベルセルク』のクオリティの絵を32年描いていたら、相当な寿命を削りますよ。

久田:
 僕らがイラストレーターに発注する時も、「イラストでもこんなに大変なんですね」っていうのを漫画家は全部で何ページも描くわけだから想像を絶するんですよね

吉田:
 江口寿史先生の「白いワニが来る【※】」みたいなのをギャグとして受け止めてたけど普通に考えたら怖い話ですね。
 原稿用紙を前にしてゲロ吐いたって、ボクも取材で聞きましたよ。それぐらいメンタルをやられるってことですよね

※白いワニが来る
江口寿史氏が目の前の真っ白な原稿を「白いワニに見える」と表現した。

久田:
 信じられないもんね。だって僕らはあそこにゲロを吐くってないじゃないですか。

 でもこの50代っていう年齢だとなまじ少し体力があって頑張っちゃうからかな。
 冨樫先生は55歳ですよね。『HUNTER×HUNTER』もたぶん終わらないだろうね。この年代の人たちは、今からなのに……って思いますね。

吉田:
 ボクが取材してる漫画家で70歳を過ぎて元気な人は、早い段階で週刊の戦いから降りた人ですよ。落としてもしょうがないという方向にシフトできた人は強い。

 自分の生活に針を振って楽しく生きる、ギャンブルをしてゴルフをやって、漫画も一切深く考えない、ネームも描かない、行き当たりばったりで描いてオチがつかなければそれでよしみたいな。

久田:
 そこまで割り切れればすごいですね(笑)。

吉田:
 長生きできますよ(笑)。

久田:
 それでも編集者としては「読者が待っているんです」って言うんですよね。


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