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『攻殻機動隊』神山健治監督が新作劇場版アニメ『ひるね姫』に秘めた挑戦——「自分の娘に見せたいような作品を作りたかった」誕生秘話を語る

 3月18日(土)に公開を控える長編劇場版アニメ『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』(以下、ひるね姫)。3月4日(土)に放送された『WOWOWぷらすと』では、サンキュータツオさんを聞き手に『ひるね姫』で初のオリジナル長編に挑む、神山健治監督のインタビューの様子が放送されました。

 『ひるね姫』で描こうとした「世代の断絶の克服」のテーマために2020年の東京オリンピック前夜を物語の舞台に選んだ理由や、初のオリジナル脚本に挑んだ心境が語られました。

『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』公式サイトより。

自分の娘に見せたいような作品を作ってみた

左から、神山健治監督、サンキュータツオさん。

サンキュータツオ:
 『ひるね姫』は神山監督のオリジナル脚本となっています。この作品が誕生した経緯を教えていただけますでしょうか。

神山:
 4年くらい前に、あるプロデューサーから「自分の娘に見せたいような作品を作ってみたら」と声をかけていただきました。それまでの僕は『攻殻機動隊』にしても『精霊の守り人』にしても、犯罪に立ち向かう刑事だったり、異世界で用心棒をしていたり、戦う主人公たちを描いてきました。そういう主人公ではない、一般の人の目線に寄ったものを描きたいと思っていたタイミングに、そういうお話を頂いたので、新鮮な企画になるのでは、と。そういう思いで取り掛かったのがきっかけです。

サンキュータツオ:
 今回は劇場版をゼロから立ち上げたということですが、そこで難しさや、面白みの発見はありましたか。

神山:
 自分のなかでのイメージはあったんですけれども、それを脚本に落としこんでいくというのが一番難しかったところですかね。みんなにイメージを共有してもらうまでのプロセスに時間がかかりましたね。

テクノロジーを描くと、世代の断絶が浮かび上がる

サンキュータツオ:
 神山監督は機械と人間の境界線をずっとテーマにしていらっしゃったと思いますが……。

神山:
 テクノロジーそのものを描きたいわけではないです。SF作品であっても、僕は現在を描いているつもりなんですよ。テクノロジーを描くことで、現在と未来の対比が描ければと思って使っていたところがあります。家族の物語って一番小さな世代の話ですよね? 今、日本で起きている「世代の断絶」が家族という一番ミニマムな形でどうしたら乗り越えられるか、今回の『ひるね姫』はテクノロジーを描く形でそれを語ろうと思いました。

『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』公式サイトより。

神山: 
 日本って自動車で20世紀に世界的に成功しましたよね? でも、その成功体験が今では、むしろ足かせになっているような気がするんですよ。自動車とネットワークってまだ繋がりませんよね? 最近は、どんどんその垣根を越えていって将来は自動運転にしよう、という動きが出てきましたけど。日本の過去のテクノロジーの成功体験が、もしかしたら邪魔をしているんじゃないかなって、それが世代に置き換えられる。その意味でテクノロジーを描いていくと、ストーリーの中に、ある種の対比みたいなものを描けると思いました。

サンキュータツオ:
 今回はポスターにも2020年と入っていますけど、具体的に設定できる未来にしたのはどういう思いだったのでしょうか。

神山:
 描きたかったのは家族や世代の物語ということでした。さっき言ったテクノロジーに関することで言うと、上の世代が成功したという体験、それに対してテクノロジーがうまく使えていないんじゃない? と言う下の世代、この断絶みたいなものを、自動運転というテクノロジーで描こうとしました。ちょうど、前回の東京オリンピックって昭和の成功体験の象徴ですよね。2020年に、同じことをしようとしているけれど、時代が変わって再現できるか、という象徴的なタイミングだと思ったんですね。

自分のスタイルができあがったのが、『攻殻機動隊』だった

サンキュータツオ:
 神山監督の作品を見ると、必ず現実にフィードバックできる示唆を与えてもらえます。『009 RE:CYBORG』や『東のエデン』でもテクノロジーとか、現代的なテーマを意識なさってるということですか。

神山:
 なんとなく自分がひっかかったりとか、社会に対しての怒りだったり、他の人もそう思ってるんじゃないかとか。そういうことをまず取っ掛かりにして作品を作っていくっていう、僕のスタイルができあがったのが、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』だったのかなって思いますね。

サンキュータツオ:
 社会に対しての怒りの伝え方として、アニメで伝える意味ってどういうところにありますか。

神山:
 一度、そのことについて咀嚼して考えてみるんですよね。物語を通して最終的にはその問題に対しての希望を見出そうというのが作り手としてのテーマの部分なので。うまくいかないときもあるんですよ(笑)。自分の気持ちが怒りのままで終わる場合もあるし、怒りがすっと取れて、こうすればいいんじゃない? みたいな気持ちになるときもあるし。または、その事象のみに身を委ねるときもあるんですけど。一応そこは作り手としての目標ではあります。

原作モノとしての『攻殻機動隊』とオリジナル作品の『ひるね姫』

サンキュータツオ:
 原作のあるものを監督するのと、今回の『ひるね姫』のように完全に自分のオリジナル、なにか自分の中で違う作業ですか?

神山:
 違うものがあるとすれば、スタートの段階で原作があるものは、みんな納得してるわけですよね。原作をどういう方向で映像化していくかっていうことで喧々諤々はありますけど、迷ったら原作に戻ればいい。原作というものが矢面に立つことはあっても、自分は矢面に立たずにディレクションしていくっていうことで、楽な部分があるんですよ。でも、オリジナルの場合は、自分が出した脚本や企画書がまずその喧々諤々の対象にさらされます。野球に例えると、最初に監督が選手からさんざん、このチーム編成でいいのか? とかを言われて選手を説得してから試合に入る感じです(笑)。

サンキュータツオ:
 侍ジャパンみたいな。どのメンバー入れるんだっていうところから(笑)。

『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』公式サイトより。

神山:
 自分の責任じゃないけど、怒られるみたいな。確かに侍ジャパンかもしれないですね。

サンキュータツオ:
 たとえば『東のエデン』のように、テレビでレギュラーシーズンを戦って、で、クライマックスに劇場版で、みたいな場合もありますけど、今回いきなりクライマックスシリーズじゃないですか? それはまたそれで痺れる体験というか。

神山:
 最初はやっぱり痺れましたね。自分がジャッジされる対象に最初になるっていうか。みんな最初は不安だったり、それほんとに面白いの? とか。

サンキュータツオ:
 ずっと不安ですよね。

神山:
 試合の結果だけ翌日新聞に出る、みたいな感じですよ(笑)。

映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』
2017年3月18日(土)公開
公式サイトはこちら

該当インタビューは下記プレイヤーの1:03:50から始まります。

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