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声優・鈴木達央流“最強系主人公”の演じかた──ハチャメチャに強い『魔王学院の不適合者』アノス様を「スマートな上司」に落とし込んだ言葉や音へのこだわり

 『魔王学院の不適合者』の主人公アノス・ヴォルディゴードの強さがハチャメチャだ。

 戦闘では、ハンデとしてその場から一歩も動かず魔法を使わない。手足はもちろん瞬きすら使わないと宣言。いやいやこれは勝てないでしょ、と思ったら、

 心臓の鼓動だけで相手を瞬殺

 背後から心臓を突き刺され、致命傷を負う。もうダメだ~~~と思ったら、

 瞬時に蘇生。そして「殺したぐらいで俺が死ぬかとでも思ったか」と問いかける。

 神様に時間を止められてしまった。今度こそもう無理だ、時間を操る神様になんか勝てるわけなかったんだ……と思ったら、

 まったく意に介さず神様の能力を無効化。さらに「時間を止めたぐらいで俺の歩みを止められるとでも思ったか」と問いかける。

そのほかにも、魔力が強過ぎるあまりに測定器の数値は0。「不適合者」の烙印を押されてしまう。
魔力だけでなく物理も桁違いな強さを誇り、片手で城を軽々持ち上げてしまう。

 アノス、いやアノス様は、2000年前に“暴虐の魔王”として人々に恐れられた存在が生まれ変わった姿。そのデタラメな強さも納得だ。

 いわゆる“最強系主人公”に位置付けられるわけだが、それにしても「殺したぐらいで俺が死ぬかとでも思ったか」「時間を止めたぐらいで俺の歩みを止められるとでも思ったか」などの圧倒的強者の言葉はなかなかにインパクトが大きい。

 そして同時にこうも思った。

 この普通に生きていたら一生に一度も口にしないであろうセリフを演じる声優はどのような心情で声をあてているのか、と。

 そこで、アノスを演じる声優の鈴木達央さんにインタビューを実施。演じるアノス様にどのような印象を受け、いかに役作りを進め、何を意識して演じていったのか、“最強系主人公”に対してどのような演技的アプローチを行ったかお聞きした。

 お話をお聞きしていくなかで紐解かれていったのは、鈴木さんの尋常ではない言葉、音へのこだわりと、役を超えて演者同士の関係性を大事にする想いであった。

取材・文/竹中プレジデント
撮影/かちゃ

水戸黄門や暴れん坊将軍から“スマートな上司”へ

──『魔王学院の不適合者』は、いわゆる最強系主人公が活躍する異世界転生ものにあたると思うのですが、それにしたってアノス様の強さはぶっ飛んでいますよね。

鈴木:
 めちゃくちゃですよね。城も回しちゃうし(笑)。

──本日は、そんなめちゃくちゃで最強なアノスというキャラクターを、鈴木さんが役に対してどうアプローチし、演じられていったのかをお聞きできればと思っています。まず、アノス様を演じる際にどのようなことを意識されていたのか教えていただけないでしょうか。

鈴木:
 最初にイメージしたのは水戸黄門や暴れん坊将軍でした。印籠を出す、刀をカチャっとして斬りかかる、というようなお決まりの形式。いわゆる歌舞伎の見得切りのように大げさな言葉や態度を見せるものだと。

──水戸黄門や暴れん坊将軍のイメージはどういった理由でお持ちになったんですか?

鈴木:
 最初の段階では、“アノスが2000年前から転生してその世界で無双していく”ことに重きを置いていたんです。要は仰々しさが強かった。

 ただ、収録の際に、総監督の大沼さん(大沼心)と監督の田村さん(田村正文)から「スマートな上司でいてほしい」という言葉がありまして。役作りのうえで大きなヒントになりました。

──そのヒントによってどのようにキャラ像が変化されたんでしょう。

鈴木:
 スマートというのは仰々しくなっているものをよしとしない。そうじゃないところでカタルシスを出してほしいというディレクションでした。

 ではスマートさはどうしたら出るのかと考えたとき、転生した世界に対して、物事の捉えかたをもっとフラットにしないといけないと思いました。そうしないと、すべてに対してひとつひとつリアクションを取らないといけなくなると。

──確かに。何かあるたびに大げさに驚くのはアノス様っぽくない気がします。

鈴木:
 しかも位として上からの驚きかたになるため、そうするとずっと見下してしまう状態になってしまう。スマートな上司というのは、上の位にいてはいけないんです。目線を下げないと。そのうえで、1章にあたる1話~4話に関しては、あえてその目線をひとつ引き上げました。

──それにはどういった理由が?

鈴木:
 4話までは、転生したこの世界に対して腑に落ちない気持ちが多く、思慮深くなっているんです。みんな魔力が弱い、策を弄している奴もいるが穴だらけ、しかもなぜか魔王の名前も変わっている、どういうことだと。

 ただ、4話のラストでそれは今は考えなくてもいいとなるんです。自分の望んでいた世界はここなのかもしれない、今を存分に堪能しようと、考えかたがシフトしていく。そこで自然と目線も下がっていくんです。

4話ラスト。「なかなかどうして、ここはよい時代だ。こんな世界を俺は作りたかった」とアノス様は語る。

「めちゃくちゃな強さだな」がアノスの第一印象

──続いて鈴木さんとアノス様との出会いについてお聞きできればと。アノス様を知った際の第一印象を教えていただけないでしょうか。

鈴木:
 このアニメのオーディションを受ける際に、小説と漫画をそれぞれ読ませていただいたのですが、めちゃくちゃな強さだな、というのが第一印象でした。心臓の鼓動で相手を倒すという時点で冗談みたいな強さじゃないですか。

心臓の鼓動だけで相手を圧倒してしまうアノス様。

──確かに。ほかにも息を吐いただけで魔剣の炎を消したり、指パッチンで相手を消し飛ばしたり、やりたい放題です。

鈴木:
 そうそう。ただ、読み進めていくうちに、これらの描写は読者にそう思わせるためにあえて描かれているもので、後々の展開にしっかり紐づいているのが印象的でした。最初のインパクトが大き過ぎて食傷気味になるかと思いきや、そこが全部計算だったという。

──オーディション前に作品じたいは読み込まれていたんですね。

鈴木:
 オーディションの時点で、アノスのキャラ像にしっかりとアプローチして、役としてのイメージを構築したうえで、マイクの前に立たないといけないとは思っていました。

──その際のキャラ像ってどういうイメージだったんでしょう。

鈴木:
 当時は、今よりもちょっと年上のイメージで演じていました。ただ、オーディション中に「声が届く印象としてもう少し線の細い感じは可能ですか?」というやりとりがあり、そのなかで少し若返っていったのかなと。

キャラ同士の関係性の差を意識しての演技

──以前、ライブドアニュースのインタビュー【※】にて、「個性がないことが弱点だとずっと思っていた」「意外とオレ、個性あったなと気付かせてもらいました」とお話されていましたが、オーディションの際にもこのスタンスで臨まれていたのでしょうか。

鈴木:
 どちらも近い時期でしたので、同様のスタンスでした。やっと個性がついてきたかなと思えるようになったのと同時に、これからも個性探しを大事にしていかないと、と。ただ、アノスを演じることによって、これまで自分が意識していなかった部分での個性を見つけられたのはあります。

──具体的にどのような個性なのでしょうか。

鈴木:
 例えば、さまざまな言葉が入り組んだ長いセリフを喋る際、その言葉のなかに込められている大事なところや、そのセリフがどのセリフにかかって意味を成しているのか。

 そんな国語的な分解力とそれを表現・体言する芝居力とが符合するところをより細かくできる。そういう部分を自分の個性のひとつとして認識できました。

──なるほど。聞いているだけでも難しそうです。ここまでお話を聞いていて、演じるに至るまでの考えかたがかなりロジカル寄りだなと印象を受けたのですが、ご自身ではそのあたりどうお考えなのでしょうか。

鈴木:
 そうですね。どこで何をしゃべるのか、その場面では何が大切なのか。演じるキャラクターの感情がどこに飛んでいるのかなど、ロジカルに考えている部分は多いと思います。

 敵に対してなのか、クラスメイトに対してなのか、キャラクター同士の対人関係による差はしっかりと出せるよう、日ごろから意識しています。

とくにこの時代の父親、母親に対しては暴虐の魔王とは思えないほどに優しいトーンで話す。

──味方に対するアノス様の言葉に“優しさ”がにじみ出ていると感じていたのですが、意図した演出だったのですね。少し気になったのが、作品のヒロインポジションかつ、物語のなかで関わりも多いミーシャとサーシャは関係性的には近しいと思うのですが、このふたりとやりとりする際にはどのような関係性の違いを意識されたのですか。

鈴木:
 ミーシャは、いちばん最初にできた友だちで、自分を受け入れてくれた存在というところが大きかったので、それに対して自分だったらそんな相手にどういう特別な想いを抱くのか、紐解いていきました。それにより、友だちよりも一歩踏み込んだ仲というか、気心の知れた友人というところを表現しないといけないと。

 サーシャはミーシャよりは踏み込んでいない距離感なのですが、彼女からのアプローチじたいが強いのと、自分にほだされている部分もあるというところで甘くなっている。

 自発的な想いか、相手からの想いによる後天的なものか。同じ時期に仲を深めたふたりなんですが、感情の踏み込みかたがちょっと違うんです。

最初にできた友だちとして深いところで繋がっているアノスとミーシャ。
積極的なアプローチをたびたび見せるサーシャ。

──そういった関係性の違いについてはどのようにアプローチしていったのでしょう。

鈴木:
 原作者の秋先生がそれらの心情をしっかりと描かれているので、そこを自分のなかに取り込めるように、小説を読み解いていくようにはしています。収録に入る前には4章まで読み進めていたと思います。

役作りのために蓄積した情報をあえて1回忘れる

──少し気になったのですが、原作の先を読み込むということは、演じるキャラがその時点では知り得ない情報も知ってしまうわけで。そのあたりは演じる際に影響が出てこないのでしょうか。

鈴木:
 そこはしっかりと忘れるようにしています。

──忘れる?

鈴木:
 はい。作品を読み込んでいく際、情報を箇条書きのようなイメージで自分のなかにストックしていくんです。そして、情報が蓄積された状態を作り出したうえで、アフレコの台本をいただいたときにそれらの情報を頭のなかから消すんです。

──素人意見で恐縮なのですが、忘れることって意識してできるものなんですか?

鈴木:
 練習をしている間にできるようになってきました。例えば、イメージとしはパソコン上でファイルを作ってさまざまなデータを整理してまとめる。これがストックしていくイメージです。そして、それをゴミ箱に捨てたり、別のハードディスクに移した場合、データとしては消えてはいるんですが、じつは残骸はまだ残っている。その状況を頭のなかで作るんです。

 本来覚えていないといけない情報をあえて1回消して、アフレコ台本を読み込んでいくなかで再度引き出していく、というのを必ずやるようにしています。

──すごいですね。さまざまな声優さんのインタビューを拝読してますが、その役へのアプローチは特殊だと思います。そんな役作りのなかで大変だった部分ってありますでしょうか。

鈴木:
 大変というわけではないのですが、ファンタジー世界独特のその世界では通じるけど我々の日常では耳にしない言葉が多かったので、それらをいかに聞いている方にすんなり理解できるように伝えられるかは難しかったです。

作品内では、現実世界には存在しない病気についての説明、そしてその病気の解決策を語るシーンも。

──伝えるためにどのような技術を用いているんでしょう。

鈴木:
 魔法についてのセリフがあった際、その魔法の名前が大事なのか、それとも効果が大事なのかで変わってきます。もし魔法の名前が大事ならその名前を際立たせるようにし、効果じたいはあまり耳に残らないような喋りかたをします。

 加えて、わざとらしくやってもダメなので、その魔法の名前を際立たせるための感情の変化が自然になるように、そこに至るまでの道筋を逆算していくんです。

──非常に繊細な作業ですね。

鈴木:
 逆に、2章で出てくる“精霊病”のように効果のほうが大事な場合、それはどういうものなのか、それに対して何が必要なのかを強く押し出す必要があります。

 魔剣大会で優勝し自分の父親のことを褒めたたえた結果、伝承が広まり、レイの母親が助かった。この父親への感謝をあえて仰々しくやることで、伝承が広まったことでレイの母親が助かったのだとわかりやすく伝えられるんです。

伝承を広め、レイの母親を救うために、あえて大げさに褒めたたえる。

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