世界中で急増する調査兵団、腐女子に留まらない『ユーリ』人気、奇跡の視聴率100%アニメ――今知るべき“海外オタク”の最前線【国際オタクイベント協会 代表インタビュー】
海外オタクには縦/横の細分化がない
――さて、ここまで「歴史」にフォーカスして話を伺ってきましたが、ここからは海外オタク文化の「現在」に迫っていきたいと思います。そもそも、日本と海外でのオタク文化の違いってどのようなところにあるのでしょう?
佐藤氏:
まず総論的なところから言うと、海外の特徴は日本と違って「縦」にも「横」にもオタクが細分化されてないことですね。
まず「横」というのは、アイドルオタクとか、鉄道オタクとかいうジャンルのことで、日本ではそういうジャンル同士の仲がいいかと言われたら、まあ互いに「フーン……」って感じじゃないですか。お互い関わらない(笑)。
でも、海外に行くと、それこそ水墨画とセル画がショップで同じ感じで並べて売られていて、それを誰も不思議に思わないわけです。それも「なんだっていいから」という感覚というよりも、彼らにとっては本当にそこに違いがないんですよ。
それはアニメというひとつのジャンルの中でも言えて、昔のアニメと今のアニメの違いなんてのも彼らにとっては関係がないわけです。最近はネットの発達もあってどれが最新のアニメかということも彼らはよくよく分かってるんだけど、そこの新旧を正直あまり気にしていません。あえて言えば、今のアニメの方が記号化してキャラもシンプルに見えるみたいな話は聞きます。「日本食に通じる何かがある」みたいな感じで、その表現に引き算の文化を見てとったりすることもあるようです。
――では「縦」の細分化がないというのは、どういうことでしょう?
佐藤氏:
「縦」というのは世代ですね。日本のオタクって、若者から40代ぐらいまでの、言ってしまえば精神性としては子どもに近い感じの男女がやってるという認識をされていると思うんです。でも、海外だと本当に子どもからお父さんお母さんまで家族で見ていてみんな好き。例えば家族連れの数はどこの国でも圧倒的に日本よりも多いんですよ。日本だととりわけ歓迎されるわけじゃないですが、海外の場合は子ども連れってウェルカムなんです。
――そう考えると、いわば“本家”であるところの日本が、最も自国のカルチャーに対して偏狭だということですよね。むしろ海外から学ばなければならない点かもしれません。
各地域のコスプレ文化の違い
――ただ、もう少し細かい違いの話もお伺いしたくて、先程も仰られていましたが、特にイベントを見ているとコスプレ文化の違いって顕著に分かるかなと思うんです。そこらへんはいかがでしたか?
佐藤氏:
コスプレで特徴的なのは、まずアメリカですね。彼らのコスプレは本当にフリーダムで、ちょっとしたワンポイントを入れるとかまで含めると、イベントに来るおよそ8割もの人がコスプレをしているイベントもあるんです。もはや、していない方が珍しいくらいで。
――そのレベルになると、もはや会場はコスプレ大会みたいな感じですね(笑)。
佐藤氏:
日本だとコスプレする人って、“特別な人”ですよね。それが向こうだと、「せっかくイベントに行くんだったらコスプレした方が楽しいじゃん」くらいのノリなんです。イメージしやすい話としては、ハロウィンの感覚ですね。ああいうカルチャーが元からあるというのは影響しているかもしれません。
だから、日本ではチェックのシャツにカバンみたいないわゆる「オタクルック」が多くて、そして一部の美男美女かネタ系かでしかコスプレをしない……となってるのが、とてももったいないと思うんですよね。アメリカは、良し悪しではないのですが、文化としてもう違うステージに行ってるなという感じがします。個人的にはそのメンタリティは、他のイベント文化にも伝播して欲しいですね。
――「楽しむ」ということに対してすごくストレートな感じなんでしょうね。
佐藤氏:
あとアメリカで特徴的だったのが、近年の大ヒットコンテンツである『ラブライブ』と『アイドルマスター』の浸透が数年かかったことです。アジア圏では、日本と同じ時期にすぐに人気がでているんですよ。で、なんでだろうと思っていくつかのイベントの主催に聞いてみたら、なんと「アイドルなどはちょっと自分でやるには恥ずかしい」とアメリカの人は感じていたらしいんです。
もちろんそれが全ての理由と言うわけではないですが、今となってはみんなわりとそうした喜んでそうしたコスプレをするようになりました。感慨深いですね。そういう意味では、文化の違いがあっても地道にチャレンジし続ければ、ユーザーの皆さん側に浸透していくこともあるということですね。
――なるほど。ちなみに、別の地域でのコスプレ文化にも、なにか特徴があったりするのでしょうか?
佐藤氏:
それで言うと、コスプレって日本だとアニメの「再現」を目指すけど、特に中国やヨーロッパって、デコレーションして「盛る」方向に進化していくんですよね。おそらく日本のコスプレってとりわけ写真に特化していて、それに比べると、中国とかって写真もあるけど人気のあるレイヤーさんはステージに出て寸劇をやることも多いんです。すると、いわゆる2.5次元系に近い派手な方向に、衣装のデザインが近づいていくんですよね。見る人との距離が日本と違うわけですから。
民主主義的な日本の同人文化
――ちょっと話を変えて、同人や創作での違いについてはどうなのでしょうか? 例えばコミケってある種日本のイベントの聖地で、それと比べて海外のイベントの同人文化ってどういう感じなのでしょう。
佐藤氏:
日本での「誰でも描いて発信して良いんだ」という意識のハードルの低さは一層感じましたね、pixivとかニコニコ動画もそうですけど。それに比べると、欧米では「作品を作るのは天才の仕事。私なんかが描くのは恐れ多い……」みたいな階級意識な感覚があるみたいです。
その意味では、40年以上コミケが続き同人マンガ文化があることは、日本のコンテンツ生産力の底力になっていると思いますね。ストーリーを考える時に一番便利なモチーフを連れてきちゃうような点で、中国は本当に強いなと思います。少なくとも、海外のオタクがそうしたメンタリティーに到達するのに、もう20〜30年はかかっちゃう気がします。アニメの演出とかにしたって、今までにいろんなアニメで培ってきた手法が蓄積されてレベルがあがっていくじゃないですか。
だから日本のオタク文化って、フランス革命みたいな感じで表現の民主化が起きてると思うんですよね。一方、アメコミとかだと、天才の王様が民衆に対して作品を与えてあげているという雰囲気を感じます。実際コミケに参加したアメコミ関係者から「アメコミの大御所にコミケで一般サークルと同じブースで出展しろって言ったら怒って帰っちゃうよ」と言われました(笑)。
あと、アメリカの同人で言えば、やっぱりそのテイストがアメリカンアートみたいな感じなんですよね。それが彼らの蓄積してきたアイデンティティなんだな……と、良くも悪くも思います。
近年の中国IPの快進撃
――その意味では、中国についてはどう捉えていますでしょうか?
佐藤氏:
中国は独自のIPを生み出しつつありますよね。しかも、日本のアニメ・マンガの手法が根っこにありつつも、そこに中国の手法が混ざって渾然一体となることで、オリジナルな幹に育っているなと感じてます。実際、中国のイベントとかでは、日本のアニメではなく中国アニメのキャラのコスプレをする人が増え、半分くらいに到達してますからね。
――ああ、その変化は結構重要ですよね。今、中国は自分たちの表現を着実に手にしつつあるわけですね。
佐藤氏:
日本のアニメやマンガって、舞台がどこだとかって全くこだわらないじゃないですか。で、ちょっと前から中国でさえも「別に自国じゃなくてもいいや」という雰囲気があって。『陰陽師』とかもそうだし『アズールレーン』にしたって別に中国の戦艦ではないわけですよ。日本と同じように世界中誰が主役でもいいし、ストーリーを考える時に一番便利なモチーフを連れてきちゃうような点で、中国は本当に強いなと思います。
実際、アメリカやヨーロッパにしてみたら、どこの国だろうが根本的にはどうでもよくて、単純に面白いかどうかだけで選ばれるわけですよ。そこは、日本と全然違う切り口の作品が出てきそうで、個人的に楽しみにしているところです。
中国では本物志向が海賊版対策に?
佐藤氏:
あと、最近中国で面白かったのが、イベントによって「本物主義」が浸透しつつあるんですよ。単純に当局の規制があってというのもありますが、海賊版に対する認識が変わってて、オタク同士で「何持ってる勝負」する時に本物じゃないと「負けてる」という意識が生まれてるらしくて(笑)。
これまでは、日本とアメリカ以外ではあまり本物主義にはならないんじゃないかと言われていたんですけど、やっぱ直接会って「何を持っている」みたいな話をすると、そこの勝負にこだわるようになっていいですね。
そういうこともあって、今海外のイベントに働きかけているのが、「すごい本物を持ってる、イケている人を表彰しよう」というものなんです。抱き枕とタペストリーがバーって壁に貼ってあるようなオタク部屋にどの国でもみんな憧れたりしてますよ。
――そしてグッズをその場で買うわけですね(笑)。それにしても、そうした「直接会う場があると本物が欲しくなる」みたいなことも含めて、イベントそのものの存在価値って一体なんなんでしょうか?
佐藤氏:
イベントって、やっぱり固定客がある程度いて、お客さんの忠誠心が凄く高まる場なんですよね。で、お客さんのプライオリティとしても友達だったり有名人に会いに行けるのがやっぱりすごく大事になってくる。だから、僕らの取り組みとしても、「このイベントでこういう面白いことをやってる」みたいなことをシェアしつつ、安定したイベント運営を目指していきたいわけです。
近年の傾向(Vtuber・ガンプラ・ユーリ)
――さて、そろそろお時間になってしまいましたが、ちなみに近年IPの傾向について、なにか気になる動きなどってありますでしょうか?
佐藤氏:
まさに今、VTuberは立ち上がりつつありますね。ビリビリワールドにキズナアイが出展しましたし、アメリカのイベントでもお客さんが集まりましたしね。個人的に思うのは、いわゆるおっさんがVTuberをやって楽しいみたいなのは結構世界で通用するだろうということですね。あれって、パソコン通信時代から連綿とあるネカマの極致だし、世界中にネカマって本当にいっぱいいますから(笑)。
そしてもう一つ気になっているのが、最近ずっと売れてなかったガンプラが、アメリカで立ち上がりつつあることです。『ガンダムビルドファイターズ』みたいなアニメを始めとして地道にやってきたことがじわじわ結果に結びついていて、ここ2〜3年のガンプラの動きを見るに今から5年後が楽しみです。
まあその意味では、『Fate/Grand Order』も日本でのヒットに比べるとアメリカでは日本的スマホゲーム自体の浸透も含めてこれからなので、今後の展開を注目したいと思っています。1クールもののアニメと違い、当たれば年単位で取り組めるのもゲームの特性ですからね。
――ちなみに、海外のいわゆる腐女子とかの動向って、どういう感じなんでしょう?
佐藤氏:
それで言うと『ユーリ!!! on ICE』はビリビリワールド海外ではエポックでした。日本だとどちらかというと腐女子向けで、もちろん海外の腐女子も超ガッツリなんですけど、男女ともどの世代にも満遍なく人気がありました。
海外で大ヒットした作品の中でファンタジーではない日常ものでというと、ほとんど前例がないと思います。だから最新のムーブメントとして、『ユーリ!!! on ICE』はひとつの到達点でありまた新しい世界を拓いたエポック的なものなのかなと感じています。
――なるほど。そこは日本よりも広がりがあるわけですね。
佐藤氏:
日本でもそうですけど、今、世界のオタクの消費の主役はそうした女性が中心ですよね。海外のお店とかで売ってる抱き枕も、半分以上男性ですし。
ある時、ヨーロッパでイベントしてる人に言われたのが、「男はひとつ買ってみんなでシェアして読んだりするんだけど、女性はもう自分だけのもの買って読むんだ」と。そうした消費の傾向も、もしかしたら日本と海外で違いがないのかもしれません。
基本的に今の日本でもウケてる『刀剣乱舞』とかは、アメリカだろうがヨーロッパだろうが中国だろうかめちゃくちゃ売れていますし、あの作品を通じて日本の戦国武将の名前がものすごく浸透してますよね。
……むしろいつももったいないと思うのが、やっぱりイベントの主催者だったりそのエリアの会社をやっている人、あるいはクールジャパンみたいなものを推進する偉い人とかもやっぱり男性が多いんですよ。すると、腐女子向けコンテンツの勘所があんまり分かってないなというミスマッチは度々感じていて、それも今後の課題かなと思いますね。
――最後に、今後の展望などありましたらお伺いしたいです。
佐藤氏:
僕らが今やっている活動というのは、世界中の情報を集めて整理して発表することです。カテゴリーとしてはシンクタンクですね。
今、海外進出を狙っている事業者さんは多いと思うんですが、どこどこに連れて行く時に安全かどうかとか、何かトラブルが起こらないかとかの現地の情報や信頼できる人脈などを、きちんと把握していくことに我々は努めてます。その中で、例えば大事な作家さんだったりを現地イベントにつれていきたいけれど、ちゃんと扱ってくれるのかというところがやっぱり分からないと連れていけないという悩みを抱えている人もいらっしゃると思うんです。
I.O.E.A.にはプロフェッショナルなイベントから学校の学園祭のような情熱で運営しているイベントまで、そういった現地のオタクのために活動しているイベントが加盟しています。そういうところを上手く情報を整理して必要としているところに届けて、僕らのシンクタンクとしての役割を果たしていければいいなと思っています。なので、もし何か困ったことがあれば、ぜひ相談に来ていただければと思います。
――本日は興味深いお話を、ありがとうございました!(了)