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『Fate』アーチャーが操る雌雄一対の双剣“干将・莫耶”ってどんな武器なの? 名剣に隠された古代中国から伝わるふたつの悲劇の伝説とは

「干将・莫耶」にまつわる歴史は壮絶な復讐劇だった!?

パチュリー:
 『呉越春秋』にて製作経緯、『拾遺記』にて材料が語られ、最後に取り上げるのが『捜神記』よ。『捜神記』も『拾遺記』とそう前後しない時期に執筆された志怪小説よ。正確に言うと『拾遺記』よりも先に執筆されているのだけど、話の流れを考えて、『捜神記』を最後に説明させてもらうわね。

 この『捜神記』では干将・莫耶製作後のエピソードが書かれているわ。そしてそのエピソードを一言で纏めるなら復讐劇ね。

フランドール:
 復讐劇……!

レミリア:
 ここからが本番って感じね!

パチュリー:
 一応言っておくけど、ちょっとグロテスクな表現があるから注意してね。

レミリア:
 う……分かったわ。

パチュリー:
 舞台は「楚」という国に変わるわ。楚は呉と同時期に存在していた国で、以前は呉と同盟関係にあったのだけど、その後敵対、時代背景としては敵対後になるわね。

 干将、莫耶夫妻は楚王から雌雄一対二の剣を作れとの命を受けるのだけど、制作に難儀、3年の歳月を経てようやく完成するわ。

 あまりにも製作に時間が掛かってしまったため、干将は楚王が激怒し自分を殺すのではないかと考えたわ。その時妻の莫耶は子供を身ごもっていたの。死を覚悟した干将は莫耶にこう言い残すと、完成した雌剣の莫耶だけを持って楚王のところへ向かうの。

 「あまりにも時間がかかり過ぎた。楚王は激怒し、私を殺すに違いない。莫耶。もしお前が男の子を生んだなら、成長した後に南の山を見ろと言いなさい。そこには石の上に松が生えており、その石の後ろに剣を隠してあると。」

 楚王と謁見した干将、製作が遅れた挙句一本しか持ってこなかったと知ると楚王はいよいよ激怒、すぐさま干将を殺してしまうの

フランドール:
 うぅ……パパぁ……。

パチュリー:
 その後妻の莫耶は無事男の子を出産し、赤(せき)という名をつけたわ。赤はすくすくと成長していくのだけど、成人するころに自分に父が居ない事に疑問を持ち、それを母である莫耶に尋ねるの。

 莫耶は父の遺言を伝えたわ。そして遺言どおりの場所で雄剣干将を発見、赤は父の敵討ちを心に誓うわ

 しかし、その頃楚王は夢で自身を恨む存在がいること、それはかつて殺した干将の子である赤で、敵討ちをしようとしていることを察知、赤をお尋ね者として懸賞金を掛けてしまうの

レミリア:
 エスパーかよ……。

パチュリー:
 自身に懸賞金が掛けられている事を知った赤は身を隠すのだけど、行くあてはなかった。赤は山に逃げ込むのだけど、自身の状況を憂い大泣きしたの。

 そこに一人の旅人が通りかかるの。旅人が赤になぜ泣いているのかと問うと、赤はこれまでの経緯を旅人に話したの。話を聞き終えた旅人は、少し考えると赤にこう告げるの。

 「お前の敵討ち、私が果たしてやろう。しかしそれには二つ用意してほしい物がある。一つはお前の持つ剣、もう一つはお前自身の首だ。」

フランドール:
 首!? いったい何で!?

パチュリー:
 仇を取るためにはまず楚王に会わなければ話にならない。しかし一介の旅人が時の王と何の接点もないのに会えるはずがないわ。そこで旅人は赤に懸賞金が掛けられている事を利用したのよ。これを聞いた赤は旅人の提案を承諾、自ら首をはねたの

 首をはね、赤は息だえたわ。しかし執念か憎悪か、その体は首をはねても直立し倒れなかった。旅人は赤の首を持ち、「約束は果たす」と告げるとようやく体は地に伏したわ。

レミリア:
 尋常ならざる覚悟のなせる技、なのかしらね……。

パチュリー:
 旅人は赤の首を持ち、楚王のもとを訪ねたわ。赤が死んだ事を知ると楚王は大層喜んだそうよ。

 喜ぶ楚王に対して、旅人は「これは勇士の首であるから、湯で溶かさなければならない」と言い、楚王もそれに従ったわ。

フランドール:
 ひえ……。

レミリア:
 何のためにそんな事を……。

パチュリー:
 これは推測だけど、ここで言う勇士は「勇敢な者」という意味ではなく、「強い意志を持った者」という意味なのではないかしら。こんなに強い意志を持った首をそのままにしておけば、いずれ祟り等の災いをもたらすかもしれない、だから煮溶かすべきだと。

 こうして赤の首は火にかけられた、しかし三日三晩煮ても首は溶けるどころか湯から顔を出し、楚王を睨みつけていたの。旅人は楚王に対して「王が湯を覗き見れば必ずや首は溶け落ちましょう」と言ったわ。

 そこで王は自ら湯を覗きに行くのだけど、旅人はその隙を見逃さなかった。隙をついて雄剣干将を抜くと一閃、楚王の首を刎ね飛ばしたわ。そして楚王の首は赤の首が煮られている湯の中へと落ちたの

 楚王の家臣達はすぐさま旅人に詰め寄るの。しかし旅人は「分かっている」とだけ発すると自らの首をはねたわ。そしてその首も湯の中へと落ちていくの。

 まるで敵討ちが成されたことを確認したかのように、楚王を睨みつけていた赤の首は湯の中に溶け落ちていったわ楚王と旅人の首も煮溶け、それらは混ざり合ってしまったの。

レミリア:
 うぅ……ちょっとグロい……。

パチュリー:
 王を埋葬しようにも判別できなくなってしまった。困った家臣達はそれら全てを一緒に埋葬することにし、その墓は「三王墓」と言われるようになったわ。

 そしてその墓は今も宜春県という場所にある。という一文でこの話は締められているわ。これが『捜神記』におけるお話ね。

フランドール:
 壮絶、だね……。

 自らの命を懸けて復讐を心に誓った干将の息子・赤、復讐の約束を果たした旅人も亡くなってしまいました。視聴者からは、「義理と仁義のためなら命を惜しまず、って考えだったんだろうなぁ・・・」「三人とも死亡とは壮絶だな」「どこの国々でも争乱の時代が続けば人命は軽くなり名や利・讐が重要視され一言が重きをなす」といったコメントが寄せられました。

干将を殺した楚王のモデルは?

パチュリー:
 ちなみに『呉越春秋』では闔閭という特定の人物名が出ているのだけど、『捜神記』の方では楚王とだけ記載があり、どの王かは明記されていないわ。ただある程度の推測は立つのよ。まあとはいっても私の見解だけどね。

 まず赤は成人してから父の仇の存在を知るわ。まあこれは成長してからとか壮年になってからとか訳されているから結構曖昧ではあるのだけど。

 ただ一つの区切りとして成人後と考えるのは無理はないと思うの。そして作中の時代、中国の成人年齢は20歳だとされているわ。

 話から十分察することが出来るように、赤の恨みは相当なものよ。そこから考えると、父を殺した王は赤が成人した時もまだ在位していたと考える方が自然なのではないかと思うの。

 楚の歴代君主46人のうち、20年以上在位していたという記録があるのは14人よ。そして闔閭が君臨していた時期とそう前後しない時期に20年以上の在位期間を持つ王が存在するの。それが昭王

 しかし、昭王は儒教の始祖として有名な孔子によって、王としての道徳を理解する人物だと絶賛されているわ。昭王の人柄と『捜神記』の楚王とはあまりに合致しない。

 ただ、昭王の前に在位していた平王という人物が居るのだけど、この人物は家臣の復讐をきっかけに亡くなっているわ。このことから、『捜神記』の楚王は昭王に平王の人柄を与えた人物がモデルなのではないかと考えられるの。

 もっとも、これは当時の時代背景と歴史的事実から推測したものにすぎないし、『捜神記』は先に述べたように志怪小説だから、完全な創作と考えた方が自然だわ。もしモデルがいたならば、と考えた上での個人的意見だと受け取って頂戴。

フランドール:
 なんというか、今までの武器とは違った気分だね。リアリティというか……。

レミリア:
 神様とか呪いとか出てこないから、そう感じるのかもしれないわね。

パチュリー:
 そうね。ただ私は思うのよ。結局は莫耶ただ一人残されてしまったわけじゃない? 夫を亡くし、最愛の息子も復讐の炎に身を焼かれてしまった。

 遺産とも言える雌雄の双剣も莫耶の手に渡ることは無いわ。それどころかこの剣はついにただの一度も揃って使われる事がなかった。そう考えると少し寂しげな話よね。

 一度も揃って使われる事がなかった双剣「干将・莫耶」。「そういや剣自体は特に何かあるわけじゃないんだな」「中華史書は人間の恩讐や多様な生き方等少々ヨーロッパよりも人間の生々しさが強い感じがする」といったコメントが寄せられました。

▼動画はこちらから視聴できます▼

【ファンタジー武器をゆっくり解説】第五回 干将・莫耶

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