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すべてのパトレイバーに関わる男が28年を振り返る『機動警察パトレイバーREBOOT』川井憲次インタビュー

 「川井さんが関われば『パトレイバー』になる」——。

 『機動警察パトレイバー』原作ヘッドギアのひとりで、『機動警察パトレイバーREBOOT』(以下『〜REBOOT』)にも監修・メカニカルデザインとして携わった出渕裕はこう語った。

 シリアスからコメディまで、なんでもアリな幅広さが魅力の『機動警察パトレイバー』において、逆に言えば絶対に欠かせないものが川井憲次氏の手がける音楽だ。『〜REBOOT』においても吉浦康裕監督は「バシッと音楽が上がってきて、しかも川井節ですごく嬉しかった」と感激の声を漏らしている。実写、アニメ、ドキュメンタリー番組、また洋の東西を問わず国際的な活動を続ける音楽家・川井憲次。

 彼にとって『パトレイバー』とはどんな位置づけとなるのだろうか。キャリアの初期に担当したOVAから、最新作の『〜REBOOT』まで、すべての『パトレイバー』と歩み続けた28年を振り返ってもらった。

取材/桑島龍一(さかさうま工房)
文/野口智弘
カメラマン/増田雄介

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※『機動警察パトレイバーREBOOT』は、2017年2月28日まで無料公開中
日本アニメ(ーター)見本市・機動警察パトレイバーREBOOTサイト


音楽家・川井憲次氏。

REBOOTの始まりとパトレイバーの頃

——最初に『〜REBOOT』のオファーが川井さんのもとに来たのはいつ頃でしたか?

川井憲次氏(以下、川井氏):
 (メモを見て)今年の3月7日ですね。スタジオカラーの島居(理恵/音楽制作)さんから連絡がありました。細かい経緯は忘れたのですが「新作をアニメでやるので、当時のキャラクターは出てこないけど『パトレイバー』の音楽を作ってほしい」と、ストレートに言われましたね。確か絵コンテと、もう映像もあったと思います。ラッシュ【※】の印象は『パト1』(劇場版1作目)みたいなイメージでしたし、吉浦監督も「『パト1』みたいな音楽がいい」ともおっしゃっていました。なので、あんまり『パト2』(劇場版2作目)みたいにヘビーにならないで、曲調としてはちょっと軽めの感じで作りました。

※ラッシュ
すべての映像を仮の段階で繋げたもの。

——約7分の作品ですが、音楽の曲数は何曲でしたか?

川井氏:
 4曲です。打ち合わせで「こことここに曲が欲しい」と言われて、スムーズに決まりました。今回の短編はキレがいいんですよね。それは見ていて心地よかったです。作業時間の余裕もあったし、やりやすかったです。音楽を作る際に、つけやすい監督とつけにくい監督がいるんですけど、吉浦監督はつけやすいタイプの監督ですね(笑)。唯一、直したのはギャグシーンです。自分でもそこはやりすぎちゃったかなと思っていたら、やっぱり「ちょっと抑えめにしてください」と、監督に言われて、そこは修正しました。あと(レイバーが)起動するところですね。どのくらいギャグにするのかは、そのときのさじ加減なので、最初は極端に行けるところまで行って、監督なりのギャグの幅を確認してから詰めていくことが多いですね。

——今回の短編はいかがでしたか?

川井氏:
 やっぱり作っていて短いなと(笑)。短編だから当たり前なんですけど、もっともっと見たいですよね。まだたぶんプロローグですもんね。監督も続きを意識して作っているという目標はおっしゃっていたので、僕も楽しみです。

「機動警察パトレイバー」初期OVAシリーズ(1988~89年)

現在は「アーリーデイズ」と呼ばれる、『機動警察パトレイバー』シリーズ最初の作品。各話完結でポリスストーリーとメカアクションがそれぞれ描かれるバラエティに富んだ路線。また第5・6話は連作で「二課の一番長い日」は後の劇場版に通ずるシリアスなドラマが描かれる。「パトレイバー」と聞いた時に思い浮かべるそれぞれの要素は最初期からすでに確立されていたといっていい。なお、当時のOVAの平均価格の約半額という商品仕様も画期的で大ヒットを記録し、後の作品展開の礎を築いた。制作はスタジオディーン。
(C)HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA

——今回のインタビューでは過去のシリーズについてもお聞きしたいのですが、そもそも最初のOVAに参加するきっかけはどんなものだったのでしょうか?

川井氏:
 斯波(重治/音響監督)さんか、押井(守)さんからのオファーだったと思いますね。斯波さんや押井さんとの仕事は実写映画の『紅い眼鏡』からです。まだそのときは自宅スタジオも本格的なものではなかったので、録音は外部のスタジオでやっていました。当時のロボットものは硬派な音楽が多かったと思うんですけど、『パトレイバー』の音楽は柔らかいんですよ。ロックに近いフュージョンとでも言えばいいのかな。それでいてあんまり難しくない音楽。小洒落てないやつがいいなと。最初はやっぱり「これでいいのかな」って不安でしたけどね。

——OVAの作業で大変だったことは何でしたか?

川井氏:
 エンディングを毎回作らなきゃいけないところですかね。斯波さんからエンディングの注文はあったのかもしれないけど、何か言われた記憶もないし、もう詳しくは覚えてないですねぇ……(苦笑)。おまかせという感じだったと思います。エンディングには絵がないから「何をやろうかな?」というのが一番つらかったな(笑)。

——当時、リリースされてから「この作品はヒットしているぞ」といったような手応えは感じられていましたか?

川井氏:
 いや、それは全然なかったですね。今みたいにインターネットもなかったし、感想もハガキでアンケートを回収するしかないわけじゃないですか。そういう情報は僕のところにまで届かなかったですし。

——OVAで印象に残った回は?

川井氏:
 怪獣のやつ(第3話「4億5千万年の罠」)と幽霊のやつ(第4話「Lの悲劇」)かな。ああいうパロディこそが『パトレイバー』なんじゃないかなって。

——笑いの要素があると川井さん的には燃えますか。

川井氏:
 燃えますね。NEW OVAのときですけど「今度は戦闘シーンがあるので」と言われて見たら「銭湯」だったりとかね(笑)【※】。当時は今みたいにQuickTimeで同期できなかったので、どうやって作ったのかな。たぶんビデオでポン出ししながらやっていたので、(タイミングの)精度が低いんですよね。

※ NEW OVA第7話「黒い三連星」の内容。

——そのあと「パトレイバー」は劇場版へと展開していくわけですが、映画ならではといった要素はありましたか?

川井氏:
 映画ならではというよりは、単純に絵があって、それに合わせてぴったり作れる【※】ってことですね。当時、テレビシリーズの音楽は他にもやっていましたけれど、劇場アニメの作業はこれが最初かもしれないですね。細かい指示はあまりなかったと思いますが、とくに細かく指示があったのは冒頭の帆場のシーンですね。

※フィルムスコアリングのこと。TVやビデオ作品は音響監督のメニューをもとにさまざまな状況の音楽を作っておき、完成後に合わせることが多いが、映画の場合は一般的に完成映像に合わせてピッタリな尺の音楽を作っていく。

——当時のライナーノーツによると、偶然スタジオに転がっていたスチールドラムを見つけて、叩いてみたら「これだ!」とピンときた感じだったとか。

川井氏:
 そうですね。もしあそこにスチールドラムがなかったら、どうなってたんでしょうね(笑)。たぶんアイデアとしては、その前の『迷宮物件(FILE538)』【※】の曲が元にあったと思うんですよ。『迷宮物件』は全部シンセなんですけど、スチールドラムっぽい音でやっていて、確か押井さんが「ああいう柔らかい金属音がいいんだけど、なんという楽器なのか」という話になって、そのとき思いついたのがスチールドラムだったんですけどね。『迷宮物件』が本当にいいヒントになっていたなと。あれも好きな作品ですね。

※『迷宮物件(FILE538)』
連作OVAシリーズ『トワイライトQ』の2本目。監督・脚本は押井守。後に制作された『パトレイバー劇場版』を彷彿とさせる演出手法が多く採り入れられている。

『機動警察パトレイバー 劇場版』(1989年)

劇場版ならではといえるリアル路線の作画とサスペンスドラマ。入念なロケハンを行なった上で描かれたレイアウトは、実写レンズを意識させアニメ映画をワンランク上のステージに押し上げた。制作時である1989年にすでにコンピュータウイルスの猛威を描いていたこと(劇中設定は’99年)も後の評価を高めることとなった。それでいて、キャラクターとレイバーアクションの見せ場もきちんとある娯楽作品としても観ることができる。制作はスタジオディーン。
(C)1989 HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA

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