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声優・鈴木達央流“最強系主人公”の演じかた──ハチャメチャに強い『魔王学院の不適合者』アノス様を「スマートな上司」に落とし込んだ言葉や音へのこだわり

ぶっ飛んでいるセリフもじつは作品の根幹に繋がっている

──アノス様と言えば、「殺したぐらいで俺が死ぬかとでも思ったか」や「時間を止めたぐらいで俺の歩みを止められるとでも思ったか」などの独特な言い回し(魔王構文)もぶっ飛んでいるなあと。

鈴木:
 若干ネタバレになってしまうんですが、その疑問に関しては、原作を読み進めていくと答えが見えてくるんです。

 アノス自身、この世界を構築している神々に対して憤りがすごく強いんです。4話で登場した時の番神のように、自分たちが気に入らないことに対して介入してくる。物事への介入が必要ということは神様というものが不完全なんですよね。それに対して憤りを感じている。

 つまり、「殺したぐらいで俺が死ぬかとでも思ったか」というセリフは、お前らの手の上で俺がいつまでも転がされていると思ってるんじゃねえぞというアンサーでもあると思うんです。

──おお、アノス様かっこいい。

鈴木:
 自分が気に入らないという理由でいつも世界に介入してきた奴らは敵だ。でも、そんな世界を享受して生きようとしている種族に関しては愛おしいと思っている。愛おしいからこそ、争い続けていることを見るのが辛くなった。だから、カノンに新しい世界を提案するわけなんです。

カノンに貫かれるアノス。

──2話冒頭のシーンですよね。

鈴木:
 はい。壁を隔てて争いをなくすための大魔法を使うんです。でもその世界を愛しているからこそ、自分は転生してそれを楽しもうと思う。新しい世界を見て回りたい。……そう思っていたらまた何かに介入されているようなので、アノスはそれを許さないと。

 じつは、異世界ものという世界観じたいがミスリードになっていて、異世界を構築している神様に対して喧嘩を売る話なんです。

──アノス様にとって、この世界の理となっている神こそが敵だと。

鈴木:
 だからこそ、理を滅する剣ということで、理滅剣も存在しています。この剣は神様という存在を消せるもので、アノスのスタンスそのものでもある。そして、それらアノスのスタンスが全部セリフに繋がっているんです。

かっこいいだけでなく、アノス自身のスタンスを表している理滅剣。

先輩たちとの会話を通して何かを感じ取ってほしい

──電撃オンラインのインタビュー【※1】のミーシャ役の楠木ともりさんとサーシャ役の夏吉ゆうこさんの対談のなかで「鈴木さんが現場を盛り上げてくれる。スイッチを入れてくれる」というお話を見て、アニメイトタイムズのインタビュー【※2】で、鈴木さんが「演じるキャラによりブース内での立ち居振る舞いが変化した」的なお話をしているのを思い出しました。

 今回の『魔王学院の不適合者』における収録現場でも、アノス様という演じるキャラを意識しての立ち振る舞いを意識されていたのでしょうか。

鈴木:
 それはまさにその通りですね。今回はアノス役というところで、ひと言で表すと堂々としていました。何があっても物怖じしないと言いますか。

──まさにアノス様自身のような。

鈴木:
 そこに自分のエッセンスを加えて、彼女たちがこれまで話す機会が多くなかったであろうベテランの方々と彼女たちとの橋渡しをして、いろいろな話ができるような空気感を作れるようには意識していました。

──演者同士が話しやすいように。収録現場での空気感を大事にされている。

鈴木:
 人同士が歩み寄るのって誰かがドラマを起こしたときなんですよね。それこそ、『魔王学院の不適合者』でも、アノスが2000年後に転生していなかったらこの物語はなかったわけじゃないですか。2000年後に転生するというドラマがあったからこそ、この物語に繋がるんです。

 それこそ、収録現場においては、誰かが喋らなければ会話は起きないんですよ。逆に誰かが口火を切って喋れば会話が生まれる。そして、もしその話題に発展性があれば会話が広がっていく。

──ちなみにどのような会話をされるんですか?

鈴木:
 例えば、メルヘイス役の芳忠さん(大塚芳忠)とごいっしょだったときは、「30年くらい前に芳忠さんが出演している作品をこの前見ました」というきっかけから、当時の収録についてや芳忠さんが30代のときのお話などをお聞きしました。そうすると「あの頃はちょっと無茶してたかも」みたいな当時のお話をポロっと喋ってくれて。

大塚芳忠さん演じるメルヘイス。

──当時を知らない若い方からすると、そういうお話を聞けるだけで貴重な体験ですよね。
 
鈴木:
 そうなんです。当然のことなのですが、今の子たちは今の人たちしか分からないんですよ。お芝居は生きているので、この人ってこんな喋りかたをするんだ、こんな風に笑う人だったんだとわかると距離感が変わって、相手の演技の受け取りかたにも影響を及ぼすんです。先輩たちとの会話を通して少しでも何かを感じ取ってほしい。そんな想いがあります。

──それが先ほどもおっしゃっていた鈴木さんならではのエッセンスだと。

鈴木:
 はい。これまで俺は、生意気なことを言っても笑って許してくれる先輩たちの度量の深さに甘えながら、さまざまなご縁を紡がせていただいてきました。そんな俺であれば、あえて空気を読まずいろいろ喋りかけることもできるので、それによって若い彼ら彼女らが変わっていくきっかけになるのであれば、すごくいいんじゃないかと。

 『魔王学院の不適合者』のアフレコは、7話以降はコロナの影響で数人ごとの収録だったのですが、6話まではみんなで収録することが可能でした。今思い返しても、6話までにその現場で培ったものが大きかったと感じています。

夏吉、楠木のふたりが最終的に全部の空気感を変えてくれた

──収録現場での話す機会を増やしていったことで、魔王学院チームとして明確に何か変わっていった部分ってありますか?

鈴木:
 いちばん変わったのは夏吉、楠木のふたりですね。そして、それによってあのふたりが最終的に全部の空気感を変えてくれました。ふたりのインタビューでは「俺が盛り上げた」と言ってくれていますが、本当は俺じゃないです。魔王学院チーム、とくに音響チームの空気感をよくしてくれたのはあのふたりです。

──えっそうなんですか!? 先ほどのお話を聞いた限りでも、鈴木さんが意図的に会話を発生させたりパイプ役になったりと、引っ張っていっている印象でしたが。

鈴木:
 最初のきっかけじたいは俺かもしれません。収録現場に新しく入ってきた方がちょっと静かにしていると、俺自身すぐにいじるようにしていて。緊張していても、もうここはホームだよって感じてられる空気感を持ってもらう。それだけでアフレコ全体が全然変わってくるんです。

 そういうのを続けていったことで、彼女たちが新しく入ってくる子たちへの迎えかたが変わっていった。それによって現場の空気感がすごくよくなっていきました。

──鈴木さんの立ち振る舞いを見て、夏吉さん、楠木さんらの行動が変わっていったと。

鈴木:
 そうですね。というのも、アノスは物語の中でもきっかけを与えて、ここまでは俺がやってやる、後はお前がやれよ。ということが多いじゃないですか。

 それと同様に、収録現場でも俺は彼女たちへのきっかけ作りをしただけなんです。新しい子の迎えかたも「達さんならきっとこう言うかも」「達さんならこういうことをやるかも」と、彼女たち自身が考えて動くようになっていったのではないかなと思います。

──本当にアノスとミーシャ、サーシャの関係のようですね。

鈴木:
 作品内もでミーシャとサーシャはいろいろなことに気付き、吸収し、成長していく。その成長速度以上に演じる俺たちも成長しないと役に反映できないんです。

 成長を促さないといけないと思い、厳しいことを言うときもありましたが、彼女らはそれらをどんどん吸収していって、自分が思っている以上の成長を見せてくれました。

作中でもアノスはきっかけを与えるだけ。最終的にはミーシャ、サーシャ自身が成長してことを成す。

アノスの魔王たるゆえんが示される7話のエミリア先生のシーン

──第3章に入り、最終回に向かっていく『魔王学院の不適合者』ですが、鈴木さん自身の推し回は何話か教えていただけないでしょうか。

鈴木:
 推し回かあ。難しいなあ。1章、2章、3章と3部構成になっているので、4話と8話、その章のクライマックスは印象に残るというのはあります。

 後は、ゲストの方がいらっしゃったり、お芝居がすごく入るような話数というも気になります。そういう意味では、7話のエミリアのシーンはキモですかね。

お怒りのアノス様。

──母親を襲撃されてお怒りになるアノス様が見られるシーンですね。

鈴木:
 あのシーンは、アニメ内で恐らくアノスが暴虐の魔王としての暴虐の部分が立っている唯一のシーンなんです。ほかの場面だと許してくれたりすぐに生き返らせたりしてくれるんですが、エミリアは踏み込んでいけない領域を侵してしまった。法律で裁けるかもしれない、でもそれは俺が許さないと、復讐というかたちでやってしまうんです。

──それだけ母親の存在が大きかったということでしょうか。

鈴木:
 はい。彼にとって家族というものがいかに大切なのかを示しているんです。そして、なぜ彼が勇者ではなく魔王だったのか。それは大切なものを崩されたときに、いちばん選んではいけない方法を彼は選んでしまう。彼が悪であり、2000年前に暴虐の魔王と呼ばれていたゆえんでもあるんです。

──エミリア先生をおしおきする際の表情だったり声だったりはまさに暴虐の魔王そのものでした。エミリア先生もすごくて……。

鈴木:
 本当にさすがですよ。変幻自在な演技を見せてくれて、「やっぱ、あみっけ(小清水亜美)ってすげーいい女優なんだな」って思いました。

 実際7話の収録の際は、ミサ役の寧々まる(稗田寧々)といっしょに収録をしていたんですが、その入れ違いのタイミングで、あみっけや拓篤(寺島拓篤)と話す機会があって「目の前で小清水亜美の全力の叫びだったりとか、全力の悪役を見られるのはそうそうないぞ」と。そして、その演技に対して「どう感じた?」と寧々まるに聞いたりしていました。

エミリア先生役の小清水亜美さんの全力の叫び。

──ネタバレになるので詳しくは言えませんが、ここでエミリア先生が完全終了というわけではないので、ぜひアニメ2期をやってくれと。小清水亜美さんの演じるエミリア先生をまた見せてくれてと願わずにはいられません。

鈴木:
 ね。俺も楽しみです。

──最後に定番ではありますが、アニメを楽しみにしているファンの方々へメッセージをお願いできないでしょうか。

鈴木:
 『魔王学院の不適合者』の放送もここまでたどり着くことができました。見ていただいている方々に楽しんでいただけるのが伝わってくることもあれば、まだまだもっとたくさんの方にたのしんでいただきたい思いもあります。

 ぜひこの記事を見て気になった方は1話から見ていただければうれしいと思います。全スタッフ全身全霊を込めて救ったフィルムになっておりますので、ご覧いただいた際には感想をいただけると全スタッフの励みになりますので、ぜひお待ちにしております。

(了)


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