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【書き起こし】『レッドタートル』ジブリ鈴木敏夫 アカデミー賞を逃した心境を語る「ジョン・ラセターが褒めてくれたということで、ある種の満足を得ました」

 スタジオジブリ作品『レッドタートル ある島の物語』が第89回米国アカデミー賞、長編アニメ部門にノミネートされました。2月27日、授賞式後の鈴木敏夫プロデューサーの『記者懇談会』がニコニコ生放送で中継されました。

 鈴木敏夫プロデューサーは惜しくも受賞を逃した胸の内を、記者に向けて語りました。懇談会の途中では、宮崎駿監督の復帰についてまで話題が広がる場面も。


スタジオジブリプロデューサー、鈴木敏夫氏

 ぼくもアカデミー賞に来まして、2年ぶりですかね。『千と千尋の神隠し』以来アカデミー賞を受賞するということはなかったんですけど、今回はね、本当のことを言うと期待してたんですよね。

 『レッドタートル ある島の物語』(以下、レッドタートル)という映画はジブリでプロデュースして、現場はフランス、スタッフはヨーロッパの方たち、その組み合わせも面白い。最近は騒がしい映画が多いじゃないですか。そういうときに、こういう静かな映画って人の目を引くんじゃないか、と期待していたんですけど、残念ながら受賞できませんでした。

 発表の直前までどうやって喋ろうかな、と色々考えていたんですよ。もし『レッドタートル』と呼ばれたら、すぐ立つ用意をしていたんですね。ぼくの隣のマイケル【※】も一生懸命に紙に受賞の挨拶をメモしていたりしてね。それは幻に終わって残念ですけど、しょうがないです。とはいえ、心残りですけど。

※マイケル
マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督。

 ピクサーのジョン・ラセター【※】という人に会いまして、彼の最初の話題がこの『レッドタートル』だったんですね。会っていきなり、強いハグをして「レッドタートルは本当に素晴らしい映画である」と言ってくれたのが、ぼくにとってアメリカに来て一番嬉しいことでした。ピクサーを率いてヒット映画をどんどん作り続けている人ですから、意外に思われるかも知れませんが、ジョンが褒めてくれたということで、ぼくはある種の満足を得ました。本当は、アカデミー賞をいただけると良かったんですけど、残念ながら駄目でした。

※ジョン・ラセター
ピクサー・アニメーション・スタジオ創設時のメンバーであり、現チーフ・クリエイティブ・オフィサー。『トイ・ストーリー』『カーズ』等の監督として知られる。

――このあとも海外の監督と組んで作品の制作は行うのか?

 それはないと思う。マイケルという人と随分長い期間、お付き合いをしています。2000年に9分間の短編映画『Father and Daughter』(邦題:『岸辺のふたり』)を観たことが今回の作品を作る大きなきっかけになりました。ぼくは彼がずっと短編ばかりやってきた人だから、長編を作るんだったらどういう映画を作るんだろう、という興味があった。彼に話をもちかけたら「ジブリが協力してくれるならやってもいいよ」と、そういう答えを得たんでやりました。

 とはいえ、彼に一番はじめにこの話をしたのは10年以上前、2006年でした。『レッドタートル』がカンヌで「ある視点」部門特別賞を受賞したときから記者の方に「マイケルの次は誰だ?」と聞かれたんですが、ぼくはマイケルとやることが、まず一番だったので、他の人も特に考えているわけではありません。

――宮崎駿監督の復帰について

 ぼくが発言をした場というのは、アカデミーにノミネートされた作品、それぞれが作品について質問に答えるという場でした。ぼくに、あらかじめ聞かされていたのは、ここにメディアの方はいない、と。アカデミー賞のたびに毎回やるイベントで、ぼくも『風立ちぬ』のときにそこに登場したことがあったんですけれど、なにしろ今回その司会者がピート・ドクター【※】というアカデミー賞の受賞者でピクサーの方でした。

※ピート・ドクター
『モンスターズ・インク』『インサイド・ヘッド』等の監督として知られる。

 この人とは長い付き合いがありまして、雑に言えばジブリの今後について彼から質問を受けました。自分がどういう風にしゃべったのかというと、最初は答えることをためらうんですね。ちょっとぼくは天を向いちゃったんですよ(笑)。答えようがなくて。だけどピートとは、仲が良いしそういうことを聞かれたら、ある程度本当のことをしゃべらないといけない。

 ぼくがそこで喋ったことをまとめて言ってしまうと引退したと言っても企画の検討、その他はやりますよ、と。実を言うと宮崎駿は今そういうことをやっています。ひとつは短編映画を作っているということ、それからもうひとつは長編を今、作るのならば、なんだろう。そういう話もしています。普通だったら、そういうのは企画の内容、こういう作品を作りたいということを話すはずなんですけど、それは製作発表の場じゃないから。それと、準備も整っていません。

 ゆえに企画の検討、そういうことはやっています、と。だから、もしあるとしたら準備の段階でしょう。そういう話をしたつもりなんですよ。それ以上は今の時期に語るべきではないし、仮にやったところで相当時間のかかることなんで(笑)。

 もしやることになったとしても今はまだその時期ではない、ということで、ちょっとお話したということだと思いますけどね。それは記者会見ではなかったので、もう少しフランクに喋りました。こんなのはどうだろう? あんなのはどうだろう? っていうのはしょっちゅうやってますからね。

――スタジオジブリが長編作品にGOサインをだしたということですか?

 それはちょっと違いますよね。何をやるかが決まった段階で制作発表っていうのをやるんですよ。だってまだ決まってないわけですから。準備に時間がかかるんですよ。ただその発言が日本でいろいろ報道されたと、ぼくもちょっと聞きましたけれど、まあしょうがないかなと思っています。

――さきほどマイケルさんについてお聞きしましたが、ジョン・ラセターさんとふたりで組んで作品を作っていくことはないんですか?

 なぜぼくはマイケルと一緒に映画を作ろうと思ったのかというと、彼はもちろんオランダの人なので、当然作るものは西洋人の作るものなんですよね。ただ、お話のなかには東洋のものがあったんですよね。だからこの作品は『Father and Daughter』もですが西洋と東洋がひとつになる考えを持っていたので『レッドタートル』もそうなるに違いない、西洋の人も東洋の人もみんなが理解できる作品が出来るんじゃないかな、と考えていたんです

 そういうことがあったがゆえの企画決定でした。だけど、そういう場合もシナリオというのは、そういうのが出来た上で検討ですよね。作品というのはそういうものなので。いくら最初のうちにシナリオがあっても、それが全て映画にはならないですよね。

――宮崎監督が長編作品にチャレンジされるというのは引退を撤回するという見方もできると思うのですが

 彼は長編映画からの引退ということで引退記者会見を開いたんですけどね。実はその後も3年半、いろんな企画を言い出す人なんですよ(笑)。そのときは本当にそう思ったんでしょう、なにしろ今年の正月で76歳ですから。実際に作る体力が自分にあるのか、そしてやる気があるのか。そういうのは色々あると思うんですよ。

 ただ、企画はね、これやったらどうか? あれやったらどうか? と色々出す人なんですよ。それは多分表現が適切か、わかりませんが、死ぬまで言う人だと思うんですよ。なにしろ最近だって次から次へ、ぼくにこれ読んで見てくれとかね。だから多分、延々続くんでしょうね(笑)。

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