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連載「超歌舞伎 その軌跡(キセキ)と、これから」第七回

 2016年の初演より「超歌舞伎」の脚本を担当している松岡亮氏が制作の裏側や秘話をお届けする連載の第七回です。
 「ニコニコネット超会議2021」で待望の上演となる超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵(おとぎぞうしこいのすがたえ)』。今回は、公演を目前に控えた「超歌舞伎」の稽古場から、出演者の声をお届けします。(第六回はこちら

 「超歌舞伎」をご覧に頂いたことがある方も、聞いたことはあるけれどまだ観たことはない! という方も、本連載を通じて、伝統と最新技術が融合した作品「超歌舞伎」に興味を持っていただければと思います。

 4月24日(土)・25日(日) 各日18:00より、「ニコニコネット超会議2021」にて超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵』上演

・超歌舞伎 公式サイト
https://chokabuki.jp/

・チケット購入ページ
https://dwango-ticket.jp/

蝶紫さん、國矢さん、獅一さんが振り返る「超歌舞伎」の軌跡

文/松岡亮

 去る4月19日月曜日から、『御伽草紙戀姿絵』の全出演者、主要スタッフが揃ってのお稽古が始まりました。
 あいかわらず初音ミクさんは、お稽古初日から台詞も踊りもほぼ仕上がっていて、中村獅童さんを始めとした共演者の皆さん、また演出の藤間勘十郎師も、ミクさんの熱心さに敬服しています。
 昨年(2020年)8月以来の共演とあって、獅童さんとミクさんのやり取りも、まだ息の合わないところがありましたが、稽古を重ねていくうちに、おふたりの息も合い、距離感がぐっと縮まっていっています。
 
 今回はそんな稽古場から、超歌舞伎を支えている、中村蝶紫さん、澤村國矢さん、中村獅一さんのお三方に、2021年の超歌舞伎公演への思いを伺いました。

左より、中村獅一さん、澤村國矢さん、中村蝶紫さん

 始めに、超歌舞伎が6年目を迎えるということをお伝えすると、皆さん一様に「アッという間の6年」「もう6年もたつのか」と口にし、「1回で終わると思っていたものが、まさか毎年続くようになるとは思いませんでした」と語りあって、それぞれが感慨深い表情となり、この来し方を振り返りました。

幅広いお役を演じる女方・中村蝶紫さん

 蝶紫さんは1年目、ミクさんの所作指導、台詞指導に携わり、本番では黒衣として舞台を支えていらっしゃいました。ご本人曰く、「ミクさんがいらっしゃるから、自分が超歌舞伎に出られるとは思っていなかっただけに、2年目の舞台に立てた時は本当に嬉しかった。」とのこと。
 とはいえ、蝶紫さんがこの3人のなかで一番バラエティーに富んだお役を演じているのもまた事実。

『花街詞合鏡』(2017年)より。蝶紫さん演じる花魁・葛城太夫(中央)

 1年目こそ黒衣でしたが、2年目には、ミクさんの憧れる葛城太夫。3年目は、ミクさんを殺害する磐萩の局。4年目はミクさんの母親である初音の前。そして今回は、ミクさんと共に、日本を魔界にしようと企む妖怪の役どころで、「微力ではあるけれど、自分なりに精一杯勤めて、超歌舞伎の舞台を支えたい」と、謙虚に語る蝶紫さんでした。

『積思花顔競』(2018年)より。蝶紫さん演じる磐萩の局(いわはぎのつぼね)。

古典作品を意識した役作りをされる澤村國矢さん

 一方、國矢さんは、2018年の『積思花顔競(つもるおもいはなのかおみせ)』以来となる、超歌舞伎で新しい役を作り上げていく難しさを語ってくれました。
 今回、國矢さんが演じる平井保昌(ひらいのやすまさ)は、歌舞伎の古典作品でもおなじみの人物ですが、『御伽草紙戀姿絵』の保昌は、従来の保昌像とは異なる、いわゆる実事(じつごと)の役どころです。(ちなみに実事とは、常識かつ誠実性のある役柄のことです。)

『積思花顔競』(2018年)より。國矢さん演じる秦大膳武虎(はたのだいぜんたけとら)

 それだけに「派手さはないものの、肚(はら)が必要な役を、芝居で見せられるようにしたい」と意欲を語り、「例えば、『仮名手本忠臣蔵 六段目』の不破数右衛門のような貫禄を造形できたら」と、古典の役柄を例にあげて、今回の保昌役で目指すところを明かしてくれました。

『御伽草紙戀姿絵』稽古の様子。左から國矢さん、蝶紫さん

立師として、出演者として、超歌舞伎を支える中村獅一さん

 さて、超歌舞伎を1年目から立廻り(たちまわり)を作る立師(たてし)として支えて下さっている獅一さんは、今だから話せるエピソードとして「1年目の『今昔饗宴千本桜』に自分の作りたいと思っていた立廻りを全て入れて作り上げたので、2年目のお話しがあった時は、1年目で自分の立廻りの引き出しを全て開けてしまっており、どんな立廻りを作れば良いのか正直悩みました」と語り、一同の笑いを誘いました。

『御伽草紙戀姿絵』稽古場にて、立廻りを確認する國矢さん(右)と獅一さん(左)

 その上で、「去年8月に『夏祭版 今昔饗宴千本桜』で、忠信役を実際に演じて見て、立廻りを作る側と、演じる側の感覚の違いに驚き、本当に勉強になりました」と言い、「あのような機会を与えていただき、ありがたかったです」と獅童さんへの感謝の言葉を口にされ、師弟の絆の深さがうかがわれました。

『夏祭版 今昔饗宴千本桜』(2020年)より。獅童さん、國矢さん(写真左)と共に“三人忠信”を演じた獅一さん(右)
『夏祭版 今昔饗宴千本桜』(2020年)より。獅童さん、ミクさん、蝶紫さん、國矢さん、獅一さんが揃った、興奮のフィナーレ

 蝶紫さん、國矢さん、獅一さんのお三方が口を揃えて仰ったのは、超歌舞伎に携わったことにより「歌舞伎俳優として、成長させていただきました」という感謝の言葉でした。そして、「超歌舞伎で培ったものを、歌舞伎の本興行の舞台で生かしていくように、尚一層精進していきたい」と、皆さん力強く語ってくれました。
 
 間もなく待望の上演となる2021年の超歌舞伎『御伽草紙戀姿絵』。
 蝶紫さんの山姥茨木婆、國矢さんの平井保昌、そして獅一さんは、独創性のある超歌舞伎ならではの立廻りを作るだけでなく、出演者として初めて幕張の舞台に立ちます。
 主演の獅童さん、ミクさんのみならず、お三方の活躍ぶりにもどうぞご期待ください。

(つづく)

執筆者プロフィール

松岡 亮(まつおか りょう)

松竹株式会社歌舞伎製作部芸文室所属。2016年から始まった超歌舞伎の全作品の脚本を担当。また、『壽三升景清』で、優れた新作歌舞伎にあたえられる第43回大谷竹次郎賞を受賞。NHKワールドTVで放映中の海外向け歌舞伎紹介番組「KABUKI KOOL」の監修も担う。


■超歌舞伎連載の記事一覧
https://originalnews.nico/tag/超歌舞伎連載


 

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