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究極のファンメイドか、新シリーズ復活への狼煙か 「パトレイバーREBOOT」吉浦康裕×出渕裕対談

 10月15日から限定上映されたオムニバス作品『劇場上映 ゴーゴー日本アニメーター見本市』。そこで特に注目を集めたのが、短編アニメ『機動警察パトレイバーREBOOT』だ。1988年からOVAやコミックなどで展開してきた『機動警察パトレイバー』(以下、『パトレイバー』)のアニメ化としてはじつに14年ぶりの作品となる。

 ファンにとって待望の本作を「監督・絵コンテ・演出・撮影監督・編集・脚本(共同)」というポジションで作り上げたのが吉浦康裕(よしうら・やすひろ)。『パトレイバー』シリーズの大ファンを自認する彼は、放映当時はまだ小学生。伝説的作品が今、まさしく新世代に引き継がれようとしている。
 吉浦は『イヴの時間』などの代表作を持つ気鋭のアニメ監督のひとりだが、「この作品のおかげで僕の監督生命が延びたと思う」と冗談混じりながらも取材中に語ったのが印象的だった。
 なぜこの作品が吉浦の救いになったのだろうか。その理由を解くカギは出渕裕(いずぶち・ゆたか)の “監修”という、一見すると謎めいた職務にあった。出渕は本作の原作者 “ヘッドギア”のひとりであり、作品シンボルである警察用ロボット(レイバー)「AV-98 イングラム」のデザイナーという重鎮だ。35年以上の長きに渡ってアニメや特撮の分野の第一線で活躍してきた出渕からの「やっぱりリブートは元の作品を好きな人がやるべき」という言葉が吉浦を支え、それが彼のクリエイター人生を変える瞬間を生み出した。
 そして、吉浦自身も『パトレイバー』ファンとして、誰もが納得すべくオリジナルの良さを的確に捉え、彼ならではのデジタルを駆使したクレバーで叙情性を加えていった結果、『パトレイバー』はリブート(再起動)したのだった。

 そこにはどんな人間模様と制作プロセスがあったのだろうか。ふたりには『機動警察パトレイバーREBOOT』公開当日に対談形式で思う存分語ってもらった。これはひとつの作品が再起動し、ひとりのクリエイターが再生するドキュメントと言っていいだろう。

取材/桑島龍一(さかさうま工房)、文/野口智弘
カメラマン/佐々木秀二

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※『機動警察パトレイバーREBOOT』は、2017年2月28日まで無料公開中→日本アニメ(ーター)見本市・機動警察パトレイバーREBOOTサイト


主役機は変えない、その理由。

――おふたりの最初の出会いはどんなきっかけでしたか?

出渕裕氏(以下、出渕氏):
 最初はパーティー会場か何かだったっけ?

吉浦康裕氏(以下、吉浦氏):
 そうですね。スタジオカラーの忘年会か何かで。僕が『パトレイバー』の前に「日本アニメーター見本市」で『PP33』と『ヒストリー機関』の2本を作っていて、それ関係だったんですよね。

出渕氏:
 あと吉浦さんが最初は個人でアニメーションを作っていて、作品賞【※】を取ったじゃないですか。あのとき僕が審査員をやっていたんですよ。

※作品賞
第15回 「DoGA CGアニメコンテスト」にて「水のコトバ」で受賞。同コンテストは1989年より開催されている国内で最も歴史のある自主制作CG作品のコンペティション。第12回(2000年)には新海誠がグランプリを受賞している。

吉浦氏:
 そうだったんですか! その節はお世話になりました(笑)。

出渕氏:
 で、2つよかったうちのひとつが吉浦さんの作品だったんですよ。「おお、この人すげえ」という感じで、そのあとも『イヴの時間』とか、『サカサマのパテマ』とか、すごく活躍されてるなと。で、パーティーでお会いしてちょっと話したときに「あ、この人SF好きなんだ。よっしゃー!」という感じだった(笑)。吉浦さんの作品って、アプローチの仕方としてSF的なものが多いじゃないですか。その辺にシンパシーを感じたというか。

吉浦氏:
 そうですね。僕も出渕さんのお仕事はずっと拝見していたので、これを機にと色々お聞きして。でもそのとき不思議と『パトレイバー』のお話はしなかったんですよね。なぜしなかったのか自分が不思議でしょうがないですけど。

出渕氏:
 そういえばしなかったですね。それで別れ際に「じゃあまた今度なんかあったら」みたいな。

吉浦氏:
 そんな感じでしたね。

 ――吉浦さんから見た出渕さんの印象はいかがでした?

吉浦氏:
 この業界に入って、今までずっとファンとして見てきた方がたくさんいらっしゃるじゃないですか。気後れすると損だから、とにかくどんどん話しかけて積極的にお話させていただこうという姿勢だったんですよ。あとちょうど僕は(出渕氏が挿絵を手掛けた)『ロードス島戦記』世代でもあるんですよね。

出渕氏:
 (恥ずかしそうに)出た(笑)。

吉浦氏:
 本当にどストライクなんです。それとあらゆるロボットのなかでイングラムが一番好きなんですよ。

10月15日・公開初日舞台挨拶より

出渕氏:
 ありがとうございます(笑)。

吉浦氏:
 デザイン的にもスーパーロボット性がありながら、どこかの重工業が趣味に走って作るとこうなるんじゃないか、みたいなリアリティというか。それから記号的にも――これはゆうき(まさみ)さんがおっしゃっていたんですけど――「『警視庁』という文字がなかったとしても警察のレイバーに見える」と。そこがやっぱり昔からずっと好きだったんですよね。

出渕氏:
 まあ、でもカラーリングを変えて薄いグリーンで塗って角ばらせたらジェガン【※】に限りなく近づいて……って自分で言うなっていう(笑)。

※ジェガン
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のモビルスーツ。パトレイバーと同時期に出渕氏がデザインをした。

吉浦氏:
 なので、今回の『~REBOOT』を新しく作るときも「イングラムは昔のままで行きたいです」と最初に言って。

出渕氏:
 もし今、僕が新しくやるとしても、おそらくイングラムはそのままいじらないだろうなと思うんですよ。じつは今までの『パトレイバー』って、イングラムに替わる新型を出してもみんな噛ませ役だったりするんですよ。あとは(劇場版の)零式のような悪役であったりとか。だから新型じゃなくてやっぱり初代で、システムが新しくなっても頼るべきものは人、みたいなところの象徴でもあるし。

吉浦氏:
 マンガ版のラストはまさにそういう話ですよね。

出渕氏:
 そうですね。で、今の視聴者はみんなロボットがどんどん代替わりするのに慣れすぎてしまっているんですよ。新しいおもちゃを出さなきゃいけない宿命を負ってた時代のロボットアニメの尻尾をいまだに追いかけちゃっている。それは僕が関わってた作品なんかもそうですよね。それこそ例えば『(聖戦士)ダンバイン』をやってたときに、たぶん富野(由悠季/同作総監督)さんは(初代主役機の)ダンバインを替えたくなかったはずなのに(2代目主役機のビルバインに)替えざるを得なかったというような。

吉浦氏:
 零式ってそれに対するアンチテーゼだったりしたんですか?

出渕氏:
 そういうわけではないんですけどね。でもテレビシリーズやOVAで(新型量産機の)ピースメーカーが出てきたりとか、事あるごとに新型は出てきてるんですけど、やっぱり初代のイングラムというかAV-98に回帰してるんですよ。あとは理屈で考えたときに、こんな金食い虫なメカの新型がそうそう必要なのかと。おそらく基本的には減価償却するまでイングラムにいろんなものを付随させながらずっと使い続けるんじゃないか、という気がするわけです。だって税金ですよ。こんなお金がかかる代物は真っ先に槍玉に上げられちゃうよね。

 ――そういう現実的な世知辛さも『パトレイバー』らしさですよね。

出渕氏:
 うん。新しいシステムはメーカー側でどんどん付け加えてるんだけど、オール新作のレイバーを作るんじゃなくて、少しずつ改修するという考え方なんですよね。どっちにしても(イングラムは)作品のアイコンにもなっちゃってるところもあるんで、やはりその方が良いだろうと。

オリジナルクリエイターから手渡されたバトン

 ――吉浦さんが『パトレイバー』に触れた当時の印象はいかがでしたか?

出渕氏:
 実際にハマったのは大学生ぐらいになってからなんでしょ?

吉浦氏:
 そうですね。小学生で『パトレイバー』がテレビで流れていたときには「なんか大人のアニメだな……」っていう感じでした。

出渕氏:
 振り返ると初期OVA(アーリーデイズ)やテレビシリーズの頃はキャラクターも大急ぎで作ったから、手探りをする時間もなくて、新OVAのときにようやく落ち着いて掘り下げることができたかな、という感じがしますね。

吉浦氏:
 今回OVAとテレビシリーズを全部見直したんです。劇場版はもう頭に入ってるんで(笑)。キャラクターにフォーカスしたエピソードってあるじゃないですか。宴会だけの回(NEW OVA第9話「VS(バーサス)」)とか。そういうのを見ていて「あ、こんなに僕はこのキャラたちを好きになってしまったんだな」と思ったりしたんですよね。

出渕氏:
 (『~REBOOT』を)制作している途中に「『パトレイバー』って意外と自由度あるから、意外と何やっても大丈夫なんですよ」って話もさせてもらったりね。

吉浦氏:
 そうですね。イングラムが発進できないとか、そっちのエピソードの方が自分の作風に合ってる気もちょっとしたんですけど、今回は1本目ですから王道な感じで。

出渕氏:
 まあ、この先々あるときは、そういうカラーも出すことだってできるんじゃないかと。

吉浦氏:
 キャラクターの立て方はテレビシリーズやOVA、マンガ版から引用したところは多いので、その辺は活かされていると思いますね。今回『パトレイバー』のお話があったときに自分から「ぜひやらせてください。自分がやるならこういうのをやりたいんです」って前のめりにお伝えしちゃったんですよ。
「やるなら本当に王道の漫画映画的な『パトレイバー』を今の技術でもう一度やりたいんです」と。そういう流れで新人隊員たちとイングラムが活躍する話をやりたいと提案させていただいたところ、(出渕氏はじめ)オリジナルスタッフの方々も「それでやってみたら」って言ってくださって。

出渕氏:
 そうですね。伊藤(和典)さんもゆうきさんもね。

吉浦氏:
 それでバトンを手渡された感じがしまして、プロットと脚本をざっと書いて。イングラムをCGでやるのも当初から決めていたので、これは思う存分イングラムが暴れるものを作れると。今回メカ戦に関してはかなりこだわって作った感じですね。

 ――メカ戦がたっぷりある『パトレイバー』ってみんな見たかったと思いますよ。

出渕氏:
 まあ、レイバーってCGと相性がいいだろうとはずっと思っていたんですよ。

吉浦氏:
 それはすごく思いましたね。

出渕氏:
 作業機械の延長線上としてのレイバーなので、動きはCGの方が相性はいいだろうなと。もちろん手描きの良さは別にあるんですけどね。

吉浦氏:
 昔の『パトレイバー』は超絶うまいアニメーターさんを集めて手描きの作画で動かしていた。今の時代でそれに対抗するんだったら、形の変わらないCGのパーツの集合体としてロボットを描く。シルエットはロボットなんだけど細部を見ると重機だ、という感じはCGだからこそ出やすいと思うんですよね。それは演出上でも気を遣っていて、ロボットアニメ的なケレン味は今回は割と排除して、(手ではなく)マニピュレーターだから大きな固まりがズガンズガン動いてるという形で演出したときに、CGは相性がよかったですね。まあ、それも結局は超絶うまいCGアニメーターの松井(祐亮/スタジオカラーデジタル部)さんにやってもらったからできたんですが(笑)。

出渕氏:
 それはそうだろうなと。あと超絶うまいアニメーターってね、現実的にそんなにたくさんいないんですよ。いや、いることはいるんだけど、超絶うまくてもスーパーロボット寄りになっちゃったりするのね。作品に合わせてリアル寄りの描写をできる人もいるんだけど、それはさらに数少ないし、その人たちが同じタイミングでやってる別の作品があったりするとそんなに集められないんですよ。だから視聴者の「メカの見せ場が見たい」という欲求に応えたくても難しい。それは僕が『ヤマト』(『宇宙戦艦ヤマト2199』)やっていたときもそうだったんだけど、あの船を毎回手描きで動かすなんて不可能! CGがこれだけ手描きの感触を再現できるようになった今なら、費用対効果も高く(ヤマトも)できるけど、というね。

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