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ノーベル経済学賞 日本人が受賞できない理由を教えます ~経済学界が抱える謎と闇~

世界も評価する日本人最有力候補・清滝信宏の理論

山形:
 清滝先生の理論を紹介してほしいという声が届いていますね。田中さん、説明してもらってもよろしいでしょうか?

田中:
 「信用と景気循環の理論」ですね。色々な人が株などいろいろな資産を持っていて投資しています。「俺はお前の株を持っている」「君は私の株を持っている」というようにお互いが株を持ち合っている。どちらか一方がおかしくなると、その影響がお互いに卓球のラリーのように跳ね返ってくる、と。一人の小さなショックが二人、三人となり、結果として全体に波及してしまう、という話です。なぜギリシャやキプロスのような小国におけるショックが全世界的に波及するのか、ということを説明しています。

小幡:
 近年では珍しい野心的な基礎理論ですよね。評価はものすごく高いです。

山形:
 日本って経済学でいうところの何の分野が強いんですか?

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小幡:
 ゲーム理論でしょうね。東大にゲーム理論の優秀な人が集まりすぎて、ゲーム理論の学者ばかりが増えたことがあるくらいです。偏ってしまったという反省は東大にもあると思いますよ。加えて、ゲーム理論はその前の世代ですでに経済学賞を取っているので、そこだけを突き詰めても最早取れるかどうか疑わしいでしょうね。

田中:
 前述したフィールドワーカーのような人たちを含めた、マル経などの社会経済学的な人たちは膨大な知識と経験値を持っている。それと最先端のゲーム理論の研究が完全に分離してしまっているんですね。これが合わさればすごいことになると思うんですよ。マル経がやっていたような市場から排除されて苦しんでいる人たち、働くことさえもできないような障害者の人たち、子どもや老人たちに対する膨大な知識を、フィールドワークをしているため持っている。そういう人たちと最先端の主流派経済学を継承している日本のエコノミストとの交流が少ない。例えば、前大阪市長・橋下さんのもとで顧問を務めていた鈴木亘さんは、大阪・西成地区をフィールドワークして記録をまとめた本『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』を出している。とても良い本ですよ。普通の経済学者が取り組まないような動きをする正統派の経済学者がもっと増えてくることが望ましいな。

小幡:
 制度とゲーム理論ということで言えば、アヴナー・グライフは歴史とゲーム理論の研究をしていますよね。経済学賞を取らないまでにしても、彼のように優れた研究や理論はたくさんあるんですよ。経済学は他の学問と比べるとまだ未熟だと、私自身は思っている。最初の第一陣は基礎を作った人たちが受賞して、その後は……というとなかなか。ところで、山形さんは取りそうな人の本を狙って翻訳するってことはないんですか?

山形:
 ないですね。たまたま降ってくる場合の方が多いですね。ロバート・シラーは予想外だったし、トマ・ピケティだって売れると思っていなかった。アンソニー・B・アトキンソンも引き受けた時点では話題になるとは思っていなかったです。

田中:
 アトキンソンの『不平等の経済学』だったかな? 前はすごい安かったのに、今じゃ2万円くらいしていて驚きですよ。山形浩生、恐るべしですよ。

山形:
 いやいや(笑)。ピケティも去年の1月で一度ものすごい落ちてそのあと一度も増刷されていませんから、一時的なピークでしかないですよ。

ノーベル経済学賞は廃止しろ!

田中:
 最近ちょいちょい話題になるのが環境経済学系ですけど、山形さん、また新たに翻訳を手掛けたとか!?

n07

山形:
 お! 振っていただきありがとうございます。ついこないだ発売されたのですが『気候変動クライシス』と言いまして、ゲルノット・ワグナーとマーティン・ワイツマンによって書かれた本です。ワイツマンというのは割引率の計算の仕方に、色々と確率分布みたいなものをぶち込んでしまおうという人。それをもとに気候変動のモデルや割引の計算の仕方が書かれています。ちなみに、小幡さんは今年の経済学賞で誰が取るとか予想はあるのですか?

小幡:
 師匠ということもあるので、期待を込めてアンドレ・シュライファーかなぁ。実績は現時点で一番でしょう。コーポレートガバナンスとコードファイナンスにおける実績は大きな影響を与えています。1990年代にコーポレートガバナンスの議論があったときに、それまでの見方を90度くらい変えた。行動と経営が分離していた上でどうガバナンスしますか? というものだったけど、アメリカ、イギリス、日本以外の世界はめちゃくちゃなわけです。法律によって外部の少数の株主を守ることがガバナンスにとって結果的に重要だと言ったわけですね。法律、制度が重要であると。それによって世界銀行の援助などに影響を与えたと言われている人ですね。

山形:
 田中さんは?

田中:
 経済学者は予測をしてはいけないという不文律があるのでねぇ。ですが、一つだけ言いたいのは、計量経済学の人が取ると何も言えなくなくなる。コメントできる人がとにかく取ってほしい(笑)。最善がマクロ経済学者。まぁ、どさくさに紛れて言いますけど、僕はノーベル経済学賞はクソだと思っています。クソですよ、こんなもんは(笑)。

山形:
 !?

田中:
 今でこそ経済学賞の予想というと安田洋祐さんが有名ですが、21世紀に入って以降、僕も主に00年代に朝日新聞で予想みたいなことをしていました。その度に、経済学賞はクソだな~、クソだな~と思って付き合っていました(笑)。

山形:
 それはまたなぜに?(笑)

田中:
 だって、しょうがない奴らばっか取っている(笑)。要するにシカゴ学派の連中です。ぼく、嫌いなんですよ、シカゴ学派(笑)。例えばミルトン・フリードマンをものすごく評価している人が多くいることは分かりますけど、僕の中ではフリードマンは好きになれない。マルクスだってクソかもしれないけど、彼のやろうとしているテーマは分かります。市場+市場外も重要だという。だいたいね、密室で決められている経済学賞なんて市場原理が働いてないだろうと。一番市場原理から遠いところにあるじゃん! TPPを批判するんだったらノーベル経済学賞を批判したほうがいいですよ!(笑)

山形:
 ひどいな(笑)。

田中:
 ろくでもない賞ですよ。廃止しろ、こんな賞は!(笑)

小幡:
 フリードマンはシカゴ学派の中では、王道ではなく異端ですけどね。マネーは影響すると言っているので、ちょっと違うと思うけどなぁ(笑)。

田中:
 前に見たときには審査委員長が滑舌の悪い人で何を言っているのかさっぱりわからなかった。おかしいなぁと思ったらスウェーデン語で話してた! 英語で喋ってくれ!

小幡:
 難癖になってきた(笑)。

田中:
 解説するために呼ばれたテレビ局の楽屋で見ていたんですけど、分かるわけない! 速くモニターで流せって思いましたよ。名前は分かるけど、授賞理由が分からないから困るんだ(笑)。

 

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