アデルとビヨンセの注目対決、ジャスティン・ビーバーがボイコット!? 今年も波乱の2017年グラミー受賞式を田中宗一郎ら音楽評論家が徹底総括
第59回目の開催となる2017年のグラミー賞授賞式の模様を、『WOWOWぷらすと』ではMCに西寺郷太さん、ぷらすとガールズ(笹木香利さん、東美樹さん)、そしてゲストに音楽ジャーナリストである宇野維正さんと柴那典さん、音楽評論家の田中宗一郎さんを迎え、スタジオの別モニターで観覧しつつ生解説を行いました。今回のグラミー賞の結果について、スタジオではどのような総括が行われたのでしょうか。
アデルの受賞でグラミー賞は自分たちのステートメントを通した。
柴:
パフォーマンスもスピーチも圧倒的だし、結果はアデルだったけど、ビヨンセに賞をあげたかった。だけど、アデルの作品は10年、20年経った時に「この時代はアデルの時代だったな」って、振り返られる、今の時代を代表するようなアルバムであることには間違いないと思います。
西寺:
カーペンターズのような、一般の人もみんな知っているような感じになるのかもしれないですね。投票する人たちが、「今回は(アデルとビヨンセの)2強の対決だ」というのであれば、投票は(アデルとビヨンセに)1つ1つに振っていくのかなと思ってました。
柴:
僕もそう思っていました。バランス取るのかなって。
田中:
ある意味、グラミー賞は自分たちのステートメント【※】を通した。
※ステートメント
声明。
宇野:
SNSの普及で、良いアルバムというのが共有されやすくなっていて、批評家が良いと言っている作品と、実際に売れている作品がどんどん近づいてきている状態です。ただ、グラミー賞って、批評でもセールスでもなく、権威でしょ? だから、批評とセールスが近づいちゃっている時代に、権威もそこに近づいちゃってる。1つの価値観が覆っちゃう気がするから、グラミーの権威がアデルっていうのも、わからなくもないな。
柴:
最初から最後まで、ずっとアデルとビヨンセの2択だったんですよ。もちろんジャスティン・ビーバーもリアーナも優れていたんですけど、結局アデルとビヨンセのどっち? っていうのは、みんな思ってたんですよね。アデルは結局、受賞するけど毎回パフォーマンスをトラブってるから(笑)、アデルはアデルでグラミーに因縁はあるんですよね。
リアーナがかわいそう(笑)
田中:
ここ2年はグラミーが権威として揺らいできたんだけれども、今年は、もう一度「いや、俺達は権威だ」ということを示したと思う。だから、権威に対してフランク・オーシャン【※】がそうしたように、そういう立場の人間が顕在化したりするのは、悪いことでもないし、VMA(MTV Video Music Awards)との住み分けも出来ていくわけだし。今後それがどうなるのかな? っていうところだったんだけど、「俺達は権威としてあるんだ」っていうのをグラミーが提示した年だった。
※フランク・オーシャン
「授賞やノミネーション、審査のシステムの基盤が時代遅れなんだと思う」との理由で、自身のアルバムを本年度のグラミー賞選考の候補作品として提出しなかった。
柴:
そう考えると、チャンス・ザ・ラッパー【※】の新人賞も、なるほど感がある。レコード産業には全部ノーのスタンスでいるんだけども、たとえばオバマ大統領に誘われたら行くし、チャンス・ザ・ラッパーはちゃんと権威を利用しているイメージもある。そういう意味では、チャンス・ザ・ラッパーとグラミー賞の関係性も……。
※チャンス・ザ・ラッパー
レコード会社と契約せずに楽曲をストリーミング・サービスで無料配信している。昨年発表の作品『Coloring Book』が、動画再生回数のみによる全米アルバム・チャート初登場8位。販売形式ではなく、動画再生のみのラインクインは史上初。
田中:
なくはないよね。でもリアーナがかわいそう(笑)。去年のテイラー・スウィフト並にずっと番組に出てて、いろんな他のアーティストのパフォーマンスを見守って、一喜一憂しながら、待っていて。
柴:
いい子ですからね(笑)。
田中:
彼女は移民なんですよ。この中で、きちっとした賞を与えられていない唯一の立場。それであのキラキラした目で、アデルの(パフォーマンスの)失敗のときも、涙を浮かべて見ていて……。
柴:
リアーナは今回で一番可哀想な立場だったと思いますよ。
田中:
去年出した『Anti』っていうアルバムも正直、肩透かし感があったんですよ。でも、常に挑戦をしてきて、このアルバムもジャマイカのプロデューサーと一緒にやるとか、本当に挑戦なの。トレンドに乗れそうで、乗れない、みたいな微妙な線で頑張ってきた。バルバドス島出身の14歳(デビュー当時)の女の子が頑張ってここまできたのに、でもまだこのままか……っていうのがね。
柴:
次の作品で、リアーナに賞を取らせようみたいなのはあると思いますけどね。
(ノミネートされていたが授賞式に不在だったジャスティン・ビーバーは「グラミー賞は若手シンガーへの扱いが適切ではない」との理由でボイコットしたという情報を受けて)
宇野:
ある意味、ジャスティン・ビーバーはリアーナの代弁もしてくれているよね。
柴:
ジャスティンがもし出ていたら、リアーナのような扱いを受けていたってことでしょ? カメラに抜かれるだけ抜かれて、結局何も受賞しなかった。彼が出なかったのは、自分を守ったんですよね。
コンパクトになった印象の本年度のグラミー賞。「カントリー感がなかった」
西寺:
4時間見ていて、「またカントリー歌手か!」みたいな可能性もあったわけじゃないですか。でも、今回はカントリー感がなかった。
柴:
カントリーが変わってる! って思った。パフォーマンスを見ていて、これはカントリーというより、J-POPっぽい。今のJ-POPシーンのバンドがこういう曲やるよな、っていうのがアメリカのカントリーだった。
宇野:
さすがに4時間もやってると、ザ・ウィークエンドとダフト・パンクのコラボレーションパフォーマンスがすっごい昔のことのように思えるね。
西寺:
今までの何年かに比べれば、番組のアーティスト追悼のコーナーも、ずっと引っ張るんじゃなくて今回はコンパクトな感じだった。あと、エド・シーランとジョン・レジェンドはいつも出てくるっていうのがね(笑)。