宮崎駿と高畑勲を“たまたま”起用!? 人気低迷のアニメ版『ルパン三世』にテコ入れしたのはアニメーション界のレジェンドコンビだった
ルパンの愛車が『ベンツSSK』から『フィアット500』に変わった理由
岡田:
宮崎駿は、そこで『ルパン三世』というのを徹底的に改造しようとします。どうするのかというと、ルパン三世の設定を「金持ちで退屈しているから遊びとして盗みをやっている、退廃したフランス貴族の末裔」から、「常に素寒貧で、何か自分の渇きを満たしてくれるような面白いことはないかと目をギョロつかせている、イタリア系の貧乏人」に入れ替えちゃったんです。この時の設定変更としてわかりやすいのが、ルパンの愛車なんですよ。
第1シリーズでルパンが乗っていたのは“ベンツSSK”という自動車なんですけど。この車はメチャクチャ高価なんです。なぜかというと、確か、世界で30台くらいしか作られていないからなんですね。おまけに、ルパン三世が乗っているSSKは、フェラーリの12気筒エンジンを積んでいるので、エンジンの価格を含めたら15億円くらいする自動車なんです。
これに対して、宮崎駿は「ルパンがこんな車に乗ってるはずがない! 貴族であるならば、こういう贅沢を今まで散々やってきたはずで、もう飽きているんです!」と主張しました。
そんな中で、「そんなルパンが乗っている車は、動けばいいというような車なんですよ! 例えば、あのポンコツみたいに!」と言って、宮崎駿は窓の外にたまたま駐車してあった、作画監督である大塚康生さんの愛車の“フィアット500”を指さしたところ、「おいおい、あれは俺の車だよ……」ということで、結局、ルパンの愛車は大塚さんと同じフィアット500になったそうです(笑)。
ちなみに、このフィアットは、『ルパン三世』の第1シリーズの16話「宝石横取り作戦」の最後で、不二子が乗ってきたこの車をルパンがそのまま乗って逃げるということがあって以降、ルパンの愛車ということになるんですよ。
つまり、『カリオストロの城』から使われたわけではなくて、1971年に宮崎駿がテコ入れした時から、ルパンの愛車はこれだと言うことになっていたんですね。
宮崎・大隅両名のイメージが混在しているところが第1シリーズの魅力
さらに、宮崎駿は、ルパンの愛銃として設定されていた“ワルサーP38”にも噛みつきます。「ワルサーP38というのは、ドイツ軍が正式採用した拳銃であって、何十万丁、何百万丁も作られたものだ! フランスの貴族でブランド主義の男なら、そんな量産品の安物拳銃を使っているあるはずがねえだろ!」と文句を付けていたそうです(笑)。
他にも、当初作られた設定では、登場人物に深みがないという部分についても、宮崎駿はすごく攻撃しました。もともとの設定を考えた大隅さんは「『ルパン三世』というのは、トムとジェリーだ」と言っていたんですね。「トムとジェリー、仲良く喧嘩しな♪」というように、ジェリーというネズミが逃げて、トムという猫がムキになって追いかける。それと同じく、ルパンが逃げて、銭形がムキになって追いかけるというコメディをやろうとしていたんですけど、宮崎駿はこれも大嫌いでした。
「そんな当たり前のことを今更やってどうするんだ!? 5分のアニメを1本や2本作るだけならともかく、それでTVシリーズとして面白い話を何本も作れるわけがない! なにより、そんなものを作るために、俺や高畑勲が青春を燃やすことが出来るはずがない!」と。
この辺の「人物に深みがない生まれないから、単なる追いかけっこはダメだ」というのは、『カリオストロの城』以前にも、すでに1971年の段階で、宮崎駿はすごく強く主張してたんですね。
つまり、「いつまでも、シャンパンみたいな高級な酒を飲んで、世界に何台しかない名車に乗り回すなんていうルパン像はダサくてしょうがない。そうじゃなくて、ポンコツ車に乗っているハングリーなルパンというのを描きたい」と。宮崎駿のこういった思いもあって、視聴率が低迷していた『ルパン三世』は、第1シリーズの途中で路線変更することになりました。
まあ、最初に決めたフランス貴族という設定も、なんだかんだ残り続けたんですけど。だからこそ、『ルパン三世』の第1シリーズというのは、それらが上手いことごちゃまぜになった不思議な魅力があるんですよね。
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