「メイドインアビスは10年後も残り続ける超大作」評論家が大絶賛する理由って？
苦しみや悲しみを“生命の素晴らしさ”として描く
岡田：
『メイドインアビス』の世界はすごいです。美しいものと恐ろしいものを、それぞれ同じ画で表している。見れない人とか、あんまり見たくないって言っている人は、あの幼児画が嫌だっていう人が多いんですね。とにかく園児としか思えないようなキャラクターばかりが出てくるんですよ。あれが嫌だっていうんですけども、あの幼児画でないと無理なんですよ。
『魔法少女まどか☆マギカ』という作品を、おっちゃんやおばちゃんでやっちゃ駄目ですよね。それはなぜか言ったら、あんな話、大人でやられるとしんどくて仕方がないからなんですよね。あの画でやっているからこそ、なんとか見られるような作品になっているんです。
『メイドインアビス』も幼児画でやらないと、かなりヤバいんですよね（笑）。それでいて、登場人物が少なくて、2人という、コアな描き方をしているのがキツい。
岡田：
昔、『おかあさんといっしょ』に『にこにこぷん』というコーナーがありました。あれが4、5年続いた時に、NHKのプロデューサーの人が「登場人物が3人しかいないから、役柄が完全に固定してしまい、お話を転がしにくい」とぼやいていました。
その次に『ドレミファ・どーなっつ！』で4人にしてみたら、いきなり楽になったという話がありました。それくらい、人数の違いは大事です。だって、例えるならゴンとキルアだけで『HUNTER×HUNTER』をやっているようなもんですからね！ その無茶を『メイドインアビス』はやっているんですよ。僕は『メイドインアビス』のことを『裏・HUNTER×HUNTER』って呼んでいます。
『HUNTER×HUNTER』は「広い世界に旅に出よう！」「僕達2人はいろんな人と出会って、友達になるよ！」というのに対して、『メイドインアビス』は「狭い世界へ潜っていこう」「もう2度と会えない」「友達は、みんないなくなっていく」というような話で（笑）。それを描くのがすごく難しい。
リコが左手に毒をもらってしまうシーンがあるんですね。この時にリコは、一緒に旅をしているレグに、「毒が回ると命を落としてしまうから左腕を切り取って」と言うんですよ。
岡田：
そう訴えられて、レグは切り取りやすいように、関節の位置から、まず骨を折ろうとします。それをリコから「構わずにやって」と言われて、レグはそれを泣き叫びながらやるんですが、途中でそれは終わったんです。こういうのは普通、どんな漫画でもいずれ治るじゃないですか。
しかし、最終回で見せたリコの腕が、ボロボロになった状態なんですよね。結局、その傷が一生消えないんです。親指しか動かなくて、他の手は麻痺したまま。この事実を“苦しみ”や“悲しみ”として描かず、「まだ私は親指が動く。良かった、冒険が出来る」というような“生命の素晴らしさ”として描くんですよ。生命賛歌として描く。
まだ左手が動くから、小指が動くから、というようにするのは現実の障碍者の人達に、どんなに力を与えているのか、という話ですよね。その話の描き方もすごく正直で「格好いいな！」と思うんですよ。ディティール描写も圧巻です。
メカニックにも細かいこだわりが隠されている『メイドインアビス』
岡田：
僕、結構つまらないメカシーンが好きなんですが、『ナナチ』というキャラクターと、その友達が地下に落とされた後、エレベーターで急速に上に上げられて、呪いのようなものにかかってしまう、という結構辛いシーンがあるんですね。
そのエレベーターがワイヤーで巻き上げられる時のワイヤーの端っこにショックアブソーバーみたいな物が並んでいて、これが引き上げられた瞬間に、一瞬パンタグラフみたいにたわむんです。
岡田：
このカットを入れるというのが、本当に自信があるということなんですよね。こんなの別にただのワイヤーでいいはずが、複雑なメカを描いていることで、産業革命時代の蒸気や石油で動くような機械だということが、これでわかるんですよ。このワンクッションを入れることによって、全体の“子供騙し感”が消えるんですね。
キャラクターが幼女っぽかったり、子供っぽくありながら、中には細かなこだわりを描いている。これがすごいんです。まとめになりますが、この夏のアニメで唯一、10年後も残るようなアニメだと思っています。泣く人の気持ちがわかる、すごいアニメです。
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