Yostarがアニメ制作会社を設立した理由──労働環境の改善、チーム作り、作品への愛…いいアニメを作り続けるために変えたかったこと【李衡達×稲垣亮祐×斉藤健吾】
制作もアニメーター同じ責任をもって作品に向き合う
──ではそんなYostar Picturesにて、李社長、稲垣さん、斉藤さんそれぞれの役割はどのようになっているのでしょう。
李:
僕は仕事をしていません! 会社の登記を早くすませるために、とりあえず僕が社長をやっているだけで、基本的に現場の方々にお任せしています。強いて言えば、お金(予算)を出すのが僕の仕事です。
──と、李社長はおっしゃっていますが?
稲垣:
ありがたいことにある程度お任せいただいています(笑)。基本は、自分のほうで必要なメンバーを選出し、もうひとりの取締役の柴田さん【※】と話し合って、最終的に決算いただくみたいな。
※Yostar Pictures取締役の柴田進氏。Yostarの管理部長を兼任し会社運営を担当。
斉藤:
そうして降りてくる案件に対しての人員配置が僕の役割でしょうか。「この人だったらこういう作画が得意だから、この案件をお願いできる」だとか、「この人にはこんな内容の仕事に挑戦させてあげたい」など、状況に合わせて僕から仕事を振っていく感じです。
──一般的なアニメ制作工程における、アニメーションプロデューサーや制作デスク、制作進行……いわゆる制作班のスタッフがやっている仕事を稲垣さんと斉藤さんが分担しあってるみたいなイメージですか。
稲垣:
“分担”というより“いっしょに”というイメージのほうが近いかもしれません。
僕の持論として、制作側もアニメーター側も同じ責任をもって作品に向かい合いたい想いがあります。制作側、アニメーター側とで分けすぎても、お互いに隔たりが生まれてしまうかと思いますし、どちらかが悪いから、どちらの責任で、とかではなく、お互いに協力して作品を完成させていこう、みたいな。
斉藤とはこれまでいっしょにやってきて、同じ感覚で仕事ができていると思っているので、『アークナイツ』PV制作含めて、Yostar Picturesでも同様に任せている感じです。
斉藤:
作りかたもちょっと特殊なんです。まず稲垣さんが制作スケジュールをざっくり作り、それが僕のところに降りてきます。PV制作ですと、5、6人のスタッフで作ることになるので、僕が主導して担当を決めて、仕事を進めていきます。
稲垣:
実際にアニメーター側の人間に音頭をとってもらったほうが、人も集まりやすいんです。PV制作がメインのいまだからできているのかもしれないので、今後どうなっていくかわからないですが、現状この雰囲気ができているのは非常に理想的だと思います。
斉藤:
みんなでスケジュールを共有しているから、もし他の人が間に合わなくなりそうになったときに、すぐに誰かが手伝える。そんな状況がいまできているのを、維持していきたいですね。
稲垣:
制作班が主導していると、どうしても「制作班のスケジュールの仕切りが悪いからこんなことになったんだ!」とアニメーターのみなさんには不満が溜まりがちなんです。
それがいまの体制だと、作業に入る前の段階で斉藤から「この納期でこのくらいのスタッフを集められれば、これくらいのクオリティの映像ができる」と、言ってもらえるので、その基準に辿り着くためのサポートにも入りやすいですし、社内にいるコンポジット(撮影)のスタッフも含めて、どう全体工程をまとめていくかの話ができるんです。
実際、そういう体制で『アークナイツ』のPVをこれまで作ってきて、すごく楽しかったんですよ。甘いことを言っているのかもしれないですが、このまま楽しんでやっていけたらいいなと思っています。
求めるのはYostarのクリエイティブの力になるための人材
──ちなみにいまは何人くらいのスタッフの方が所属されているんですか?
稲垣:
だいたい20人くらいで、最終的にアルバイトを含めると30人くらいの規模になるかと思います。
──セクションごとの内訳でいうとどんな感じですか?
斉藤:
ほとんどがクリエイターです。制作管理スタッフが増えるほどコストが上がっていくので、制作班側の視点をクリエイター側がある程度持ってもらいたい。それが僕の理想です。それによりコストは抑えられますし、スケジュール感を身に着けることでクリエイター本人の将来性にも繋がると思っています。
──そうして身につけた自己管理能力は絶対に活きますよね。ともあれ、同じ規模の通常のアニメ会社と比べると、アニメーターさんが多い体制なわけですか。
斉藤:
そこなんですが、仕事の内容をアニメーターに限定したくないとも思っていて、募集にも“アニメーター募集”ではなく“クリエイター募集”とあえて銘打たせていただいているんです。
というのも、Yostar側の仕事でも我々のできることは絶対にあるはずなんです。例えばLive2DやゲームのCGを使った映像のコンポジット(撮影)のお手伝いといった、宣伝用ムービーを作成するための仕事は、アニメーターでもできる人間はいます。
ゲーム会社側の仕事もできるようになることで、ただ“原画を描いて稼ぐ”仕事だけでなくなり、さらに出来高の概念から外れるはず。そんなアピールを、我々としてはしたいと思っているんです。
──そんなところも新しいかたちですよね。それこそ最近の若いアニメーターさんは、みなさんPCやタブレットを使用して作業されているわけですから、ソフトの使いかたを覚えれば、やれることはどんどん増えていくわけで。
稲垣:
そういうことですね。アニメーターの中には、せっかく能力があるのに、原画だけやっているから稼げない人もいるんです。でも、原画の手が速くなくても、ほかのスキルを持っていて、しかもそのスキルはゲーム会社としての仕事だと代えのきかない貴重な能力だったりするケースも少なくなくて。
アニメ制作に限らず、Yostarさんのクリエイティブの力になるための人材、と思ってクリエイター募集をさせていただいています。
Yostar PicturesのWebサイトがオープンしました。https://t.co/Pm6oJDdTkj
— 株式会社Yostar Pictures (@YostarPictures) January 8, 2020
メンバーの募集も同時に開始しています。
私たちと一緒に新しい映像を作りませんか?#Yostar#YostarPictures
──アニメーター班と制作班の仕事を混在させることに加えて、絵に関連した仕事の中でもセクションを分けず、自由に行き来を可能にする。そんな発想なわけですね。もしかして、制作環境をデジタル統一にしているのも、その意識があるからですか?
稲垣:
おっしゃる通り。デジタル作画とアナログ作画の混在が、いま制作のワークフローの中でもっとも混乱を生み、コストがかかる部分ですので、紙は極力なしで。地球の環境のためにも(笑)。
──Yostar Picturesで働きたいと思ってる方っていまでも多いでしょうし、今後もどんどん増えていくと思います。ズバリ、Yostar Picturesで求めている人材、資質とは?
李:
さきほど触れましたが、アニメーターではなくクリエイターですね。あとは社会人としての常識を持っている方。
あとは応募いただくときに送っていただくポートフォリオが履歴書以上に重要です。どのような作品を作られるのか、現時点で持っている技術や今後うまくなる才能、その人の人間性など、だいたい作品に出てきますから。
稲垣:
そうですね。あとはチームで動いていくので、コミュニケーションできるかどうか。僕や斉藤との相性も大事な部分です。
円盤売上頼りではないアニメの新たなビジネスモデル
──現状のタイトルを見ていると、運営タイトルのプロモーションとしてのアニメ制作が、Yostar Picturesの主軸になっていると思うのですが、今後、アニメ作品のみでも独立して採算がとれるようなかたちでの作品展開も検討されておられるのでしょうか?
李:
正直なところ、この業界では目先のことをやるだけで精一杯なので、そこまで深くのことは考えていませんでした。
しかし、みなさんのおかげでPVを公開してからの反響がよく、なにか期待されているっぽい感じはちゃんと伝わっています。我々の会社は、デカい目標は設定せずに、なんとなくの空気感で行動する会社ですので、そこまで言われたらやるかもしれないです(笑)。
──期待がものすごいですからね……。
李:
でもぶっちゃけ、利益に関してはそこまで考えていませんでした。なぜかというと、我々のビジネスの主体はスマートフォンゲームの運営ですから、収益の軸としてはそこが基盤にあるんです。
いまのところは、Yostar Picturesでは社内の既存タイトルに関連した作品を作り、いいものを作ってユーザーさんの間で盛り上がってもらって、その人たちがまたゲームを遊んでくれて、ちょっとだけお金を落としてくれるんだったら、それでいい。そこで収益をトータル的に考えられればいいんです。
普通のアニメの円盤売上だよりなビジネスモデルより健康的だと思いますし、これまでとは異なる視点で作品のポテンシャルを見られる新しいビジネスモデルを作れるんじゃないかと。
──メーカー主導の製作委員会モデルとは違ったかたちですよね。
李:
ちょっといやらしい話になるかもしれないんですけど、昔のロボットアニメやヒーローアニメも、関連商品の宣伝という側面を持っていたりするじゃないですか。そこまで赤裸々にとはいかないですが、ゲームとアニメのふたつを連動させて、トータルで収益を見られるような感じで動きたいなと思っています。
──ある意味、日本のテレビアニメのビジネスモデルとして、原点回帰に近いところではありますよね。お菓子やおもちゃを売る代わりに、ゲームの収益を高める。そのためのより洗練された仕組みを作っていこうとしているように感じます。稲垣さんや斉藤さん的には、野望というか、展望というか、今後目指していきたい目標はありますか?
稲垣:
最初に労働環境の話をしましたが、もっと本質的な話をすると、お金の問題ではないんです。僕たちの目標は“もっとちゃんとクリエイティブに集中して仕事したい”ということなんです。本当に、それに尽きます。
アニメ業界だけの話ではないかもしれないですけど、作品を作り上げたはいいものの、その一本を作るために疲弊して、死んでいく現場をたくさん見てきました。
いい作品ができたならまだいいですよ。いいものができなくて、会社も、人も残らなくて、いったい自分たちはなにをやっていたんだろう……というケースは、アニメ業界にはたくさんあるんです。安定した環境を作ることで、よりよいものを作ることだけに集中できるようにするのが、当面の目標ですね。
斉藤:
いま、Yostar Picturesではその目標に向かえているように感じているので、僕としてはこの現状を維持していけるようにがんばるのが目標です。あとは、Yostar Pictures側からも、もっとコンテンツを提供していきたいと考えています。「こういうCMを作ってみるのはどうですか?」みたいに。
稲垣:
そうですね。言われるままやっていくのではなく、我々のほうからもこういうのができますよ、というのをどんどんあげていくべきかなと思っています。そこのコミュニケーションもYostarさんとならうまくいくと思うので。
──ゆくゆくは……な大きな質問をしてしまいましたが、直近でいうとなにかしらアクションはあるのでしょうか。
李:
いろいろ仕込んでいますよ! まだ公表はできないですけど(笑)。
──せっかくなので、公表できるものをなにか、ぜひ!(笑)
李:
そうですねー。『アズールレーン びそくぜんしんっ!』は、何話になるか、どういうかたちで公開するのかなど、まだいろいろと調整中ですが、2020年中にはなにかしらのかたちで出ます。
同席編集:
『アズールレーン びそくぜんしんっ!』毎話ありがたく読ませていただいています。必ず1コマは青少年の性癖をぶっ壊すような描写があって、アニメ化非常に楽しみにしています。
李:
『アズールレーン びそくぜんしんっ!』はまあまあエッチですね。最初は全然エッチじゃなかったんですけど、だんだん作家さんがエッチにしていきたいとおっしゃって、いまあんな感じです。
同席編集:
作者さんすばらしいですね。最後の最後に変な話を出してしまいましたが、『アズールレーン びそくぜんしんっ!』に『アークナイツ』PVにと今後の展開を楽しみにしています。
李:
いや、エッチな話をケツに持って行くのは最高です。
──(笑)。本日はありがとうございました!
労働環境を整え、制作側もアニメーター側も同じ責任をもって作品に向かい合い、“分担”ではなく“いっしょ”に作品を作っていく。そんな体制でアニメ作りが行われているYostar Pictures。
そこには、純粋に「よりよいものを作ることだけに集中したい」という、アニメ制作に携わるクリエイターの想いが詰まっていた。
とくに、取材中、李氏が語ったこの言葉が頭から離れない。
「作品を作る人たちが好きで楽しんで作れないと、ユーザーが楽しめるコンテンツになるわけがない」
ユーザーと同じ目線から作品を愛し、楽しむ。それこそがYostarらしさであり、Yostarの魅力なのだろう。そしてYostar Picturesにも間違いなくこのイズムがある。そう強く感じたインタビューであった。
アニメ業界という大海原に乗り出したYostar Picturesが、今後どのような海路を進んでいくのか。その航海のなかでユーザーにどんな景色を見せてくれるのか、非常に楽しみである。