『ゼルダの伝説 BotW』ゼルダ姫とのラストシーンにめちゃめちゃ心打たれまくる理由をまじめに考えた
最も盛り上がるシーンをあえて描かない
岡田:
今回の『ゼルダの伝説BotW』で描かれる世界の中で、一番面白い出来事は何かというと、「100年前の厄災」が起きたときの大戦争なんですよね。
この100年前の大戦争というのは、ゼルダ姫を中心に、超絶的な剣士だったころのリンクや、巨大ロボットを扱う4人の英傑たちなど、正義の味方も全部揃っていたし、悪の側にも、復活したガノンや、敵に乗っ取られてしまった巨大ロボットとか、殺人マシーンであるガーディアンなんかが肩を並べる、すごい戦いだったんですよ。
このガーディアンは、メチャクチャデカくて、目からビームが出たりと、すごく強い機械です。そんな殺人マシーンが、何千何万とワラワラと現れて、人類を襲い、文明世界を破壊していく。つまり、この100年前の大戦争が、絵的に一番面白くなるはずです。
だけど、ゲームの中ではこの大戦争の話は、“昔語り”でしか出てこないんですよ。つまり、ゲームの中では描かれない、すべて終わってしまっている出来事で、「なんで100年前の大戦争を描かないのか!?」って、ついつい思っちゃうんですけど、実は、これこそが『ゼルダの伝説BotW』の優れている所なんですね。
古今東西、いろいろなゲームがあるし、ビジュアルがすごいゲームというのもいっぱいあるんですよ。だけど、それらの多くは、すごい映像を見せようとしちゃっているんですね。
そして、すごい映像を見せようとする限り、つまり「段取りに沿って絵を見せて行くことで観客の感情を揺さぶる」という仕組みで勝負する限りは、映画には敵いっこないんですよ。“すごい映像を見せようとすればするほど、ハリウッド映画の出来損ないみたいなゲームになってしまう”と僕は思うんです。
その点、今回の『ゼルダの伝説BotW』では、この映像的にすごく盛り上がることになるはずのシーンを、「見せたいところはそこじゃない」と言わんばかりに、すべて切り捨てているんです。
体験を通じて得られる感動がある
岡田:
では、今回の『ゼルダの伝説BotW』では何をしているのかというと、100年前の大戦争という一番すごい出来事を、あくまでも過去の出来事として置いておき、“すべての記憶を失ってしまった主人公のリンク”というのを出発点にしているんですね。
僕は、このやり方こそが“体験を伝えるメディア”であるゲームとしては、最もふさわしいやり方だと思うんですよ。
映画というのは映像を伝えるメディアです。それに対して、ゲームというのは体験を伝えるメディアなんです。こういった特殊な関係性があるからこそ、このゲームを体験することを通じて、記憶を失ったリンクが少しずつ過去の出来事を思い出していくように、プレイヤーはこの世界について知っていく。そして、その結果、100年前のものすごい出来事をありありと感じることが出来るようになるんです。
このゲームのラストで、ヒロインであるゼルダ姫との会話があるんですけど、その時の彼女の台詞が、とんでもなくすごいんです。
なぜかというと、ゲームをクリアするまでの体験を通じて、彼女のことを、あたかも生身の人間であるかのように感じるからなんですね。
ゲームの中の世界で、走って、歩いて、ご飯を作って、矢を射って、野生の獣を獲って、また食って、悪いヤツと戦って……というふうにやっていくうちに、最初は、単なるゲームのキャラだと思っていたはずのゼルダ姫に対して、「本当に会えたんだ!」という気持ちが生まれてくるんですよ。
つまり、このゲームは体験を伝えるということに成功しているんです。だからこそ、ゼルダ姫との本当に何気ない最後のやり取りが、メチャクチャ重く、心に響いてくるんです。
彼女の最後の言葉は、ものすごく感動しますよ。
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