“マニアがジャンルを潰す論”に吉田豪が言及「本当にジャンルのことを考えるなら新参排除は絶対にやっちゃだめなんですよ」
新規が語っているのが面白くない!? 新規を遠ざけるオタクのマウンティング癖
コンバットREC:
マニアというか、オタク。80年代はオタクのことをマニアと呼んでいましたけれど、オタクって多かれ少なかれ、全員がそうとは言わないですけれどマウンティング癖がありますよね。
久田:
多いですね。
コンバットREC:
初対面もそれで探り合うみたいな人が多いじゃないですか?
吉田:
僕らみんなそうだと思いますよ。
コンバットREC:
あなたもそうでしょう(笑)。
吉田:
みんなそうだと思いますよ。ある程度探ってみて、「ああ、こいつはできるやつだ」って認めるみたいな。
コンバットREC:
宇多丸【※】さんとこの前飲んでいて。ちょうどNetflixで『DEVILMAN crybaby』を見て、めっちゃ盛り上がっていて。「宇多丸さん、『DEVILMAN crybaby』見た?」って言って。俺は普通にその話がしたかっただけなんですよ。
※宇多丸
ヒップホップグループ・RHYMESTERのMC。ライター、アイドル評論家、映画評論家、クラブDJ、ラジオDJとしても活動している。
「すげえ面白かったんだよ」っていう話をして、「湯浅政明さんはやっぱりすごいね」って言ったら、宇多丸さんは「いや、1話と2話は見たけれどまだ全話見ていない」みたいな。
ネタバレは避けるけれど、「こういう表現とかすごいよね」っていう話を俺はしたかったんだけれど、宇多丸さんが「お前さ、湯浅さんがすごいとかさっきから言っているけれど、湯浅監督のあの作品は見ているか?」って。
一同:
(笑)
コンバットREC:
俺は平和的に話がしたいのに。
吉田:
同じ監督が好きだからっていうことでね。
コンバットREC:
わかり合えると思って話をしているのに、いきなり「あれ?」みたいなモードに入りだして(笑)。
吉田:
湯浅監督を語る上では重要なことなんだよ。
コンバットREC:
それで「ごめん、俺まだそれ見ていないんだよ」って言ったら、「はぁ……これだよ!」って(笑)。
一同:
(笑)
コンバットREC:
「あれを見ていないやつが湯浅監督を語ろうとしているんだ?」みたいな感じで。
吉田:
それが「マニアがジャンルを潰す」って言ってる(笑)。
一同:
(笑)
吉田:
これだったら、湯浅監督を語るのをやめようってなるもんね(笑)。
コンバットREC:
そう。お前みたいなやつは語る資格はないみたいな。「俺は面白かったから話したかっただけなんだよ」って言ったら、「あれも見ていないやつの話なんか聞く価値がない!」みたいになって。
だから多かれ少なかれ、そういうところはみんなあると思うんですよね。
久田:
漫画でもありますもんね。井上雄彦だったら『SLAM DUNK』しか読んでいないやつとかね。宇多丸さん、めんどくさいですね。
吉田:
宇多丸さんがめんどくさいのは有名ですよ。それも含めての宇多丸さんです(笑)。
コンバットREC:
だから多かれ少なかれ、みんなあると思うんですよ。
吉田:
思い入れの強いジャンルだったらそういう気持ちはあると思うんですよ。それを語るんだったら、せめてそれを見ておいてほしいとか。『機動戦士ガンダム』だけで富野由悠季を語るな! みたいな?
コンバットREC:
『機動戦士ガンダム』だけで語るんだったらまだいいんだけどさ、違うので語る人いるじゃん? もっと後の。「『機動戦士ガンダムΖΖ』だっけ?」って言う人はいないと思うけれどさ。
吉田:
『ブレンパワード』だけでとか(笑)。
コンバットREC:
でも違うな。『機動戦士ガンダム』だけで富野を語るんじゃないな。後の方の作品だけで『機動戦士ガンダム』を語る人は嫌だなって。
吉田:
何? 杉作さんの話? 「『機動戦士ガンダムSEED』だけの話がしたい!」ってもはや富野じゃない(笑)。
コンバットREC:
「絵が古い」とか言われて。
吉田:
僕らが散々「『ボトムズ』とか見ましょうよ」とか言っても、「あれも絵が古いんだよね」っていう(笑)。
コンバットREC:
目が小さいやつは全部「絵が古い」で片づけられちゃって。目の大きさは古い新しいじゃないだろう? っていう話なんだけどさ(笑)。
吉田:
でも思い入れが強ければ強いほど出ますよ。
コンバットREC:
それが難しいところなんですよね。
吉田:
本当にジャンルのことを考えるなら新参排除は絶対にやっちゃだめなんですよ。
久田:
そうそう。
コンバットREC:
認めていないというか、「新規の人が語ってるのが面白くない」って言う人もいるんですよ。新規の人が「興味持っているんです」って入ってくると、だいたいオタクの人は嬉しいんですよ。
「これは? これは?」って見られねえよっていうくらいに勧めるんだけど、その人が何か語っていったりするのが耳に入ったりメディアに出ていたりすると「何だコイツ」って(笑)。
吉田:
「お前が言うなよ」(笑)。
コンバットREC:
「こんなぬるいやつが、何を語ってるんだよ」みたいになりがちなんですよね。
「本当に新参は大事にしないと、という思いが強いんですよ」
コンバットREC:
絡んできた大学生の人は今、人生というか生活のほとんどを現場に捧げているんでしょう?
吉田:
そうですね。「吉田豪は地方まで来ないくせに」って。
久田:
来ているじゃない。奈良だっけ?
吉田:
奈良に3日間いましたよ。
コンバットREC:
何かひとつの現場にすごく入れ込んでいて、すごい通っている人からしたら全然そういうフィールドワークしていないくせにという気持ちになっているんじゃないですかね。
でもきっとこの大学生の人もそうなるんじゃないかと思うんですけれど、大学生じゃないですか。どんどん続けているうちに無知なのがわかってきて、「自分がスペシャリスト」って言えなくなってくるんですよね。
吉田:
知れば知るほどわかるじゃないですか。「あれ? 上には上がいるぞ」って。知らないうちだから強気でいけるわけで。
コンバットREC:
「僕なんか全然知らないですよ」ってなってくるんですよね。
久田:
アイドルの歴史って、本当に古いじゃないですか。西城秀樹さんもそうですけれど、ずっと追っている人もいますよね。
吉田:
僕らが「オタク」と思われるたびに申し訳ない気持ちになるのはそこなんですよね。そんな本職でやっている人たちに比べたら全然違うので。
久田:
大学生の方も、むしろ新参ですよね。
コンバットREC:
「お前が新規だろ!」って話だよね(笑)。
吉田:
年齢的に。
久田:
めちゃめちゃ新規だから(笑)。80年代のアイドルも知らないと思いますし、僕らもわからない70年代とか、そこから続いているのをずっと追っている人からすれば「え?」っていう。
吉田:
僕らもそうだけれど、「アイドル冬の時代」と呼ばれた新参がいない時代を経験していると、本当に新参は大事にしないとという思いが強いんですよ。ただ平均年齢が上がった状態。「未来像がないぞ、これ」っていうのを見たので。
久田:
だからこの大学生の方も大事にしたほうがいいですよね。
吉田:
現場に40くらいの人間しかいない状況なんて地獄ですよ。本当にAKB48に関しては「うわ、若いオタが増えたな!」っていう。
コンバットREC:
90年代なんてひどいのが90年代も地下的なアイドルの方もいるんですけれど、現場が少人数じゃないですか。どんどん減っていくんですよ。掟ポルシェさんが言っているんですけれど「減っていくと嬉しい」みたいな。
最後一ケタとかになっていて。最後のひとりとだったら付き合えるって信じているんですよ(笑)。
久田:
(笑)。
吉田:
当時90年代ってそういう時代だったんですよ。最後オタがふたりだけになって、片方が脱落したら最後だと思って、ふたりでずっと追いかけ続けて。やばい、俺が負けたらあいつのものになっちゃう、みたいな。ならないんだけど(笑)。
でもみんな本気だったんですよ。世界が小さかったから。
久田:
本気で(笑)?
コンバットREC:
今流行りの『PUBG』【※】だよね(笑)。でもひとりになったらアイドル側が続ける理由がないじゃないですか。商売にもならないし。
※PUBG
バトルロイヤルゲーム『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』の略称。大人数がフィールドに降下し、最後の一人のプレイヤーになるまで戦闘が続くシステムになっている。
吉田:
それでアイドルが実家に帰っちゃうわけですよ。その見送りにもオタがふたり見送っていたりとかした話を聞きましたよ、そのオタから。
久田:
美しい話のような……。
吉田:
全然美しくないですよ。そういう時代を知っていると、新規が入らないことにはジャンルは死ぬんでね。
コンバットREC:
本当にAKB48もそうだけれど、ももいろクローバーZとか、なかったらこんなにね……。
吉田:
そうなんですよ。だから本当に感謝してる、この二組。AKB48が若い層を掘り起こして、ももいろクローバーZが違うジャンルの層を掘り起こして。
コンバットREC:
あとBABY METALとかね。それで入った新規の人たちが違うアイドルを見るようになる。
吉田:
地下まで下りたりする人もいるわけで。
コンバットREC:
ジャンルとして大いなる入り口として機能してくれているというかね。
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