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「汽車を素手で止める」「車を持ち上げる」アメコミ『スーパーマン』にマシンと戦うシーンが多いのは“仕事を奪う機械”に対する恐怖の表れだった

機械に仕事を奪われた19世紀の人々

岡田:
 しかし、第9話「ごめんなさいお父さん」の回で、とんでもないことが起こります。

 マルコくんは、お母さんの手紙が届かないことを心配して、ついに学校を辞める決意をしたんですね。マルコくんは9歳ですから、まだ小学生ですよ? にも関わらず、「もう小学校に行かない!」と言い出して、友達のエミリオも心配するんですけど、お父さんにも秘密で勝手に学校を辞めちゃうんですよ。

 そして、不思議なことに誰も出勤していないジロッティーさんの店に1人で行って、置いてあった瓶を全部洗います。そして、やって来たジロッティーさんに「見てください、ジロッティーさん! もう100本近く洗っておきましたよ! 僕はこれから学校には行かずに、ずっとここで働きますから、もっとお金をください!」と言うんです。

 しかし、ジロッティーさんはすごく暗い顔をしています。なぜかというと、“瓶洗いの機械”が発明されてしまったからです。

 「くだらないことを思いつくヤツがいたんだ。瓶洗いの機械が発明されてな。その機械があると1時間に何百本も瓶が洗えるっていうんだよ。もうこの店もおしまいだ」と。ジロッティーさんの瓶洗い業は、もう店ごと倒産してしまったんですね。人間が瓶洗いをする時代ではなくなってしまったんです。

 イタリアというのは誇り高き工芸の国、いわゆる職人の国だったんですけども。そんな誇り高き職人の国にも、19世紀末になる頃には、産業革命の波が押し寄せてきたんです。その結果、こんな小さな港町のしょーもない仕事まで、瓶洗いの機械の発明によって消滅してしまい、ジロッティーさんは失業してしまったわけですよ。

大衆の機械への恐怖が作ったヒーロー“スーパーマン”

 これは別にイタリアだけに限った話ではありません。例えば、チャップリンは1936年に『モダン・タイムス』という映画を作りました。この『モダン・タイムス』の中では、大量の歯車の中でチャップリンが働いています。

 つまり、アメリカも同じだったんですね。それまでは、誰もが職人としての誇りを持って働いていたのに、いつの間にかベルトコンベアみたいなものが生まれて、運ばれてくる部品を次から次へとネジで留めるだけの仕事をすることになった。『モダン・タイムス』で、チャップリンは、最終的に機械の中に挟まれて、どこかに連れて行かれてしまうんです。

 チャップリンはギャグとしてこれを作っているんですけど、こういったイメージは、当時のアメリカ人、もしくは世界中の手工業をやっている人達の実感だったのだと思います。この「機械に仕事を奪われる!」という恐怖は、19世紀の後半から20世紀前半まで、めちゃくちゃ大きかったんですよ。

 それを示す事例をもう1つ出します。チャップリンが『モダン・タイムス』を作った少し後、アメリカで初のコミックヒーローが誕生します。それが“スーパーマン”です。1938年に出版された“アクションコミックス”の創刊号の表紙には、スーパーマンが車を持ち上げて破壊しているイラストが載っています。

 ここで重要なのは「なぜ、車を破壊しているのか?」ということなんですよ。この創刊号から2年くらいの間、スーパーマンの表紙はこんな感じの構図が多いんです。「戦車を破壊する」とか、「列車を片手で止める」とか、「飛んでいる飛行機に乗り込んで戦う」というように。面白いことに、初期のスーパーマンというのは、機械と戦うことが多かったんです。

 スーパーマンを表す描写の中に「高いビルもひとっ飛び!」というのと同じくらい、「迫り来る汽車を素手で止める」というシーンが必ず出てくるのはなぜかと言うと、機械に対する人間の優位性というのを見せなきゃいけない時代だったからなんです。「スーパーマンのパワーというのは、機械よりも強いんだ!」って。

現代の僕らは100年前の人々が感じた恐怖を味わっている

 このように、人間というのは、機械産業が誕生した時から仕事を奪われ続けてきたんです。

 だからこそ、スーパーマンは「夢がある」と言われたんですよ。スーパーマンが生まれた時代、『モダン・タイムス』の時代には、「素手で機械を叩き壊す人間」というのは、そのまま“人間賛歌”だったんですね。

 それと同様に、人工知能という概念が生まれると同時に、「今度は頭脳労働まで奪われるのか!」という恐怖が吹き出してくるのも当然なんですよ。

 僕らは、ちょうど100年くらい前のご先祖さま達が味わっていた「機械に仕事を奪われる!」という恐怖を、もう一度、時代を変えて味わっている最中なんですね。

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