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Adobe本格参戦でコスプレの未来はいったいどうなる? フォトショップの伝道師と現役コスプレイヤーに話を聞いてみた

 コミケ・ニコニコ超会議といったイベントに欠かせない存在となったコスプレイヤー。イベント終了後には、選りすぐりのコスプレ画像を並べた「美女コスプレイヤーまとめ」などがネットで拡散され、自慢の衣装に身を包んだコスプレイヤーの姿が多くの人の目に届くこととなる。

 そんなコスプレ画像だが、撮影された画像がそのまま使用されるだけでなく、“レタッチ”と呼ばれる画像加工を施して、よりハイクオリティな画像として公開されるケースも多い。Photoshopのような画像加工ソフトが使いやすく高性能になるに伴い、コスプレイヤー本人が画像加工をするケース、さらには画像加工を前提として(衣装をキャラに近づけるのではなく)あえて“画像加工しやすい”衣装を選ぶケースなども出てきているという。

 画像加工が当たり前になりつつあるコスプレの世界に、プロからアマチュアまで多くのユーザーが使用する画像加工ソフト「Photoshop」を提供するAdobeが本格参戦。ニコニコ超会議2017の「超コスプレエリア」をサポートする形で、その場で撮影された写真がプロのフォトレタッチャーによって画像加工が行われ、高クオリティの作品に仕上がる様子を紹介するステージ企画などが行われた。

当日撮影されたスパイダーマンと大倶利伽羅(刀剣乱舞)の写真。編集の後、いったいどんな画像になるのかは記事の最後に掲載

 Adobeはなぜコスプレイベントを公式サポートしたのか。そして、画像加工の進化によってコスプレの今後はいったいどうなるのか。超コスプレエリアに当日参加していたアドビ システムズ 株式会社の栃谷宗央氏鈴木依子氏、そしてコスプレイヤーでニコニコ動画でアニメOPの実写化をしている鎖音プロジェクトのリーダーであり、自ら映像編集、フォトレタッチなどの画像編集を手がけるラブマツ氏に会場でお話をお聞きした。

取材・文/サイトウタカシ


アドビ システムズ 株式会社 栃谷宗央氏(左)、鎖音プロジェクト ラブマツ氏(右)

ラブマツ氏がリーダーを務める鎖音プロジェクト「進撃の巨人OP 実写にしてみた」動画

アドビが超コスプレエリアをサポートする理由

――まず今回、超コスプレエリアにSupportedとしてアドビさんが入られた理由を教えていただけますか?

栃谷:
 今年、初めてアドビとしてはニコニコ超会議に出展・協力させていただきましたが、人の熱気と数、特に若い方がすごく多くて、ニコニコさんから生まれた、という部分が出ていて良いイベントだなと思います。

 超コスプレエリアにアドビが協賛として入ったのは、やっぱりコスプレというのは衣装を着るだけではなくて、自分自身の作品として写真を撮ったり記録に残すことが目的の方が多いと思うのですが、どうしても記録に残ったものが自分の記憶とマッチしない時が多いというのがあるんです。

――そもそも、写真自体がなかなか目で見た通りに撮るのも難しいですよね。

栃谷:
 そうですね。あと、様々なアニメ・ゲームのキャラクター等の空想上の人物のコスプレとなると、こう在るべきというイメージがどうしてもあると思うのですが、それにもっと近づきたい、満足できていない部分を、Photoshopを使って実現できる可能性があるかなということで今回、出展をしてコスプレエリアをサポートさせていただきました。

コスプレイヤーが画像加工に望むもの

――撮影をしてもらったものを、自分自身で加工するというコスプレイヤーさんが増えているんじゃないかな? と思うのですが、アドビさんとしては手応えを感じてらっしゃいますか?

栃谷:
 撮られる側だったコスプレイヤーさんご自身も、それだけでは納得できないという部分も出てきているのかなと思います。やっぱり自分の思い描いたものを作品にするにはどうしてもPhotoshopなどで加工をしていく、自分の欲求・欲望を満たすためにツールを使う傾向はこれからもどんどん高まっていくと思います。

 昔であれば口コミや実際に習ったり、雑誌や書籍を読んで学ぶ人たちが多かったと思うのですが、今のウェブの世界になると、オンラインでの新しい形式を吸収する人が多いと思うんです。そうしたHow to動画、「自分はこうやってます」とかをユーザーさんが自分で作って投稿したりというコンテンツがニコニコさんには凄く多いんですね。そういったもので勉強をしていくという機会がどんどん増えているというのはこれから入る人にはやりやすい、良い機会だと思います。

アドビ システムズ 株式会社 栃谷宗央氏

――コスプレイヤーさん側からの「ここを加工したい!」というのはどういったところになりますか?

栃谷:
 2点あります。まず1点目は、やっぱりプロの現場であればあるほど、肌の補正というのは絶対に必要で、すべての部分にライティングがうまく合わせられない部分もあるので、お化粧をしていたとしても、どうしてもちょっとムラが出来てしまう部分があります。そういった部分を「スポット修復ブラシ」で馴染ませる。これは初心者でも簡単にできます。

 2点目が、やっぱりコスプレイヤーさんはご自身で衣装を作っているので、撮影条件によっては色合いとか素材の質感が、ちょっと自分の思い描いたものと合わない場合があります。そういった時に、テクスチャを使うことで上手く質感が出ているようにしたり、色合いもライティングなどで変わって見えてしまうこともあるので、Photoshopの後加工で修正するというような工夫もできます。

一番圧倒されるのはコスプレイヤーたちの「こだわり」!

――コスプレは架空のものを実写化するので、通常の写真の加工とは違う工夫をコスプレイヤーさんたちはなさっていて、Photoshopのプロフェッショナルの栃谷さんから見ると驚きがあるのではないかと思うのですが?

栃谷:
 当然ありますね。商業広告を基準とすると「これで良いの?」というような作品があるんですが、逆にそちらの方が正しい場合があるんです。例えば、その作品の世界観では、肌などがのっぺりしていた方が良いんです。

 そういった意味では、数々の皆さんの作品はみんな素晴らしいんです! なかでも、一番圧倒されるのは彼らの「こだわり」です。このエリアを歩いていても、キャラクターに近づける、作品の世界観に近づけているという部分には凄く魂込めているなと思います。そういった時に、どうしても満足できない部分にPhotoshopを使われていると思います。

――コスプレイヤーさんの技術的なトコロで驚いたトコロはありますか?

栃谷:
 例えば、ラブマツさんはAfter Effectsという動画の特殊効果も使うんです。Photoshopのレタッチの技術だけでも凄いのに、それだけでは満足できずに特殊効果も加えていく。彼の脳みその若さというのが羨ましいですね。

 また、コスプレイヤーさんだからこその使い方もありまして、例を挙げるとカラコン(カラーコンタクト)の色を変えるとかですね。あれは私では思いつかないですね。コスプレイヤーさんにとってはカラコンがデフォルト・標準になっているので、そこで雰囲気を出すとか目を強調するんですが、色がちょっと違うので合わせたいと。そういうのはやっぱり違う世界でしたね。

コスプレ向けのレタッチの情報はまだまだ少ない

――自分は絵を描くのですが、ニコ生を拝見していて、そこでコスプレイヤーさんが少しだけ飛び出た髪の毛を消していたり、自分が絵を描くときにリアリティを出すために描き足すような部分を逆に消しているのが面白いなと思いました。リアリティに行くのか? ファンタジーに行くのか? の違いなのでしょうか?

鈴木:
 絵の方がよりリアルにしようと心がけますし、コスプレの方はリアルなので逆に2次元近づけようと思って、お互いに近づけていくんです。

――最近の3DCGもリアルな方向に行くとより肌の質感とか出していて、逆にコスプレイヤーさんだったら消すようなところまで作っているので、その違いが面白いですね。

鈴木:
 コスプレ専門のレタッチャーさんとお話しした時、普通の商業広告とかのフォトレタッチだと肌の質感を残しつつ、毛穴を消すとか、ちょっとほうれい線が出ちゃったのを消すとかするんですけど、コスプレイヤーさんの場合はどちらかというと立体感をできるだけ排除して、アニメっぽい平面に近付けていく作業をしたいと仰っていて、その辺も全然違うと思いましたね。
 世の中にはいわゆる普通のレタッチ術は一杯あるんですけど、そういうコスプレイヤーさんが求めているコスプレのレタッチの情報はまだまだ少ないのです。ニーズとしては絶対あると思うんですけど、皆さん情報が無いので、なかなか取り組むのも難しいと思っている。やってみたいんだけど、やれないと思っている方が特に若い方でとても多いので、自分でも出来そうと思ってもらえると良いなと今回出展しているんです。そういった部分で役立つ部分があれば良いなと思っています。

――コスプレイヤーさん側から画像加工にこんな機能があれば……というような要望は来たりするのでしょうか?

栃谷:
 要望よりも、彼らから話を聞くと「不安だ……」という方の印象が強いんです。というのは、「このやり方で正しいんですか?」「この方法であってるんですか?」ということをよく聞かれるんです。やっぱりそれって、ある限られた世界の中でやっている関係上、あまり情報が入ってこないような傾向もあるかもしれないです。でも、私から言わせると「ご安心ください」と。最終的な形がみなさんが望んでいるもの、満足されるものに近づいていれば、それで良いんです。

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