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「アニメ業界は何でこんなことに? 」ヤマカンこと山本寛と『秒速5センチメートル』アニメーションプロデューサー・竹内宏彰が考える「日本のプロデューサー教育システム」

 『秒速5センチメートル』や『ベルセルク』のアニメーションプロデューサー・竹内宏彰氏(たけうち ひろあき)と、社会現象を巻き起こしたアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』で、シリーズ演出を務めたアニメ監督の山本寛氏(やまもと ゆたか)が対談。

 竹内氏は「僕は別に今日プロデューサーの代表で語る気は無いですけど」前置きしたうえで、日本にはプロデューサーを教育するシステムが無いことについて語った。

アニメの制作過程で一番トラブルが起こるのは、コミュニケーションの問題

竹内:
 山本さんに言うのもなんですけど。僕は最近、この年齢になってやっぱアニメーション作りで何が大事かと言ったら、やっぱりコミュニケーションだな、というのをつくづくホントに思います。

 アニメってやっぱり一本作るのに時間がかかるじゃないですか? 映画もテレビも作るのは大変で一緒の用ですが実はその工程がちょっと違う。映画は山本さんも撮ったから分かると思うけど、実写は結構短期間で撮影は終わります。

 特に日本の映画は短期勝負で撮影から編集して作るでしょ? で、確かに、沢山の人たちが関わるのだけれども、短期勝負の制作だから、もう監督のあの言動が頭にくる、などの問題などがあっても、我慢して、「だったら俺が、いい作品撮ってやる」、みたいな体育会系のノリで短期間にテンションをあげて集中して作り切ります。

 また、漫画とか小説というのは、あんまりたくさんの人が関わらずに、少人数が集中して自分のクリエイティビティで出すでしょ? で、編集者とか編集担当とかがいるんだけど、そんなにたくさんじゃないんですね?

 だから、制作過程であんまりコミュニケーションロスが少ない。まあ変な話ですけど漫画家さんと編集担当が合わなかったら、担当変えられちゃいますから。

 一方、アニメは長期間でいろんな人たちが、いろいろな立場で入ってコミュニケーションをするから、アニメの制作過程で一番トラブルが起こるのは、コミュニケーションの問題がほとんどだなと思うんですよ。

山本:
 おお、そこから本題に入っていく感じですね? いや、仰るとおり。映画だったら、まあいっか。もうしょうがねぇや。あともう数日でね、このクソ監督ともおさらばなんで、みたいなことで、やってくれるんですけど。アニメの場合は、付き合いが長いので、どんどん蓄積されていくんですね。

 いいものも蓄積されるけど、悪い恨み辛みなんかが、ものすごく蓄積されていくというのはありますね。前回の大地監督との対談で、プロデューサーは、なんでこんななっちまったの? という。

 アニメ業界はなんでこんなんになっちまったの? ということを、大ベテランの監督さんと僕、それに比べたら若手の監督という2人が吊るし上げたというね。で、今日は、その解決編にしたくて。

日本にはプロデューサーの教育システムが無い

山本:
 今のプロデューサーはホントにマジでどうなのよ? というところをちょっと語っていきたいな。それを広げて、アニメ業界はホントに、これでいいのか悪いのか、どうすりゃいいの? というのを語っていきたいなと。

 竹内さんの視点から、今のプロデューサーたち、ホントごまんといますが、いらない人間も増えたとか思っているけれど、今、プロデューサーと名乗っている人たちのなんとなくの感想ってあります?

竹内:
 クリエイティブ面をプロデューサーをするか? プロジェクト全体を見るか? もちろん全体の中でも、宣伝プロデューサー、販売プロデューサー、海外プロデューサーとか、いろいろあるんですけど、プロデューサーといってもたくさん役割があることをまず理解して頂きたいなと思います。

 その中で山本さんが、しょうがないと言っているのは、どの辺のプロデューサーのことを言っているんですか?

山本:
 ツイッターでね、どの辺のことを言っているんですか? と訊かれたんで、全部ですと答えました。ああ、でも特にやっぱり現場に近い、制作に近いプロデューサーですかね。

竹内:
 僕は別に今日プロデューサーの代表で語る気は無いですけど、結構こう見えてジジイなんでジジイとしての意見を話します。ちなみに来週ついに57才になるんですよ。

山本:
 あ、おめでとうございます。

竹内:
 やっぱりプロデューサーって、まず大前提としてプロデューサーの定義が日本では曖昧です。プロデューサーって何をする人か、というのがはっきりしないから。

 で、定義が曖昧だとどんな弊害が起こるかと言ったら、教育が無いんですよ。プロデューサーになりたい人は、どこに行けば誰が教えてくれるんですか? というような。実はこれは監督も、もしかしたら近いかもしれない。

 アニメ産業全体に言えることは、実は若い人たちとかが、良くも悪くも、成功失敗というのを、いろんな人たちに伝える様な仕組みがうまく回ってないんじゃないのかなってのが、最近ちょっとジジイとして思うことですね。

山本:
 それは人のこと言えなくて、僕も古巣を出て起業してしまった身なんですけれども、最近やたらめったら、アニメーション会社が増えたと。で、今もまだ増えていると。一種の起業ブーム。

 その中で一子相伝みたいな、プロデューサーから制作へ伝えるべきノウハウであるとか、教育というものが、今やもう完全に欠落しているというのは、確かだと思いますね。

竹内:
 これは、別にアニメに限らず、映像業界とか、テレビ業界なども、日本では、僕の知る限りプロデューサーの教育のシステムは無いんですよ。

 ただ、テレビ局とかひとつの会社の中だと、これは組織だから、ちゃんとその中の流儀とかお作法とか、こうすれば失敗しないというのは、企業利益のために、みんなやることなのでそれは先輩が後輩に教えるという流れはできている。

 でもそれが行き過ぎると、パワハラだとかになるけども、アニメ業界がちょっと悲しいのは、いろんなフリーの方々とか、みんな所属や会社が違うじゃないですか。

 その人たちが作品の時にガーッと一度に集められて、ざっと制作するとやっぱり個々の流儀が違うんですよ。

山本:
 違いますね。

クリエイターの「個々の流儀」をまとめられないプロデューサー

竹内:
 それぞれの流儀は違う。でも、その時に集まったスタジオの作り方、監督の方針、もしくは総合プロデューサーのやり方に合わせていかなくてはならない。だからアニメって、ものすごく多様性を求められるんですよ。

 はっきり言うんだけど、プロデューサーがダメだというのは簡単なんだけど、なんでプロデューサーを良くしようという方向にならないのかな? というのが、自分自身後輩に対する教育も含めると、教育体系をちゃんとしていないからかなと、これは結構反省しています。

 プロデューサー代表としていうのであれば、プロデューサー教育をもっとちゃんとしなきゃいけないのかなと思います。山本さんは分かると思うけど、制作進行の方がいきなり「はい、あなたは明日からプロデュースをやってね? 」というのが、作品が多くなって、人材が少ない時には多いじゃないですか。

 「はい、やってね」とい言われるのは、良いんだけど。「じゃあ、どうしたらいいんですか?」、「 誰に聞いたらいいんですか?」すると 「ああ、先輩に聞いて」というけど、先輩プロデューサーは忙しいし、じゃあ、なにか勉強する本があるのかといったら無いし。ここにやっぱり問題があるような気がします。

山本:
 制作進行も育て方が無いんですね。「早速1本担当作品を持ってくれ」と。「なんでもいいからやってくれ」、でもやり方がわからないと。制作進行って何をするんですか? と、でも教えてもらえない。

 そこからのスタートなので、制作進行もよくわからないままやっていて、なんか2本くらい。とりあえず、ぐちゃぐちゃの状態のまま回したけど、じゃ次デスクねと。「ええ!?」 ってなって。さらにわけがわからないという感じですね。

竹内:
 それでうまく作品が作れた人は良いんですよ。わかんないところに、ポンといきなり現場に放り出されて、監督に、「お前なにやっているんだ?」と言われて、右も左もわからずに、でスタッフ調達ができなくて困ってしまう。
 それって僕らも含めての作り手に問題がある様な気がします。ちなみに山本さんの若い時は、どうだったんですか?

山本:
 僕は、“京都アニメーション”というところで、ちゃんと教えてくれましたよ。そこは撮影にいたるまで、もちろん制作も全部揃っている会社だったので、一通りの部署をまず勉強しろということで、仕上げもあったし、制作進行もやったし。僕は、制作進行ホント出来なかったな。

竹内:
 山本さん最初は制作進行で入ったの?

山本:
 最初は撮影です。撮影で入って、2年くらい専念してやって、その後に制作進行もやれと言われて、そのへんでちょっと僕も演出やったり、やらしてくれなかったり、イライラしていた時なんですけど。制作部にはいましたよ。当時の制作部の上司には、お世話になったし、やっぱりちゃんと教えてくれるんですよ。

竹内:
 組織体系としてちゃんと、「これは違うぞ」というような怖い先輩もいたでしょう?

山本:
 そう。あと、深夜のミーティングみたいなのもやるんですよ。それはもう雑談なんですけど、その中で、「こいつがさ」みたいな、「ここトチってさ」とか、愚痴が入るんですけれども、それを聞いて学んだというのは大きいですね。

 今、横の繋がり、制作部っていうのはどの会社にもあると思うんですけど、横の繋がりもホントにあるの? と思っちゃいますね。

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