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美術教育を受けていないアーティスト達の展覧会『アール・ブリュット展』から9人の作家を紹介。世界で評価される作品の背景と制作方法とは

  まず、こちらの写真をご覧ください。
 折り込みチラシに細かい模様のようなものがびっしりと描き込まれています。実は、この模様はすべて「企業の名前」をひたすら書きつけることで作られているのです。

吉澤健さんの作品の一部。
吉澤健さんの作品の一部。「日立グループ」、「エイベックス」など企業名が描かれている。

 これは、「アール・ブリュット」と呼ばれる芸術作品のひとつです。
 「アール・ブリュット」とは、フランス語で直訳すると「生の芸術」という意味で、専門的な美術教育を受けていない人が、独自の発想と方法によって制作した作品を指します。「アウトサイダーアート」とも言われますが、この言葉は聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。

 2020年2月、東京都中野区でアートイベント「NAKANO街中まるごと美術館!アール・ブリュット-人の無限の創造力を探求する-」が開催され、日本のアール・ブリュット作品が多数展示されました。

 ニコニコでは、この展示を紹介する生放送を実施。国内外で広くアール・ブリュットの発信や展覧会の企画・運営を行っているアートディレクターの小林瑞恵さんの解説のもと、ラッパーのダースレイダーさんと展示会場を練り歩きました。

展示会場内。左から小林瑞恵さんダースレイダーさん

 この記事では、その放送の様子の一部を、たっぷりの作品写真と共にお伝え致します。


日本のアール・ブリュットを代表する魲万里絵さん

撮影者:大西暢夫

ダースレイダー:
 これは、もうめちゃくちゃ綺麗ですよね。綺麗だけど、よく見るとかなり色んなものが描き込まれている。

小林:
 作者の魲万里絵さんは、日本のアール・ブリュットで最も有名な一人です。2007年から毎日のようにこれらの作品を描き続けていて、本人曰く「描くと落ち着く」そうです。
 最初に輪郭線を描いた後に、中のディテールを塗り込んでいきます。塗り潰しているように見える部分には、よく見ると点画の様に色を打つように塗り込まれています。草間彌生さんが描くドットをより一層緻密化したような。

ダースレイダー: 
 ホントだ。全部ドットになっているんですね。この作品は、いろいろな人体パーツが組み合わさっているっていうか。

小林:
 そうですね。性的なものが出てきたりとかしているんですけども。非常に綺麗ですよね。

小林:
 この作品のタイトルは『コンプレックスカマタリ』。タイトルは最初からイメージしている訳ではなく、完成した絵から思い浮かんだ言葉をタイトルに付けているそうです。

ダースレイダー:
 これはまた凄いな。色の基調は決まっているけど、グラデーションが綺麗ですね。

小林: 
 彼女は大変な人気者で、長野県で文化やスポーツ活動を通じて、これから活躍が期待される方に贈られる信毎選奨にも選ばれたりもしていて、アール・ブリュットの枠を超えながら活躍し始めている作家の一人です。

ダースレイダー: 
 魲さんも美術教育は一切受けていないってことですよね。すごいなあ。

小林:
 海外でも日本のアール・ブリュット展を10年前から開催しているんですが、魲万里絵さんの作品はホントに好評なんですよね。

ダースレイダー:
 国とか文化的な枠を超えて、誰でもわかる人間の肉体に宿る原始的なエネルギーを感じられるというか。これはもう、ずっと見てられますね。

企業の名前がビッシリと書かれた、吉澤健さんのノート

撮影者:大西暢夫

小林:
 作者は吉澤健さん、1967年生まれ東京都在住の方です。街に出掛けて自作のノートをおもむろに鞄の中から取り出すと、眼光を光らせながら真剣な表情で辺りを丁寧に見回し、自作のノートに何やら書き留めるんです。

ダースレイダー: 
 なるほど、ノートにどんどん描いていくわけですね。

小林:
 ノートは隅から隅まで、アラビア文字のような文字群が埋め尽くされています。

作品の一部。

ダースレイダー:
 アラビア文字っていうけど、独自の文字ですか?

小林:
 よく見ると文字は日本語で書かれていて、銀行や自動車メーカーや製薬会社とか。

ダースレイダー:
 あ、ほんとだ! 日立グループ、エイベックス。企業の名前がビッシリ書いてありますね。

作品の一部。
作品の一部。

小林:
 企業の名前が好きなんですよね。彼は外出しては、自分が行った場所とか、そういった企業の名前が入った看板とかを書き留めています。

ダースレイダー:
 ああ、こんなに格好いい「ヤマト運輸」。これロゴで採用した方かいいですよ、ヤマト運輸。うわぁ~、凄い!

作品の一部。

ダースレイダー:
 吉澤さんが見てる世界を形に表記するとこうなるってことですよね。これだけの情報が身の回りに常にあって。これは圧倒されますね。

小林:
 最後に一つ付け加えさせていただくと、彼はノートを書き切ると、セロファンテープでグルグルに封印して終わるんですよ。

ダースレイダー:
 あのね、それ完璧ですよ。いかにアートなスタンスかっていうことがわかりますよね。見返りとか関係ない訳ですもんね。人に見せて評価されるとか、じゃなくて自分の中で完結してる。凄い……。

本岡秀則さんの「電車のすし詰め」 

撮影:大西暢夫

ダースレイダー:
 電車なのはわかるんですけど、尋常じゃない量。電車がぎゅうぎゅう詰めになっている絵ですね。

小林:
 本岡秀則さんが描かれた「電車のすし詰め」と形容されているような作品で、コピー用紙には無数の電車が隙間なく埋め尽くされています。紙面の余白を残して次の絵に移ったり前の絵に戻ったりしながら少しずつ描き加えられていきます。 
 一番下をご覧頂くと、途中で終わっているように見えますよね。

作品の一部。

ダースレイダー: 
 ホントだ、あと2台位入りそうなスペースがありますね。

小林: 
 ただ、本人としてはこれが完成だったりするんです。作者なりのルールがあるんだと思います。

ダースレイダー: 
 電車の形、基本的には横がキュッとすぼめられているけど、それぞれの電車のサイズ感は結構揃っているんですよね。

小林:
 作者は兵庫県に住んでいて、阪急電車が大好きなんですよ。彼は撮り鉄でも乗り鉄でも描き鉄でもあるんですけど、車番まで描いてあるので、どの絵が何の電車か全部わかるようになっているんです。

ダースレイダー: 
 この電車の並びも本人的には意味があるんですよね。

澤田真一さんの陶器は「そこにあるものを当たり前に作っている」

撮影者:高石巧

小林:
 これは陶器で出来た作品です。

ダースレイダー:
 怪獣みたいに見えますね。「可愛いけど怖い」みたいな。

小林:
 作者の澤田真一さんは、知的障害者の施設に通い始めた頃から、この粘土による創作を始めました。

ダースレイダー:
 施設に通いながら粘土をいじっていったっていう。

小林:
 そうですね。施設では、週3・4日程度、電気部品の組み立ての作業をして、創作は春から秋の期間に週2・3回山奥にある窯場で行っています。

 澤田さんは、作品の完成が見えているかのように、淡々とトゲを一つ一つ付けていくんです。

ダースレイダー:
 どこにトゲを置いていいのか全部最初からわかっているような。

小林:
 作るときって悩んだりするじゃないですか。「次どうしようかな」とか、「ちょっとここのバランスが悪いな」とか、そういうことがないんですね。ひたすら完成が見えているかのように作業をずっと続けて、作品を作っていきます。大きいものでも3・4日で仕上げますね。

ダースレイダー:
 大きいもので3・4日ですか、凄いスピードですね。

小林:
 澤田さんは、2013年に芸術の3大祭典といわれているヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で「世界150人のアーティスト」に選ばれた、3人の日本人の中の1人でもあります。

ダースレイダー:
 澤田さんの作品は、作り物っぽくないですよね。「元々こういう物です」っていうのをただ見せてくれてるっていう。

小林:
 そうなんですよね。物を作る時って、何か題材にする形があったりするじゃないですか。澤田さんの場合は、新しいものを作るところが凄いですよね。私達がその形を知らないもの。

ダースレイダー:
 僕らが知らないだけで、澤田さんにとってはもう当たり前にいるものを作っているって感じがしますよね。鳥とか猫とかの同じ感覚で、これでしょって感じですよね。ホントに作為的でないんだと思います。

小林:
 この作品は、澤田さんに聞くと、「タヌキ」とかって言うんだと思うんです。滋賀県って信楽焼のタヌキがあったりするので、インスピレーションはそこからきてるのかもしれないですけど、全く違うものになっているっていうか。

ダースレイダー:
 逆に、タヌキがこういうものじゃないなんて、誰が言えるのかって話ですよね。

小林: 
 こちらなんかは、多分、鬼とかトカゲとかって言うんですけども。

ダースレイダー:
 こういうタヌキやトカゲがいたほうが面白いですよね。でもこれ、高畑勲もビックリですよ。『平成狸合戦ぽんぽこ』にこいつらが出てきたら、ヒットしなかったですよね(笑)。

楽譜自体が演奏しているような、西岡弘治さんの絵

ダースレイダー: 
 これは楽譜がモチーフになってるんですね。楽譜自体が動いてるっていうか、演奏してるみたいな感じですよね。

小林:
 作者の西岡弘治さんは知的障害者の通所施設に所属していて、2005年より制作を始めました。小さい頃から音楽を愛していて、楽譜を模写することによって作品を生み出しています。一心不乱に描き進むうちに絵の構図はどんどん右方向に流れていくようです。

ダースレイダー:
 右に流れていくんですね。確かに全部そうだ。

小林: 
 彼が意図的に考えた構図ではないかもれしれませんが、大らかに揺らいだ線は、まるで静かに呼吸をしているようにも見えます。リズムと自由さを感じますよね。

ダースレイダー:
 いや、ホントに、楽譜が生き生きとしてるっていうね。ヨーロッパの現代美術館にぽんって置いてあったら、凄く喜ばれそう。バランスと余白の感じも凄いいいですよね。楽譜が船みたいになってますもんね。

小林: 
 アール・ブリュットの作者って、自分が作りたくて作っている、自分の世界を大事にしてる人が多いので、見る人の評価を気にしてないのが、どの作品を見ても伝わりませんか?

ダースレイダー:
 ホント、どう思われたいとかでは全くなくて、ある種のいやらしさが無いですよね。
 「ここをこうしたら、この色を使ったら、こういう風に作ったら人に気に入られるんじゃないか」とか、ないですもんね。

小林:
 あと、流行りとか気にしないですよね。そういう伸びやかさとか枠がない感じって、凄く羨ましくなりますよね。

ダースレイダー:
 だから、いま見てきた作品って、全部楽しそうに作られているですよね。「自分はこれがやりたいんだ! 」だけで作られているから、とても純粋だと思います。

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