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声優・KENNが声の仕事を意識したのは”サクラ大戦”をプレイした時ーーギターとゲームに夢中だった学生時代から『遊戯王』で声優に挑戦するまでを振り返る【人生における3つの分岐点】

■分岐点3:『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』遊城十代役での声優デビュー

――では、ここからは3つ目の分岐点のお話に。

KENN:
 3つ目は「『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』でのアニメ声優デビュー」です。最初にお話したとおり、これは前の2つの分岐点と直接繋がっているんですよね。

 僕がバンドでミュージシャンとしてデビューし、さらにミュージカルデビューをしていなかったら、このオーディションにはまず受からなかったんです。それどころか、オーディションを受けることすらできなかったかもしれません。

――どういうことなのでしょう?

KENN:
 ミュージカルのキャスティングを担当していた人が、『遊☆戯☆王』シリーズのキャスティングも担当していて、そこからご縁が繋がりました。受かったときは、運命を感じました。

 それに、実は中学校のころから、ギターだけじゃなく、声優という職業にも興味があったんですよね。

 僕、ゲームが好きで、中学校のときにお年玉で、セガサターンを買ったんです。

――セガサターンと初代プレイステーション、いわゆる「次世代機」が一気に登場したころですか【※】

※1994年にセガサターンとプレイステーションが発売。それまで主流だったスーパーファミコンに対して「次世代ゲーム機」とよばれ、シェアを競った。

KENN:
 そうそう。家庭用ゲーム機でボイス付きのゲームが出たことは、僕の中ではかなりセンセーショナルな出来事だったんですよね。

 セガサターンを買って『サクラ大戦』をプレイしたんですけど、魅力的なキャラたちがほぼフルボイスでドラマを作っていくのを見て、声優という職業を再認識したんです。

――「再認識」?

KENN:
 それまでも存在を知らなかったわけではないんです。でもそこで、あらためて興味が湧いて、今にして思えば素人考えですが、「自分は人前に出るのがそんなに好きではないけど、声の仕事なら、そんなシャイな自分でもできるんじゃないか」と子供ながらに考えていたんですよね。

 結局はそのあと、先に興味を持っていた音楽の道に進むわけですけど。

――声優業に突然興味を持ったわけではなかったと。

KENN:
 そうですね。だから、たしかミュージカルの稽古中だったと思うんですけど、「アニメって興味ある?」と聞かれて、「はい、あります」と答えたら、「『遊☆戯☆王』のオーディションがあるんだけど」と言われて。そのまま後日、会議室のようなところに連れていっていただき、オーディションテープを録りました。

 でも、その段階では「まさか、受かるわけない」という気持ちでしたね。ビッグタイトルですし、いい経験になったな、と。後日「受かった」と言われたときも、すぐには信じられなかったです(笑)。

――その流れは驚きますよね。

KENN:
 ミュージカルで芝居を始めてまだ1年目くらいでしたし、そもそも今よりも声優の仕事が謎のヴェールに包まれている時代でもありましたし。

 だからキャスティングの方が気を遣ってくださって、他のアニメのアフレコ風景を見学させていただいたりもしました。余談になりますけど、その現場に福山潤さん【※】がいらっしゃって、すごく優しく接してくださったんです。今でも福山さんとご一緒する度に、そのときのことを思い出しますね。

※福山潤……「コードギアス 反逆のルルーシュ」ルルーシュ役、「吸血鬼すぐ死ぬ」ドラルク役ほか。

 

■「遊☆戯☆王」シリーズに詰まったアフレコ技術の数々

――知識も経験も浅い状態から、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』のアフレコが始まって、いかがでしたか?

KENN:
 アニメでの演技は、やっぱりミュージカルの演技とは違うものなので、また不思議な感じでした。

――KENNさんの目にはどんな違いが映りましたか?

KENN:
 ミュージカルや舞台では、実際のリアリスティックな動きよりもわかりやすく動作で表現したり、大きな声を出したりします。「デフォルメされた表現の中の『リアル』を演技で作っていく」ようなイメージです。

 アニメも「デフォルメされた表現」で、その中で「リアル」を作るのですが、作り方が違う。わかりやすいのは、息のアドリブです。呼吸に音が入ることって、実生活ではあまりないですよね。ミュージカルでもそんなに、息の芝居は使ったイメージがありません。

 でもアニメだと、そうした実生活にない表現でいろいろな感情を表現して、絵に当てはめていく作業がある。

――大きな違いですね。

KENN:
 あと「タイミングは画面が決める」というのも大きな違いですね。アニメの音声収録を「アフレコ」と呼んでいるのをよく見かけると思いますが、あれは「アフターレコーディング」の略です。つまり映像が先にあって、後(アフター)から決まった尺(=時間の長さ)にセリフを入れる必要がある。

 そういう技術的な面だとか、収録中に台本や衣服などからノイズを出してはいけないとか、そういう一つひとつのことに、戸惑いながらの収録でした。

――舞台演技との違いがたくさんある。裏を返せば、学ぶことが多い環境だったのでは?

KENN:
 それでいうと、『遊戯王』シリーズに特有のこととして、「フレーバーテキストを感情を込めて読む」という点があるんです。

ーーカードに書かれている、モンスターの能力や特殊効果などを説明する文章ですね。

KENN:
 あの非日常的な文章を読むのは、すごく勉強になりましたね。

 滑舌に気を付けないといけないし、シーンに合わせたテンションも大事だし、何より、観ている人に必要な情報がちゃんと伝わらないといけない。モノローグにナレーションがミックスされているようなセリフで、そこで演技の使い分けや、セリフの距離感の出し方を学びました。

 くわえて自分は主役の遊城十代役を任せていただいていたので、通常のセリフの量も多かったんです。

――声優デビュー作なのにいきなり求められる技術が多かったんですね…!

KENN:
 実際に、スタッフの方から、「この現場でいっちょ前にできたら、どこに行っても大丈夫だよ」と言われたのを覚えています。

■遊城十代を演じた3年半ー新録のときは「どの時期の十代か」相談して再現した

――音響監督は『テニミュ』の作詞も手がけられている三ツ矢雄二さん。

KENN:
 そう、みなさんご存知のレジェンド声優で、役者の気持ちがとてもよくわかってらっしゃるので、役者によって
どのようなアプローチで指示を伝えるか、やり方を使い分けてらっしゃる印象でした。

――三ツ矢さんが主人公の上杉達也役を務められた『タッチ』の現場で、キャリアの浅い日高のり子さん(ヒロイン・浅倉南役)を熱血指導されたエピソードは有名ですよね。KENNさんにもそういう指導は?

KENN:
 いや、僕には厳しくはなかったです。僕の感性を大事にしてくださって、自由にやらせてくださっていたと思います。

 僕ではなく、僕以外の方に厳しくて、それが「やり方を使い分けて」いらっしゃると感じたところですね。

 つまり、僕はそこまでのレベルに達していない、言っても咀嚼できないから、厳しくしないんだろう、と。この現場に来る前に、「他人へのダメ出しも、自分へのダメ出しだと思え」と僕は教わっていたので、そういうことだと理解して、他の方への指導もなるべくメモをとるようにしていました。

――でもその、失礼な言い方かもしれませんが、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』の1話を今観ても、たしかに初々しくはあるのですが、大きな違和感はない芝居をされてらっしゃるように感じました。

KENN:
 
いやー、今観たら下手だなって、自分では思いますけどね(笑)。でもたしかに、その年代でしか出せない初々しさはあったので、そういうところを現場では買ってくれていたのかなと思います。

 ただ、今でも悔しいのが、カードを拾って息を吹きかけ、砂埃みたいな汚れを取るシーンで、上手に息を吹くことができなかったんです。何回も挑戦させていただきましたが、結局、完成した映像ではほとんど音声が乗ってないんです。「今なら違うアプローチをするのになあ!」と、観返すたびに悔しくなりますね。

――ときどき観返されるんですか?

KENN:
 気まぐれにですけど、たまに初心に返ろうと思って、観ますね。

 あと『遊戯王 デュエルリンクス』というスマホゲームの新録ボイスで、久しぶりに遊城十代を演じる機会があったんです。『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』は3年半続いたTVアニメで、その中で遊城十代も成長したり、変化があったんですよね。

 その為、どのくらいの時間軸の遊城十代かにより演技のアプローチが変わるので、新録するときにはスタッフさんと相談するんです。「今日は2.5年目くらいで」とか「キャラクタービジュアルは1年目だけど2年目で」とか。そのときに、なるべく客観的な形で再現するために、観返したりもしました。

 そうやってこだわらせていただくの、楽しいんですよね。

――『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』に出演した3年半の中で、特に思い出深いことというと、何になりますか?

KENN:
 2つ目の分岐点とも関連してくるのですが、『遊☆戯☆王デュエルモンスターズGX』の現場に行きながら舞台の稽古をしていて、あばらの骨を折ってしまったんです。

 骨は折れているけどドクターストップは掛かっておらず、できるだけ安静にしてね……という状況でしたが、アフレコ中はそうもいかないので、大きな声を出すじゃないですか。

 またタイミングの悪いことに、ちょうど物語の中で、遊城十代がかなりシリアスに追い込まれているシーンで結構な声量で叫ばなければならず、あばらの骨が本当に痛くて。でも、結果的にその痛みで絞り出すように出したセリフが褒められたんです(笑)。

――まさに怪我の功名ですね。

KENN:
 そうなんです(笑)。でも、そのときはいい結果につながりましたけど、アフレコに限らず、何をやるにしても、自分が体調を崩したり、怪我をしたりして、自分の仕事を合格ラインに持っていけないと悲しむ人がいることを、そこで意識したんですよね。

 誰かが待ってくれていたり、時間を割いて見に来てくれたり、そういうエンターテインメントに関わっているんだから、より一層、責任感を持って役やお仕事に向き合わないとダメだな……とその瞬間に感じました。

 とはいえ気を付けていても怪我をしたり、病気をしたりするときはあるので、気負いすぎると逆にそれで自分が潰れてしまう。だからそこまで自分を追い込まないようにしつつ、でも、自分がそういう世界でお仕事をしていることに対しては、きちんと責任を持たなければいけないと、初めて感じたのはこの作品に出演していたときでしたね。

 

■「いつかコーヒー屋さんをやってみたい」

――そんな3つの分岐点を経たKENNさんが、今、人生において大切にされているものって、どんなことでしょうか?

KENN:
 「調子に乗らない」ですね。僕は調子に乗ると転ぶタイプなんです。サボり癖があるというか、自分に甘いので。ファンのみなさんだとか、お仕事で関わらせていただいた方々には、あまり甘くない印象を持っていただけているようですが……。

――今日お話をうかがっていても、勝手にストイックな印象を持ってしまっていました。

KENN:
 自分に甘いからこそ、仕事のときはこだわるんです。プライベートだったらサボってしまいたくなること、「これくらいでいいだろ」で済ませたくなることも、仕事においてはこだわったり、努力したりできる。

 自分が納得できる仕事をしつつ、クライアントさんにも納得してもらえて、届いたときにはファンのみなさんにも喜んでもらえる。そこをいつも目指したいんですよね。お仕事をさせてもらえていることが、本当にありがたいです。

 自分の場合、調子に乗ると、いままでこだわっていた部分にもこだわらなくなってしまいそうなんです。調子に乗ることで、いい波に乗れる人もいるんですけどね。僕は根拠のない自信や、驕りみたいなものが出るとよくないので、気をつけています。

――自分を追い詰め過ぎるのもよくないけれど……と。

KENN:
 そう。自分を卑下したり、謙虚になりすぎたりするとマイナスになるので、バランスが大事ですよね。

――そんなお話からの流れでうかがうのは少し気が引けますが、野望はありますか? 将来的に、こんなことができたらいいなと思うことは。

KENN:
 おかげさまで本当にいろんなお仕事や表現をさせてもらえていて、夢も叶っているので……最近は「変わらないためにはどうすればいいかな」と考えることが増えていますね。体力的にも、人間はどうしたって年老いていくので、自分のコンディションを保っていくにはどうしたらいいか。エイジングによって声やお芝居が、自分の中でどう熟成していくのかにも向き合いたい。そんな感じで、あとは……いつかコーヒー屋さんをやりたいな、くらいですね(笑)

――わ、そうなんですか。

KENN:
 いきなり関係ない話ですみません。

――いえいえ、面白いです。コーヒー屋さんとは。

KENN:
 バイトをたくさんやっていたころ、接客の仕事
が多かったんです。店員さんとして、「自分を装う」じゃないですけど、何かになりきるのが好きだったんですよね。

 特に純喫茶でバイトをしていたとき……ちょっとお上品なお店で、赤絨毯が敷かれ、金の置物などもあるようなところで、蝶ネクタイをつけて、ベストを着て働いていたんです。そうやって形から入ることで、ちょっと上品な自分になれた気がしていました。接客態度も、普段の自分とは違っていたと思います。

 そんな変身ができる感覚は、どこかお芝居にも通ずるところがあって、そのバイトで接客とコーヒーが好きになりました。

 機会があればいずれ、そういうのもやってみたいなと思っています。ありがたいことに、今、声優はなんでもありですから。型にはまらずいろんなお仕事をしている人が多いので、いろんなことに挑戦しやすいですよね。

 


 今年1月にInstagramを開設したKENNさん。出演情報などの告知だけでなく、好きなゲームやお酒、料理についても頻繁に投稿してくれるため、ファンにとってはさらにKENNさんを身近に感じられるようになり、嬉しい日々だろう。

 今回のインタビューでも、キャリア開始当初「もっと表現力を身に着けたい!」と臆することなくさまざまな分野に飛び込んだハングリーさを感じられるお話のあいまに、ところどころ音楽やゲームとの大切な思い出が伺える場面があった。ストイックな仕事スタンスを確立し、第一線で活躍する人気声優になるまでには当然さまざまな苦労があったことだろう。その一方で、好きなことを追及する楽しさを感じたこともあったのではないか……と感じさせてくれる話しぶりだった。

 さまざまな挑戦の結果、ニコニコ生放送「阿部敦とKENNの今日はべっけんです!!」で大好きなウィスキーを作るところまで到達してしまったKENNさん。これからもファンをさまざまなものに出会わせてくれるに違いない。



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