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「『君の名は。』は”バカでも分かる”作品だからこそヒットした」岡田斗司夫が語る『君の名は。』ヒットの要因

 公開10日間で累計動員数300万人、興行収入38億円を突破した『君の名は。』。アニメへの造詣も深い評論家、岡田斗司夫氏が、自身のチャンネル放送で本作品について語った。
「新海誠はメジャーになるために作家性をあきらめた」「この作品は新海誠の集大成。だが、作中ではその説明を全くしていない」と語る岡田氏。さて、その真意はいかに…

※本記事には『君の名は。』のネタバレが含まれます。ご了承の上でご覧ください。


■メジャーになるために”作家性をあきらめた”新海誠

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 今回、新海誠が挑戦したのは“作家性のあきらめ”なんですよ。今までの新海誠は『ほしのこえ』とかでやってたような、男と女が何光年も離れて、男の方は女の子のことをずっと想っているはずが勝手に結婚しやがって、女の子の方は銀河の果てで宇宙人と戦いながら「いつかあの人に会える日が来るんだろうか」なんて考えているような、救いようのない切ない話を連続して書いてて、“そこそこの評価”はあった。

 でも、「このままではお前はジブリにはなれない。庵野(秀明)や細田(守)にはなれない」……と言われたかは分からないけど、そこで一念発起して、「よっしゃ、わかった! 俺は中学生・高校生、言い方悪いけど“バカ”でもわかる映画を撮るぜ! オラァ、作った! ほら、バカが泣いてる!」っていうのが『君の名は。』なんじゃないかと(笑)。作家性をあきらめて、誰にでも分かるように徹底的にベタな方向にした。だから、この作品は大ヒットしているんじゃないかと思います。

 テーマとストーリーの関係なんですけども。今回、映画の中で「結ぶ」っていう言葉と、「細かい糸を撚(よ)って紐にする」っていうのが何回か出てきます。まあ、話としては一つの円環の中に入っているようで、同じことの繰り返しなんです。いろんな時間軸や色んな事件が組み変わって、いろいろ動きながら、話の糸を紡いでいくっていう話になってます。つまり、「結ぶ」とか「結う」っていうのが、物語のテーマになってます。

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 主人公の三葉と瀧は作中で「お互いの身体が入れ替わる」んですが、この体験を三葉のおばあちゃんに話した時に、おばあちゃんは「そんなことが私にもあった気がするわ。お前のお母さんにもあったんじゃなかったっけ?」って言うシーンがあるんですよね。つまり、三葉は神主の一族なんですけど、この一族は昔々から思春期になると、どこかの人と身体が入れ替わるみたいなんですよ。こういう話がごく自然に入ってくる。でも、おばあちゃんもお母さんも誰と入れ替わったかは描かれてないんですね。

 だけど、直接的に描かれていないだけで、作中で分かるように描かれている。かつてお母さんと身体が入れ替わったのは、“三葉のお父さん”なんですね。三葉は町長であるお父さんに、最初は理由を話さずに「みんなを避難させなきゃだめ!」って言ってて、お父さんは全く納得しなかった。けど、三葉が「私は身体が入れ替わったの!」って言った瞬間に、お父さんは「ああ、本当に隕石が落ちてくるんだ」と、娘の世迷い事を信じるようになった。

 何故、お父さんが今まで再婚しなかったのか? 何故、お母さんのことをずっと大事にしていたのか? それは、お父さんにも、以前にお母さんと身体が入れ替わるという体験があったから。でなければ、お父さんの心が切り替わった理由が全く説明がつかないんですね。三葉がお父さんを説得するシーンでは「お父さん! 話を聞いて!」ってところまでしか描かれていなくて、その後は急に「町長が指導力を発揮して村民を避難させた」っていう新聞記事が出てるだけなんですよ。何故、このお父さんが動いたのか、劇中では全く説明がない。だけど、その理由は「お母さんとお父さんもかつて身体が入れ替わった経験があった」から。こういう関係が成立しているからなんです。

■この作品は新海誠の宇宙モノの集大成。だが、作中ではそのこだわりを見せずにベタなドラマに集中している

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  “ティアマト彗星”は、1200年に一度、太陽系外から地球に接近して、太陽の近くを通って、また太陽系外に帰っていく。このティアマト彗星が二つに割れて、破片が地球に落ちたから、大災害が起こります。ところが、この村の航空写真を見てみると、巨大なクレーターがあって、その真中に神社があって、その隣に村があるような構造になっている。このクレーターは1200年前に落ちた隕石によって生まれたものです。この隕石の落下は、さっき話した、おばあさん、お母さん、三葉のような繰り返し構造と同じように、過去に何度もあったことなのかもしれない。1200年前、2400年前、3600年前というふうに、隕石の落下も繰り返されているのかもしれない。

 なぜ、このような繰り返しがあるのかというと、かつて地球に落ちた隕石の欠片が、太陽系の外を回っているもう一つの欠片に「会いたい」と思ったからなんですね。つまり、この物語は“七夕”なんですよ。二つに分かれてしまった者たち、それは人間でも隕石でも同じなんですが、「もう一度お互いに会いたい」という願いを持った者が奇跡を起こす。ただ、二つの星の「会いたい」という願いは人間界にものすごい迷惑をもたらす。なので、三葉の一族に超能力を与えて、せめて土地の人間がその場から逃げ出すことが出来る隙を与えてくれたのかもしれない。

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 これ、太陽系という視野で見るとこれだけの話なんですが、太陽系自体も巨大な円周軌道を取っています。そして、この巨大な円周軌道も銀河平面に対して回転しています。なので、太陽系というのは、細かい渦巻状の回転をしながら大きな渦巻きの周りを回っているわけですね。この渦巻状の太陽に出会うために、ティアマト彗星の軌道もかなり複雑なものになっていると思われます。

 この銀河上の動き全体が、お話のテーマ「結ぶ」なんです。銀河平面の中で見た太陽系の軌道と、それに対して絡み合うように進んでいるティアマト彗星の軌道という全体が、大きい一つの糸を作っている。その中で、1200年に一度、地球に接近する彗星が、互いに「もう一度、会いたい、会いたい、会いたい」と思っている。さらにその中で、一度別れた相手ともう一度会いたいと思う人間が、心が入れ替わるという奇跡を起こして。それが代々受け継がれていく。

 こんなふうに、全体が「糸を結って紐を組む」という構造で出来ている。つまり、新海誠としては、これまで作り続けてきた宇宙モノの集大成としてやっていると思うんですが、この辺りの説明を全部あきらめて、ベタなドラマに集中したのが「すげぇよ、新海! よく割り切ったな!」と思います。

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