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『Tell Your World』の歌詞をkz本人が解説「初音ミクが居るからこそ“クリエイター”が主役になれるという想いで作った」【ボカロP:kz インタビュー】

 ボーカロイドを活用して創作活動を行う「ボカロP」。
 これまで、多くのメディアでボカロPのインタビューが行われてきたが、その多くはサウンドや作曲、アートワークも含めた世界観にフューチャーしたものが多かった。

 だが、「歌詞」こそに、クリエイターの思いやメッセージがストレートに詰まっていることが多いのではないだろうか。
 歌詞を切り口にしてボカロPにお話を伺うことで、ボカロPの内面や音楽性、その曲が作られた時代性や各年代のボカロシーン・ネットシーンの魅力に迫れるはずだ。

 そこで今回、kzさん(livetune)に『Tell Your World』の歌詞についてお話を伺った。

 筆者はこれまで、たくさんのボカロ曲を聴いていたが、歌詞を読んで自然と涙が流れたのは『Tell Your World』が最初で最後だ。
 サビの「君に伝えたいことが 君に届けたいことが たくさんの点は線になって 遠く彼方へと響く」という、ひとりが投稿したコンテンツが世界中に拡散していく描写の気持ちよさ。
 Cメロ「一瞬でも信じた音 景色を揺らすの 教えてよ 君だけの世界」と、初音ミクが投稿者に「やってみようよ」と呼びかけるような、優しく力強いフレーズ。

 ボカロの歌詞についてインタビューするのであれば、kzさんに『Tell Your World』のことを絶対に伺いたいと思った。

 kzさんといえば、2007年8月に「初音ミク」が発売されて1ヵ月も経たない翌9月に投稿された『初音ミクがオリジナル曲を歌ってくれました「Packaged」 Full Ver.』が、その完成度の高さからニコニコ動画に衝撃を与えた、ボカロ最初期のヒットメーカーである。
 現在はボカロに留まらず、数多くのボーカリストや声優、にじさんじといったVTuberまで、幅広く楽曲提供をしているクリエイターだ。
 
 インタビューでは『Tell Your World』の歌詞についてはもちろん、kzさんのクリエイターとして歌詞に向き合う姿勢について、たっぷりとお話を伺うことができた。
 kzさんのファンはもちろん、ボカロを聴くすべての人がどこかで共感し、よりボカロを楽しむ視点を与えてくれたインタビューになったと思う。
 楽曲を聴きながら、ぜひ楽しんでほしい。


取材・文/金沢俊吾

初音ミクが機能してるからこそ、クリエイターが主役になれる

──本日は『Tell Your World』を中心に、kzさんの歌詞の書きかたについて色々お伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。

kz: 
 よろしくお願いいたします。でも、歌詞の書きかたとかは僕じゃなくてDECO*27くんに聞いたほうがいいですよ(笑)。彼のメソッドは本当ににすごいので。

──DECO*27さんにもお聞きできたらと思っているのですが、今日はkzさんのお話をぜひ(笑)。私、『Tell Your World』の2番のあとのCメロが、すべての音楽のなかでいちばん好きな歌詞なんです。

kz:
 そうらしいですね、ありがとうございます。取材の依頼メールに熱いメッセージが書いてあるの読みましたよ(笑)。

奏でていた変わらない日々を疑わずに
朝は誰かがくれるものだろうと思っていた
一瞬でも 信じた音
景色を揺らすの
教えてよ 君だけの世界

『Tell Your World』より

──「変わらない日々を疑わずに 朝は誰かがくれるものだと思っていた」という歌詞は、投稿者とかクリエイターに対して、最高に背中を押してくれるメッセージだなと感じました。

kz:
 Google ChromeのCMソングだったのでインターネットがテーマの楽曲であるんですけど、あくまでも、“主役”はクリエイターだと思うんです。クリエイターというか、インターネットで活動してる人全員が主役。
 『Tell Your World』は、クリエイターを取りまとめるハブとして初音ミクがいる、というかたちを取ってるので、この曲は初音ミクが主役じゃなくて「初音ミクが機能してるからこそクリエイターが主役になれる」というコンセプトでは作ってましたね。
 そのコンセプトが色濃く表れたのが、このCメロなんじゃないかなと思います。

──うわ、めっちゃ素敵です。

kz:
 2011年当時のインタビューでも「初音ミクはハブとして存在していることに意味がある」という話はさせてもらっていたんですが、それは今もそうだなって思いますね。

──「ハブ」というのは、インターネットで活動するクリエイターたちの共通言語になっている、みたいな理解であっていますか?

kz:
 そうですね。初音ミクとかボカロって、年とともに変質しないじゃないですか。人間であれば10~20年経てば思想も変わるし、歌う内容だって変わりますよね。
 初音ミクという存在が変わらないからこそ、時代・年代を問わずいろんな人たちが参加しやすいツールになっていると思うんです。

──世代を超えてクリエイターが集まる「場」として、初音ミクがいるっていうことですね。そう思うと、Cメロの歌詞は、初音ミクからクリエイターに語りかけているようにも聴こえます。

kz:
 そういった面もあるかもしれないですね。
 あと「教えてよ 君だけの世界」っていうフレーズ。これはインターネットのカルチャーって、ちょっとマンネリ化というか、停滞したりするじゃないですか。それこそボカロもブームがあったり。そこに対する意識が歌詞に表れていて。

年別のニコニコ動画に投稿されたボカロ曲をグラフ化したもの。「ニコニコ動画的ボーカロイドの歴史を“970,686本の投稿動画”とともに振り返ってみた」より引用。

──ニコニコ動画におけるボカロの投稿って『Tell Your World』が公開された後の2012年がピークで、その後、下がっていくんです。ボカロはオワコンと言われたこともあったと思います。kzさんは、そうしたブームが過ぎる気配を感じていたのでしょうか?

kz:
 そういった気配に対する気持ちも、若干含んでいた気がするんです。
 だから「世の中の流れに引っ張られず、自分でいいなと思ったものをやってったほうがいいんじゃないかみたいな」みたいな思いがありました。だから「教えてよ 君だけの世界」なんです。

──「教えてよ 君だけの世界」は、まさに『Tell Your World』って曲名になっているフレーズですが、ここはkzさんの思いがけっこうストレートに出ていますよね。

kz:
 そうかもしれないですね。「自分が面白いと思うものを作ったらいい」という思いは、いまも変わらずに持っています。

『Tell Your World』はわずか1週間で完成

──ここで楽曲制作の流れを整理したいのですが、『Tell Your World』は2011年に放送されたGoogle ChromeのCMソングでした。本作は、CMの依頼を受けてから作られたのでしょうか?

kz:
 はい、依頼を受けてから作りはじめました。最初に広告代理店さんと打ち合わせした段階で、ある程度デモ映像が出来ていたんです。デモ映像を見てから曲制作に入ったので、映像ありきですね。

──CMは、テレビサイズの15秒のものと、いまもYouTubeで見れる1分尺のものがありますけど、まずは後者に合わせて1コーラス分作ったということですか?

kz:
 そうですね。まず最初に1コーラス作ってから、フル尺を作りました。
 納品までの時間が全然なかったこともあって、最初の打ち合わせから1週間ぐらいで作ったんじゃないかな。

──ええ、1週間ですか! そのお話は後ほどゆっくりお聞きしたいのですが、まずCMの依頼としてはどのようなテーマが与えられたのでしょうか?

kz:
 やっぱりインターネットブラウザのCMなので、「インターネットを媒介としたクリエイター同士のつながり」というのがおおきなテーマでしたね。
 この曲は「インターネット的かどうか」というのが最重要で、ボーカロイドありきというよりは、ボーカロイドという存在自体がインターネット的だったから初音ミクが選ばれたと思うんです。

“レペゼン・インターネット”としての初音ミク

──具体的な歌詞の内容について伺いたいのですが、まず楽曲の作り方としてはメロディが先で、そのあとに歌詞ですか?

kz:
 メロディが先ですね。歌詞から作ったことはこれまでに一度もないです。
 メロディから作ると、あとから歌詞の言葉数に合わせてメロディを変える人もいますけど、僕はそれも一切やらないです。メロディありきで、そのメロディに気持ちよくハマる歌詞を第一に考えています。

──まずメロディがあって、テーマに合わせた歌詞をハメていくということですね。『Tell Your World』の歌詞は、どの部分から書かれたのでしょうか?

kz:
 サビからです。『Tell Your World』に限らず、基本、サビから作るんですよね。
 サビが主軸にあって、サビに対してどうビルドアップしていくかみたいなところでAメロ、Bメロを書くという作りかたです。

君に伝えたいことが  君に届けたいことが
たくさんの点は線になって 遠く彼方へと響く
君に伝えたい言葉 君に届けたい音が
いくつもの線は円になって
全て繋げていく どこにだって

『Tell Your World』より

──サビの「君に伝えたいことが  君に届けたいことが たくさんの点は線になって 遠く彼方へと響く」という歌詞は、まさにインターネットで活動するクリエイター・投稿者のことを歌っていますよね。

kz:
 そうですね。インターネットで楽曲などを投稿する人たちのことをイメージした楽曲なので、まさにこの部分がまず最初に浮かんで、そこから広げて行ったんです。

──「初音ミクを使って世界に歌を届ける」というメッセージは、kzさんが2007年にニコニコ動画に投稿した『Packaged』と共通してるところがあるのかなと思いました。

kz:
 そうですね。ただ、『Packaged』は『Tell Your World』の5年前で、あの頃は素直に「初音ミクって面白いソフトウェアがあるなあ」というところからスタートしたので、初音ミクという存在自体フィーチャーした歌詞になったと思うんです。初音ミクが歌うからこそ意味のある歌詞というか。
 『Tell Your World』は、そこから5年経って初音ミクの知名度も在り方も変容して、“レペゼン・インターネット”として初音ミクに歌ってもらったという印象です。

この世界のメロディー私の歌声
届いているかな、響いているかな

手のひらから零れ落ちた 音の粒を探してるの
Packageに詰めたこの想いを
伝えたいの、あなたにだけ
うまく歌えるといいな
ちゃんとできるようにがんばるよ!

『Packaged』より

──“レペゼンインターネット”、つまりインターネットを代表する存在として、初音ミクに「ネットで投稿する人たちの歌」を歌ってもらったということでしょうか?

kz:
 そういうことですね。2011年当時は、インターネットを代表する歌い手が初音ミクだったかもしれないですけど、いまは、まふまふさん、Adoさん、VTuberとか、インターネット発の歌い手がたくさん登場したじゃないですか。
 もしいま同じテーマで楽曲を作るのであれば、ボーカロイドじゃなくて、そういった方々が歌っても成立するだろうなと思います。

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』のように、風景を読み取れる言葉を

──『Tell Your World』の2番のAメロは、情景が頭に浮かぶようなキレイな歌詞ですよね。

kz:
 僕自身、風景が思い浮かぶ言葉が好きなんです。特に、具体的な絵というよりは「何となくぼんやりした風景」がすごく好きなので、2番のような抽象描写はよく書きがちですね。

真っ白に澄んだ光は君のよう
かざした手の隙間を伝う声が
ふと動いた指先 刻むリズムに
ありったけの言葉乗せ 空に解き放つの

『Tell Your World』より

──この曲に限らずなんですけど、そういった抽象的なイメージを、どのように言葉に落とし込んでいくのでしょうか?

kz:
 僕の場合は「作りたくねえな」っていうところからまずスタートするんですけど(笑)。

──(笑)。

kz:
 本当に歌詞書くのが苦手なんですよね。そもそも、世の中に言いたいこととかも、ほとんんどない人間なんです。
 どうやってイメージを歌詞にしていくかって難しいんですけど、景色が想像できるような「言葉の雰囲気」がいい小説が好きなんです。そういった小説から影響されている部分は大きいかもしれないです。

──たとえば、どんな作品ですか?

kz:
 村上春樹さんの『ダンス・ダンス・ダンス』【※】は、昔から大好きでしたね。
 『ダンス・ダンス・ダンス』の文字から受け取る風景の印象みたいなものが、すごい好きだったんです。

Amazon.co.jpより引用。

※『ダンス・ダンス・ダンス』
1988年に刊行された、作家の村上春樹さんによる長編小説。主人公の「僕」が東京、札幌、ハワイなどを舞台に様々な運命に巻き込まれる物語。

──『ダンス・ダンス・ダンス』はシーンごとに景色が頭に浮かぶ作品ですよね。

kz:
 そうなんですよ。あとは村上龍さんの『希望の国のエクソダス』【※】
 ラストのほうに風力発電所の風車の前のシーンがあるんですけど、言葉の描写だけで絵が連想されるんですよね。そういった、風景を連想させるような文章を読むのが好きなんですよ。

Amazon.co.jpより引用。

※『希望の国のエクソダス』
1980年に刊行された、作家の村上龍さんによる長編小説。現在の日本に失望した中学生たちが北海道に移住し、「日本からの独立」を目指す。

──小説でいうと、ストーリーやキャラクター、メッセージよりも、情景描写がお好きってことですね。

kz:
 情景描写のほうが好きですね。あとは、単純に文章がきれいなものとか。
 イラストも、キャラクターが白バックに描かれているイラストより、景色が描かれているものも好きなんです。新海誠監督の映画も、景色がすごくキレイに描かれているので大好きですね。

伝えたい言葉よりも、描きたい景色がある

──作詞をする人によっては、言葉をメモしてストックしている人も多いと思うのですが、kzさんの作詞、情景だったり景色といった「イメージ」蓄積して、それをに歌詞に置き換えるような作業だということでしょうか。

kz:
 そうですね。先ほども言ったように、そもそも伝えたい言葉が僕のなかにはないので、歌詞の具体的な内容っていうより「描きたい景色がある」といったほうが近いかもしれません。心象風景とかそういうのも含めて。

──「景色を言葉にする」って、逆にすごく難しそうだなと、素人からすると思ってしまうんですけど。

kz:
 まあでも、具体的な景色が聴き手に伝わらなくてもいいかなとは思っていて。頭に浮かんだ風景って、そのまま他人に共有できないじゃないですか。

──確かに。はい。

kz:
 僕のなかにあるその風景は、言葉だけでは100%共有することはできないと思うんですよ。ただ、その言葉を介して伝わる風景の色合いみたいなものは、誰が聴いてもある程度共通だと思うんです。
 そこがあれば、別にいいかなっていう気はします。

──ボヤッとした情景みたいなものがリスナーと共有できればいい、ということですかね。

kz:
 小説『裏世界ピクニック』【※】の作者・宮澤伊織さんがインタビューで、こんなことを仰っていたんです。
 「草原があって、誰も座っていない2人がけのベンチがあるだけで、そこに“百合”を感じるよね」って。これを読んだとき、僕はめちゃくちゃ共感したんですよ。
 具体的な描写がなくても、なんとなくバックストーリーを感じさせる、みたいな。僕も別にストーリーを伝えたいってよりかは、そのイメージを介した気持ちを感じてほしいだけなんです。

Amazon.co.jpより引用。

※『裏世界ピクニック』
作家・宮澤伊織による小説シリーズ。現在、既刊7巻。女子大生のふたりが〈裏世界〉を探索する物語。2021年にはアニメ化もされた。

「インターネットへの感謝」の曲

──ここまでお話を聞いて、kzさんのインターネット・ボカロ・クリエイターに対する視点が込められた『Tell Your World』を、たった1週間で完成したっていうのが改めて凄まじいなと思いました。

kz:
 でも、1週間で出せたのは「これはよくやれたぞ!」みたいな気持ちがあったからだと思うんですよね。
 それがなかったら「もうちょっと時間ください」って言っていたかもしれないし。

──ああ、なるほど。納得できたからすぐ納品したということでうすね。

kz:
 そうですね。『Tell Your World』は、たぶん僕至上、いちばん制作時間が短い曲なんで……いや、『Packaged』か。『Packaged』は完パケまで20時間切ってるはずなんで。

初音ミクがオリジナル曲を歌ってくれました「Packaged」 Full Ver.」より引用。



──え、マジですか……。あの名曲がたった20時間で。

kz:
 さすがに『Packaged』がいちばん短いかもしれないですけど、でも『Tell Your World』も、あり得ないぐらい短かったのはよく覚えていて。

──やっぱり、kzさん自身の活動の場でもあった「インターネット」というテーマが書きやすかった、ということもあるのでしょうか?

kz:
 はい、インターネットに対する感謝がめっちゃあったので。「悩んだ結果、よく書けたな」というより、もう「書けて当然」みたいな感じだったと思います。

──kzさんは、ニコニコ動画に『Packaged』を投稿したところからキャリアがはじまって、そこに対する感謝の気持ちが強かったということですね。

kz:
 そうですね。だから「よく書けたな」というよりは「俺がこの曲をよく書けないとマズいだろう」ってレベルの曲なんです。まあ、よく書けてんなとは思うんですけどね(笑)。

──この曲に限らず「よく書けた」っていうのは、作った時点で感じられるものなのですか?

kz:
 「もう、これは勝ったな」っていうのは、ちゃんとありますね。

──なるほど。「勝ったな」って感覚、いいですね。

kz:
 メロディもそうなんですけど「これはもう勝ち確定だな。がはは」みたいな瞬間ってあるんですよ。僕に限らず、クリエイターはみんなそうだと思うんですけどね。 
 もちろん、どの楽曲でもある程度のクオリティのボーダーラインは設定して、そこをちゃんと超えようっていう気持ちはいつもあります。でも、突然、一点突破する瞬間みたいなものが訪れるんですよね。
 『Tell Your World』もまさに、そういった曲だと思います。

にじさんじ『Virtual to LIVE』は“完璧”

──ちなみに、『Tell Your World』以外に「勝ったぞ」と感じた歌詞って、何がありますか?

kz:

 ここ最近でいったら、にじさんじの『Virtual to LIVE』ですね。
 完璧に書けたというか、現時点であれ以上のものを書くのは、もう無理だなっていうぐらいの歌詞を書けたと思います。

──『Virtual to LIVE』は本当に名曲だと思います。

kz:
 あとは、いちばん好きな歌詞だと、『プラネット・クレイドル』という曲です。千菅春香さんが歌っている『マクロス30』というプレイステーション3のゲームソフトのテーマソングです。
 この曲の2番サビのあとのDメロの歌詞がとても好きで。

── 『マクロス』の楽曲を作るというプレッシャーもありそうですよね。

kz:
 そうなんですよ。やっぱり『マクロス』といったら、菅野よう子さんのイメージがあるじゃないですか。大先輩としてめちゃくちゃ尊敬してるので、『マクロス』として恥ずかしくないものを作らないといけないというプレッシャーもありました。
 それもあって、思い入れもある、いまでもすごく大好きな歌詞になりました。

Amazon.co.jpより引用。

クリエイターはどんな歌詞を乗せてもいい

──改めて、ボカロの歌詞の魅力ってどういったところだと思いますか?

kz:
 うーん……「ボーカロイドだからこその魅力」って、最近なくなっている気がするんですよね。『Tell Your World』はもちろんそういう曲だと思うんですが。
 でも、ボーカロイドだろうが人間だろうが関係なくなってきたからこそ良いなって思うんですよ。

──ボカロと人間の区別がなくなってきたということでしょうか?

kz:
 ボーカロイドが生まれて15年経ちましたけど、ボカロを聴いていた人たちに子どもができて、親が聴いていたボカロを子どもが聴く。みたいなサイクルが出てきたじゃないですか。
 そういった子どもにとって、ボカロが歌ってようが人間が歌ってようが、あんまり区別していないと思うんですよね。もともと両方あったものなので。

──物心ついたときから、ボカロが歌う曲も、人間が歌う曲も当たり前に混在している世代が出てきたということですね。

kz:
 そうですね。いま、ボカロの曲かどうか知らずに、誰かがカバーしたものを原曲だと思って聴いている子もたくさんいるじゃないですか。

──それこそ、まふまふさんが紅白歌合戦で初音ミクの『命に嫌われている』を歌ったり、須田景凪の『シャルル』もセルフカバーが有名だったりしますよね。

kz:
 そうそう。そういう人たちって、ボカロだと認識して聴いている人と、入りかたが全然違うじゃないですか。だから、より「ボカロならではの歌詞」ってこれからもっと減るんじゃないかなと思うんですよね。
 でも、だからこそボカロの歌詞もより自由に書けるというか。

──なるほど。

kz:
 ボーカロイドは「ソフト」で、誰も歌っていないじゃないですか。言いかた悪いですけど、そこに人格はないし、作り手はボーカロイドに対して責任を持たなくていいんですよね。
 だから、クリエイターはどんな歌詞を乗せてもいいですし、歌詞の多様性が生まれやすいというのは、いまも昔もこれからも、ずっと変らない魅力だと思いますね。

「このコンテンツにkzがいてくれてよかった」と言われたい

──最後に、今後の楽曲制作について、何か考えていることがあれば教えてください。

kz:
 それは、そのときに求められることに対して、ひとつひとつやっていくだけだと思いますね。
 だって5年前は、コロナ禍になるなんて誰も想像していなかったですし。やっぱり、ライブができないというのはアーテイストにとって致命的なんですよ。楽曲って、ライブで大勢の観客に聴いてもらうことによって、より強くなっていくものだと思うんです。それが長いことずっとできなかったので。

──たしかに、アーテイストの活動の在り方がコロナ禍で変わりましたよね。それこそ、歌われるメッセージにも影響があると思いますし。

kz:
 だから、その時代ごとに、自分が求められることをやっていくだけで。
 自分の根本は変えたくないなと思いますけど、そのときになってみないと「自分がこれをやらないといけない」みたいなものは、多分見えてこない気がするんです。

──今日お話に出た『Tell Your World』『Virtual to LIVE』『プラネット・クレイドル』、すべて依頼を受けて書かれた楽曲ですよね。kzさんのプロとして矜持は、「求められた役割を果たす」ってことなのかなと思いました。

kz:
 それがあるから、ここまでやってこられたんだと思います。顧客満足度100%を目指してやりたいなっていうのはめっちゃあります。「このコンテンツにkzがいてくれてよかった」と言われるのがいちばんうれしいなと思うので。
 奇をてらわずに、これからも、やるべきことをしっかりやっていく。それだけですね。


 音楽から何を感じるかは、聴き手に委ねられている。作り手は「歌詞」に想いやメッセージを込めたとしても、その解釈は聴き手それぞれに委ねるものだと思う。
 今回、歌詞を解説していただくというオファーを依頼したとき「こんなことを聴こうとするのではないか野暮なのではないか?」という危惧があった。
 しかし、kzさんは快諾してくださり、歌詞の1フレーズ1フレーズについて、とても丁寧に語ってくれた。歌詞が生まれた背景や、ご自身の作詞のバックグラウンドを明かしつつも「言葉を介して伝わる風景の色合いみたいなものが共有できればいい」と、解釈そのものはやっぱり聴き手に委ねてくれていたように感じた。
 ご本人に解説していただくことは「正解発表」ではなく、より広く深く歌詞を楽しむきっかけを与えてくれたのではないだろうか。

 歌詞について作者に解説していただく本企画。今後も、色々なクリエイターにインタビューしていきたいと考えている。 

■info

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