デジタルアートの即興バトル「LIMITS」とは? プロデューサーが語った“アートに勝敗をつける禁忌”を犯す意図
ここ数年、「フリースタイルダンジョン」を起点とした、ラッパー同士がスキルを競い合うフリースタイルMCバトルの人気が定着しつつある。それまでヒップホップに興味のなかった人にまで裾野が広がっているが、その裏で、“デジタルアートのフリースタイルバトル”がにわかに盛り上がっていることを知る人は少ないだろう。
「アートのバトルってなんだ?」「アートって、優劣をつけたり、戦うものじゃないのでは?」そんな疑問を持つ方も多いはず。しかし、2015年に大阪で始まったイベント「デジタルアートバトルLIMITS(リミッツ)」は、そんな常識をくつがえす。
最近では「マツコ会議」や、RHYMESTER・宇多丸氏がパーソナリティを務める「アフター6ジャンクション」などで紹介され、徐々に認知度も広がっているイベント・LIMITSの概要はこうだ。
毎回ランダムで出されるテーマに沿って、デジタルアートのクリエイターが1対1で20分間、アート制作をおこなう。ステージ上に用意された液晶タブレットなどを駆使して、作品を作り上げ、審査員と会場の観客の投票により、勝敗を決するバトルだ。
音楽のライブ会場さながらの派手なステージでは、MCが実況をしながら盛り上げ、観客は徐々にでき上がっていくアートの内容に魅了される。そんなイベントである。
2015年に大阪で第1回大会が開催されたのち、大会の規模は年々拡大。きたる5月12日(土)、13日(日)には、世界大会「LIMITS World Grand Prix 2018」が渋谷ヒカリエ(ホールA)で開催される。
出場者約400名のなかから、東京・大阪・名古屋に加えて、香港・台湾・韓国・アメリカのロサンゼルスにておこなわれた予選と各地の決勝大会を勝ち抜いたトップ16名がぶつかり合い、優勝賞金500万円とその栄誉を勝ち取るべく戦いに挑む。
年齢、性別、国籍といった出場者のバックグラウンドも様々でハイレベル。日本からの出場者では、EXILE×倖田來未やPerfumeなどの作品にも携わるイラストレーター/デザイナーの上田バロン氏や、hide(X JAPAN)アートワークやゲーム『鉄拳7』ビジュアルなどを手がけるjbstyle.氏など、有名クリエイターも多い。
この大一番を前に、このイベント魅力やこれまで辿ってきた道のり、今後世界にどう展開するかという野望を、運営会社代表でプロデューサーの大山友郎氏に語ってもらった。
取材、文/森祐介
写真/市村岬
プロセスを“ビジュアル化”したら面白い
──このイベントを始めたきっかけはなんでしょうか?
大山氏:
日本には素晴らしいアーティストがたくさんいますが、もっと評価をされていいのにな、と感じることがあったんですね。彼らのすごさを伝えるためには、多くの人から見てもらう場とスターが必要です。そのために、いろいろ仕掛けていたなかの一つがこのイベントでした。
──まだ見たことがない人に向けて、LIMITSというイベントの魅力を教えてください。
大山氏:
まずは、出場しているアーティストたちがすごい絵を描いてるんだってことを見てもらいたいんです。そのアート自体もそうだし、いろんなイラストやアートに触れてきた人でも、作り上げていく過程を見ることってなかなかないですよね。
※2017年2月におこなわれた世界大会決勝のダイジェスト動画。
『料理の鉄人』って番組がありましたけど、「料理する行程なんて面白いのかな?」って思っていても、ビジュアル化したら意外と面白い。番組フォーマットが世界に輸出されているほどです。ただ単に作るだけじゃなくて、時間内で作るために追い込まれてる感じや、汗がたら〜ってたれる光景って、見てる側もドキドキする。そういった、スポーツとのミクスチャー感もみどころです。
“勝敗”はどうつくのか
──審査をする際、どういった点で判断をするのでしょうか?
大山氏:
審査のポイントは、アイデア、スピード、テクニック、ビジュアルストーリーテリングの4つです。
──最初の3つはなんとなく分かるんですが、ビジュアルストーリーテリングとはなんですか?
大山氏:
テーマをどう解釈して、ビジュアルで物語をどう表現するかということなんです。あるテーマが出たときに、観客は自分なりに「こういうことを描くのかな」とイメージをする。でも、見てる側としては、無意識にそれを裏切ってほしいとも思う。アーティストが、どうツイストを効かせた形で表現してくれるのか、どう驚かせてくれるのかって期待するんです。
ただ描き上げるだけじゃなくて、20分という制限時間のなかで、どう構成して、サプライズを起こすのかということをトータルで見るポイントがビジュアルストーリーテリングです。
──過去、私が見た回では、「これは何の絵だろう?」って思っていると、終わる5分前くらいに、jbstyle.さんが上下を入れ替えて「わー!こんな絵だったのか!」と驚きがあるバトルもありました。
大山氏:
そうそう! そういった裏切りのアイデアや、どこでそのサプライズをを入れるかっていうのが上手くハマると、会場がドーンと沸く。その過程も含めてアートなんですね。でき上がったイラストだけがアートなわけじゃない。
※早送りでわかりづらいが、右側のjbstyle.氏が「0:55」あたりで絵の上下をひっくり返している。
──とはいえ、他の現代アートと同じように、「あの20分で描いた作品を買いたい」という人が現れる可能性もありそうです。
大山氏:
今は無いんですけど、将来的にはそれもあり得ると思っています。アーティストから見て、20分という短い時間で作り上げる必要があるので、作品としては粗いから渡したくないという気持ちが強い。でも、長い時間をかけて作品をつくる事と、LIMITSのパフォーマンスは根本的に違うと考えてほしい。
LIMITSでのパフォーマンスは、20分後にでき上がった作品そのものだけじゃなく、ゼロから20分までの過程、対戦相手とぶつかる熱量や、オーディエンスの反応なども含めて、どの瞬間もすべてを合わせて作品だから。それを買いたいという人が現れる可能性はあるでしょうね。
もっといえば、そのでき上がった作品を飾っておいてもいい。そのオーナーが「このイラスト、実はLIMITSの〇〇年のワールドグランプリ優勝作品で、その過程の動画がこれなんだよ」って見せながら、なぜこれに1億円を出したのか……って解説したっていいと思うんです。その完成したイラストは、あくまで20分の作品の最後の一本線というか。
──アートのなかでも、現代アートは特にテーマやプレゼンテーション込みで、成立するケースも多いです。それに近いわけですね。
大山氏:
そう。ただ、もはや作品として単体で成立するレベルの完成度まで持っていくアーティストも多いんです。彼らのスピードや技量がすごいことに加えて、デジタルの強みでもあると思います。
──そして、デジタルなので、動画配信での観戦も可能ですが、やはり会場で見ると臨場感がぜんぜん違うのでしょうか。
大山氏:
やっぱり別物ですね。MCを含めた会場の一体感もそうだし、ボクシングでも、テレビで見るのと後楽園ホールで見るのは、生々しさが全然違うと聞きますが、それと同じことだと思います。