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群雄割拠の世界アニメ市場で日本アニメは生き残れるのか? 世界最大のアニメーション映画祭アヌシー代表が語る、日本アニメのポテンシャル

アヌシーをアニメーションの現状の全てが見られる場所にしたい

数土直志(以下、数土):
 いまアヌシーが世界最大のアニメーション映画祭になり、MIFAの機能も大きくなり、アニメーション界の文化、ビジネスの発展に大きな役割を果たしている。これは相当意識した目標と考えてよいのですか?

マルセル:
 アヌシーはその理念や義務を考えながら開催しており、各国のアニメーションの現状を、現在見られている作品はもちろん、それを作るための技術やフォーマットから、今後どういうアニメーションが作られていくのかまで、アニメーションの全てを見ることができる場にすることを課題にしています。アメリカやフランス、日本といったアニメーションが盛んな国の作品を上映するだけでなく、毎年アヌシーで世界各国のアニメーションの現状の全てが見られるという場所にしたいんです。インドやブラジルといった新興国にも力を入れています。近年はブラジルの作品の受賞もあり、2018年はブラジルの特集を企画しています。

ドワンゴ・エグゼクティブ・プロデューサー 吉川圭三

長編映画の増加、多様化するスタジオ、大人向け作品の定着

吉川:
 世界中のアニメーション関係者が集まるアヌシーを運営する側から、世界のアニメーションの潮流の変化は、何か感じられていますか? 新しいテクノロジーや、一部の地域のものだったのが、世界中に売れるビジネスになったこともあるでしょう。どのような変化が起こっているとみられていますか?

マルセル:
 映画祭での業界の世界的変化の一つは、これまで短編を制作していたインディ作家たちが長編を作り始め、長編作品が増えていることです。
 一つの例として、2017年の長編部門クリスタル賞(グランプリ)に輝いたクロード・バラス監督の『ぼくの名前はズッキーニ』【※】があります。この作品はコマ撮りアニメーションですが、クロード・バラス監督はこれまで10~15作品の短編を監督してきましたが初めての長編です。
 その背景には長編を作るためのテクノロジーの進化や市場の需要も増え、長編映画の制作に作家が参入しやすい環境になってきていることがあります。これまでなかなかビジネスに成り立たなかったクリエイターも長編に挑戦できるように変化したのです。

 もう一つの変化に、近年の3Dアニメーションの急激な普及がありますが、これまでの手描きの2Dアニメーションから完全に移行してしまうことはなく、多くの国で3Dと同時に2Dのテクノロジーを使ったクリエイターが増えています。

※『ぼくの名前はズッキーニ』
2017年。スイス・フランス合作。孤児院で育った子どもたちの生活をコマ撮りアニメーションで表現した。

クロード・バラス監督『ぼくの名前はズッキーニ』
画像は公式ウェブサイトより

ミカエル:
 私は16年以上MIFAを担当していますがビジネス面でも大きく変っています。最初のMIFAの参加は40ヵ国でしたが、今では南米やアフリカなどからも新しい参加があり70ヵ国となっています。
 ビジネス面でも長編作品の増加は大きな変化で、90年代後半にアメリカでドリームワークスなどのスタジオが設立されたことは、フランスでも大きな衝撃でした。それをきっかけに多くの配給会社、映画会社が長編作品のプロデュースを試みており、新しい需要を生みだしています。

 もうひとつの変化が大人をターゲットにした作品の増加です。それまでの長編アニメーションはキッズ・ファミリー向けのジャンルだと思われていましたが、大人の鑑賞に耐えるような様々な深いテーマを扱う作品が増えてきました。アニメーションには世界共通の普遍的な表現力があり、大人が向かい合っている問題を物語にしていくという変化です。

 さらに配信プラットフォームが現れたことで、映画祭もマーケットも構造を変えつつあります。配信プラットフォームは、長編映画やテレビシリーズの出資者という存在としても大きくなってきており、既存のIP(知的財産権)や有名スタジオの作品だけでなく、各国のニーズに合わせた作品に出資するのも新しい変化です。こうした変化により様々な作品の資金調達の機会が増加しています。

アヌシー マネージング・ディレクター 経済発展・MIFA会長 ミカエル・マラン氏

吉川:
 まさにそれをお聞きしようと思っていました。かつてアニメーションは、カートゥーンと呼ばれる時代があって、子供の娯楽、エンターテイメントでした。それが家族で見られるようになり、今度は大人の鑑賞に堪えるものになりました。そうした娯楽と芸術を融合させるという意味では、アヌシーも大きな力を貸したと思います。フランス文化の文脈の中に表現における芸術性があると思うのですが、それは意識されていますか?

マルセル:
 私自身はフランス人ではなくカナダ・ケべック州の出身の北米人から見たフランスの話になりますが、以前は他の国と同じようにフランスでも、どちらかというとアニメーションは子供向けの娯楽だと思われていました。そんな中でも、大人向けの長編アニメーションを作ろうという試みは、60年代後半の時期からいくつ行われており、フランスではルネ・ラルー監督の『ファンタスティック・プラネット』【※1】イギリスの『イエロー・サブマリン』【※1】アメリカでは『フリッツ・ザ・キャット』【※3】などが作られましたが、当時は大人が観賞できるアニメーションのビジネスとしては広がることはありませんでした。

 しかし、流れが変わったのは、アニメーションやコミックを読んできた子ども達が成人してからです。私が1986年にジャーナリストとして初来日した時に、日本では大人が漫画を読んでいることにすごく刺激を受けました。今ではアメリカでもフランスでもアニメーションやコミックに親しんだ世代が大人になって、大人向けのグラフィックノベルやコミックを消費する文化があり、アニメーションの受け入れ方も変わってきています。

※1 『ファンタスティック・プラネット』
フランス・アニメーションの巨匠ルネ・ラルー監督の1973年の作品。ステファン・ウルのSF小説を原作に、未開の惑星を舞台に人間とそれを支配する巨人族を描いた。カンヌ映画祭特別賞受賞。

※2 『イエロー・サブマリン』(アニメーション映画)
ビートルズのメンバーをキャラクターに1969年に制作された。ビートルズの音楽を背景に、メンバーの冒険を描く。アーティスティックな表現がサブカルチャーに大きな影響を与えた。

※3 『フリッツ・ザ・キャット』
猫のキャラクターを主人公にした風刺作品。アメリカのラルフ・バクシが、ロバート・クラムのアンダーグランドコミックを原作に1972年に監督した。アメリカで初めて成人指定を受けたアニメーション映画。

ルネ・ラルー監督『ファンタスティック・プラネット』予告より

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