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熱狂的なファンに支えられるアニメ「ゆゆ式」が、TVシリーズから4年経っても愛され続けるワケ——原作愛に満ち満ちたOVA制作秘話

 約4年ぶりとなる待望の新作OVAが、2017年2月22日に発売され好評を博している。
 『まんがタイムきらら』(芳文社)にて2008年より連載中の三上小又による同名萌え4コマを原作に、2013年4月から6月にかけてTV放映された日常系アニメ『ゆゆ式』である。

 『ゆゆ式』を一言で説明すれば、野々原ゆずこ、櫟井唯(ゆい)、日向縁(ゆかり)という、「ゆ」からはじまる女子高生3人の何気ない日常を切り取る、ただそれだけの作品だ。
作品内で描かれるのは、教室で、情報処理部の部室で、唯の部屋で繰り広げられる、他愛もないおしゃべりのみ。ド派手なスペクタクルはもちろん、劇的なドラマが展開されるわけでもない。
 にもかかわらず、『ゆゆ式』はファンの心をつかんで離さない

 わかりやすい例が、Twitterでのエア実況だろう。『ゆゆ式』が2013年にTV放映されていた火曜深夜24時30分~25時になると、さも『ゆゆ式』の放映がつづいているかのように、毎週1000ツイートを超える架空のTwitter実況が流れはじめるのだ。2017年2月末現在、そのエア実況はすでに16クール目に突入している。言うまでもなく、極めて異例な事態である。
 2015年・2016年・2017年にニコニコ生放送で行われた一挙放送でも毎回、高評価の指標である満足度97%超えをマーク。TVシリーズから4年が経っているにもかかわらず、なおも継続するファンの熱気に対し、プロデューサーの小倉充俊氏はOVAのブックレットで「このOVAはみなさんの勝利です!」と、企画を実現に導いたその“『ゆゆ式』愛”へ感謝の言葉を送ったほどだ。

 深夜アニメはしばしば、その消費サイクルの短さが指摘される。そんななかで、なぜ『ゆゆ式』はこれほどの長期にわたり、ファンを虜にしつづけたのか

 その理由を探るべく、今回はそんな『ゆゆ式』をファンをも唸らせる精度でアニメ化してきたかおり監督へのインタビューを敢行。OVAのコンセプトから制作の舞台裏、TVシリーズからの変化まで、たっぷりと語ってもらった。

取材・文/高瀬司

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

全ボツが当たり前のシナリオ会議

――2013年のTV放映から約4年ぶりの新作エピソードになりますが、久しぶりの『ゆゆ式』はいかがでした?

かおり氏:
 『ゆゆ式』の新作ができないか、という話自体はずっと前からしてたんですよ。脚本の(高橋)ナツコさんや小倉(充俊)プロデューサーといったメインスタッフ、キャストの方々や原作の三上(小又)先生とお会いするたびに「またアニメをやりたいですね!」と言い合っていて。けれどもなかなかいい発表ができないでいたなか、こうしてようやく新作エピソードをお届けできたことは本当にうれしいですね。
 ただ制作に入った当初は、私含めてスタッフの“ゆゆ式愛”が強すぎるせいで(笑)、OVA1本のシナリオを作るのに半年以上もかかってしまったんですよ。

――愛が強すぎたためというのは?

かおり氏:
 今回作れるのが1本だけということで、何か特別なことをしなきゃいけないんじゃないかと、私たちが気負いすぎてしまったんです。そうではなく「ゆずこたち3人のいつもの日常こそが特別なんだ!」ということに立ち返るまでにすごく時間がかかってしまいました。
 順を追って説明すると、最初のシナリオ会議では、まず3人でネタ出しをやったんですね。私とナツコさんと小倉プロデューサーで、原作のどのエピソードをアニメで観たいかを会議室のホワイトボードにリストアップしていったんです。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

――情報処理部の3人と同じような作業をやっていたわけですね。

かおり氏:
 まさにそんな感じでしたね。みんなでお菓子を持ち寄っては、わいわいと「この言葉ってどんな意味なんだっけ」「ちょっと検索してみよう」みたいな感じで(笑)。その場には、ナツコさんの紹介で渡邊(大輔)さんという新しいシナリオライターさんも同席されていて、最初にその会議をもとに準備稿を書き起こしていただいたんです。ただ全員が思い思いのエピソードを挙げるものだから、ものすごく分厚い本になってしまって(笑)。それをもとにまた会議をして、その議論を受けまたシナリオを改稿して、というのを何度も繰り返していきました。
 ただそうしてできてきたシナリオは、一つひとつのエピソードはおもしろいんだけれども、30分通して見たときのテーマや感情の流れがバラバラで、「これでは『ゆゆ式』とは呼べない……」ということにみんなが気がついて。それでそこまでに積み重ねてきたものは一旦全部ボツにすることに決めて、新しくテーマ出しからはじめることにしたんです。

――TVシリーズでも各話ごとにテーマを決めたとうかがっています。

かおり氏:
 そうですね。だいたい各話のサブタイトルがテーマを反映してるんですけど、そのテーマに関連したエピソードを原作から集めて、自然な感情の流れを意識して組み立てていく、という作り方をしていました。つまり何度も会議と改稿を繰り返すことで、当時のやり方に戻るべきだということにようやく気がつけたんです。TVシリーズのときも第3話までの決定稿ができてから、ナツコさん含めたメインスタッフの総意で一度全ボツにして、もう一度シリーズ構成からやりなおしていたんですが、今回もここまでやらないと『ゆゆ式』に近づけませんでしたね。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

いつもの日常のなかにある等身大のスペシャルイベント

――リスタートしてから、テーマが決定されるまでというのは?

かおり氏:
 テーマというよりは、もう少し大きなルールのようなものになりますが、まずはいくつかの候補案のなかから話し合いで二つまで絞って、それぞれの方向性に沿ってまた叩き台となる準備稿を2本作ったんですね。そうして会議の席で、どっちにするか、「せーのっ!」で、自分がいいと思うほうを指差しして決めようということになって(笑)。普通ならありえないやり方だと思うんですけど、そうしたら満場一致で、3人ともいまのシナリオのほうを指したんですよ。

――そこで選ばれたテーマ・方向性というのは、具体的にはどういったものだったのでしょう。

かおり氏:
 まず基本方針として、TVシリーズ全12話につづく“第13話”を描くことに決めました。つまり今回は第12話の直後、2学期がはじまる秋口を舞台に、「ノーイベント・グッドライフ」な3人の変わらない日常を描くということですね。次に視点は誰かに絞ったほうがいいだろうと、唯を中心にすることにして、そうすると他の2人はいつも唯を困らせてるんだということが見えてきたので(笑)、最終的に「唯ちゃんを困らせる話」というのが今回のOVAのテーマに決まりました。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

――それがサブタイトルの「困らせたり、困らされたり」のもとになっているわけですね。

かおり氏:
 そうですね。また相川さんグループの3人(相川千穂・岡野佳・長谷川ふみ)を登場させることも最初の打ち合わせから満場一致で決まってたんですけど、テーマが決まったことでようやく、それなら「あいちゃん(相川さん)を困らせる話」も入れられるなといったように、そっち側のアイディアもうまく膨らみはじめて。

――確かにそれだけ試行錯誤を繰り返せば、30分の脚本1本に半年以上はかかってしまいそうです(笑)。

かおり氏:
 長かったですね(笑)。「スペシャルなことをやろう!」という罠にハマってしまって、「全然『ゆゆ式』にならない!」って改稿や全ボツを繰り返して。そもそもこんな型破りな現場、普通だったら絶対付き合ってもらえないですから、ナツコさんや小倉プロデューサーの“ゆゆ式愛”には本当に助けられましたね。

――実際本編を拝見しても、お泊まり会くらいが、『ゆゆ式』の「スペシャルエピソード」にちょうどいい特別感だと感じました。

かおり氏:
 いつもの日常のなかにある等身大のスペシャルイベントなんですよね。このお泊まり会をアバンに持ってきたいというのは、最初のシナリオ会議のときに私から提案させていただいたものです。パジャマパーティーがあって、縁の制服お風呂や唯の裸すき焼きの妄想シーンがあってと、サービスもてんこ盛りですからね(笑)。そのうえ相川さんたちも同じ日にお泊まり会をしているので、グループ同士のやり取りまであって、『ゆゆ式』サイズの特別感と同時に、みんなの仲のいい雰囲気も垣間見れる素敵なエピソードだなと。

――ここは原作第5巻の巻頭カラーですが、TVシリーズ第1話や、第2話の「なんつってっつっちゃった」につづく、アバンでの印象的な巻頭カラーの活用でしたね。

かおり氏:
 あと最初のカットの「唯ちゃんスキー!!!」っていうのも、「唯ちゃんを困らせる」と裏表の関係にある、もう一つのテーマみたいなものだと思っていて。あそこはみんな唯のことを大好きだから困らせたいんだ、っていう気持ちを象徴してるシーンな気がするんです。

――ちなみに、テーマ出しを行う前の、全ボツにしてしまったシナリオというのは、どんな内容だったのでしょうか?

かおり氏:
 「ゆずこ大暴れ」という印象が強くなってしまっていたんですよ。というのも、『ゆゆ式』では「ゆずこがボケて、唯がツッコんで、縁が笑う」っていうのが一番彼女たちらしいかたちですけど、そればかりになると、ゆずこ主導になり過ぎるというか、“ネタアニメ”っぽくなってしまうんですね。TVシリーズのとき三上先生に言われてすごく印象に残ってる言葉に「この子たちは芸人ではないので、お芝居はしません」というのがあって。つまり3人はお互いを楽しくさせようとしてるだけで、3人以外の誰かを笑わせるためにネタを披露してるんじゃない、っていう。本当にその通りだなと思って、なのでコント集みたいになってしまうことだけは絶対に避けたかったんです。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

女子高生の実在感とトイレ

――OVAでも『ゆゆ式』の変わらないいつもの日常が描かれた一方で、テクニカルな面を中心に、いくつか変わった点もあると思います。そこに関しても一通りうかがわせてください。まず最もわかりやすいのは、キャラクターデザインの変更です。頭身の調整や丸みを帯びたシルエットなど、かなり原作に寄せて作りなおされていますよね。

かおり氏:
 TVシリーズのときは原作の第4巻までのエピソードがメインだったので、キャラクターデザインの田畑(壽之)さんには第3巻ころの絵柄に寄せてデザインしていただいたんですね。でもOVAでは第5巻から第7巻までのエピソードが中心になるので、そこを基準に、あらためてデザインを起こしなおさせていただきました。
 田畑さんがスケジュールの都合でご参加いただけなかったので、OVAのキャラクターデザイン・総作画監督はキネマシトラスで別作品に参加していた伊藤晋之さんにお願いしていますが、もし田畑さんだったとしても「デザインは新しくしましょう」と提案していたと思います。

――三上先生の絵柄の変化に寄り添われたということですね。伊藤さんへは、具体的にどのようなオーダーを出されたのでしょうか。

かおり氏:
 まずTVシリーズのことは忘れて、晋之さんの絵の魅力、女の子を柔らかくかわいらしく描くところを意識してデザインしてくださいとお願いしました。また頭身の基準にしていただいたのは、カバー裏表紙のイラストです。原作ではカラーイラストと、扉絵と、4コマとでそれぞれ頭身が描き分けてありますし、4コマのなかに限っても、ギャグの度合いによってコマごとにいろんなデフォルメがかかっているので、一番リアルめの頭身の立ち姿が、しかもカラーで確認できるのが、カバー裏表紙だったんです。

――4コマ本編のデフォルメ絵ではなく、リアルテイストを基準に置いた理由というのは?

かおり氏:
 頭身をあまり縮めてしまうとギャグアニメになってしまうと思ったんです。もちろんギャグのときは低い頭身の絵も使ってますけど、要所は要所はちゃんとした頭身で動かしたほうが、ゆずこたちの実在感を出せるかなと。
 なのでTVシリーズのときも、なるべくリアルな女子高生の姿をとらえたいと、学校の教室を借りて、そこで制服姿のモデルさんに様々なポーズを取ってもらって撮影会をしたんですね。ゆずこたちと同じ配置で立ってもらっていろんなアングルを探ったり、伸びをしてもらってどんな感じでへそチラするのかを調べたり(笑)。だから晋之さんにも参考資料としてそのときの写真とか、『スクールガール・コンプレックス』という女子高生の首から下をいろんなポーズやシチュエーションで撮った写真集シリーズとか、あと「ふともも写真の世界展」という展覧会の図録も買ってきてお渡ししましたね(笑)。

――とはいえ、今回のOVA本編ではへそチラがほぼなくなるなど、フェチっぽさは減っているように思ったのですが。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

かおり氏:
 田畑さんと晋之さんの違いもありますけど、一番の理由は単純に季節が秋になり、制服が冬服メインになったからだと思います。冬服は裾が長いのでへそチラのしようがないんですよ。個人的には残念ですが(笑)、とはいえそこを無視してサービスで入れたらそれはそれで『ゆゆ式』らしくないですから。
 だから最初の「唯ちゃんスキー!!!」って叫んでるときに、脇腹がチラッと見えたりとか、縁が夏服を着たままお風呂に入る妄想シーンで足をクローズアップにしたりとか、絵コンテを描いてて自然だと思えるところには入れるようにしました。あとは最後に3人のお風呂シーンですね。

――余談ですが、OVAではトイレに行くシーンがないことも気になりました。TVシリーズのときには「トイレノルマ」などと言われるほど、毎話トイレに行くことが話題になっていたので(笑)。第12話では黄瀬和哉さんがそのトイレシーンを描いてらしたことにも驚かされましたが。

かおり氏:
 TVシリーズのころは場面転換に便利だからという理由もあったんですけど、実際、女子高生ってよくトイレに行くものなんですよ。私も女子校だったんですけど、友だちと話するためだけに休み時間はよくトイレに行ってて(笑)。結果的に、女子高生のリアルな雰囲気を感じさせる点でもプラスになったかなと。
 だから実は、OVAにも入れたいと企んでたんですよ(笑)。はっきりとは描いてませんけど、Bパート頭のゆずこは、トイレから帰ってきたところのつもりなんです。当初は原作にある、トイレから透明人間になって帰ってくるエピソードを入れたいと思ってたんですけど、今回はただでさえ部室への出入りが多かったので、自然に組み込むことができなくて。なのでその点は心残りですね(笑)。

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