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『けものフレンズ』プロデューサーの夢は大学の設立!? 福原Pが語る日本のアニメ業界に必要なこと

アニメ制作会社ヤオヨロズを作った訳

——たつき監督が合流したことでアニメスタジオとしてのヤオヨロズが生まれたのでしょうか?

福原:
 雑に言ってしまうと、別にヤオヨロズ自体はあってもなくてもどっちでも良かったんです。ジャストプロとつばさエンタテインメントという2社でいつもアニメをやるという形になっていたので、製作委員会からみてもややこしいじゃないですか? 一つの業務を2社にまたがってやっているので、窓口を一つにするということと権利の入れ物として一個、共有の会社を寺井さんと僕とで作ったという感じですね。
 だから会社自体は大きくしようとも思っていなくて、ぶっちゃけペーパーカンパニーみたいなものだったんですよ。

——ヤオヨロズを立ち上げて、アニメに本格的に参入するのは大変だったのではないでしょうか?

福原:
 めちゃくちゃ大変でしたね。そもそもアニメがどうやってお金を稼いで資金を回収するのかもわかっていなかったんです。製作委員会方式もレコードを作る音楽業界には無いので分からなかったんです。音楽は1曲作るのに数百万レベルなので複数社で割り勘しなくても出せますが、アニメになって皆で出資し合う委員会方式という構造自体が初体験で、ビジネスモデルが全然分からなかったんです。知り合いも全然いなかったので大体はアニメの作り方みたいな本とネットで調べてアニメの作り方を覚えましたね。

——そうなんですね。でも当時だと、いわゆるセルアニメの作り方の本ではないですか?

福原:
 もちろんそうですね。だからたつき君にCGの部分も聞いたりしながらでしたね。あとアニメ業界の「普通」が何か? 普通はどうやって作っているのか? 1枚いくらで作るとかを知りたかったんです。

——MMDを使ったりと全く新しいアニメで、「普通」をそのまま応用出来たのでしょうか?

福原:
 音楽でも、曲作る人も居れば歌う人も居て、スタジオの都合もあり、ジャケットの制作からプロモーション等、複数の人間にスケジュールの進行指示を与えるのは一緒なんです。
 僕は色んな仕事をやっていると言われるんですけれど、一つの仕事しかやっていないんです。乗っかっている知識が違うだけで、人とお金とスケジュールの管理という同じこと=プロデューサーしかしていないんです。知識と人材はもちろんカテゴリーによって違うんですけど、そこの業界のフローだけ分かれば、別にそんなに違うことをしているわけじゃないんです。

 僕は音楽のプロデューサーとかもやっていますけど、別に楽器とかも弾けないし、楽譜とかも読めないし、絵も書けないし、CGも触れない、何も出来ません。基本は才能あるクリエイターとかをコーディネートしてビジネスマンにくっつける作業がメインなんです。だから音楽で「この音が良くないね」とかアニメなら「この絵がどうだこうだ」という話は全然出来ないんです。もうちょい派手な方が良いねとか感覚的な指示はありますけど。
 どちらかといえば、僕が見るのは「人」なんです。そういう点で言うとたつき君の人柄が良いなというのと、出来ている映像が良いなという2つぐらいしか僕は分からないんです。音楽の場合もそうなんです。イイやつとちゃんと話して作ったらイイ物が出来る。僕が「人間が好き」というところが最後の武器になるんです。

——しかし、アニメ以外も多く手掛けるプロデューサーはまだまだ珍しい存在じゃないかと思うのですが。

福原:
 何で珍しいかというと、日本の良い部分と悪い部分の両方あると思うんです。プロデューサーには、インディペンデントのプロデューサーと会社に勤めているハウスのプロデューサーの2タイプあって、アメリカでは基本的にプロデューサーの主導で、しかもインディペンデントのプロデューサーが多くて、自分でお金を集めてクリエイターを引っ張ってきて作品を作っていくのが中心ですが、日本では製作委員会システムがあって、みんなで得意分野をシェアしていくというやり方があります。
 どっちが良いという訳ではないんですけど、僕はエンタメの醍醐味としてはなるべく関わることが出来る分野が多ければ多いほど楽しいと思うんです。大変でもありますけど。

『けものフレンズ』でのプロデューサーの仕事とは?

——『けものフレンズ』は委員会方式を取っていますが、凄く作り方がインディペンデントっぽいなと思いました。

福原:
 そうですね。だから委員会の方々には物凄くご迷惑をかけているとは思いますけど。

——そうした作り方になっているのは、福原さんが意図的にこうしようと思った結果なのでしょうか?

福原:
 表現が難しいんですけど、たつき君がやるクリエイティブだとこういうやり方が最も良いというところがあります。それを無理に既存のルールにはめた時に、最悪の場合、ツマンナイというレベルだったら良いんですけど、納品出来ないというレベルになった時が一番怖いなと思っていて、ちゃんと仕事として納品するのが最低限のゴールで、その上で面白いという二段構えだと思うんです。作り方自体が特殊なので委員会の皆さんには何度もご説明して、納得してもらったかどうかは分からないですけど、進めました。
 特にウチみたいに実績のない会社に、発注して一緒にやろうと言ってくれる委員会なので、とても理解が深い方達だったと思います。

——オフィシャルガイドブック1のたつき監督のインタビューで、「素材の良さをろ過しない」ということを仰って、福原さんも物凄くその部分に重点を置いていると思ったのですが。

福原:
 僕もこの人がどんな人か、までは分かるけど、作品の中身まではどうやるべきか細かくは分からないんです。そこのクリエイティブに関してはたつき君と吉崎観音先生に任すしかないところではあるんです。
 基本的に僕は、こいつは嘘つかないやつだとか、絶対手を抜かないやつだというところまでは見抜けると思っているので、その人が全力でやっていたらそれがウチの上限なんです。

『けものフレンズ』より
©けものフレンズプロジェクトA

「たつき君はゴッホみたいな人」

——以前の作品では即興やライブ感が強いものだったのが、『けものフレンズ』では脚本も決まっていて、作り込まれた世界観や設定のあるものになったのは、何度も見てもらえるパッケージというのを意識したものなのでしょうか?

福原:
 あんまりそこはなくて、僕自体がこの業界で作りたかったアニメは元請けで30分1クールの普通のアニメなんです。影響受けてきたものがエヴァやハルヒとかエポックメイキングな作品で、普通に感動していた立場だから、作りたいのはそういうものだったんです。
 『直球表題ロボットアニメ』の時には30分1クール分のお金を僕は集められなかったんですが、それがその時の僕の全力だったんです。

 今回の『けものフレンズ』も究極を言うとヒットしなくても、まずは1クールちゃんと納品出来れば、僕らのやってきたことが間違ってなかったんだという一つのゴールかなと思っていました。
 ヒットするというところまでを確実にやらなければ、というような高い目標は製作委員会の皆様には申し訳ないですが、とてもじゃないけど考える余裕はありませんでした。まず落とさずに納品するということだけでもアニメの元請け制作会社としてスタートラインに立ったという感じなので、必死にずっとやっているだけなんです。

 僕はCGアニメにこだわっている訳でもなくて、基本的にはアニメを作りたいだけです。たつき君の作る手法がたまたまCGで、自分たちが見ていて楽しかったアニメを自分達で作りたいというだけなんです。皆さんはCGだからどうこうと言いたいのかもしれないですけど。

——今は、そうしたアニメを作りたいと思っている人にとって、実はセルルックの3DCGが一人でアニメを全部作ることを実現するツールになっているのかなと思うのですが。

福原:
 CGの技術がある方であれば、動画編集ソフトのAfter EffectsとかPremiereとかを使えるはずなので、アニメに必要な入口から出口までのフローを頑張れば完パケまで持っていけるという点での良さはあるかもしれないですね。手書きのアニメーターだったりすると、分業が非常に進んでいるので一人では難しいですよね。

 僕は、たつき君はゴッホみたいな人だと思っていて、ゴッホって生前に売った絵は1枚しかないという説がありますけど、亡くなってからはこれだけ売れて評価されているじゃないですか? だから、たつき君も放っておいてもずっとニコ動とかにアップし続けて僕じゃ無い誰かにきっと見出されていたはずです。
 僕はたまたまその誰かより先に見付けて、世の中に「こいつ面白いよー」って言っただけなんです。たぶん、たつき君は僕と出会ってなかったとしてもずっと作っていたでしょうし、それも芸術的なアートアニメでは無く商業向けのエンタメアニメを一人で全部作っていたんじゃないでしょうか?
 ゴッホの時代にネットがあればきっと誰かが「ゴッホのひまわりめっちゃいいよー!」って誰かが言っていたんだと思います。

 「嚢中の錐」ということわざじゃないですけど、やっぱり才能がある人ってどっちみち周りが放っとかないから、いつか引っ張り上げられると思うんです。

福原:
 そうやって見つけたたつき君に僕は委ねているだけです。僕はアニメのフローとか創作のやり方とかあんまり知らないからたつき君に委ねているだけで、僕が経験者だったらもっと色々言うんじゃないですかね。結果的に今の関係性に落ち着きました。

——でも色々言わずに後ろから支えてくれるのって、クリエイターから見たら理想的なプロデューサーではないのでしょうか?

福原:
 ただ、引っ張っていってあげることが出来ないですからね。ビジネス面だったら各カテゴリーをジャンルレスに僕は分かりますけど、アニメに関しては「こういうふうにした方が絶対面白くなるぜ!」とアドバイスする事が出来ないんです。本人が永遠に学ぶタイプだったりすれば、時間と共にどんどん成長するけど、経験豊富なプロデューサーのアドバイスと共に成長するタイプだと、僕はその監督の力にはなれない。ただ、そこの部分を今、お客さんが担ってくれているかもしれません。
 リアルタイムにコメントで「ここはああだよね、こうだよね」とか「ここ分かんねぇ」とか、伝わったか、伝わってないかが完全に判るじゃないですか? たつき君自体、10年近くニコ動にずっとアップしているので、どこで何を上げて、どんなコメントが返ってくるのか? というビッグデータが頭の中にあるんだと思います。なので、たつき君と僕は気が合うからやってこれているだけの話で、結局、プロデューサーに必要なものって情熱とか人情で、スキルでは無いんですよね。

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