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脂質制限でメタボは防げない!?栄養学の新常識

 「スーパーサイズ・ミー」の砂糖版とも言われる話題のドキュメンタリー作品『あまくない砂糖の話』。8月28日、ニコニコ生放送で国内発のネット配信を行いました。

 ニコニコでは、同作品の配信に合わせて、北里大学研究所北里病院 糖尿病センター長の山田悟氏、「買ってはいけない」シリーズの著者で科学ジャーナリストの渡辺雄二氏、ミュージシャン/ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏を招いて「世界は砂糖中毒!?健康食品にもひそむコワ~イ『糖質』の罠」と題した討論番組を実施。

 「油を減らしても動脈硬化も肥満も予防できない」「脳を活性化させるなら糖質ではなく人工甘味料の方が健康的」など、気になる発言の真相はいかに…


国内の糖尿病患者950万人。予備軍を含めると2050万人に

モーリー:
 海外のドキュメンタリー作家の中には30日間ハンバーガーを食べ続けたり(『スーパーサイズ・ミー』)、マリファナを吸い続けるという実験をした人がいたりするんですけども、さきほど放送したのは「砂糖ティースプーン40杯分を60日間毎日取り続ける」というとんでもない実験をしたデイモン・ガモーという人の作品『あまくない砂糖の話』です。

『あまくない砂糖の話』より引用
あまくない砂糖の話』より引用

モーリー:
 山田先生、この作品をご覧になっていかがでしたか。実際、作品の中で(デイモン氏は)体調を崩していったみたいですが。

『あまくない砂糖の話』より引用
あまくない砂糖の話』より引用

山田:
 あくまで1人の人の経験ですし、純然と科学として見たら作品中の取り組み(大量の砂糖を摂取し続ける)とは別に裏で何かやっているんじゃないかとか疑うことは可能ですけども、わざわざこんなことをするくらいですからオネスト(誠実さ)があるとすると、非常にインパクトのある作品で、真実を反映したデータだろうと思います。

山田:
 非常に興味深いのが、作品中では健康的と謳われている、ローファット(低脂肪)など一見健康を謳われているものを食べていて、砂糖の多い物を食べている、カロリーはそんなに増えていない、それどころか減っているかもしれないという環境で体重が増えていくという。

モーリー:
 一つ質問なんですが、あれは(作品が制作された)オーストラリアやアメリカの食品業界が砂糖を盛っちゃうんですか?それとも、日本のローファット食品もそうなんですか?

山田:
 基本的に、食品に砂糖を入れると味が良くなります。人間の味覚に訴えやすくて、特に果糖の部分で中毒性・依存性が出ると思われます。ブドウ糖と果糖の比較試験なんですが、2013年のJAMAという雑誌に脳の中のどこを刺激されるかを見た試験があって、果糖、おいしい砂糖の部分ですね、そこが依存性のところに刺激を与えていると言われています。

モーリー:
 例えば麻薬と同じような。


山田:
 完全に同じというわけではありませんが、脳の場所としては近い場所です。だから、次から次へと砂糖を取りたくなってくる。

モーリー:
 先生は糖尿病が専門ですが、世界の糖尿病人口は2025年までに7億人を超えると言われていますが、日本でも患者数は増えているんでしょうか?

山田:
 一番最初にきちんと調べられたのが1997年の糖尿病実態調査なんですが、この段階で糖尿病患者が690万、予備軍を入れて1370万と言われていました。これが、直近の2012年の調査だと糖尿病患者が950万、予備軍を入れると2050万と言われています。

モーリー:
 なぜそんなに増えたのですか?

山田:
 食生活と運動習慣、その両方だと思います。

アメリカでは、油の摂取が減った結果、肥満も糖尿病も激増した

山田:
 21世紀に入ってから、日本人は油の摂取を控えなさいという指導を受けて、素直に油の摂取を減らしたんですね。

モーリー:
 日本人ほど素直に指導に従う国民はいないんですよ。

山田:
 実は同じことをアメリカでもやっています。アメリカ人は1980年代から油の摂取を減らし、その頃から肥満が激増します。糖尿病も激増します。

モーリー:
 マクドナルドのせいとかじゃなくて?

山田:
 マクドナルドやケンタッキーフライドチキンが悪いとは思いませんね。食べ方の問題です。

モーリー:
 先生の本を読むと、この10年で栄養学の概念が変わってきたと。油は制限しなくてよくて、コレステロールも制限しなくて良いと。

山田:
 これは私の考えというわけでは無くて、昨年の6月頃にモツァファリアンというアメリカのタフツ大学の栄養学で有名な先生がいるんですけども、JAMAという雑誌に総説を書いていて、そこには「アメリカの2015年版食事ガイドラインがこの40年間の栄養政策をひっくり返します。この40年間、アメリカでは油を控えましょうと言っていましたが、それでは動脈硬化は予防できないし、肥満症も予防できないので、油をどれくらいに控えましょう、コレステロールを1日どれくらいに控えましょうなんてことは言いません」ということを書いているんですね。

モーリー:
 これまでの「脂肪分を控えなさい、脂肪分が動脈硬化などの成人病やその他万病の元です」という考え方が移って、主犯は糖質だと。

山田:
 モツァファリアンはそこまでは書いてないですが、少なくとも単純糖質の弊害ということは書いています。私自身は複合糖質を含めて、糖質全体での問題と考えています。

渡辺:
 質問よろしいですか。油は無制限にOKということですが、糖質と脂肪を一緒に取った場合、脂肪がエネルギーになって、糖質が消費されずにそれが中性脂肪になるということは無いんですか。

山田:
 全く逆でございまして、2009年の「ジャーナル・オブ・クリニカル・リピドロジー」にデータが載っているんですが、食べる油の比率が高い人ほど中性脂肪が下がりやすくなっているんですね。なので、食べる油が血液に乗っかって血液中の中性脂肪を上げるという概念は間違っていたんです。

モーリー:
 脂肪が良くないという考え方から糖質が悪いという考え方へ、大がかりなシフトが研究者の間で起こっていると理解していいんでしょうか。

山田:
 そうです。

モーリー氏は糖質を取り過ぎ? 専門家が語る意外な解決法とは

モーリー:
 この話の流れで出すのは恥ずかしいんですが、私自身のとある一日の食事を写真に撮ってきました。それを山田先生に見ていただいて、糖質チェックをしていきましょう。

モーリー:
 まず奥さんに作ってもらった朝食です。エノキ茸とお豆、ちょっとお肉も入っていたかな。おにぎりは小さめに作ってあります。コップに入ってる飲み物はお手製緑汁です。それと、ブラックコーヒー。So far so good(今のところ順調)ですか?

山田:
 そうですね。豆類やお肉類でちゃんとタンパク源が入っている。卵もそうですね。少し油で炒めていらっしゃるんですか。

モーリー:
 おそらく。

山田:
 多分これで糖質量として30gぐらいですかね。ロカボ(山田氏が提唱する緩やかな糖質制限食)では、1食の糖質量を20~40gにしましょう、としています。

モーリー:
 わかりました、じゃあ朝食はまだセーフティーゾーンですね。続いて、ブランチで食べたパスタです。

山田:
 パスタ一皿で麺から得られる糖質量が大体70g程度なんですね。クリームやお野菜、お肉には糖質量がほとんどありませんので、この全体で70gぐらい、非常に美味しそうです。これで麺が、例えば素材を変えた低糖質のパスタであれば完璧です。

モーリー:
 最近は一日に2回3回と番組に出演したり会議に出たりしておりまして、23時30分スタートのフジテレビの番組の直前に本当に気を失いそうに疲れたんですね。それで、このままでは駄目だというので、これを食べてしまいました。

モーリー:
 フジテレビの向かいのダイバーシティにあるサンマルクです。本当はね、(カップに入った)ソフトクリームだけ食べたかったの。これしか食べたくなかったんだけど、これ単品では売ってない。何かとセットの形でしか売ってないから、ソフト食べたくてここまでいっちゃいました。これはフレンチトーストにチョコレートどろどろのバナナのソフトクリームです。どうでしょう。

山田:
 ほぼ全て糖質という食べ方で、脂肪は入っていますがタンパク源はほとんどない、ということで糖質量がこれで120gぐらいでしょうかね。いま日本人は1食当たりで大体90~100gぐらいの糖質量を食べていて、1日の平均の糖質摂取量が270~300gぐらいなんですよね。そう考えるとちょっと平均的な日本人からしてもヘビーな糖質ということになります。

モーリー:
 なるほど。ただですね、これを食べるとその後のテレビの生放送が本当にスカーンとうまくいくんですよ。

山田:
 そういうときは、ぜひ人工甘味料で試してみていただきたいです。これ、論文でもちゃんと脳に刺激が入って、元気というか満足感が出るというか。

モーリー:
 ええと、人工の二文字を聞いただけでプラセボ(思い込み)で頭がシャットダウンしましたね。絶対食べるか!みたいな。砂糖のほうが健康で本物じゃないか、というのは迷信なんでしょうか。

山田:
 迷信です。

糖質を人工甘味料に変えれば体型も内臓も今より健康的になる

モーリー:
 番組が終わるのは24時30分、タクシーで家に帰って落ち着くのが25時30分ですね。スタッフに買ってきてもらって、その日のうちに食べないと賞味期限が持たないっていうお弁当がありました。でも結構いいでしょ。オーガニック。でも、夜中の2時半にこれを食べました。いかがでしょうか?

山田:
 こういう9分割のお弁当って、お米が複数あることが多いんですけれども、これは1つになってるんですかね。ちゃんとお肉があってお野菜があって、かぼちゃは糖質の扱いになりますけども、すごく良いんじゃないですかね。

モーリー:
 ただ、深夜の2時半ですよ。

山田:
 あのですね、深夜2時半に好きで食事を食べている人はいなくて、忙しくてその時間になっているわけなので、それを悪いっていう事自体は無いです。

モーリー:
 人間の体内時計でほら、夜中に食べちゃダメとか無いんですか?

山田:
 それはそうです。明らかにおかしい時間です。

モーリー:
 自律神経とか。

山田:
 自律神経には絶対負担がかかります。でも、その時間に食べなかったらお腹が空いて眠れないということであれば、それは眠れるくらいまではちゃんとお腹を満たすべきです。

モーリー:
 この日に限ってはですね、捨てるのはもったいないと思って、食べたくないのに食べたんです。

山田:
 食べ物をもったいないと感じるのか、自分の体をもったいないと考えるのか。

モーリー:
 申し訳ないけど、食べ物のほうがもったいないです。ちなみにこれを食べた後、朝の3時にものすごく盛り上がっちゃって、Netflixで面白くもなんともないSF映画を2本見て6時に寝ました。すいません、そういうふうにデタラメな生活をしているんですけど、この献立だけだと私の食事の糖質量はどんな感じでしょうか。

山田:
 (最初に出てきた)奥様のお料理は素晴らしいなと思います。あとは、ご自身の判断で甘いもの、あるいは糖質を入れてカーッと自分のテンションを上げるときにかなり高糖質のものをお召し上がりになっているので、お嫌いかもしれませんが人工甘味料をお使いになると体型を健康的なものにしながら、あるいは実際に内臓も健康にしながら、お仕事をもっと元気よくやっていけるんじゃないかと思います。

 

 

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