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“踊ってみた”ら世界はどう変わった? ――全身麻痺、壮絶なリハビリ…それでも私が踊る理由。車椅子のダンサー・あやなななインタビュー

ニコニコ超会議は自分への挑戦でした

――これまで19本の踊ってみた動画を投稿されてますが、今までに一番思い出に残っている投稿はどれですか?

あやななな:
 ニコニコ超会議のエントリー動画『お気に召すまま』です。自分への挑戦でした。

――挑戦ですか……それは、どういう意味で?

あやななな:
 病気になったのに、まだステージにあこがれていていいのかなという気持ちがあったので、すごく不安でした。エントリーするときにタグづけをすると、いろんな方がそのタグ【※】を検索して見るじゃないですか。
 そのときに車椅子に座っていたら、見る人が驚いてしまうかなっていう不安な気持ちがありました。

※そのタグ
ニコニコ超会議のステージに出場するには、タグに「踊フェス_通常枠」とセットしたエントリー動画を投稿し、運営の審査に合格する必要がある。

ニコニコ超会議2018のステージに立つ、あやなななさん
(画像は『超踊ってみた supported by JAL@ニコニコ超会議2018[DAY1]』より)

――実際は、やってみていかがでしたか。

あやななな:
 またもや温かいコメントをいただけて(笑)、びっくりしました。規模が大きくなってもやっぱり車椅子のことはふれられなくて。気遣ってふれないとか、ふれちゃいけないとは思ってふれない、という感じじゃなかったんです。
 別にふれられても嫌じゃないんですけど、踊りそのものについてコメントをしてくれる方が多かったので、うれしかったです。もう見てくださってる方、みんな優しくて。

(画像は『超踊ってみた supported by JAL@ニコニコ超会議2018[DAY1]』より)

――コメントの中で嬉しかった言葉は何ですか?

あやななな:
 ノーマライゼーションニコニコです。ノーマライゼーションっていうのは、健常者と障がい者の壁がない世界のことを言うんですが。そう書かれていたときに、すっごく嬉しかった。

 私もあえて「車椅子で踊ってみた」というタイトルをつけなかったんですね。車椅子って言ってしまうと、壁を作ってしまう気がして好きではなかったので。私の理想をわかってもらえたような気がして。

――動画のタイトルに「車椅子」と付けなかったとのことですが、それ以外にも動画作りでのこだわりはありますか?

あやななな:
 踊りについてのこだわりというか、曲選びに関してはこだわっています。なるべく明るい曲で踊りたいと思っているんです。普段好んで聴くのは、さみしい感じの曲が好きなんですが、踊る時はほとんど明るい曲で踊ってます。

――自分の趣味で聴く曲と、メッセージとして発信する曲は分けて選んでいるということですね。さみしい曲を選ばないのには理由があるんでしょうか?

あやななな:
 車椅子イコール「悲しい」っていうイメージが世間にはあると思うんですね。悲しい曲で踊ると、車椅子と悲しいイメージがどうしてもつながっちゃうと思って。
 ほかにもSNSにはネガティブなことを一切書かないようにしています。嫌なことがあったりしても書いたりはしないですね。悲しいなって思っても。

――じゃあ、何か嫌なことが溜まったときにはストレス発散はどうしてるんですか。

あやななな:
 家でクッションを当てて、ああーって言ってます。ああーって(笑)。

――暗いんだか明るいんだかわからない(笑)。

病気になる前よりもアクティブになっていると思います(笑)

――ご自身のインスタに「人生、二回目の専門学校が始まります」と投稿されていましたが、現在はどのような日々を送っているのでしょうか?

あやななな:
 最近仕事を始めました。かけもちで事務の仕事と、美容部員をしてます。一回目の専門学校は美容関係で、美容部員はずっとやりたかったんです。今は、二回目の専門学校として心理カウンセラーの学校にも通っています。車椅子になって、たくさんの方とお話しして、人の気持ちをわかるような人間になりたいなと思ったのがきっかけで勉強を始めました。

――仕事して、学校に通って、ダンスも撮って……すごく忙しいですね!

あやななな:
 そうですね。病気になる前よりもアクティブになっていると思います(笑)。私、こんなこと言うのもあれですけど、元気なときより今のほうが楽しいです

――Twitterを見ると、ファッション分野での活動も発信されていますよね? “車椅子用のドレスとレインコート”についてのツイートを拝見しました。恥ずかしながら、そういえば車椅子の方は雨が降ったとき、どのようにしているのかな……と。

あやななな:
 私の場合は電動車椅子なので、片手でレバーを操作して運転できます。なので、空いたもう片方の手で傘をさすことができるんですね。でも、手動の方は両手がふさがってしまうのでレインコートを使用するか、ほとんど皆さんは外に出ないんじゃないでしょうか。

――ということは、手動の車椅子を使用されている方は雨に降られたら、もう諦めるしかない、みたいな感じなのですか?

あやななな:
 一番には、“危ない”ということがあると思います。特に手動の車椅子の方は車輪のグリップの部分が滑ってしまうので……。雨の日に車椅子の方って、あまり見かけなくないですか? 

――言われてみれば、そうかもしれません。そんな状態でもレインコートであれば車椅子に座っている状態でも着ることができるということだと思いますが。このレインコートのこれまでのものとは違う特徴はどういった点でしょうか?

あやななな:
 デザインですね。真っ黒だったりして、かわいくないレインコートが多いイメージがあったんです。それでかわいいデザインのものがないか調べたんですが、全然出てこないんですね(笑)。なので、車椅子でもかわいいレインコートを着ることで気分を上げて外に出られたらなって。

――さきほど、「かわいいデザインのものが少ない」とのことでしたが、それはレインコートに限らず、車椅子関連のグッズは需要が少ないがゆえにデザインを選べるもの自体が少ない、ということですか?

あやななな:
 そうですね。基本的に機能重視みたいな感じなので、あるだけいいかなとは思うんですけれど、やっぱりかわいくないのはちょっと寂しいなと思ったんです。

――やっぱり、車椅子生活の方が着たい服を諦めるというのはよくあることなのでしょうか?

あやななな:
 めちゃくちゃあります。かわいいプリーツや広がったスカートを履きたくても、それだと車椅子のタイヤを巻き込んじゃうとか。この丈かわいいけど座ったらめっちゃ上がって下着が見えちゃうな、とか。私は手の感覚がないので、ボタンを後ろでとめることができないんです。なので、なるべくボタンがない服や座った時にあまり崩れないような服を選びがちになります。

――ということは、ご病気になられる前と今とでは、着ている服は全然違っていたり?

あやななな:
 全然違います。着たい服がほとんど着れないのが今の状況なので。毎日「本当はこの服、着たいのに!」って思ってます。元気なときに着ていた、もう着れない服がいっぱいあるので全部メルカリに出しちゃってます(笑)。

――自分の気に入っているかわいい服を着て気分をあげたい、という気持ちは誰しもあるものですよね。そういう気持ちを汲み取った製品って素晴らしいなと思うのですが、そもそもあのレインコートが生まれたのはどういったきっかけだったのでしょうか?

あやななな:
 きっかけは福祉のイベントで知り合ったデザイナーさんから連絡をいただいて「車椅子生活で、何か困ったことない?」というお話をしているときに「雨が降るとき困るな……」という話題になって、そこからレインコートや洋服、ウェディングドレスを作り始めました。それから「ドリンクホルダーもかわいいものがない」って話をしたら、それも作っちゃおうよって感じで作ったり。

――素晴らしいですね。レインコート、ウェディングドレス、ドリンクホルダーときて、今はまだ着手できていないけれど次はこういうグッズを作りたいと思うのはありますか。

あやななな:
 実は、このレインコートを試しに作ってみたら素材にすごいこだわってしまったみたいで、あまりに高くつきすぎる感じになってしまったんです。なので、もう少しリーズナブルな試作品を作ったりしていて、クラウドファンディングを3月にスタートさせて先行販売を予定しつつ、一般向けには2020年の5~6月に販売予定となっています。
 今は新しく化粧品を作ろうという話も出ているんですよ。片方の腕と足しか動かない病気の患者さんはメイクをしづらかったりするんです。なので、ワンプッシュで開けてメイクができるっていう商品を作ろうかなって。

――片手で開けられるメイク道具、それなら手が不自由でなくても喜ぶ人は多そうですね!

あやななな:
 中身はもうできました。今はボトルを作っている状態ですね。あとは手が不自由な方でも片手で簡単に着脱できる、マグネットを使ったアクセサリーを作っています。

――それらを製作する中であやなななさんのポジションってどういうものなのでしょうか?

あやななな:
 当事者が私しかいないので、実際につけてみて「ここを直してください」と指示したり、デザインを決めたりする係です。私はずっと健常者として20年間生きてきたので、毎日がこんなに不便なものだとは思わなかったんです。ちょっとの段差があって、お店に入れなくて我慢したりしたことが、何回もあります。あとはエレベーター。この階段とか上ったらすぐなのになとか、常に思います。だからこそ気付けることもあるかなって。

“踊ってみた”ら人生が変わった

――ファッション分野のお話から話題は変わりますが、「国際福祉機器展」で福祉車両を紹介する動画を投稿しておられましたよね? 

あやななな:
 あの動画、実際にカメラマンさんがいたんですけれど「やっぱり自撮り風に実況してほしい」ということで、急遽私が自撮り棒で回すという形になったんですよ。

――ちなみに車椅子生活になる前は、ご自身で車を運転してお仕事に行かれたりしていたんでしょうか?

あやななな:
 車は運転してました。バイクも好きで乗っていたんですよ。

――そうなのですね。バイクというとスクーターみたいな?

あやななな:
 最初に乗っていたのが、ゼファーで……。

――え! 400ccのゼファーですか!?

カワサキ・ゼファー(ZEPHYR)。
(画像はWikipediaより)

あやななな:
 16歳のときに免許を取って、いろんなところにお出かけしてましたよ(笑)。

――動画からはわからない素顔がどんどん明らかになっていますね(笑)。話を戻しますが、ご病気をされてからのお出かけはどのようにされているのでしょうか?

あやななな:
 今では、基本的に乗せてもらっています。やっぱり車椅子だと車に乗り込むときにも不便さがあって、まず車に乗り込む時に自分の車椅子から移乗するのが大変なんです。車の運転は手でできるようになっているんですよ。左手でアクセルブレーキ、右手でハンドルが操作できるんですね。

 なので、操作には不便はないかもしれませんが、乗り移って自分の車椅子を助手席に乗っけたり、後ろに乗っけたりすることが大変かなって思います。動画で紹介した福祉車両は車椅子に引っ掛けるだけで、車内に車椅子を釣り上げて置ける。そういう装置を販売したりしていますね、それも動画で実演してきました。

――あやなななさんは、病気になったことをバネにしてパワーアップしているように感じます。

あやななな:
 そうかもしれません。“踊ってみた”がなかったら、私、ここまで外に出てたとは思えないんです。外に出て、踊って、動画を撮って、コメントを見てうれしくなって、それを繰り返すことで体力がついていって……。この経験が今のいろいろな活動につながっていると思うと、本当によかった。

――オーディションに挑戦して、闘病生活を経て、ニコ動デビューをして……まさに激動なのですが、そんなあやなななさんの最終目標があれば教えてください

あやななな:
 やっぱり本当は立って踊りたいです。立って動画を出すことが、一番の目標です。「何で私なんだろう」っていうのは、今でもずっと思っています。10万人に1人の病気が、なぜ私だったんだろうって。

 でも、得たものの方が大きかった。踊ってみたをこれからも続けて、楽しい生活を続けていきたいという希望ができた。その活動の先に、壁のない世界が広がれば最高だなって思います。世の中が幸せになって、ノーマライゼーションの世界になるといいなって。そのために今、毎日リハビリをして、いつか立って踊りたいです。

[了]


 難病に侵されながらも発信を続ける、彼女のパワーの源とは何なのか? その疑問から始まった今回の取材。終わってみると、あやなななさんの「ど根性ガール」ぶりに取材陣は圧倒されていた。

 絶望の最中にあっても、自分の未来を信じる力を失わなかったこと、それこそが彼女の強さの源なのではないだろうか。 
 いじめや闘病生活など、“地獄”とも言える壮絶な出来事に立ち向かい、それをバネにして飛躍する彼女の生き方そのものが、ポジティブなメッセージを発信しているがゆえに、彼女の“踊ってみた”は見る人を惹きつけるのだろう。

 あやなななさんの今後のさらなる活躍を期待しつつ、記事の締めくくりとしたい。

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