ゆくゆくは『劇場版アズールレーン』も作りたい──目指すは「ハイクオリティな劇場版が作れるアニメスタジオ」。Yostar・李社長が語るYostar Picturesの展望
2020年2月、ひとつのアニメ会社が秋葉原の地にて誕生した。
Yostar Pictures──『アズールレーン』をはじめ人気スマホゲームを運営するYostarの「ユーザーが満足してくれる高いクオリティのアニメPVを作りたい」という想いから生まれた会社である。
設立から2年、Yostar Picturesは数多くのアニメPVを制作してきた。
『アークナイツ』ではイベント開催に合わせてのアニメPVがお馴染みになりつつあるし、『アズールレーン』周年を記念したアニメPVも公開。自社でアニメ制作会社を持った強みをこれでもかと見せてくれている。
さらに、『アズールレーン びそくぜんしんっ』、『空色ユーティリティ』とTVアニメ制作、最近では『アークナイツ』アニメ化の発表と、アニメPVにとどまらず活躍の場を広げるYostar Pictures。
加えて、『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』、『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇 』、『劇場版 呪術廻戦 0』など、歴史的ヒット作品の制作協力に名を連ね、着々とアニメ制作会社としての実績を積み重ねている。
ニコニコニュースオリジナルでは、2年前の会社設立のタイミングでYostar Picturesに取材を実施。その際には「なぜアニメ会社を設立したのか」「これからなにを仕掛けようとしているのか」などのエピソードを語っていただいた。
Yostarがアニメ制作会社を設立した理由──労働環境の改善、チーム作り、作品への愛…いいアニメを作り続けるために変えたかったこと
あれから2年、Yostar Picturesはどのような道のりを歩んできたのか。
設立2周年を迎えるこのタイミングで、代表取締役社長の李衡達氏、取締役の稲垣亮祐氏、斉藤健吾氏ら、Yostar Picturesのキーマンたちへ2年振りにインタビューを実施。
アニメ『アズールレーン びそくぜんしんっ!』やオリジナルアニメ『空色ユーティリティ』の制作エピソードをはじめ、現在制作中のアニメ『アークナイツ』への意気込みをうかがった。
娘が生まれたことで料理と子育てにプライベートを捧げ、脱オタクライフを過ごす李衡達氏。
会社の拡大と安定を目標に掲げつつ、個人として美少女ノベルゲームを作る夢を語る稲垣亮祐氏。
『空色ユーティリティ』でオリジナルアニメ制作という大きな一歩を踏み出し、さらに映像以外のコンテンツ拡大も目指す斉藤健吾氏。
会社としても、個人としても、この2年間さまざまな動きがあったようだ。
文/前田久(前Q)
編集/竹中プレジデント
撮影/トロピカルボーイ田畑
「魂と魂がぶつかりあわない!」コロナ禍でのコンテンツ制作の悩み
──2年ぶりに取材にうかがいましたが、最近の調子はいかがですか? 李社長のオタクライフは、相変わらず充実しておられます?
李:
娘が生まれてオタクライフからはすっかり離れてます。俺の子、かわいすぎる! もう完全にリア充です(笑)。
プライベートは料理と子育てだけ。だから最近は、オタク的な判断は現場で作品に関わるスタッフたちの感覚に任せていますね。
──おお、衝撃です……。2年というのはそれくらい、大きな変化がある時間なんですね。会社としてはいかがでしたか ?
李:
まず何より、やはり新型コロナウイルスの影響が大変でした。誰も想像してなかったような状況ですからね。といっても、Yostar Picturesに限れば、そこまでコロナ前後でやっていることは変わっていないんです。
ただ、Yostar本体に打撃があったので、その影響がどうしてもYostar Picturesのほうにあったんですよね……。
斉藤:
僕らは幸い、もともと会社を立ち上げたときからリモートで、デジタル環境で仕事をできるようにしようと考えていましたからね。
稲垣:
そうですね。コロナで急に方向転換を迫られたわけではなかったので、仕事の進めかた自体は上手く対応はできたのかなと。むしろ、やろうとしていたことが定着しやすかったといいますか。
──描いていたビジョンを進められつつある。
稲垣:
まだまだ先は長いですが、手ごたえはあリます。今はこれまでやってこられたことの持続と、そこからの発展という次のフェーズに入っていると感じてますね。
このまま失速しないように、勢いを維持しつつ、事業を拡大する。できれば、スピード感をもっと上げたい。その意味での焦りは少しあります。
斉藤:
いろいろなことができるスタッフが増えてきましたし、働きかたにも幅が生まれているんです。たとえば、アニメーターの中にはオーストラリアに住んでいる方もいるんですよ。
稲垣:
メルボルン在住ね。
斉藤:
そう。完全にリモートで仕事をやってもらってます。
──それはスゴい。まったく対面なしですか。
斉藤:
とは言っても、リモート会議だけじゃなく、Twitterでもちょくちょく絡んでいるし、距離をそんなには感じないんですよ。「本当にオーストラリアにいるの?」みたいな感覚です(笑)。
対面の機会がまったくないことで、デメリットを感じる部分も多少はありますけどね。とくに文章のやりとりでは、ニュアンスが全然伝わらないところはあって……。
李:
文章だと、魂と魂がぶつかりあわない!(笑) コンテンツビジネスは魂の、情熱のぶつかり合いが大事なんですよね、やはり。
斉藤:
勘違いが生まれたりもしますしね……。
稲垣:
わかる~……。
斉藤:
比較的上手くやれてはいるものの、そこは課題なのかなと思っています。
李:
悩むところですね。正直なところ、これ以上の対策は素直に諦めて、コロナが終わるまで待つしかないような気もしています……。
会社の規模は3倍に。それでもアニメづくりは難しい
──大変な状況ではありつつも、着実に会社の歩みは進めておられる、と。
李:
あと、とにかく人が増えました。報告を受けるたびに驚きますね。人が増えるペース速いな! って(笑)。
稲垣:
アニメづくりはもうほんと、人海戦術なんで(苦笑)。
──2年前の会社設立時のお話ですと、社員は大体 20 人ぐらい、外注も入れると大体 30 人ぐらいで回している体制だとうかがいました。現状の規模はどのくらいに?
斉藤:
そのころの倍じゃ済まないんじゃないですか?
稲垣:
3倍ぐらいですね。外注も含めると100人に近い体制ですし、今年(2022年)の4月にはさらに新卒を結構採ろうと考えています。
李:
それだけ人を増やしても、やはりスケジュールが厳しくなるときがあって、やっぱり想像以上にアニメづくりは難しいですね……。準備期間が長くかかってしまうことが多いんです。「あ、アニメってここまで制作期間が必要なのか」と、予想外でした。
当初、『アズールレーン』でもPVをバンバンやっていきたいと考えていたんですが、『アークナイツ』と異なり、ゲーム内において日本、中国のイベントスケジュールが統一されたことで、原作イラストの入手からアニメPVを作るまでの時間の余裕がまったくなくて。こちらの狙ったタイミングで作って公開しようとしても、なかなか思うようにはいかない。
稲垣:
扱う作品数が増えるに応じて新しい人を入れても、その新しい人が業務に定着する時間と、求められたスケジュールが完全には噛み合わないんですよね。
アニメ業界ではそういうとき、外注で人を集めて、乗り切ったら都度チームを解散させる形をとることが多いです。でも、そのやりかただと、次に動くときに同じ人たちにまた集まってもらおうとしても、やってくれるかどうかは分からない。
──別の作品でスケジュールが抑えられたりしますものね。
稲垣:
そうしたスタッフ集めの調整の手間をなくして、なるべく制作体制を安定させるために自社でスタッフを抱えるわけですが、それでも新しいキャラクター、新しいタイトルがどんどん登場する状況に対応しながらゲームのためのムービーを次々と作るのはどうしても難しいところはあります。
求められる絵柄であるとか、作業のクオリティに慣れるまでの時間もそうですし、人が増えれば増えるだけ管理業務は大変になるんですよね。
──ああ、なるほど。クリエイティブな人材を増やしたら、制作管理も増やさないと、現場をスムーズに回せない。
稲垣:
だから徐々に人を増やし、作業体制を改善してはいるものの、できることが増えればやるべきことも増え、さらに課題が生じて……みたいなことの繰り返しですね。
でも、これは仕事の常(つね)ですよね。だから僕たちにできることは、立ち止まらず進むことだけかなと。
──そうした意味では、まだ地ならしの段階というか。
稲垣:
そうですね。教育体制もようやく整ってきたところですから。これまで新人たちに教えていたことをテキスト化できてきたんです。
天才は最初からうまいんですけど、アニメのスタッフは技術職なので、教育のメソッドやマニュアルが整ったとしても、ちゃんと学んで、教えて、実践して……となると、やはり数年はかかる。まだまだ、これからのことが多いですね。
『アズールレーン びそくぜんしんっ!』は納得のいくクオリティでお届けできた
──この2年のあいだには、ショート作品ではありますがYostar Pictures初のTVアニメ作品である『アズールレーン びそくぜんしんっ!』も送り出されました。こちらの手応えはいかがでしたか?
李:
実はかなりタイトなスケジュールで制作をお願いしたんですよね。2019年の年末の生放送で『アズールレーン びそくぜんしんっ!』のアニメ化を発表しましたけど、アニメの制作じたいをスタジオに依頼したのはその1週間ぐらい前ですからね。
『アズールレーン びそくぜんしんっ!』
— アズールレーン公式 (@azurlane_staff) December 24, 2019
Yostar Picturesにてアニメ映像化企画開始!
お楽しみに!#アズールレーン#びそくぜんしんっ#アズ4 pic.twitter.com/PZtf83NRBd
──なんと。
李:
制作期間は1年未満。アニメ業界の一般的な企画の準備期間がわかってる人間から見れば、かなり早いペースです。で、クオリティも問題ないレベルでした。「このスタジオ、行けるな!」という、ホッとしました。
稲垣:
改善したかった部分はもちろんありはするのですが、狙い通りには作れたかなと思っています。
『アズールレーン』というYostarが有名になるきっかけになったタイトルをアニメ化させてもらえてスタジオとしても意味があったし、美少女もので、個人的な趣味にも合っている企画だったので(笑)、ありがたかったですね。
李:
本当に急な依頼だったので、ちゃんと間に合うのか内心ドキドキしていたんですが、みなさんにお願いした、放送前の全話納品という条件もちゃんとクリアしてくれましたしね。そう、その点は本当に素晴らしかったです。
おかげで宣伝もしやすかったですね。タイアップ案件のための版権イラストも大量に描いていただける余裕がありました。
斉藤:
たしかに、かなり描きましたね。ピザハットとか、ファミリーマートとか、ドン・キホーテとか。ショートアニメ作品にしては異例なくらいタイアップがあり、いろんなシチュエーションで楽しく描かせてもらいました。
李:
余裕を持ってマーケティングのためのいろいろな仕込みができることって、超大事なんですよ! 本当に!
──メディア側の人間としてもよくわかります。放送前に画像素材があると、ニュースにする際にも非常に助かるという。
李:
わかってらっしゃる!
稲垣:
Yostar Picturesとしての最初のTVシリーズということもあって、スケジュールを守ることはかなり意識しましたね。