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『アズレン』Yostar社・社長が自ら語る「中国人オタ人生譚」――初恋は鮎川、エロゲで日本語習得、電車男みて内定辞退。そして「憧れのコミケ」への恩返し

最初の戦利品は…男の娘の抱き枕!?

――『電車男』と『げんしけん』を見て日本に留学を決めて、来た翌月にコミケ参加……って、もう楽園のように感じたんじゃないですか(笑)?

李氏:
 そりゃ、もう。初参戦はC78(2010年・夏コミ)だったんですが、既に日本にディープなオタク友達がいたので、初参加から非常に意識高く列に並ぶ感じだったんですよね。

ーー意識高く……なるほど(苦笑)。参加してみてどうでした?

李氏:
 もう、とにかく人が多い! 当時は西の企業ブースで、エロゲの全盛期だったりしたので、人がめちゃくちゃ集まるんですよ。列が駐車場あたりまで伸びていて、「え……これ並ぶの?」って思いましたね(笑)。ほんと、二酸化炭素の濃度が非常に高いですよね。

――みんなでハアハアしてますしね……ちなみに、コミケで最初に並んだブースとかって覚えてますか?

李氏:
 もちろん! みなとそふとさんのところで『真剣で私に恋しなさい!』のグッズ買ったり、あとはキャラメルBOXさんのところで、『処女はお姉さまに恋してる 〜2人のエルダー〜』のお姉さんの抱き枕を買ったんです。でも、いざ使うときに冷静になって考えてみたら……「厳密にはこれって男の娘だな」と。

処女はお姉さまに恋してる 〜2人のエルダー〜(2010年発売)。ここでいう“お姉さん”は、妃宮千早(右)のこと
(画像はAmazonより)

一同:
 (爆笑)。

――コミケ最初の戦利品は、男の娘の抱き枕(笑)。

李氏:
 彼は、今でもベッドの下に静かに眠っていますよ。で、翌日に東方のCDをがむしゃらに買って、3日目は「Cut a Dash!!」さんのみつみ美里先生が家で飼っていたインコのかわいさを表現する本を最初に買ったのを覚えてます。そんなこんなで、初っ端から、結局10万円くらい使っちゃって……。

――“爆買い”じゃないですか(笑)。それにしても、最初の抱き枕が男の娘で、最初の同人誌が動物だとは。……って、そういえばお金はどうしたんですか?

李氏:
 生活費です(きっぱり)。

――え……生活費をコミケに全突っ込みしてたんですか!?

李氏:
 さーせん! いただいた生活費をコミケで使ってしまいましたっ!

一同:
 (爆笑)。

李氏:
 基本、500円の本を20センチ分ぐらいは買ってましたね。でもそんなの軽いほうで、友人にはスーツケースがパンパンになるまで買う人とか普通にいますから。

ーーいちおう“薄い本”なのに(笑)。

「私とコミケ、どっちが大事なの?」

――そこから、かれこれ10年ぐらいコミケに通われ続けてる感じですよね。なにか、コミケでのエピソードというか、思い出ってありますか?

李氏:
 基本的に恥ずかしい話ばかりですよ……。例えば、2012年の冬コミに行こうとしたら、当時の彼女、今の嫁さんにものすごく怒られちゃったことがあって。3日目だけ、行けなかったことがあるんです。

――それってつまり「私とコミケ、どっちが大事なの」的なやつですかね。

李氏:
 そうそう。「コミケ!」と言いたいところだったんですが……。というか、基本オタク向けのイベントは長期休暇と被るので、そんなん無理なんですよ!

心底つらそうな表情を浮かべる李氏

――大事にならなくてよかったです……。ちなみに、奥さん自体は、もともとオタク文化に興味があったりするんですか?

李氏:
 まったく。

一同:
 (笑)。

李氏:
 でも、並んでもらうためによくついてきてもらってて。で、行く前は軽い気持ちなんですが、当日になるたびに「もう絶対に来ない」と言われちゃう。
 そして、その痛みを忘れた2年後くらいにまた誘う……みたいなことを繰り返しています。

 でもまあ、奥さんと行くと列からの目線がちょっと厳しいんですよね……。

ーーまあそうでしょうね(笑)。

中国と日本の同人文化の違いとは?

――ちなみに、中国の同人文化の方って、コミケとかと比べてどういう違いがあるのでしょう?

李氏:
 中国全土はさすがにわからないんですが、上海なら同人事情はある程度わかってますね。直近だとCOMICUP【※1】、あとは成都のComiDay【※2】というイベントもおそらく10年ぐらい開催され続けている状況です。

※1 COMICUP……中国・上海で毎年2回、5月と12月に開催される、アニメ・マンガ・ゲーム・小説ファンのために開催されるイベント。同人の即売会としては中国最大規模のもので、2018年12月15〜16日に開催されたCOMICUP23では、 12万人の来場者が訪れた。
(画像はI.O.E.A.公式HPより)
※2 ComiDay……中国毎年3月に開催されている同人イベント。国内外から約3人ほどが来場する規模感で、日本含めた中国以外のアジア諸国からも300サークルほど参加しているという。
(画像はComiDay公式サイトより)

 で、日本と違う点でちょっと「どうかな」と思うことがあって……それは、家でコスプレの衣装着て、電車乗って会場に向かうことなんですよ。日本と違って、イベント会場で着替える文化がないんです!

――アメリカでもハロウィンみたいなノリで、家で着替えて会場に来るといいますし、日本の外ではよくあることみたいですね。でもそれに、ちょっと懐疑的だったりするんですね(笑)。

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李氏:
 だって、一般の方に誤解されてしまうかもしれないじゃないですか! もちろん若干派手なゴスロリとかだったらいいと思うんです。でも、ちょっと露出の激しい格好で、電車に乗ったりするのは……やっぱり良くないですよ……(悩)。

ーーなるほど(笑)。

李氏:
 あと日本では「オタク文化」といっても、時期によっていろんな種類の歴史がありましたが、中国の同人文化の場合、わりと最初から「萌え系」のみが主流になっているなと感じてて、そこはちょっと違いますね。

 そうした点でひとつ思うのが、今って中国の絵師さんが凄まじくクオリティの高い絵を描かれるんですね。原画としては、本当に、びっくりするくらいきれいなんです。でも、僕がそうした一枚絵の次にちゃんと出てきてほしいと思うのは、漫画なんですよ。漫画はイラストのクオリティよりも、中身の勝負によるところが大きいわけです。
 「表現したいもの」がある人たちが集まるためには、ストーリーを描く文化がある必要があると思うし、そこで文化としての広がりが出てくると思うんですよね。

――確かに、どちらが先かはわかりませんが、いわゆる「萌え」が主流な中で一枚絵が強いのはうなずけますね。そうした文化が漫画にも及んだときに、中国発のIPが今以上にバンバン生まれてくるようになるのかな……と今の話を聞いていて思いました。

中国の表現規制の実情は?

――それに関連して、今日はもう一つお聞きしたいことがあって。ぶっちゃけ、中国の表現規制ってどういう感じなのでしょう? 調べていたら、「名探偵ものは警察を侮辱してるからだめ」とか「タイムトラベルものは現在への不満を表してるからだめ」みたいな、どこまで本当かわからないようなものが多くて……。

李氏:
 その二つは、実際にありますね(笑)。

 でも、よく検閲まわりで誤解されていたりすることも多くて。普通にネット上で愚痴を書くとかのレベルだったら、全然問題ないんですよ。ただ、作品として大きく作って世の中に流す、あるいは扇動するようものはダメなことがあるだけで。

――すると、エロ表現とかってどうなのでしょう?

李氏:
 基本的には、商業でやらなければ別に大丈夫なんですよ。確かに、中国ではちょっと控え目な感じはやはりありますけどね。……でも、もしそれでも情熱がある人たちは、コミケに来て売ればいいんです! 実際、中国のサークルも最近では増えてきていますから。

――中国の出展者はコミケにいわゆる表現の自由を求めて来ているんですかね(笑)。ちなみに、これまでで一番印象に残っている表現規制ってありますか?

李氏:
 ファン・ビンビンさんの出演している『The Empress of China』という作品は、国内でも話題になりましたね。これは、唐時代のドラマなんですけど、衣装の露出が派手なんですよ。で、それが規制によって結局バストアップ以外のカットが全て不採用になっちゃってて。

※『The Empress of China』のトレイラー。この映像のみで判断するのは難しいが、確かに若干、顔のドアップが多いような……?

ーーつまり、全シーン「顔アップ」のみということですか?

李氏:
 ええ(笑)。ほぼ顔だけになってます。日本でも放送されていたんですが、それはおそらくその無修正版だと思います。

改めて、コミケへの想い。

――同人文化のお話が続きましたが、今年の夏コミで「Yostarのブースだけレジの台数がめちゃめちゃ多くて回転が早くて最高だった」みたいなコメントがTwitterとかたくさん出てたのを思い出しました。「社内に絶対、歴戦のオタクがいる」と話題になっていて(笑)。

李氏:
 まあ僕に限らず、当時の歴戦のオタクがガチで揃っていますからね(笑)。

 やっぱりこれまでの経験を活かしていて、とりあえず最大限のレジを用意して、あとはグッズの商品の点数を絞ったりしているんです。
 じゃないと、後ろの担当の方はどこに取りに行くかでバタバタしちゃうんですよね。そんなふうに、当日のことをシミュレートしながら、ブースの設計とかグッズの製造数を決めていってるんですよ。

――緻密に計算しておられるんですね。

李氏:
 やっぱり回転が悪いと、別のブースのものを買えなくなってしまうかもしれないし、うちのせいで一日のスケジュールが全部狂ったりしちゃうじゃないですか。
 それは、これまでに自分らが味わってきた痛みでもあるので、極力そういうことがないようにしたいんです。だって、コミケはみんなのものだと思うので。

――ちなみに、今年の夏コミでは会場のポスターが全部『アズレン』一色だったじゃないですか。あれってやっぱりYostarのメンバーたちからすると……。

李氏:
 一つの悲願、でしたね。

 コミケにだけは、一回、派手に自己主張してみたいという気持ちがあったんですよ。普通のイベントだったら他の企業さんに譲りますが、コミケに対してやるんだったら、バチは当たらないんじゃないかという想いがあって。

――やっぱり、自分たちの青春が詰まったイベントですもんね。

李氏:
 ええ。この規模感でこういうことをやるスマホ運営ゲームの会社って、たぶんそんなにないと思うんです。

 でも、僕はコミケに行くときって、普段とは心境が違うと思ってて。
 年に2回しか会えない友達も絶対いますし、「俺はここの住人だ」みたいな気持ちで、誇りを持っている人だっている。だから、我々が古くからのオタクであったことも含めて、コミケという場所には熱量を持って取り組む価値があると思っているんです。

――ある種の「恩返し」のようなものでしょうか。

李氏:
 そうですね。僕たちがやっているのは、夢を売る仕事なんです。そして、コミケという場所で、僕らはそれをもらってきた。だから、今度は僕らがそうした夢をコミケで届けたいんです。

夏コミで会場を所狭しと彩った、『アズールレーン』のポスターたち。文字通り、“故郷へ錦”を送る演出となった

(画像はアズレンTV 2018夏のコミケ&1周年記念イベントより)

 やっぱり、あの3日間って濃いんですよね。で、大げさなことじゃなく、コミケに行くと「また次回くるぞ、それまで頑張ろう」みたいなことを感じる人もいると思うんです。……だって、現実の生活は、いろいろなことで辛いじゃないですか!

ーーでも、頑張ろうと思える気持ちになれるというのは、よくわかります。

李氏:
 そして、それってオタク文化に対しても言えることだと思うんです。お話の中身としては暗い作品はもちろんありますけれども、基本的には世界観や主人公の行動って、美しく、心温まるものですよね。

 スポーツものでは、美しい友情やチームワークだったりして、恋愛ものでは、初恋のようにピュアで甘ずっぱいものが多い。そうした作品に、多感な若い時期に触れた経験って、やっぱりずっと心に残るんですよ。僕は、日本のオタク文化のそうした人間性に溢れている部分が、ずっとずっと大好きなんです。

――まさに今日の話そのものですよね。なによりそのイキイキした話しぶりから、李さん自身がさまざまなオタク文化によって人生を励まされ、変えられたことがとてもよく伝わってきました……心温まるいい話を、ありがとうございました。最後に、締めの言葉として今後の展望についてお聞かせください。

李氏:
 最近だと、『アークナイツ』という作品のローカライズを頑張って手がけています。

 なによりも、この作品は、エロの要素が極めて薄いのが特徴なんですよ。制作スタッフたちが、最近のエロが強い状況に対して、あえてそういう路線をいかずに「自分たちの作りたい世界観を徹底して作り込んで勝負してみたい」というふうな気概を持っているんです。

――今日お話にも伺った、中国では萌え系が主流だということを、意識されているのでしょうか?

李氏:
 そうですね。そこのスタッフさんは「この作品によってプレーヤーの美に関する感覚を変えたい」というふうなことをおっしゃっていました。
 というのも、この作品には、中国でも最古参の同人ゲームの制作メンバーが集まっているんですよね。内容については、近いうちに情報解禁をできるかと思いますので、どうぞ楽しみに待っててください……!

――新作も楽しみにしています。今日は長い時間、ありがとうございました!(了)

『アズレン』1周年、おめでとう!

 最後に、『アズールレーン』1周年を記念して製作された動画をお届けします。

 話題となった夏コミ出展や1周年記念イベントの会場の熱気やイベントの模様を、声優・石川由依さんと共に振り返る、27分42秒にも渡るファン必見の内容となっております。

 冬コミに来場する前に、『アズールレーン』の“夏”に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

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