「三浦九段に辛い思いをさせた」将棋連盟・谷川会長の辞任会見【全文書き起こし】
日本将棋連盟の谷川浩司会長は1月18日午後に記者会見を開き、辞任を表明しました。
2016年に起こった将棋ソフト不正使用疑惑を巡り、「対応に不備があったことに大きな責任を感じている」「(不正疑惑がかかった)三浦弘行九段には本当につらい思いをさせてしまった」と述べました。また三浦九段の復帰戦として2月に羽生善治三冠との対局を行うことも発表しました。次期会長は今後開催する理事会で選任する予定です。
以下にその全文を掲載します。
「三浦九段に誠意を伝えるには、辞任が一番という結論に至りました」
司会:
本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。谷川浩司・日本将棋連盟会長の辞任に関して記者会見をさせていただきます。日本将棋連盟会長の谷川浩司より、皆様にごあいさつをさせていただきます。
谷川浩司会長(以下、谷川):
本日は突然のご案内にもかかわらず、大勢の皆様方にお越しいただきありがとうございます。厚く御礼を申し上げます。謹んでご報告申し上げます。このたび、会長を辞任させていただくことといたしました。
第三者調査委員会から報告書をいただき、年末年始を挟んでいろいろと考えた結果、将棋ファンの皆様、主催者、協賛者の皆様、そして三浦弘行九段に誠意をお伝えするには、私が会長を辞任するのが一番という結論に至りました。加えて昨年の10月以降、対応に苦慮する中で心身共に不調をきたすようになってしまいました。このような状況で責任ある立場を続けるのは、将棋連盟にも迷惑がかかると考えました。
専務理事時代を含めると約5年半お世話になった皆様方には本当に申し訳ありませんが、ご理解をいただけるかと思っております。なお、空白期間を作ることはできませんので、新しい会長が決定するまでの期間は務めさせていただくことをご了承ください。関係者の皆様方、将棋ファンの皆様方には大変ご迷惑をお掛けしましたことを、あらためて深くお詫び申し上げます。以上が事前にお配りをしたものでございます。
少し付け加えさせていただきます。本来であれば辞任の意向は、あす開催予定の理事会で正式に受理されたのちに発表する予定でした。ただ、報道のほうが先行してしまったこともありまして、急遽、本日記者会見を行うことといたしました。第三者調査委員会からの報告のとおり、10月11日、12日の常務会の判断は妥当、またやむを得なかったとの結論こそいただきました。ただ、対局規定の整備の遅れ、問題となった「7月の対局での離席」や「一致率の調査」など、10月以前の対応に不備があったことに関しては大きな責任を感じております。
また、三浦弘行九段に本当につらい思いをさせてしまいましたことも、大変申し訳なく思っております。
年末、12月27日の時点では、任期を全うすることこそが責任を果たすことと考えておりました。しかし10月以降の心身の不調が、年末年始の休みを経てもなかなか思うように回復せず、このような状況で会長の重責を担い続けることは難しく、また将棋界にとっても良いことではないと判断するに至りました。ご理解のほどよろしくお願いいたします。
私自身のこととは少し離れてしまいますが、本日、三浦弘行九段の復帰戦にあたる対局が決定したとの報告を受けましたので、この場をお借りして皆様方にお知らせします。2月13日月曜日、竜王戦1組。羽生善治三冠対三浦弘行九段であります。今後の三浦九段の棋士としての対局、または普及活動の回復に一定のめどが立ちましたことで、将棋ファンの皆様方、そして私の後を引き継いでくださる方に対して、少しでも責任を果たすことができたのではないかと考えております。
本日お集まりの報道関係の皆様におかれましては、どうか今後とも将棋界へのご支援をよろしくお願い申し上げます。どうもありがとうございました。
新会長は今後の理事会で
司会:
続いて今後の会長職に関するスケジュールについて、総務担当理事の片上大輔常務理事よりご説明をさせていただきます。
片上大輔常務理事:
日本将棋連盟常務理事、総務担当理事の片上大輔です。このたびは誠にお騒がせいたしまして、大変申し訳ございません。このような前例のない緊急の事態になってしまいましたけれども、今後将棋連盟の会長をどのようにしていくかにつきまして、ある程度事務的になってしまいますが、現時点で想定しているスケジュールをお知らせさせていただきます。
まず、明日理事会にて臨時総会招集の決議を行う予定です。この総会の日時などは理事会の決議を経て、そののちにあらためて皆さまにお知らせをしたいと考えております。
また、先ほど会長が辞任の意向を示されたわけですが、予定されている臨時総会の日をもって正式に会長を辞任すると考えております。空白期間をつくるということがあってはいけませんので、それまでは谷川会長が務められることになります。
そして臨時総会の日を同じくして、あらためて理事会を開催いたしまして、その理事会の席で新会長を選出する予定となっております。今のところ以上のような手順を想定しておりますことをご報告いたします。
「新会長は実績、知名度のある人がふさわしい」
司会:
それでは質疑応答とさせていただきます。東京将棋記者会を代表し、幹事社の日本経済新聞社様よりお願いします。
記者:
谷川先生のほうから説明ありましたけれども、棋士のほうで理事総退陣を求めるような厳しい声も上がっていると認識しておりますが、その辺は今回の辞任に影響があったのかどうかをお聞きしたい。
谷川:
具体的にはそのような話は直接には聞いていませんし、私自身は10日ほど前には辞任を考えておりましたので、そちらは影響しておりません。
記者:
それにも絡むのですが、他の理事の方の責任については何かお考えをお持ちでしょうか。
谷川:
このような大きな問題になってしまった以上、やはり会長の私が一番そういう立場でありますので、トップが辞任することで皆様方に誠意を示すべきではないかと考えております。
記者:
後任の人事ですけれども、一部報道機関で名前が挙がっているようですが、その辺について会長自身が意中の人などあるのでしょうか。
谷川:
こちらに関してはまず、あす理事会がございます。そこで私の立場は正式に了承いただいてということになるわけですし、理事をまず選任、選挙という形になるかと思いますけれども、これは会員、棋士が決めるべきことだとは思っております。ただ、そうは言ってもやはり将棋界の代表、将棋連盟の代表でありますので、やはり実績、知名度のある方がふさわしいのではないかというふうには考えております。
記者:
幹事社からは以上です。
司会:
そのほか、ご質問ある方いらっしゃいましたら挙手のほうお願いします。
記者:
朝日新聞のムラセです。年末の時点では続投の意思がおありだというお話でしたが、その後の体調の事情でということで、そのあたりもう少し詳しく伺いたいのですが。例えば心身共に不調というのは具体的にどういう状態なのか、差し支えない範囲で教えていただければと思います。考えが変わった理由をあらためてもう少し教えていただけますでしょうか。
谷川:
12月27日に記者会見をさせていただきまして、その後いろいろなご意見をいただきました。その中でもちろん厳しいご批判もありました。ただやはり、辞任に至ったのは体調不良のことが一番であります。年末年始、少し休養を取ることで戻るのかなとも思っていたのですが、かえって重圧も感じるようになってしまいました。
どういう状態にあるのかということは、これはプライベートなこともありますのであまりお話はできないんですけれども。例えば胃がきりきりと痛んで食欲がないということですとか、なかなか寝付けなかったり、夜中に目が覚めたりということは、これは10月当初からあったことです。それともう1つ、やはり会長という立場は、就位式や前夜祭、いろんな場所でご挨拶をしなければいけないんですけれども、そのときに考えていることをきちんとお話できるかどうかを不安に感じ始めたのも事実であります。
司会:
他、いかがでしょうか。
記者:
NHKのカワイです。今回辞任を決められた理由として、将棋界全体の、将棋連盟の誠意としてということをおっしゃいました。これは会長であるから責任を取るということであるのか、例えば三浦九段への処分を決められた場には谷川会長もいらっしゃったかと思うんですが、今回の一連の問題について、ご自身の考えや意見が責任につながっていると考えてらっしゃるのでしょうか。会長であるからというだけなのか、それ以上の思いがあるのか、その点、教えていただけますでしょうか。
谷川:
先ほどもお話しましたように、やはりもっと早い段階で手を打っておけば、このような大きな問題にならなかったかもしれないということは強く感じておりますし、そのことに関しては責任を感じております。繰り返しになってしまいますけれども、このような大きな問題になってしまいまして、皆様方にご迷惑をお掛けしてしまった以上、この立場としては、出処進退をきちんと、自分でけじめをつけなければいけないと考えました。
司会:
時間が押しておりますので、そちらの質問を最後とさせていただきます。
記者:
補足ですけれども、今おっしゃったのは、谷川先生の会長としての立場で、将棋連盟として会長が辞めることで責任を取ると、そういう意味なのか。それとも会長個人の、最初にこの問題が発覚した段階での収拾について、自分の能力について自信がなくなったために辞めるということなのか、どちらなんでしょうか。ほかの理事の責任について触れられる質問もありましたけれども、つまり会長自身が身を引くことで、将棋連盟として責任を取ったというふうに受け止めてほしいということなんでしょうか。
谷川:
受け取られる方がどのように考えられるかは分からないですけれども、やはり組織としてはこのような判断をするのが一番ではないかと考えております。
司会:
以上をもちまして、記者会見のほうを終了とさせていただきます。本日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございました。