懐かしくも新しいキャラクター造型への野心的な挑戦 「パトレイバーREBOOT」吉浦康裕×浅野直之対談
作中テロリストのモデルは「ひろゆき」!
——今回は短編なのでキャラの背後にある情報をなるべく入れ込まないというコンセプトですが、デザインする上では大変でしたか?
吉浦氏:
そこはむしろ逆ですね。確かに劇中で設定は語らないけど、仮にこのあと続いてもいいように、例えばバックアップ担当の子は髪をほどいた絵も起こしてもらっていて「これはヒロインにもなれるキャラなんです」とお願いしたんですよ。そしたら浅野さんから本当にいい絵が上がってきたので、今後キャラクターを掘り下げていけるフックは用意できた形です。
浅野氏:
野明や遊馬だったら自分の想像を入れられはしないのですけれども、今回は新キャラなので自分のなかで膨らませている部分もあって「たぶんこんな生活をしているんだろうな」と想像しながら楽しんでやれましたね。
吉浦氏:
とくに隊長は「浅野さん、なんでここまで言いたいことがわかるんだろう?」というぐらい的確に性格をとらえた絵を描いてもらえたなと思って。
浅野氏:
確か最初の打ち合わせで「実在する役者さんで言うと誰ですか?」という話を吉浦さんとしたんですよね。
吉浦氏:
あ、そうだそうだ。
浅野氏:
それで隊長は小林聡美さんとか。
吉浦氏:
そうですね。宮本信子さんとか。
浅野氏:
そうそうそう。それがいいアドバイスになりましたね。そのときは「バックアップの子はガッキー(新垣結衣)」とか言っていましたね。
吉浦氏:
あー、言ったかもしれないなあ……(笑)。
——パイロットは?
浅野氏:
神木隆之介君。
吉浦氏:
そうだそうだそうだ。
浅野氏:
というのを聞いて「あー」みたいな。なので、自分のなかでは完全にガッキーと神木君と小林聡美さんと思って描いていて。
吉浦氏:
ゆうき先生との原案の打ち合わせでも、テロ犯のデザインでゆうき先生から「役者で言えば誰ですかね?」って言われたんですよ。ニット帽のイメージはあったんで、そのとき確か言ったのが「窪塚洋介を百倍ぐらい不細工にした感じで」っていう(笑)。でもそのテロ犯のモデルは浅野さんにはお伝えしてなかったので、人づてにリレー形式でだんだん伝わって、今のキャラになったんだと思います。
浅野氏:
ああ、それは知らなかったですね。設定がネットの生主だったので、自分がイメージしたのは(元)2ちゃんねるのひろゆき(西村博之)さん的な、服装とかあんまり気を使わない人かなと。
吉浦氏:
そうか、ひろゆき氏だったのか(爆笑)。
浅野氏:
ちょっとあきらめ感が出てる雰囲気と言うんですかね。以前のシリーズでこういうネットのような雰囲気ってあったのかな?
吉浦氏:
昔だと、それはバド(バドリナート・ハルチャンド)というキャラクターで、社会的な感覚がないけど力を持っちゃった子供として描いているんですよね。いまの時代だとネット民とかになるのかな。「『パトレイバー』はバブルの時代だったからできたんであって、今だとそういう(社会事情を採り入れた)作り方はできない」という意見を聞くこともあるんですけど、僕はそうは思わなくて。当時はまだ絵空事だったことがリアルな危機感として迫ってくる感じは、今2016年現在のほうが確実にあると思うんですよ。新しく作るとしたらそれを新たな敵に使ったりとか、盛り込み方はいろいろあると思うんですね。
浅野氏:
これをテレビシリーズにして、いまっぽい事件とかを並べたら絶対面白いだろうなと思いましたね。
吉浦監督が日本国内の動画マンにこだわる理由
——ほかに浅野さんが今回の作業で印象的だったことは?
浅野氏:
スタジオカラーの新人原画さんたちが参加してくださったんですけど、ちょっとこちらが申し訳なくなるぐらい生真面目にやってくれて、ほとんど自分はキャラ(修正)を乗せるだけでしたね。吉浦さんが原画さんに指示を出してくださって、その指示を汲み取った原画さんが必ずコンテをふくらませてくれたので、そこに原画さんたちの意気込みを感じましたね。世代的には『パトレイバー』を知らない世代だと思うんですけど。
吉浦氏:
新人は知らない人が多かったですよ。知ってたとしても、劇場版の1作目と2作目だけとか。今回原画はほとんど20代ばっかりで、あの絵を若手だけで作ったのは見事ですね。
浅野氏:
あと今回、原画作業がデジタルだったんですよね。自分も初めてデジタルで作画監督をやったんですよ。
吉浦氏:
半分以上がデジタルでの作画でしたね。いいところも悪いところもあるんですが、とくにモブシーンの作画はフルデジタルでやった効果が出ましたね。イングラムがドーンと来て野次馬が逃げるカットは、デジタルの原画が上がってきた段階で再生ボタンを押すとなんとなく動きがわかるんですよ。それでチェックできたので。
浅野氏:
あれが紙だったら大変でした。枚数がとんでもないことになるので。ほかにもデジタルは意外といけるなと思いましたね。
吉浦氏:
僕も動画まで全部デジタルで作画する時代がくればかなりメリットがあるなとは思いました。とはいえ今回の動画は従来の紙で作画するので、元になる原画をやっぱり紙で見たいと原画も出力していたのでなかなか大変でしたけど。
——浅野さん自身が原画を描かれたカットは?
浅野氏:
パイロットが「お前は人じゃない!」というところは自分です。
吉浦氏:
そこと振り回されるところと、あと、犯人まわりはだいたい。
浅野氏:
その辺はやりました。作画監督をやりながら原画って自分の場合は切り替えが結構難しくて、あんまりできないんですけど。
吉浦氏:
背景原図はこっちでやったんだからいいじゃないですか(笑)。
浅野氏:
今回背景原図は全部3Dで、吉浦さんのほうで動きに関しても全部見ていただいたので自分は絵を乗せるだけみたいな感じでしたね。
吉浦氏:
でもこのやり方ってどうなんですかね。人によっては絵をイチから描けないから嫌だという人もいると思うんですけど。
浅野氏:
僕は大歓迎(笑)。自分の作業が減るわけですし、やっぱりコクピットや街を手描きでゼロから描くとしたら今回の倍ぐらいの時間が必要になるので。だからあらためてそれをやっていた『パトレイバー』の劇場版1作目2作目ってすごいなと思いますね。ちょっと考えられない。
——余談ですけど『2』は時間がなくて8ヶ月で作っているんですよ。
吉浦&浅野氏:
すげー……。
吉浦氏:
あと今回の作画に関しては、ほぼカラー内部の動画チームにやっていただけたんですよ。
浅野氏:
そうなんですか。
吉浦氏:
多少は外注したと聞いてはいますが。なるべく全工程を均して作業してもらいたいので、動画や仕上げにもクリエイティブなことをしてもらえるよう、きちんと全体のスケジュールを念頭においてカットを流すよう心がけているつもりです。そしたらカラーの村田(康人/動画検査)さんと動画チームががんばってくださって、めちゃめちゃ綺麗な動画になりました。色指定もそうで、ずっと一緒にやっている中内(照美/色彩設計・色指定・検査)さんにお願いしているんですけど、毎カットちゃんと背景に合わせて変えてくれる人なんですね。中内さんは大友克洋さんや森本晃司さんの作品をにずっと担当しているすごい方なんですけど、クライマックスで表情がアップになるところは中内さんがわざと仕上げ線を粗くしてくれてるんですよ。絵が荒ぶってるような感じで「すげえなこれ」と思って。
浅野氏:
それは動画じゃなくて仕上げでやってるんですか?
吉浦氏:
あのカットはそうですね。中内さんから「仕上げ線を粗くしておきました」ってメールが入っていて、最初は「どういうこと?」と思ったんですよ。で、撮影してみたら「なるほど!」ということがありましたね。
本田雄氏も絶賛の、浅野直之最高傑作に
——あらためて浅野さんは作品をご覧になった感想は?
浅野氏:
自分が参加した作品としてはわりと手応えがあるというか、自分でも面白いと思いました。
吉浦氏:
それを聞けてよかった(笑)。
浅野氏:
作画的な部分では『おそ松さん』や『ドラえもん』とか、自分もそういう作品は好きなのでそっちばかりになっていたんですけど、今回は久々に頭身が高めのキャラクターだったので「こっちもやれるぞ!」とアピールもしたかった部分はちょっとあります(笑)。リアル寄りも好きなので、自分のテイストも出しつつリアル寄りの絵を見せられたかなと。
吉浦氏:
今回の絵ってシルエットはリアルだけど、いい具合に『ドラえもん』や『おそ松さん』の要素も入っているハイブリッドな絵柄だと思うんですよね。デザインが上がってきたときも、密かに小躍りして「これ浅野さん最高傑作だ!」と勝手に思っていたぐらいで(笑)。
浅野氏:
いままでの経験というか、四頭身で省略するテクニックをちょっと入れ込めた感じはありますね。
吉浦氏:
カラーで本田雄(アニメーター/『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』総作画監督)さんが褒めていたんですよ。「浅野さんうまいねー」って。
浅野氏:
それは記事に書いてください(笑)。自分にとって本田さんはひとつの理想形なんですよ。超絶リアルなこともやりつつマンガ的な表現も最高の形で書描き出す、本田さんの絵は本当にアニメーターとしての理想だなと。
——最後になりましたが、読者ではなく、お互いへのメッセージをいただいて締められたらと。
吉浦氏:
浅野さんはデザインセンスがずば抜けている方なので、そこが今回120%反映されてすごくよかったというのに尽きますね。最初に撮影が上がったカットをスタッフが見に来たときに「最近あまり見ないトーンのアニメになっていて、しかも尖ってない。絵柄も流行りを追ってはいないけど、誰にも受け入れられる絵だから不思議なまとまり方をしている」と言われて、そこは浅野さんにお願いしなければ絶対こうはならなかったので、本当にありがとうございますという感じです。
浅野氏:
吉浦さんは自分が動画をやっている頃から有名な存在で『ペイル・コクーン』を新人の頃に見て「同い年ぐらいで、こんな人がいるんだなあ」と思っていたので、そういう人と仕事できたのはよかったですね。あと『パトレイバー』という小学生ぐらいのときに面白いなと思っていた作品に関われるチャンスはなかなかないので、そこも幸せだったと思いますし、得るものは大きかったです。そこは自分の作画だけでも達成できないので、チームとしてのアニメ制作の面白さを再確認できましたね。
※『機動警察パトレイバーREBOOT』、2017年2月28日まで無料公開中
日本アニメ(ーター)見本市・機動警察パトレイバーREBOOTサイト
機動警察パトレイバーREBOOT
特装限定版Blu-ray(発売中)
【映像特典】
・英語字幕版 ・劇場予告編 ・BGM収録風景映像 ・スタッフ座談会
吉浦康裕(監督・脚本)×出渕 裕(メカニカルデザイン・監修)×伊藤和典(脚本)
【音声特典】
・スタッフオーディオコメンタリー
1)吉浦監督×浅野直之(アニメーションキャラクターデザイン・作画監督)
2)吉浦監督×松井祐亮(CGI作画監督)
3)吉浦監督×金子雄司(美術監督)
【特 典】
・サウンドトラックCD/川井憲次による本作BGMをすべて収録
・コンテ・設定集(56P)
吉浦康裕によるコンテと、浅野直之・出渕裕による設定画をすべて収録
・縮刷版アフレコ台本(44P)・三方背アウターケース
【仕様】
BCXA-1191/カラー/(本編8分+映像特典40分)/リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD25G/16:9<1080p High Definition>・一部特典映像16:9<1080i High Definition>/字幕(日本語)切り替え
DVD(発売中)
【映像特典】・英語字幕版 ・劇場予告編 ・BGM収録風景映像
・スタッフ座談会
吉浦康裕(監督・脚本)×出渕 裕(メカニカルデザイン・監修)×伊藤和典(脚本)【音声特典】
・スタッフオーディオコメンタリー
1)吉浦監督×浅野直之(アニメーションキャラクターデザイン・作画監督)
2)吉浦監督×松井祐亮(CGI作画監督)
3)吉浦監督×金子雄司(美術監督)
BCBA-4805/カラー/48分(本編8分+映像特典40分)/ドルビーデジタル(ステレオ)/片面1層/16:9(スクイーズ)/ビスタサイズ/字幕(日本語)切り替え
発売・販売 バンダイビジュアル株式会社
【スタッフ】
原作:HEADGEAR
監督・絵コンテ・演出・撮影監督・編集:吉浦康裕
脚本:伊藤和典・吉浦康裕
キャラクター原案:ゆうきまさみ
アニメーションキャラクターデザイン・作画監督:浅野直之
メカニカルデザイン:出渕 裕
CGI作画監督:松井祐亮
CGI監督:小林 学
色彩設計・色指定・検査:中内照美
美術監督:金子雄司
音楽:川井憲次
音響監督:山田 陽(サウンドチーム・ドンファン)
監修:出渕 裕
企画・エグゼクティブプロデューサー:庵野秀明
アニメーション制作:スタジオカラー
キャスト:山寺宏一/林原めぐみ
(C)HEADGEAR/バンダイビジュアル・カラー
【公式サイト】 http://www.patlabor-reboot.jp/