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「同人誌は手に入れるものではなく、ライブになった」年間5000サークルと接する同人書店の統括に、目的が体験へと変化する同人誌の今を聞いた

 日本最大級の同人イベント「コミックマーケット」。かつては次々と現れる覇権作品の二次創作同人誌が大量に作られ即売会で頒布された。しかし、毎週のように同人イベントに赴き、年間5000ものサークルと接するCOMIC ZIN 同人統括責任者の金田明洋氏によると、もはや明確な覇権作品がない時代となっているという。

 Twitter、YouTube、SNSの発展、そうしたデジタル社会となった今、わざわざ「本として残す」意味や価値も見直すべき時期となっている。ただ山に登ろうという人が居なくならないように、同人誌は「本を作る」「紙の本を読む」娯楽として残るであろうし、実際に作家さんに会って手渡してもらえる「経験」にこそ価値を見出しつつある。

COMIC ZIN 新宿店

 同人誌即売会もその目的は目当てのサークルの新刊を「手に入れる」ことから、即売会という会場の生のライブ感を味わうことが大きな目的と変わろうとしている。そうしたライブ感に価値を見出す娯楽の変革期、一体何か起こっているのか? 金田氏に聞いた。

取材・文:ちぷたそ
編集:サイトウタカシ


<COMIC ZIN同人統括責任者 金田明洋氏>

──前回のインタビューでは、「今は(同人で)覇権が生まれにくい時代」という話を伺いました。今の流れも確認しておきたいんですけども、前回お話を伺った時と比べて何かが特出して出てきたとかはありますでしょうか。

COMIC ZIN同人統括責任者 金田明洋氏(以下、金田):
 新しい要素を1つ足すとすれば、まだどう動くのかは自分もわからないんですけど、「VTuber(バーチャルYouTuber)」の大きな流れが来ていることを感じますね。

「VTuber」という新興勢力

──ああ、やっぱり。VTuber、ここ数ヶ月で急速に目にする機会が増えましたし、ネット上だけでなくリアルイベントでも姿を見かけるようになりました。コミケでもキズナアイちゃんとかは前からコミケ参戦していますよね。ショップでの同人誌の扱いも増えていますか?

金田:
 前回も言いましたが、COMIC ZINは同人でも評論系・情報系に特に力を入れているショップで、現状うちでの取り扱いはあまり無いです。でも公式の本は入荷していて、それが実際に店頭で人気があったりはしますね。完全に新しいジャンルが久しぶりに来ているので、すごく今後が楽しみです。

──それぐらいにVTuberの勢いは強いんですね。

VTuberの関連書籍はCOMIC ZIN店頭でも人気を集めているという

金田:
 同人は一旦置いといて、VTuberを楽しむ人のパワーというか圧力みたいなものは、ここ数年でも見ないものだと感じています。一気に来すぎていて、どこかで落ちついてしまっちゃうんじゃないかと怖くなるぐらい。

──では夏コミでも注目ですね。

金田:
 VTuberというジャンルに期待している一方で、こうした形式のものが爆発的に流行る背景についてはいろいろ考えちゃいますね。

VTuberにみるネット時代の時間の使い方

金田:
 VTuberって、言ってみればメディアのひとつですよね。ただ、そこで放送されてる放送の内容や質とかは地上波で放送するものとは全然違っているわけで、そして一本一本が短い。2分ぐらいの動画を見て、終わったらすぐに次の娯楽に移るみたいな。そう思うと、ネット時代の時間の使い方にがっつりハマっているコンテンツなんでしょうね。

──ライターをしていると「今の人は長文読まないから」と文章を短くするよう依頼されることがあります。あと1時間のドラマとかも長く感じる人が増えているという話を聞いたことがありますね。選択肢が多い娯楽の楽しみ方も「その時間にひとつのものだけを楽しむ」のではなく、「限られた時間に同時に複数楽しむ」という方向にシフトしているのかもしれないと思っています。

ゆるキャン△やアズールレーン、FGOなど、アニメやソーシャルゲーム原作の同人誌が並ぶ棚

金田:
 今はVTuberも含めて個人でも情報発信ができるようになったし、娯楽の選択肢も増えたので、ネットがない時代に比べるとひとつひとつのコンテンツのレベルがピンキリなんですよね。でも、それはそれでいいんだと思います。一方で、コンテンツも気軽なほうだけを選んでいくっていうのはなんか違うなと思うんですよね。

 例えば、自分の家の本棚はマンガやラノベだけではなくビジネス本とか、真面目な本も中にはあるわけで、自分を構成する要素は、ゆるいものも堅いものもある。けど、気軽なものだけで自分そのものすべてが構成されるのはもったいないような気がして。気軽に楽しめるコンテンツもいいんですけど、そういうのではない、何か濃密な経験をしたいと思った時に何を楽しんでいるのかというのは同時に語られるべきなんだろうと思います。

 例えば、映画というコンテンツは面白いものだけど、2時間ぐらいあって、それそのものに時間やお金を払うことに対する期待があって、その期待に対する答えが出るまでが長い。対してVTuberやYouTuberなどのコンテンツは、その動画に期待するものが見る前からわかっているし、そもそも過度な期待をしなくてもいい “短時間で期待に応えてもらえる”というコンテンツなのかもしれません。

──娯楽にも効率化の波を感じますね。もちろんキャラが魅力的だったり、話が上手かったり、面白いYouTuberやVTuberが人気を集めるのは大前提なのですが、気軽に楽しむことができる気楽さも流行の後押しをしているのかもしれないですね。そういうのもあって短いコンテンツが、今、求められているのかも。

金田:
 何かに対して、時間やコストをかけて失敗することを極端に恐れているような気がします。現代人、忙しかったり疲れているんですかね。前回に、「コンテンツを通じて自分語りがしたいのではないか」という話をしましたが、それが続いている気がします。承認欲求が満たされない世の中になっているのかなと。

 ネット時代だからこそ、書いてあるものを鵜呑みにしないでちゃんと自分で考える。同じ事象でも、書く人の立場によっても状況も全然変わってくるわけですから。なんのリスクもなく、世の中にコミットできるとかそういうわけではなく、最後は自分で判断しなきゃいけない。

──これだけの情報化社会で、流されずに自分をしっかり持つということは大変ですよね。

金田:
 今、デジタル社会で、わざわざ本にしなくてもいくらでも方法があるわけじゃないですか。一方で、「本として残す」という需要もあるんですね。コミケや同人誌というものにこれだけの人が関わっているというのは、本能的に自分で作ったものには嘘偽りはないからなのかなと思っています。自分で手を動かして作るという経験は自分だけのものなので。

「本として残す」意味について話す金田氏

 どれだけの未来を読むかにもよるんですけど、今生きている人たちが死に絶えるぐらいまでは“本”というものの意味は残り続けると思います。それほど本と言うものがよくできたものだと思うので。ですが、今生きている人たちがみんな死に絶えて100年ぐらい経ったら、もしかしたら完全に本じゃない完璧な代替品が生まれているかもしれません。本や同人誌に関わる仕事をしている自分が言うのもアレなんですけど、それはそれでいいんじゃないかと思います。

 今までの「本を作って売り出す」というのは、マネタイズの面で本を作る必要があるだけです。完全にデジタル処理で本じゃなくても誰も困らなくなったら、わざわざ本にする意味がなくなってしまう。本にするのは選び取るひとつの手段でしかない。そういうものなので、社会というのは徐々にリスクが低くてコストが低くて、という方向には絶対流れていってしまう。

 旅の楽しみは、自分の足で一歩一歩踏みしめることだとは言うものの、東海道五十三次を自分の足でもう一回やろうとする人というのはなかなかいないわけですよね。旅行する人が1万人いたら、ほぼ全員新幹線とか飛行機とかの便利な交通機関を使うわけで。でも、例えば登山とかサイクリングとか自分の体を使って遠くへ行こう、山に登ろうみたいな流れはなくならないわけですよ。本もそういう、究極的なことをいうと「本を作る」という娯楽、「紙の本を読む」という娯楽として残っていくんじゃないかと思います。

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