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連載「超歌舞伎 その軌跡(キセキ)と、これから」第十回

 2016年の初演より「超歌舞伎」の脚本を担当している松岡亮氏が制作の裏側や秘話をお届けする連載の第十回です。(第九回はこちら
 
 「超歌舞伎」をご覧頂いたことがある方も、聞いたことはあるけれどまだ観たことはない! という方も、本連載を通じて、伝統と最新技術が融合した作品「超歌舞伎」に興味を持っていただければと思います。

 京都・南座にて9月3日(金)〜9月26日(日)に「九月南座超歌舞伎」の上演が決定! 2021年7月18日(日)10:00より電話予約・Web受付開始!

・九月南座超歌舞伎公式サイト
https://chokabuki.jp/minamiza/

多くの想いが詰まった三年目の超歌舞伎『祝春超歌舞伎賑』、『積思花顔競』

文/松岡亮

 2017年7月末、この年の11月に行われることとなった全国公演「松竹大歌舞伎」に於いて、ご病気の療養に入られていた、中村獅童さんが舞台復帰されることが発表され、記者会見が行われました。その会見会場で、獅童さんのお元気な様子を拝見して、私たちもホッと一安心したことが、しみじみと思い出されます。
 そして、前回のコラムでも触れましたが、療養中に超歌舞伎のファンの皆さんから心温まるお見舞いの〝言の葉〟が寄せられたこともあり、2018年4月に幕張メッセで開催される超歌舞伎には是非とも出演し、ファンに感謝の念を示したいという、獅童さんの熱い思いが我々に伝えられました。

『祝春超歌舞伎賑』(2018年)

 じつはそれ以前に、私と歌舞伎チームのプロデューサーは、獅童さんが幕張の舞台に戻っていらっしゃる時には、『お祭り』のご趣向を取り入れて、幕張メッセの5000人のお客様、ニコニコ動画でご覧のお客様から、「待ってました!」の大向うをかけて貰いたい、ということをふたりで話しあっていました。
 歌舞伎に詳しい方ならご存じのとおり、歌舞伎俳優の舞台復帰の演目として、清元の舞踊『お祭り』が選ばれることが多く、祭の花笠と扇子を持ってきまる鳶頭に「待ってました!」と大向うから声がかかるのが定番となっています。
 普段の歌舞伎公演の場合、劇場にいらっしゃるお客様全員から大向うをかけていただくというのは、なかなか難しいものがありますが、超歌舞伎ではそれが実現可能ではないかと、私たちは考えていました。

 こうした背景のもと、2018年の超歌舞伎で、『祝春超歌舞伎賑(またくるはるちょうかぶきのにぎわい)』と題した一幕を上演しました。そして、客席通路から登場した獅童さん演じる鳶頭に、「待ってました!」と幕張メッセイベントホールにつめかけて大勢のお客様から大向うをかけていただき、またニコニコ動画でご覧のお客様からも「待ってました!」「お帰りなさい!」と数多くのコメントを頂戴しました。

『祝春超歌舞伎賑』(2018年)

幕張メッセに登場した「羅生門」

 さて、2018年の超歌舞伎の本編とでもいうべき、『積思花顔競(つもるおもいはなのかおみせ)』は、天明歌舞伎の面影をいまに伝える顔見世舞踊の大作である『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』(通称「関の扉」)をふまえた作品です。

『積思花顔競』(2018年)のキービジュアル

 超歌舞伎が回数を重ねるなかで、「関の扉」で小町桜の洞(うろ)から、小町桜の精である傾城墨染が登場する場面は、デジタル演出にぴったりの演出ではないかと考えていたこともあって、「関の扉」をもとにした新作の上演を提案しました。またその上で、平安時代が舞台となるので、初音ミクさんの十二単姿を披露することができるのではと。

三代歌川豊国「小倉擬百人一首 前大僧正慈円」 弘化3(1846)年
「百人一首」の和歌から連想される画題を描いた作品。
慈円の「おほけなくうき世の民におほふかな わがたつそまに墨ぞめの袖」 の「墨ぞめ」の言葉に因み、〝傾城墨染〟が活躍する「関の扉」の一場面を 描いている。

 幸いにして私のこの提案は、超歌舞伎のプロジェクトに携わる皆さんに受け入れて貰うことができましたが、その上で、総合プロデューサーの横澤大輔さんから、いかにも歌舞伎らしい『楼門五三桐(さんもんごさんのきり)』の楼門の場面を、今回の作品に取り入れらないかとのご提案を受けました。

三代歌川豊国「踊形容外題尽 楼門五三桐 南禅寺の場」 安政4(1857)年
江戸歌舞伎の往年の名舞台を描いた連作のひとつ。寛政12(1800)年江戸市村座で上演された、『楼門五山桐』の南禅寺の場面を描く。
五右衛門=二代目嵐雛助、久吉=三代目坂東彦三郎

 『積思花顔競』の時代設定が平安時代であるため、鎌倉時代後期の正応4(1291)年に開山された南禅寺が登場するのは、さすがに無理があるため、楼門に代わる建造物をいろいろと考えました。そこで、冥府(あの世)から現世へと呼び戻された惟喬親王が、鬼が棲んだとの伝説が残る〝羅生門〟に立て籠もっているという設定にすれば、いかにもそれらしい、無理のない設定になるのではと思い、第二場のあの羅生門の場が誕生しました。
 とはいえ、歌舞伎座のような劇場と異なり、あくまでも仮設の舞台である幕張メッセには、羅生門の大道具を据え置いておくスペースはなく、またミクさんのための透過スクリーンの設備もあり、どのような形で羅生門を幕張メッセの舞台に出現させるかは、大きな課題となりました。
 しかし、『花街詞合鏡』以降、超歌舞伎の舞台美術を担当して下さっている舞台美術家の中嶋正留さん、 効率的な舞台転換をご助言頂き現場を束ねてくださった浅香哲哉さん、また大道具を製作する歌舞伎座舞台の皆さんが議論を重ね、幕張メッセの舞台に飾ることのできる、羅生門の大道具を考案して下さいました。そして、いつもの楼門とそん色ない、豪華絢爛たるあの羅生門が出現したのです。

『積思花顔競』(2018年)

様々な要素を物語へ

 『積思花顔競』の台本を執筆するにあたり、最も頭を悩ませたのは、大詰の「関の扉」をモチーフとした場面に至るまでの、物語の展開をどうするかということです。この「関の扉」という作品は、天明4(1784)年、江戸桐座の顔見世狂言『重重人重小町桜(じゅうにひとえこまちざくら)』の大喜利所作事(おおぎりしょさごと)として上演された舞踊ですが、そこに至るまでの台本は失われていて、物語の全体像は断片的にしか伝えられていません。
 悩んだ末に、悪役をこの世に甦った惟喬親王で統一し、ミクさん演じる小野初音姫は、小野小町の娘ということに、さらに初音姫の許嫁として良岑安貞(よしみねのやすさだ)を物語の主要人物に設定することで、大詰までの物語の展開に道筋がつきました。
 その上で、江戸時代の「関の扉」を書き替えた作品をヒントに、初音姫の姿を借りて登場する人物を原作の小町桜の精ではなく、安貞がかつて助けた白鷺の精とすることによって、新味を出すこととしました。

『積思花顔競』(2018年)

 プロットの作成、台本の執筆の過程のなかで、劇中曲が鏡音リンさんの「天樂」に決定し、デビュー10周年の節目を迎えていたことから、劇中で八咫の鏡(やたのかがみ)の精役を演じることに。最終的には、2018年4月29日の1日のみの出演でしたが、リン・レンで八咫の鏡の精を演じて貰ったことは、ご存じのとおりです。
 2017年12月初旬には準備稿ができ、そこから改訂を繰り返していき、最終的な上演台本へとなるのですが、超歌舞伎の場合、アナログ演出とデジタル演出の兼ね合いもあり、通常の歌舞伎の台本よりも、改訂の回数が格段に多くなっています。

『積思花顔競』(2018年)

物語を効果的に補完したオープニング映像

 本作品の場合、初期段階の準備稿では、物語後半への伏線として、安貞が白鷺を助ける場面が発端としてありましたが、物語の全体尺がオーバーしてこともあり、泣く泣くカットすることになりました。しかし、物語の大きな軸となっている安貞の白鷺救出譚と、惟喬親王が日食の日に生まれたために皇位に就けず、そのまま世を去った前日譚を、デジタル演出チームが、オープニング映像の演出のひとつとして盛り込んでくれました。あのオープニング映像のおかげで、物語の本編がとてもわかり易くなり、その演出効果に私自身も目が開かれる思いでした。
 実際に準備稿のとおり発端を上演していたら、おそらくその場面だけで5分から10分程度の尺が必要だったでしょうし、惟喬親王の誕生に関する前日譚は、説明的な台詞で進行せざるを得なかったと思います。ひいてはそのことが、超歌舞伎の魅力ひとつである、物語の展開スピードにブレーキを踏むような可能性があったと考えています。
 このオープニング映像が、本編の物語を補完するという映像演出は、『御伽草紙戀姿絵』にも受け継がれ、その効果が絶大であったことは、言うまでもないところでしょう。
 2018年の『積思花顔競』には、その外題のとおり、さまざまな思い、思い出があり、まだまだ語りたいこともありますが、ひとまず「これぎり」として、稿を閉じたいと思います。

『積思花顔競』(2018年)

執筆者プロフィール

松岡 亮(まつおか りょう)

松竹株式会社歌舞伎製作部芸文室所属。2016年から始まった超歌舞伎の全作品の脚本を担当。また、『壽三升景清』で、優れた新作歌舞伎にあたえられる第43回大谷竹次郎賞を受賞。NHKワールドTVで放映中の海外向け歌舞伎紹介番組「KABUKI KOOL」の監修も担う。


■超歌舞伎連載の記事一覧
https://originalnews.nico/tag/超歌舞伎連載


 

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