アニメ業界はもう限界? 山本寛が語る「アニメーターが食べられない理由」
「2016年はアニメの大豊作年」と言われているが、そのいっぽうで供給が間に合わず放送延期が続出するという異常な事態が起こっている。原因は制作現場の過酷な労働環境にあるとされているが、業界のブラック化に改善の余地はあるのだろうか。
アニメーターが儲からない仕組みから、老舗アニメーション制作スタジオが倒産するまでの経緯。さらに「会社を潰す判断が1ヶ月伸びるごとに負債が1500万円ずつ増えた」という岡田氏の実体験を交えて、11月27日放送「岡田斗司夫×山本寛「どうなるアニメ業界!? 10月クライシスから宮崎駿復活まで とことん語るSP」で、2人が業界の金の流れを分りやすく解説した。
アニメーターが食えないっていうのは、つまりどうして食えないの?
岡田:
アニメ界って貧乏なんですか? やっぱり。
山本:
貧乏ですよ。 よくご存知でしょ?
岡田:
俺が知ってるアニメ界は20年以上前で、それはもう貧乏だったんだけども。
山本:
単価の話しましょうか? 20年前と原画単価も動画単価もほぼ変わってないです。仕上げ単価も。
岡田:
じゃあまだ、動画は1枚150~170円。
山本:
ええとね、もうちょっと上がっていますよ。200円くらいが相場かなあ。210円だったら御の字くらいですね。
岡田:
原画はね、『オネアミスの翼』のときにね、1カット2000円だとしんどいだろうから、4000円か5000円出そうか? っていう風に言ってて、結局カットによって5000円出したものもあれば、2000円ぐらいで勘弁してもらったカットもあるんだけどね。
山本:
岡田さんの相場観すごいですね。流石にそれは安い。
岡田:
たぶん『AKIRA』で変わったみたいなの。
山本:
そのへんかな?僕が勤めに入った20年では変わってないですね。原画単価はだいたい4000円です。1カットここ20年間ずっと4000円です。これが1原2000円、2原2000円になったりはするんですけど、とんでもなく難しいカット、僕らの仕事で言うんだったらダンスカットはとんでもない枚数を描かなければいけないので、その場合は、特別単価としてプラスアルファしますけど。
岡田:
払った払った。伝票出した。
山本:
生々しいな。(笑)
岡田:
俺、別の立場じゃん。決済与える立場だから、ここのところを15000円ですとか、20000円ですとか、場合によっては1カット50000円ですとか、もう、あんまりにしんどいところは、月給で描いている庵野と貞本に出してしまえってやり方だったから。
山本:
30年前は、やっぱり低かったんだなあ。
岡田:
低かったよ。だから、2000円が相場だったんで、1カットは『オネアミスの翼』5000円出しますって言ったら、逆にみんな疑ったもん。1カット5000円も払う仕事させるつもりだろって言われて(笑)。
ああ、もう、アマチュアフィルムでDAICON IVオープニングアニメなんてやったから逃げるのが早いんだよ。全員腰が引けながら、お金の話で、1カット5000円? って言って、聞いてくるんだけど、5000円も払うカット描かされるのは、ご勘弁しますって。
山本:
今だったら5000円は、ちょっといいくらいですね。普通に5000円くらい当たり前だろって思っている人がいるんじゃないんですかね。なんでもない、止め口パク(※)でも5000円でいいじゃないかみたいな、だから、良くなってんの?
※止め口パク:キャラクタが動かずに話している状態
岡田:
アニメーターが食えないっていうのは、つまり、止め口パク5000円みたいなカットを月に30カット描けば15万円じゃん。食えるはずなんだけど、なんでみんな食えないの?
山本:
止め口パクでは許されないアニメのクオリティへの要求でしょう。昔はそれで行けたんですよ。そんなに動かさなくてもいいし、動かしたい人は動かせばいいって。でも、今は、要求されるんですよね。
岡田:
昔のモノクロアニメ見たらスタッフリストに原画2人って言うのがあってさ、Aパート1人、Bパート1人って、こりゃ確かにアニメ描いていたら家建つわと思うもんな(笑)。
山本:
僕の古巣は京都アニメーションなんですけど、その時代も5人ぐらいでやっていました。本当に5人でやっていました。でも、5人でやっていたのは、『あたしンち』とか、そういう作品なので、線が少ないんですよ。だから、5人で回るんですよ。
今はやっぱり、線の量が半端ないので、クオリティは求められるわ、動かせって言うわ、3D使ったら手抜きと言われるわ、もう、打つ手なしですね。だから費用対効果で言うと全然だめですよ。そういう背景があると思います。
岡田:
どの辺から金回りが良くなるの? アニメの関係者って。
俺見ている限り、音響監督は金回りいいよね。あいつら金要求するじゃん。だいたい制作費の1割。なんの仕事もしてないくせに!ごめんな! これ、俺の感想な!(笑)。
山本:
そこは俺ディスれないな、お世話になっております。
岡田:
ごめんな! いや、音響監督、仕事をしてないってことはないんだけど、全予算の1割近く持っていくじゃん。TVシリーズでだいたい1話1500万円の仕事だったら120~150万円ぐらい、あの人たちは持っていく。音響監督としてギャラを取るんじゃなくて、そこから音響予算として、声優さんに支払いとかをするんだけどさ。
声優さんもやっぱり安くて、音響監督で、自家用車持ってないやつ俺見たことないからさ(笑)。で、監督は金回り悪いじゃん。制作プロデューサー、いわゆるアニメスタジオやっているプロデューサーは、倒産するか、普通に金持っているかの二択だよね。だから、良心的な制作プロデューサーが存在しないんだよね。良心的なやつがいたら、そいつは、翌月倒産しているから(笑)。
山本:
そうですね。権利を持っている。印税が発生する職業は儲かっていますね。
岡田:
そこで、ファンタジア倒産だよ。ファンタジアってさ、原作権持っていたじゃん。『Aika』とか、『ナジカ電撃作戦』とか、俺今回『ナジカ電撃作戦』懐かしいなって、久しぶりにYoutubeで見たら、世の中にあんなバカなアニメが存在したんだよね(笑)。見た? 『ナジカ電撃作戦』。
山本:
いや、見てないです。
岡田:
見てないだろ? さすが京都大学。全カットパンチラがありますって、西島監督が最初に言っていた作品なだけあって、すべてのアングルが不自然なんだよ(笑)。
スパイアクションなんだけど、すべてのカメラ位置が高さ60センチぐらいで、無意味なパンチラが全編あって、1話、2話Youtubeで公開しているから見て、本当に笑えるから(笑)。こんなの原作権持っていてもしょうがないなとも言えるけど、でも、ファンタジア倒産しちゃったから。
資本金300万円に対して負債が1億9千万円
岡田:
『ストラトス・フォー』とか、『Aika』とか、『ナジカ電撃作戦』ってパチンコの方に流れていくのかなって思うんだけど、原作権を持っていても倒産しちゃうわけだよね。
山本:
そうですね。僕もお世話になったスタジオなんで、ファンタジアさん。
岡田:
うちも、お世話になった。『トップをねらえ!』なんて、グロス請けでやってもらったもんな。本当にあそこ、ちゃんとクオリティ維持して、こちら側の無理もある程度聞いてくれるっていいところだったんだけれども。
山本:
事情はよくわからないんですけど、老齢化じゃないですかね。20年前のベテランさんが、20年後の今も現役でやっているので、流石にしんどいと思ったのが実情なんじゃないかな? まったく情報は入ってきてないんですけど。
岡田:
有限会社資本金300万円に対して、負債1億9千万っていう。負債1億9千万ってことは、おそらくTVシリーズとか、そういうやつの支払いができなくてっていう、潰れ方だよね。
山本:
とは言うものの、TVシリーズ1本受けたらなんとかなるっていう、額ではありますよ。その体力も既にないやってことで、みんなゴメンとなったんだと思いますよ。
岡田:
『オネアミスの翼』の制作終わった時にガイナックス潰そうか? って、考えてたことがあってね。その時の負債が、その時の段階で潰したら5700万円ぐらいだったんだ。
これを、倒産させるって判断が、1ヶ月伸びるごとに負債金額が1500万円ずつ上乗せされるから、そうなっちゃうと、えらいことになると思っていたので、ガイナックスを潰すか、バンダイに駆け込んで、お前らの劇場アニメを作ったスタジオが、劇場で公開されるより先に倒産するぞと、それは困るだろ? って言ったら、向こうは困らないって目をするんだよ(笑)。
一同:
(笑)
岡田:
もう、目と目の勝負なんだもん。困るだろという目をしながら、でも、そこから手を変えて、しょうがないから、どんなアニメでもいいからお受けしますって言いながら、3本とにかく儲けさせる企画くれたら、4本目からちゃんとしたアニメ作れるので、なんとかお願いします。みたいな感じで、一番最初の手が使えなかったわけだよ。困るだろ? っていったら、困らないって目で返されたからさ(笑)。
山本:
いい話だなー。貴重な話だ。
岡田:
あの時あんなにできるの俺だけだったからさ。
山本:
今、それができる豪腕プロデューサーが、本当にいないじゃないですか? もう、ブログでも散々書いているんですけど、本当に受け身ですね。そこまでクライアントに詰めよれるプロデューサーも、いないんじゃないですか?
岡田:
だって、あの時潰れても困らないって目をされたかって言ったら、『オネアミスの翼』を作る時にどこの会社と喧嘩してもいい、喧嘩上等! で言っていたから、かなり嫌われているわけだよ(笑)。そこで心を入れ替えて真面目にアニメスタジオやりますっていうふうに、口だけでも言わないとどうしようもなかった。
だから、ファンタジアの1億9千万円っていうのも、ファンタジアっていう会社を守ろうとして、なんとかしようとして1億9千万円のところで尽きちゃったなんだよね、きっと。うちで言えば、5700万円の時にパッと潰すんじゃなくて、同じように何作かTVシリーズを受ければなんとかなるだろうと思った。
仕事がなく潰れる会社がある一方、人手不足で制作が追いつかない会社がある
岡田:
でも、逆にもうひとつの話なんだけど、10月クライシスと言われる、10月にオンエアされるはずのアニメが、延期になっちゃったり、放送事故みたいなのが起こったりしたじゃん。なんで、一方仕事がなくて潰れるアニメの会社があって、もう一方では、人がいない、制作できないっていうこういう状況が発生しちゃっているの?
山本:
多すぎなんですよ。本数が。作れないんですよ。業界のスタッフのキャパシティ、人的リソースよりも遥かに多くの仕事を受けちゃっているんです
岡田:
じゃあ、ファンタジア潰れるはずないじゃん。
山本:
でも、作れないです。ファンタジアの場合は、ぶっちゃけ言いますよ。アコギな事ができなかったんですよ。受けるだけ受けて、あとはなんとかすればいいやみたいな。溶けてもいいし、落としてもいいし、とりあえず受けちゃえ! よし、2億もらった! あとはお前らでなんとかしろ! っていうのが、今、横行しているんです。
岡田:
うわ、それは俺が例の3本でやったやつだよ。
一同:
(笑)
岡田:
バンダイから5000万円もらって、よっしゃ! って言って、1500万円抜いてマジックバスに流したよ(笑)。あれ、3本だけやったんだよ。
山本:
もっとエグいのが今横行しているんです。だから、もう作れない。円盤売れないのに本数だけが増えているっていうのは、そういうことなんですよ。それこそプロデューサーや制作会社が増えたしね。制作会社が分離独立して、俺は知り合いには、やめとけと言うんだけど、それぞれのプロデューサーが企画を持ってこれるんですよ。
それを、どう作るの? っていうのは誰も考えてなくて。誰とは言いませんけどその間にまた、中抜き業者がダゴーン! って抜いていくんで、金が現場に全然降りてこないって状態ですね。そんな状態で作っているんだから、そりゃ落ちるよねっていう話です。
岡田:
さっきの3本、愚痴っていい? あんまり愚痴んないんだけど、人生でこれだけは損な役だったなっていうのはその3本なんだよ。
バンダイから5000万円もらって、1500万円抜いて3500万円で、いろいろな会社に流すわけだよ。主にマジックバスだけど(笑)。それでアニメ作ってもらうんだけど、やっぱりそういうのって、スタッフからしても見えちゃうわけだよね。
スタッフから見えちゃうから、俺としたらそれで次のアニメ、『オネアミスの翼』の赤字っていうのをなんとかクリアして、次のナディアっていうのが、ようやっと見えてきてきたから、ここまで会社を存続させようと思って、3本だけってやっているんだけどさ。ところがそれで社内で、岡田さんはえげつない金の亡者になったというような感じになっちゃって、結局。
山本:
そうしないと、潰れるんだよみんな。
岡田:
そうそう。結局、その時ナディアで造反劇みたいなことがあってさ。
山本:
あ、その話になるんだ。
岡田:
平気で俺、話すから(笑)井上博明さんっていう、俺と一緒にガイナックスを立ち上げたプロデューサーが、岡田斗司夫をはずして、ナディアっていうのを作って新会社を作ろうとしていたのが、後に俺にバレて大喧嘩になると思いきや、俺その瞬間に心が切り替わっていたからね。
ああなんか、ここで悪者にされちゃったのか、じゃあ別にそれはそれで今からのリカバーの方法として、これからNHKと東宝に行って、俺なしじゃうちの会社動きませんよっていうふうに、嘘だけど! 動くけど(笑)。
一同:
(笑)
岡田:
言ってなんとかナディアを立ち上げて、その時井上さんを外してっていうのをやったんだけどさ……。
山本:
うわぁ。えらい話聞いた……。
岡田:
でも、これぐらいどこもやっているよね?(笑)
山本:
やります。
岡田:
裏切ったとか、裏切られたとか言うものでもないし、あとで井上さんとも仲直りしたからさ。こんなんは、裏切りというものではなく、貧乏だからこれぐらいのことは当たり前に起っちゃうわけだよな。
山本:
そうですね。本当に終戦直後に食い物を漁っているみたいな、『この世界の片隅に』じゃないですけど。米軍からもらったタバコの紙の入っている雑炊をウマーってやっているような。
岡田:
それと同じ。そういう意味では、俺がいない隙にそういうふうに、スタッフを丸め込んでアニメを作ろうとしたということは、どれだけ俺がマヌケで、現場にいなかったってことでしょ?
現場にいたら、ちゃんとサインはあるんだよ。あとで聞いたら庵野もちゃんとサインくれていたの。岡田さんなんか水面下で進んでいますよって、貞本くんもくれていたんだけど、全然気が付かなくて、そこは俺がマヌケだったっていうふうなことだったんだけど、ファンタジアさんはそうはできなかったんだよな。でも、そんなことやっているから余計に……。
山本:
そうですね。でも造反劇があるかはわからないですけど。
岡田:
余計にアニメーターにお金が行かなくて、不思議だよね。普通仕事があるところって、給料が上がるじゃん。なんでアニメ界って、こんなに仕事があって、現場がいっぱいいっぱいなのに……。
普通そういうところだったら、中途半端な腕を持っている人間が山のように入ってきて、アニメ界のアニメーターが何倍も増えて、一大産業として成立するはずなのに、なんでこの正のフィードバックが起こらないの?
名作はたくさん出ているのに、なぜ現場は暗いのか
山本:
それがね。いろいろ言い方はあると思うんですけど、もちろん有象無象は寄って来ているんですけど、それでも作りきれないって言うのかな、ありますよ。そもそも、もうアニメ産業のブラックさというのがずっとこの数十年強調されすぎていて、アニメーターになりたいという若者は確実に減っているんですよね。
アニメ儲かるぞ! って、誰も言えないから、みんな引いていますよ。だから、専門学校とかアニメーター学科には生徒さんがいない。みんな声優学科に行っちゃうんです。声優学科は、恐ろしい数いるんだけど、アニメーター学科は2人だけとかね。そんなものです。
山本:
これ、たたむかってそういう話になっています。それくらい、アニメーター志望者が、それは、僕らが言い過ぎな部分もあったし、マスコミも煽り立てた部分はあるんだけど。
しょうがない、事実だからね。儲かんねー、儲かんねーっていうのを言い過ぎたせいでみんな引いている。しかも不景気じゃないですか? だからなおさら若者が、夢を持ってアニメを目指すってことができなくなっているんじゃないですかね? それだけ人が寄り付かないんです。
岡田:
アニメはこんなに名作が出ているのに、現場の方はどうしてこんなに暗いというか、どう業界を改善したらいいんだろうね?
山本:
どうしようもないっていうのが……。俺、そもそもアニメは高いんだと、ずっと言っているんですよ。
岡田:
うん。制作費が。
山本:
手塚先生のせいにするつもりはないですけど、そもそも高いと。ぶっちゃけ言うと、今回している実行予算の三倍かかるんだと、じゃないと現場に降りてこないんですよ。
岡田:
今テレビアニメ1話1500万円って言われているけど、4500万ぐらい要ると。いわゆる、月9のドラマだったら、1時間5000万円かけているんじゃないかな。つまり30分あたり2500万円かけていると。少なくともアニメーションっていうのはそのくらお金がかかるモノなんだと。
山本:
そうです。本当に構造的な問題で、人手がかかるのでひとりひとりに富が行くわけがないと。
岡田:
そこで、無責任なやつらは、そんな金で引き受けるだからだよ! って言っちゃうわけじゃん。で、言われてもしょうがないぐらい、好きだから作っちゃうじゃん。
山本:
どうすればアニメ業界良くなるんだろう? 一回畳んだほうがいいんじゃないですか?
一同:
(笑)
岡田:
『この世界の片隅に』もできたし。
山本:
そうですね。終わってもいいんじゃないんですかね。
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