ベイカー・ジャンプ・タンク――“跳ねる戦車”は実在した!? 9トンの巨体で高さ1.2メートル、幅14メートルを飛び跳ねる戦車はいかにして歴史の闇に葬られたのか?
悪路を走破し、軍事作戦を実行する兵器・戦車。重厚なドッシリした見た目のイメージを抱かれがちな兵器です。しかし、この世には「跳ねる戦車」が存在していたことをご存知でしょうか?
今回紹介するのは、ストロー=クーゲルスタインさんが投稿した『ゆっくりで語る珍兵器 第21回【Baker “Jumping” Tank】』という動画。音声読み上げソフトを使用して、サギリとアヤノのふたりのキャラクターが実現しなかった兵器「ベイカー・ジャンピング・タンク」の解説を行います。
ベイカータンクの最初のデザインは装甲がペラペラ?
サギリ:
今回の珍兵器はこちら。ベイカー・ジャンピング・タンクだ。正式な名称は多分ない!アヤノ:
ないことがまれによくある。
サギリ:
さて、遡ること1941年春。米国NDRC(国防研究委員会)は「タートル・シリーズ」という新たな装甲車の研究をしていたんだ。
サギリ:
この計画には中~重装軌装甲車だけでなく、航空輸送に適した軽装輪装甲車も含まれており、その一環としてウィスコンシン州エバンスビルのベイカー・マニュファクチャリング・カンパニー(以下BMC)にもお呼びがかかったんだ。 そして彼らが開発したのが今回紹介する一連のベイカータンクというわけだ。
サギリ:
BMCの提案は装輪装甲車ながら高い走破性能と火力を併せ持つもので、最初のデザインがこれ、バウンシング・タンクだ!アヤノ:
テクニカルかな?
サギリ:
この車両は全ての車輪に独立懸架式のスプリングサスペンションを備え、車輪が車体と同じ高さにまで沈み込むことで荒れた路面での走破性を高めるらしい。とはいえBMCのエンジニアもこんな装甲ペラペラの車両が採用されるとは考えておらず、直ちに次なるデザインが作り出されたぞ。
ベイカータンクの第二モデルは、「跳ねる戦車」
サギリ:
それが、これリーピング・タンクだ。武装は限定旋回砲塔に歩兵支援用の3インチ砲ないしボフォース40㎜機関砲の搭載が検討され、乗員は二人乗りだそうだ。アヤノ:
車長が忙しいやつだこれ。
サギリ:
ちなみに屋根にある突起が操縦手用の観測装置付きハッチらしい。アヤノ:
車長の視界は……?サギリ:
コレガワカラナイ。エンジンと変速機は後輪間のスペースに収まるため見た目よりは車内容積には余裕があったが砲の俯仰角は非常に制限されたようだ。
アヤノ:
広さに定評のあるアメ車。サギリ:
前任車両譲りのサスペンションは相変わらずタイヤの底面と車体の底が同じ高さになるまで縮むことができ、高い走破性能を誇ったうえ、なんとサスペンションの反動を使って跳ねることができたらしい。アヤノ:
なるほどわからん。
アヤノ:
なに……これは……?サギリ:
リーピング・タンク(Leaping Tank:跳ねる戦車)。と、満を持してこのデザインを提出したBMCだが、軍はこれをあっさり退け、次なるデザインが作られることになったんだ。アヤノ:
残当。
BMCが満を持して提出した「跳ねる戦車」を米国軍が退けたことに、視聴者からは「当たり前だよなぁ」「そりゃそうだな」といった多くのツッコミが……。
ベイカータンクの第三モデルの特徴は「伏せ」
サギリ:
それがこれ、ベイカー・ジャンピング・タンクだ。
アヤノ:
何このEBR装甲車のプロトタイプみたいなやつ。サギリ:
装輪装甲車はお好き? 結構、ではもっとお好きになりますよ。ベイカータンクの第三モデルです。アヤノ:
馬力も値段もダメそう。サギリ:
一見どこに詰まってるか分かりづらい二名の乗員は中央の区画に収められ、後部にはリーピング・タンク同様エンジンとトランスミッションが収まっていたそうだ。アヤノ:
車長がさらに忙しいやつだ、これ。サギリ:
まるでフランス戦車みたいだな! ちなみに中央部前方にデカデカとある突起は操縦手用。砲塔上のは車長兼砲手兼装填手用の観測装置兼ハッチらしい。アヤノ:
車長、一体どういう体勢なの、これ。サギリ:
コレガワカラナイ。なお流石にオーバーワークが過ぎるので砲手ないし、装填手として3人めの乗員を増やす案もあったもよう。アヤノ:
狭そう。
サギリ:
武装は砲塔に英国製17ポンド砲を搭載し、同軸機銃として7.62㎜M1919を搭載する予定だったそうだ。アヤノ:
とりあえず猛獣狩り出来る火力が欲しいのは分かった。
サギリ:
そして、コイツ最大の特徴がこれ。油圧制御システムによる「伏せ」の姿勢だ!アヤノ:
なに……これ……なに……?サギリ:
この姿勢は単に車高を低くするだけでなく、車体を完全に接触させることで、射撃時の安定性を大幅に高められるそ! さらにこの油圧システムとBMC肝煎りのスプリングサスペンションによって、ローライダーのホッピングよろしく飛び越えることが出来る! と、少なくともBMCの技術者は言っている。アヤノ:
出来ると言っている(出来るとは言っていない)。
サギリ:
一応、走行装置単品での試験では高さ1.2m、幅14mのジャンプが出来たらしい。アヤノ:
ところでこいつの全重は?サギリ:
9.1t。というわけで、米国軍はまるで興味を持たず先ほどの試験装置とモックアップ【※】以上に計画が進むことはありませんでしたとさ。※モックアップ
実物とほぼ同様に似せて作られた模型のこと。アヤノ:
知ってた。サギリ:
やはり複雑な構造からかさむコストとその割に従来品と比べた有用性が……。
実現しなかったベイカー・ジャンピング・タンク。視聴者からは「これをスルーするのが米国面、これを採用するのが英国面」「何故ジャンプ機能を残したかがわからん」「普通に自走砲作ればよかったんじゃ」といったコメントが寄せられました。
ベイカー・ジャンピング・タンクの解説をノーカットで楽しみたい方はぜひ動画を視聴してみてください。
『ゆっくりで語る珍兵器 第21回【Baker “Jumping” Tank】』
―あわせて読みたい―