「ミクと一緒に踊る夢」を叶えた男――話題の動画『自分を3Dスキャンして遊んでみた』作者に話を聞いてみた
――若干、お答えづらいとは思うのですが、メディアアーティストの方にお仕事を依頼するときって、どこから金銭が発するものなのでしょうか?
坪倉:
僕の場合はフリーランスなので企業とは違う部分があるかもしれませんが、企画提案ということであれば、そこからお金をいただきます。ただ、「こういうことをやりたい」という相談の時点ではお金が発生しないこともありますね。相談を受けて、いろいろと提案したのに「なくなりました」ってこともたまにあります(苦笑)。僕自身、広告業界にいたのでグレーな部分に関しては経験値で判断していくしかない。無茶ぶりも少なくないですからね。
――例えばどのような?
坪倉:
先の『Myハチ公』で言えば、大きな反響を呼んだことで広告業界から、「HoloLensでこんなことは可能か?」というようなお話がたくさん来ました。一つのテクノロジーがバズると、それが万能かのように錯覚してしまうところがあります。そのため、僕はそういったテクノロジーの長所と短所を説明したパワーポイント【※】をあらかじめ用意しておきます。
――あらかじめ交通整理をして、クライアントに理解を促すというのはアーティストの発想というよりも、広告業界を知る坪倉さんならではですね。
坪倉:
スムーズに進行するには、技術的な問題を加味した問題解決能力が必要です。先に分かりやすく提示しておかないと、とんでもないところでひっくり返ってしまったりしますから(笑)。
デジタルに頼らない人を楽しませるための工夫
――ちなみに、現在、メディアアートとして新しい作品を制作していたりはするのでしょうか?
坪倉:
今日、取材に来られるということでお見せしようと思っていたんですよ。完璧な状態ではないのですが『void Sailing();』という作品で、最終的にインタラクティブマッピングの映像を重ねると、水がないはずなのに実際に水面の上を船が動いているように見える。
――船は磁石で浮いているんですか!?
坪倉:
そうです。磁石を動かすためにレールを敷いていて、磁力によって船が移動します。皆さんに楽しんでもらおうと、渋谷のFabCafeに設置したのですが、その時は上手く動かなくて……。「うちで展示したい」という方がいましたらこの場を借りて、僕まで連絡をいただければ幸いです(笑)。
――しかし改めて見るとこの作品のレール然り、坪倉さんの作品は工作的な要素も多分にありますね。取材中も3Dプリンターが常に作動しているという(笑)。
坪倉:
僕は電子工作が好きで、自作でレーザーカッターまで作ってしまいました。
――自作でレーザーカッターを!?
坪倉:
部屋も工具だらけですし、パッと見るとメディアアーティストの部屋には見えないという(苦笑)。自分で作った方が早いと感じることも多く、技術面の相談に乗っていたはずが自分でその技術を作るところまでやってしまうことも。
――演出家が舞台美術も作れるようなものですから、包括的に相談に乗れるというのも頷けます。
坪倉:
巡回展をしている「魔法の美術館」では、「Vertexceed」という作品を展示しているのですが、長期間展示するとなると触られて壊れる心配のないプロジェクションマッピングのような作品の方が好まれる傾向にあります。でも、電子工作が好きなので、『void Sailing();』のような作品も展示していきたいんですよね。
――つかぬことをお伺いしますが、個人で制作している作品の収入ってどのようになっているものなのでしょうか??
坪倉:
「魔法の美術館」さんの場合だと、期間に応じて作品借料を頂いてますが、実験的に置かせてもらうなど商業ベースでない展示はノーギャラの場合もあります。自分の作品だけで食べていくには、それなりに努力が必要ですね。
――厳しい世界であると。今、坪倉さんが注目している技術などあれば教えてください。
坪倉:
う~~ん、油圧かなぁ。
――ゆ、ゆあつ!? あの油圧ですか?
坪倉:
電気のパワーと違って、油圧は数百~数千キロも持ち上げるパワーがあるんですよ。まだ使ったことは無いんですが、油圧を組み合わせたメディアアートを作ってみたいですね。
――TOKIOがラーメンを作るために小麦を作っていましたが、坪倉さんからも似た匂いを感じます(笑)。
坪倉:
「テクノロジーってすごいでしょ?」みたいな感じにはしたくないんですよね。僕はテクノロジーに興味があるわけではなく、その先の「体験」に興味があるので。魔法のような非現実を体験してもらうためには、実体験ありきです。現実というのは手で触れたり、体で体験できるものですよね。その現実空間で「え? なんで?」という世界を作っていきたいです。
子どもの頃の夢を叶えるような装置を
――最後に今後の坪倉さんの展望に関して聞かせてください。
坪倉:
自分の作品を作るためにフリーランスになったものの、すぐに結構な数の広告仕事が入っていまってなかなか自分の制作が進んでいません。もう少し自分の作品を制作して、ゆくゆくは自分の作品だけで食べていけるようになりたいですね。「坪倉さんのこの作品を展示させてください」というようなお話がたくさんくるように頑張らないといけない。
今、メディアアートってチームラボさん、真鍋大度さん、落合陽一さんなどの活躍もあって、一般の方々にも浸透してきていると思うんです。注目を浴びつつあるジャンルだからこそ、個人で戦っていけるようになりたいなと。その上で、僕が子どもの頃に抱いていた魔法のような世界を体験できる装置も作っていきたい。
――科学館でワクワクしたような原体験に通ずるような?
坪倉:
ですね。ゲームをプレイしていて、「マリオのファイヤーボールを出せたらな」とか「RPGの魔法を出せたらな」って考えたことがある人って多いと思うので、子どもの頃の夢を叶えるような体験ができるものを作りたいですね。
「初音ミクと一緒に踊ってみた」を投稿した動機も、そういったシンプルな発想ですからね(笑)。自分の事を「中二病」だと思ってるし他人からもよく言われるんですが、結局アニメとかゲームとかファンタジーの世界でしか起こらないような事ってみんな大好きで憧れてるんですよね。でも大人になってそんなこと言ってるのが恥ずかしいから「中二病」なんて言ってバカにしてしまう。気にせず好きなもの好きって言えばいいのにと。
――実際にミクと踊った坪倉さんに言われると、とても説得力があります(笑)。
坪倉:
インターネットって何でもできるじゃないですか。それこそ僕の恩師はグーグル先生です。世界の集合知みたいなものがネットの中に詰まっている。例えばカフェを起業したいならグーグル先生に聞けばノウハウが分かる。やりたいことがあったら何でも始められる時代ですから、「やったほうがいい」ですよね。
その一方、ネットですべて教えてくれる時代だからこそ、体験するとか、体感するというアナログ的なものも求められてくると思うんです。今後、もっとデジタルなものやテクノロジーが当たり前になる中で、その裏側にあるような面白いものを作っていけたら最高ですね。
坪倉 輝明(つぼくら てるあき)
Media Artist / Creative Technologist
フリーランス
http://teruaki-tsubokura.com/
http://www.nicovideo.jp/mylist/3074714
https://www.youtube.com/user/tuboteru1
坪倉さんの作品を体験できるイベント「マジカリアル~VR・ARが作り出す不思議体験~ 」が埼玉県川口市のSKIPシティで現在開催中となっています。
また、9月30日〜10月1日に開催される「六本木アートナイト2017」では、クリエイティブユニット CALAR.inkの一員として、ライブペインティングショー「During the Night -よるのあいまに-」でのパフォーマンスが行われます。
今回のインタビューで興味を持っていただいた方には、是非実際に体感していただきたい!
「マジカリアル~VR・ARが作り出す不思議体験~ 」
会期:2017年9月16日(土)~2018年3月11日(日)
会場:SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
映像ミュージアムアクセスはこちら
六本木アートナイト2017
CALAR.ink「During the Night -よるのあいまに-」
会期:2017年9月30日(土)~2017年10月1日(日)
会場:六本木けやき坂通り1F特設会場