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『こち亀』はSF漫画? 宇宙、海外、時空旅行…両さんが“下町を抜け出すようになった理由”を作者・秋本治さんに聞いてみた

元々は女性を描くのが苦手だった!?――麻里愛、Mr.Cliceが生まれた理由

一本木:
 『Mr.Clice』も期間が長いですよね。

秋本:
 描いていた頃は、女性を描くのが苦手だったんです。でも打ち合わせで「女性で描いてみたいな」という話が出た。「秋本さん、描けるでしょ」って言われるんだけど描けない。「それじゃ男性が女性になったということにしたら、描けるんじゃないですか」って言われて。「確かに元が男性だったら、恥ずかしくないし描けます」って言ったんです。もうその時は目から鱗でした。

一本木:
 そういう始まり方だったんだ!

秋本:
 だから繰巣は喋り言葉が全部男性なんです。男性を描いている感じで描けるので、結構描けるんです。

一本木:
 今やハンサムレディと言うか……。

秋本:
 だから週刊の漫画でも麻里愛が出てきた時もそうだったんです。女性が苦手だったけれど、でも男性だったら描けるって。

両津勘吉(左)と麻里愛(右)。画像はこち亀.comより。

一本木:
 いや、マリアはものすごく女性ぽいですよ。

秋本:
 途中からマリアがあまりにもかわいそうなので、魔法使いに女性にしてもらったんですよ。これだけ両さんに恋い焦がれているのに男性のままじゃかわいそうだと思って。

一本木:
 作画的にもフェイクのおっぱいを入れているので、「胸元が開いている服を着せてあげられなくてかわいそう」って言ってましたよね。「作画しててもかわいそうだし、こんなに両さんが好きなのにかわいそう」って。

秋本:
 人情が移っちゃってね。

一本木:
 情が移りすぎて女の子になっちゃった(笑)。

秋本:
 魔法使いのおじいさんが出てくることによって、こち亀の世界はグッと広くなった。

一本木:
 ファンタジーですね。

秋本:
 あれが今回のSF大賞の理由じゃないですかね(笑)。まさに何でもありじゃないですか。過去にも戻れるし、すごいなと思って。

一本木:
 だって神様も出てくるじゃないですか。

秋本:
 うん、「これってありなんだ」と思って(笑)。

一本木:
 両津勘吉は存在自体がSFである。SFとは何か。ストロングファイター? あとは特殊刑事にセーラー服を着たセーラー服ファイターもいた。SFである。なんちゃって。

秋本:
 一度両さんが怒られて、神様にニワトリにされたんだけど羽ばたいて天国まで飛んで行ったというのがあって。だんだん両さんが強くなってきた感じがありますね。

担当編集者が変わったら両さんが月に行けた!

一本木:
 でもSFというところで見ると、こち亀はすごい先取りをしてましたよね。未来に行ったはずなのに昭和に来ちゃったと思ったら、実はテーマパークだったとか結構ありましたね。

秋本:
 50巻までは担当がすごい厳しかったので、あんまり月とかも行かなかったんですよ。二代目の担当になってからは「是非月に行かせよう」ということでどこでも行けるようになって。魔法使いというキャラが出てきて、今まではそういうのが出てこなかったんですよね。でもちょっと幅を広げるために魔法使いが出てきたら、魔法使えるじゃないですか。そうすると過去に行き放題なんですよ。それから結構広がったっていうのがありますね。

一本木:
 50巻まで厳しかったって、どう厳しかったんですか? 下町を出るなとか?

秋本:
 「やっぱり下町の中でやってこう」というのがありました。最初からそういうスタンスです。それで気が付いたら50巻になっていて。「こういうのをやりたい」って言ったら、「そういうのは両さんじゃちょっと……」っていう感じだった。でも担当が二代目になってから、それが爆発しちゃった。だからちょうど50巻以降で、いろんな外国に行ったりするのが多いです。

画像は『宇宙エレベーターの巻』亀辞苑公式サイトより。

一本木:
 下町の枠に収まらない男ですね。

秋本:
 でも下町ネタだけで50巻いってますからね。

一本木:
 あと、最初の担当さんが今の集英社の社長になってしまったというのが、すごいなと思います。現在の担当さんは名刺の裏側に担当した作品を載せているので、社長も名刺の裏に「初代こち亀担当」って書いていたらいいのにと思ったんですけど。

秋本:
 最初はずっと担当だったらいいのにね、って言ってたんですが、副編集長になると担当が持てなくなるみたいです。残念という感じです。

葛飾に溶け込んだ両津勘吉「両さんだったら今パチンコに行ってるよ」

亀有駅北口にある両津勘吉像。画像はこち亀.comより。

一本木:
 ではここでまた、質問があれば受け付けたいと思います。では男性の方どうぞ。

男性:
 現実の警察との関係とかで、時代とともに変化などはありましたか。

秋本:
 実際の警察とは関係ないのですが、制度が変わったりするのは作品でもちょっとリアルに描こうかなと思いました。付かず離れずでやっていますが、リアルにやりすぎちゃうと両さんが動けなくなるし、ある程度はやりつつも、オレオレ詐欺などの要素などを入れてみたりします。後半も両さんが勝手に動いちゃうので、しばらく警察を描かないで半年過ぎたとかありますね。

一本木:
 寿司屋にいたりとかありましたね。

秋本:
 ハイテクに走って携帯電話とかパソコンとかでネットワークでお金儲けしようとか、犯罪者に近い方になっちゃったりとか。

一本木:
 葛飾のあたりを歩くと、お巡りさんが立ち寄る場所とかに両さんのパネルがあるんですよね。「よぉっ!! チャリンコのカギ、忘れるなよ!」って言ってる防犯のポスターとかも葛飾にあって、秋本さんご自身はあまり警察と、かかわっていないかもしれないのですが両さんは葛飾の警察といい仕事をしてますよね。

秋本:
 制服のまま亀有駅の前に立っているしね。亀有を見守っていると言うか、そういうのですね。

一本木:
 1000回目くらいを描いてる頃とかには、「こち亀を見て警察官になりました」って言うお巡りさんに挨拶をされていたんですよね(笑)。どうしたらそれで警察官になろうと思ったのかとか思いますよね(笑)。

秋本:
 「なってみたら結構大変でした」とか。そりゃ大変ですよ(笑)。

一本木:
 その辺で飲んでるわけにはいかないし(笑)。ずっとファンの間で言われているのは、亀有駅前の北口交番というのがあって、そこがモデルになった派出所と言われていて、そこに「両さんいますか?」って聞きに行くと、「今パチンコに行ってるよ」って中のお巡りさんが言ってくれるという話があって。

 それで私、そこに行って恐る恐る「あの、両津勘吉さんは……」って、いい大人が聞いてみたんです。そうしたらお巡りさんが「両さんだったらあっちの南口の方で飲んでるよ」って言ってくれて、「本当だったんだ!」って。すっごくうれしかったですね。

亀有駅北口交番。画像はこち亀.comより。

秋本:
 大人の対応ですね(笑)。両さんが葛飾に溶け込んでくれているなと。うれしいですね。

一本木:
 「両さんは地元の警察官だ」っていうのが証明されているということですね。

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