『天空の城ラピュタ』数々のテクノロジーに隠された“技術的な階層差”とは。科学とSFを使い分けた宮崎駿の頭脳を徹底解説
毎週日曜日の夜8時から放送中の『岡田斗司夫ゼミ』。1月14日の放送では、スタジオジブリ製作の劇場用アニメ『天空の城ラピュタ』特集が行われました。
この作品について、「奥深い設定が凝らされているSF作品である」と語る岡田斗司夫氏は、劇中に登場するテクノロジーをひとつひとつ取り上げながら、飛行石に込められた意味や、ラピュタ人の歴史、天空の城の正体など、物語の裏側に隠された語られていない設定について解説しました。
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『天空の城ラピュタ』にはレベルの違うテクノロジーがいくつも出てくる
岡田:
『2001年宇宙の旅』の原作を書いたイギリスのSF作家のアーサー・C・クラークという人が書いた、『未来のプロフィル』というノンフィクション本の中に、“クラークの3法則”というのが出てくるんですね。
クラークの3法則
1.高名で年輩の科学者が「可能である」と言った場合、その主張はほぼ間違いない。また、「不可能である」と言った場合、その主張はまず間違っている。
2.可能性の限界を測る唯一の方法は、「不可能である」とされるまでやってみることである。
3.十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない。
実は、『天空の城ラピュタ』というのは、この法則の3つ目の「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」という理論を上手く使ったSF作品なんです。
石炭による蒸気機関、ドーラ達が使っている石油の内燃機関、そして、実は2つの層に分かれているラピュタの超科学。宮崎駿は、こういった、それぞれレベルの違うテクノロジーを対比させて見せることで、すごく奥深くて面白いSF的な世界を作り上げているんですよ。
19世紀的な技術で描かれているタイガーモス号
では、「ラピュタ」に出てくる技術の解説に入りましょう。1つ目は、海賊ドーラ一味が自分たちの基地にしている飛行船“タイガーモス号”ですね。
ラピュタの世界にある大型機械のほとんどが石炭による蒸気機関なのに対して、このドーラの船であるタイガーモス号は、ガソリンエンジンを積んでいて、それを回転させることによって、4つのプロペラがそれぞれ反対側に回るというかなり複雑な機械なんですね。
しかし劇中、パズーがタイガーモス号の機関士の爺さんの手伝いをするシーンでは、機械に関する勘の良いパズーは、これらの仕組みを一瞬で理解して、あっという間に手伝うことができました。
つまり、複雑とはいっても、それくらいのテクノロジー。ということで、「ラピュタ」の中に出て来るメカとしては、タイガーモス号はギリギリ19世紀の冒険ものレベルの技術で作られている機械ということになります。
半分だけSF的に描かれるフラップター
では、次に、ドーラ一味が乗る“フラップター”というはばたき飛行機を考えてみましょう。
フラップターという飛行機は、実は「人工筋肉を電気で動かして羽を振動させて飛ぶ」という機械なんですね。
機体の前面に空いている小さな穴にクランクを差し込んで、グルグルと手で回してエンジンを動かしている描写があるので、なんとなくレトロな印象があるんだけど、発電機で電気を生み出して動力にするという思想は、実は産業革命当時にしても、かなり新しいものでした。
とはいえ、歯車やシャフトでできているメカなので、僕ら現代人でも理解できます。でも、人工筋肉が使われているというあたりから、そろそろSFになっているんですけど。
ということで、このフラップターは半分だけSF的な技術です。
完全にSFとして描かれているロボット兵
さて、「ラピュタ」の中で描かれる様々なテクノロジーの3つ目は“ロボット兵”です。もう、これに関しては、言い訳のしようがなく完全にSF的な技術で作られた機械です。
映画の中でも、「我々には、このロボットの材質が粘土なのか金属なのかもわからない」というふうにムスカが話すシーンがありますが、台詞の通り、まったくわからないものとして描かれています。
素材は伸縮自由。宮崎さん自身の設定によれば、柔らかくも固くもなれる“形状記憶セラミック”とのことなんですけど、もう、なにがなんだかわかりません。
分解も出来ないし、修理も出来ない。その上、部品寿命がどれくらいあるのかすらわからない。なんせ、落ちて壊れた機体以外、ほとんどが今でも動くことが出来るんですよ。
もちろん、あまりにも年数が経ってしまったことで朽ちた機体もあるんだけど、それが朽ちた理由というのもわからない。機体内部の可動部分が摩耗したと考えるのが、僕らの常識の中では自然なんですけど。しかし、少なくとも、千年間放っておかれた他のロボット兵が普通に動いているので、もしかしたら、稼働部品の摩擦がゼロなのかもしれない。そんな恐怖のメカです。
だけど、戦艦ゴリアテの大砲を至近距離からドーンと撃たれたら、一応、壊れたというところから見ても、このロボット兵というのは、これでもまだ、ラピュタ文明のメカの中では下等な部類なんですよ。
ラピュタの文明は前期後期に分かれる
僕は、ラピュタ文明というのを“前期ラピュタ文明”、“後期ラピュタ文明”と、2つに分けて考えているんですね。
そして、このロボット兵について、ムスカがそうだと思い込んでいるラピュタ像である、世界を武力で支配するようになった後期ラピュタ文明の産物だと考えています。
なので、その構造というのも、19世紀の人間たちには理解不可能でも、現代を生きる僕らから見たら、まだ、なんとなく理解できないことはないレベルなんです。
劇中、シータが「我を助けよ」という呪文を唱えた時に、壊れていたように見えたロボット兵が急に動き出すというシーンがありますよね?
この時、ロボット兵のちぎれた腕の断面から内側にあった部品がはみ出てきて、グニョグニョと動くんですけど。面白いことに、肩から伸びた腕の断面からはみ出た部品は動くんですけど、切り離された側の部品は、まったく動かないんです。
この描写から、「なんだかんだ言っても、このロボットは、動力と繋がっているから動いているし、その動力源はどうやら中央部分にあるらしい」ということがわかります。
つまり、このロボットは僕らが理解している機械の範疇にあるんですよ。確かに、動きや構造は摩訶不思議で、生体みたいに見えるんですけど、それはあくまでも「とても複雑」というだけで、まだまだ理解の範囲内の機械なんですね。