米国史上最悪の原子力事故「スリーマイル島原発事故」を振り返る。“原発安全神話”を崩壊させたメルトダウンの原因と被害を解説してみた
今回紹介する、ゆっくりするところさんが投稿した『【ゆっくり解説】信用できない機器 異常な数の警報 人間の勘違い…『スリーマイル島原発事故』』では、音声読み上げソフトを使用して、米国内最悪の原子力事故として記憶されている「スリーマイル島原子力発電所事故」について解説していきます。
1979年、スリーマイル島原発でメルトダウンが発生
魔理沙:
1979年3月28日、アメリカペンシルベニア州、ハリスバーグの南東にあった「スリーマイル島原子力発電所」で発生した大きな事故だ。この原発にはふたつの原子炉があり、そのうちのひとつの加圧水型原子炉で、装置の空気弁が閉じてしまうという問題が発生した。配管の内部に発生する詰まりを取るという作業中に、水が空気作動弁の操作用空気系に入ってしまい、空気弁が閉じた。
そのため安全装置が作動して、給水ポンプ、タービンが停止した。停止しても給水ができるように補助給水ポンプが立ち上がったが、メイン給水ポンプが停止してから約8秒後、内部の圧力が高まったことをコンピューターが感知して、設定されていた通りに原子炉を緊急停止した。
ところが、補助ポンプが作動していたものの、出口の弁が閉じてしまっていて、原子炉の蒸気発生器に水が送られず、原子炉から送られてくる1次冷却水の熱による蒸発のため、急速に水が失われていった。
霊夢:
それじゃ原子炉を冷やせないじゃない。魔理沙:
この1次冷却水は約150気圧に加圧されて、300度を超える熱水を水のままで循環させていたんだが、あまりに高圧になるとシステム全体に負担がかかって、パイプのシール部分などから水が漏れやすい構造だった。そのため、一定以上に圧力がかかった時は、加圧系に取り付けられていた圧力を逃がす弁が自動的に開いて、圧力を下げる仕組みになっていた。この事故当時も、一次冷却水の圧力を下げるために、事故発生後3~6秒で自動で逃がし弁が開いていた。だが原子炉が緊急停止して熱が下がり、13秒後にはもう通常の圧力にまで下がったにも関わらず、逃がし弁は開いたまま閉じなくなってしまっていた。
冷却水が減って圧力が低下していたため、メイン給水ポンプ停止から2分2秒後、設計通りに「緊急炉心冷却装置」が起動し、三台のポンプで原子炉に冷水を注入しはじめた。だが、コンピューターが自動的に作動させた緊急炉心冷却装置を、オペレーターが手動で停止させてしまう。
霊夢:
どうして?魔理沙:
このときオペレーターは冷却水の水量を誤認して、装置を停止してしまったといわれている。緊急冷却装置でわずかに除熱できていた1次冷却系は、オペレーターが停止させてしまったせいで、完全に機能が停止した。これにより、燃料棒の温度は急上昇。原子炉の中心部は原型を留めないほどドロドロになって崩れ落ちた。そして20トンもの溶融物が原子炉容器の底に落下。その後、水素爆発を起こし、圧力逃がし弁から流出した水は排水タンクから溢れ、それが補助建屋に送られ、ここから放射線が外部に漏れ出した。事故当時、現場には異常状態を表示する警告灯や警報音送出装置が多数設置されていた。しかし、そのことが逆に現場に混乱と疲弊を生じさせる結果となってしまった。
137個もの警報灯が点灯する「クリスマスツリー現象」が生じ、また警報音も30秒間に85回も鳴り響く状況で、これはのちに運転員が「パネル板を外して窓の外に放り出したくなった」と証言するほどだったという。
霊夢:
警報がうるさすぎて混乱したのね。魔理沙:
このことが作業員の精神的疲労の蓄積と、冷静な思考を阻害させる要因になってしまい、現場の混乱度を高めてしまうこととなったともいわれている。
幸いにも「人体、環境に影響の出るレベルの事故ではなかった」
魔理沙:
事件後、周辺地域で5マイル以内に住む妊婦と幼児に避難勧告が出され、大きな混乱となった。放出された放射性物質は、希ガスがほとんどで、約250万キュリー、ヨウ素は15キュリーほどで、セシウムは放出されなかった。周辺住民の被曝は0.01ミリシーベルトから1ミリシーベルト程度だったとされている。
霊夢:
他の放射線事故に比べると被曝数が少なく感じるわね。魔理沙:
炉心溶融が起きたものの、炭素鋼でできた容器が持ちこたえたため、チェルノブイリなどのような大惨事にはならなかったらしい。この事故を受け、アメリカ原子力学会は、公式発表されていた放射線放出値を用いて、「発電所から10マイル以内に住む住民の平均被曝量は8ミリレムであり、個人単位でも100ミリレムを超える者はいない」「8ミリレムは胸部X線検査とほぼ同じで、100ミリレムは国民が1年で受ける平均自然放射線量のおよそ三分の一だ」と発表した。
1980年代になると、健康被害に関する噂などを聞いた住民などの反核運動が活発化していき、科学的調査を促進させたが、一連の調査でこの事故が健康に大きな影響を与えたという結論は結局出なかった。
その後、アメリカの研究組織である「放射線と公衆衛生プロジェクト」の調査によると、事故の2年後には風下にあった地域における乳児の死亡率が急激に増加していたとみられる結果が報告されている。同時に周辺地域の植物の奇形、家畜やペットの死産などの住民調査もあったが、放出された放射線物質との因果関係は不明だった。
3月28日の事故発生から4月15日までの期間について、被曝線量が最大だったとしても、外部被曝線量は最大でも10ミリレム以下と言われていて、この事故による放射性物質が健康に有意な影響を及ぼしたという結論は出なかった。
国や電力会社側は、放射線の影響、調査方法、調査結果の数値などを公表した上で、「人体、環境に影響の出るレベルの事故ではなかった」との見解を述べていた。不安と混乱にあった住民側は、事故後の植物、家畜などの事象から独自に調査をおこなったが、この事故以前にこのような事例がなかったため、影響を正確に比較調査することは難しかった。
事故後、ペンシルバニア州原子炉規制部長は、情報を一元管理し、自らが原発から1kmという場所で会見を行い、安全宣言を出した。このことにより、風評被害はゼロに食い止められたという。
事故発生の要因は複数
魔理沙:
この事故の原因は複数あるといわれている。補助給水ポンプの弁が閉じていることを示すランプのひとつが注意札で見えなくなっており、しかも閉のときに緑のランプがつくようになっていたこと。コントロールルームの表示ランプには、赤で異常を示すものもあれば、緑で異常を示すものもあって、統一されていなかったため、正常に判断できなかったといわれている。
それに圧力逃がし弁が閉じていることを示すランプは、弁に対し閉の指令情報を出していることを示しているだけで、実際の弁の開閉状態を示すものになっていなかった。
霊夢:
どういうこと?魔理沙:
つまり実際に便が開いていても、ランプが「閉じる」になっていることがあって、故障に気づくことができなかったんだ。それに人為的なミスもあった。加圧機内の水位が満杯になると、圧力調整ができなくなるので、運転員は水位が上がるのを恐れていた。しかし内部の水位は、逃がし弁が開いた状態で炉心に注水している時は、流動によって押し上げられる。それに炉心内で沸騰が起こり、ガスが発生している時も、このガスによって内部の水が押し上げられる。
霊夢:
中の水が波打ったりして、外の計器では水位が変わったように見えたのね。
魔理沙:
このせいで、見かけ上は水位が上がっているように見えて、運転員は誤判断してしまったんだ。それに故障した圧力逃がし弁は、以前から故障を繰り返していて、信頼できるものではなかった。にも関わらず、別の機器に変えるような対策を取らず、だましだまし使っていたことも原因のひとつだろう。運転員の教育、訓練、知識も不足していただろう。スリーマイル島原発の運転には、電力会社の社員ではなく、下請け業者が運転だけを行っていたが、原子炉などの十分な知識がなく、訓練も満足に行われていなかった。この事故も他の放射線系の事故と同じく、ずさんな体制や誤判断で起きている。
この事故では他の放射性物質の事故よりも比較的軽度の被害だったが、それまでの原発の「安全神話」が覆され、人々に原発の危険性を教えた。事故があった炉の底部にたまったうちの残りの1%は、操作する労働者の被曝の危険があり、そのままになっているため、住民の不安はまだ続いているという。
それに死者、負傷者を0としているが、これは放射能漏れによる人的被害はごく軽微とされているためで、はっきりと確認されていない。
霊夢:
因果関係の立証が難しいでしょうし、何ともいえないわね。
「米国内最悪の原子力事故」とも称されるスリーマイル島原発事故。これをきっかけに、原発の安全性に対する議論を全米中に巻き起こした事件でもありました。より詳しい解説をノーカットで楽しみたい方はぜひ動画をご視聴ください。
▼動画をノーカットで楽しみたい方は
こちらから視聴できます▼
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