『ポケモン』クリアのために現実でひまわりを栽培。過酷溢れるヒマナッツ縛りのリアル──レベル2ビッパに負けるしゲーム実況なのにガーデニング知識がないと詰みかける
ゲームに対して普段以上に本気になれるのが縛りプレイの魅力
──「苦しくても楽しいのが縛りプレイ」とのことですが、マサさんがとくに魅力に感じている部分ってどういうところなんでしょう?
マサ:
自分で好きにルールを作れる(難易度を設定)というのがいちばん魅力的に感じています。ある意味、そこって遊ぶ側が自由自在にできるところじゃないですか。
うまくプレイできたときには当然楽しいですし、難しい、苦しい部分がでてきたとしてもそれを乗り越えて達成できたときはすごくうれしい。ゲームに対して普段以上に本気になれる、という感覚です。
──ゲームに対して本気になれる、ですか。
マサ:
はい。普通にプレイしていたときはなんとも思わなかったポケモンがすごく恐ろしく見えたり……ジムリーダーでもないトレーナーとのバトルに一喜一憂したり……僕はもういい歳した大人なんですが、縛りのルールしだいではそんな僕でも本気でハラハラできるんです。
買ったばかりの新作ゲームをはじめてプレイするときって、ただ草むらや町を歩いているだけでも楽しいじゃないですか。それに近い新鮮さやワクワク感を味わえるのが縛りプレイの楽しいところですね。
──なるほど。縛り条件を設けるときの難易度についてはこだわりや指針ってあるんでしょうか?
マサ:
あまりそのゲームを知らない人が見ても「それは無理だろ!」と思われるくらいの難易度ですね。友人に聞いてその反応を参考にしたり、配信中に視聴者の方と考えることもあります。
──下調べやロケテはどの程度行うんです?
マサ:
自分の場合、下調べはほぼしません。おもしろそうな縛り条件が思いついたら、最低限スタートできるかどうかだけ確認して始める感じです。
──えっ!? それだと詰んでしまうリスクもあると思うのですが……?
マサ:
実況者の友人や視聴者の方にも「これ詰まない? 大丈夫?」って心配されます。でも、「詰んでも死ぬわけじゃないしなぁ」くらいに考えていて。詰んだら詰んだで、そこから「じゃあどうしよう?」と考えるのも醍醐味でおもしろいかなあとも思っています。
配信をしながら録画しているので、失敗する様子も含めて、見ている人と共有できるじゃないですか。いまやっている縛りがどれだけキツいのかがそのまま伝わるっていうのは、それはそれで楽しんでもらえるんじゃないかなと。
──配信でやっているというのが大きいのかもしれないですね。それこそ失敗してもその過程自体がコンテンツになっているわけで。
マサ:
そうなんですよ! 「詰みました」っていう結果が残るというのも、ゼロにはならないと思っているので。その考えかたは、配信でプレイしているのが大きいんでしょうね。
これまで配信してきて、まだ完全に詰んだことってないんですけど、もし完全に詰んでしまったらそれは失敗として受け入れようと思っています。そこから「詰んでしまったので、ここでルールを改定します」とか、もしくは新しいルールで最初からやり直すとか。動画にするときもそれ込みでまとめることになるんじゃないかなと。
ゲームって楽しくてやっているわけじゃないですか。詰んだら詰んだ状況を楽しめばいいと思っていて、僕にとってはどこまで行ってもゲームは娯楽なんですよね。
「やりすぎること」がおもしろさに繋がる
──ここからはマサさんとゲームの出会いやゲーム実況を始めるきっかけなど、ゲーム実況者としてのルーツをお聞きしていければと思います。まず、初めてゲームを遊んだのはいつごろになるのでしょう?
マサ:
幼稚園のころ、父親が初代『ポケモン』を遊んでいるのを後ろで見ていたのが、ゲームとの出会いでした。最初のうちは訳も分からずなんとなく見ていただけだったのですが、途中からちょいちょい触らせてもらえるようになって。
一応、ゲームは1日1時間ってルールがあるにはあったんですが、父親も守っていなかったのであってないようなものでした(笑)。
──あってないようなもの(笑)。とくにハマったゲームって何かありましたか?
マサ:
また『ポケモン』になってしまうのですが『ポケモン金銀』ですね。前作で遊んだカントーに行けるっていうのがやっぱり驚きとして大きかったです。何回もやり直して、くり返し遊んでいました。
──『ポケモン』大好きな子供時代だったわけですね。
マサ:
思い返してみると、子供のころだけでなくずっと『ポケモン』を遊んでいますね。
小学生のころに思い描いていた20代後半くらいの大人って、子どもがいて奥さんがいて、休日は犬と戯れて……みたいな。そんな想像をしていた記憶があるんですが、実際はずっと『ポケモン』をプレイしてます。
──子供のころからずっとゲームが好きで『ポケモン』を遊び続けているマサさんですが、ゲーム実況という世界に足を踏み入れたきっかけは何かあったんですか?
マサ:
ゲーム実況というものを知ったのはけっこう遅くて。学生時代、就活も終わってダラダラしていた時期に、当時いちばん仲が良かった友達から「ゲーム実況をやってみたい」と持ちかけられたんです。
僕の知らない世界で、なにをするのかもよくわかっていなかったんですが、「一緒に話していればいい」と言われたので「じゃあ」と、とりあえず話すだけってところから始めたんです。でもその友達は飽き性ですぐに飽きてしまったんですよね。
──あらっ。
マサ:
逆に僕のほうがどっぷりハマってしまって。友達から機材を譲ってもらって、僕ひとりでゲーム実況をするようになっていたんです。
最初のうちは「ゲームをプレイしながらしゃべる」ことじたいが楽しくて投稿していました。そのうち、ほかの人の動画もチェックするようになって、縛りプレイというものを知って。「こういうのをやってみるのもおもしろそうだなぁ」と、縛りプレイに興味を持つようになりました。
──動画で縛りプレイを知ったと。影響を受けた投稿者や動画ってありましたか?
マサ:
いちばん印象に残っているのはレオモンさんの動画です。
金のコイキングの縛りプレイは、いち視聴者として見ておもしろいなあと思いますし、企画の内容だけでなく動画編集の作り込みも本当にすごくて。「やりすぎること」がおもしろさに繋がるんだと気づかせてくれた動画です。
──ではもしかしたらそこでレオモンさんの動画を見ていなかったら、実況スタイルも違ったかもしれなかったり?
マサ:
まったく違うものになっていたかもしれないです。
生放送は公開収録のイメージ
──マサさんって、テイク数が重なりがちな縛りプレイでも「生放送」しながらプレイされているじゃないですか。これってわりと珍しい印象なんですが、縛りプレイを生放送で配信しようと思ったのには何かきっかけが?
マサ:
ゲームの縛りプレイを配信しようと思ったきっかけはヒマナッツ縛りでした。この縛りは厳しいというのはやる前からわかっていたので、その過程も含めて楽しんでもらおうと思ったんです。
どちらかと言えば、生放送というより、公開収録というイメージでやっているんです。あくまで動画を作るための撮影を生放送で公開している、という。
──おお、なるほど。配信は公開収録のイメージ。
マサ:
動画に落とし込む場合、わかりやすく短く編集するので、20時間黙々とプレイしていたとしても、「20時間経った……」みたいなテロップで済ませることになるじゃないですか(笑)。その20時間の大変さを分かってくれる人が少しでもいれば、ちょっと報われるなって思ったんですよね。
──やはり生放送と動画で視聴者層って違うんでしょうか?
マサ:
違いますね。生放送は『ポケモン』をライトに楽しまれている方が多い気がします。「『ポケモン』の縛りプレイ」というより「なにかおもしろそうなことやってるなあ」と覗いてくれる、そんな印象です。
動画になると、いわゆるガチ勢の方のコメントが多く見えるので、それぞれ見てくれている層は違うんだなと実感はあります。
──動画を見る、生放送を見る、どちらの視聴層にも届くのはメリットですね。逆に、生放送で大変なこと、動画で大変なこと、もそれぞれあるんでしょうね。
マサ:
大変、というのとは少し違うかもしれないのですが、生放送はなかったことにできないので、ある意味、逃げ場がない状況なのはありますね。何が起きても、それは起きたこととして受け止めて、どうにかしなくちゃいけない。
動画はとにかく編集が大変ですね……。収録している時間よりも動画編集の時間のほうが長いので。ゲーム内で苦戦するよりも、動画の編集が進まないほうが大変かもしれません。
──極論ではありますが、生放送がコンテンツになっているので、大変な想いをして動画にしなくもいい、みたいな考えかたもあると思うのですが。
マサ:
そこは、やはり動画でないと見ない人もいて、そこに届けたいというのはあります。僕自身もそういうタイプなんですよ。
生放送って「好きな人の配信を見る」のが大きい動機だと考えていて、よく知らない人の配信を見続けてくれる人って多くないじゃないですか。
一部の超有名な方を除くと、「知ってはいるけど大好きというわけではない」というのが多くの人が配信者に抱く感覚じゃないかなと。動画はそこにリーチできると思っています。
縛りプレイのネタをどう考えているのか
──そもそもどのような経緯で「ヒマナッツがひんしになった分だけ現実でひまわりを栽培」という縛りプレイを思いついたんですか?
マサ:
じつは大きなきっかけがあったわけでもないんです。もともと、ヒマナッツについては一番弱い(種族値が低い)ポケモンというのは知っていたので、なんとか工夫して縛りプレイに組み込めたら楽しそうだなとは考えていて。
仕事中にふと「ポケットモンスターヒマナッツ」という言葉がおぼろげに頭に思い浮かんできて、語感がいいなって。
──確かに語感は不思議なくらいいいです(笑)。
マサ:
ただ、調べてみたら「ヒマナッツ1体でクリア」する動画はもう投稿されていたので、別の要素を組み合わせられないかと考えていたら「ヒマナッツ……あぁ、ひまわりの種」かと。
たまたま家の近所に植物の種屋さんがあったので、「植木鉢で育てられるひまわりないかな?」と相談してみたら本気になって調べてくれて、海外のものを発注して取り寄せてくれたんです。
──縛りプレイのために海外から種を取り寄せ。ガチですね。
マサ:
あまりのスピート感にびっくりしましたし、そこまでしてくれたら「どうなるかわからないけどとりあえずやってみよう!」ってなるじゃないですか。その勢いでスタートした感じですね。
──ふむふむ。最初に『ダイヤモンド』を選んだ理由はなにかあったんですか?
マサ:
そのバージョンでヒマナッツ縛りの動画がなかったからです。シンオウ地方が好きというのもあるんですけどね。
──マサさんの動画って、ヒマナッツ縛り以外にも「羊毛フェルトで自作したポケモンしか使えない縛り」や「自分より重いポケモン使用禁止縛り」など、縛り条件をゲーム内だけでなく現実にもリンクさせるのが特徴ですよね。
マサ:
もともと現実で起きたことがゲームに影響を及ぼしたり、その逆だったりっていう要素があったらおもしろいなと思っていたんです。
「もし現実にポケモンがいたら」っていうのは子どものころ、誰しもが考えるじゃないですか。大人になっても考え続けるとこうなってしまうみたいな(笑)。
──(笑)。これらの縛り条件ってどういうときに思い浮かぶものなんですか?
マサ:
羊毛フェルトはヒマナッツ(ダイヤモンド編)が終わって、雑談配信で「企画を練ろう」というテーマで喋っていたときのやりとりがきっかけです。視聴者の方のコメントを読みながら「こういうのやってみたいなぁ」とか話していて。
その中で、「絵を描いてみて、上手く描けたポケモンは使えるというのはどうか」というアイデアを思いついて。そこから公平に判断してもらうためにAIの画像認識アプリがないか探してみたり、せっかくならもっと真似できない縛りにしたいと考えていたところ、コメントで出てきたのが羊毛フェルトだったんです。
──ほうほう。視聴者のコメントがきっかけ、と。
マサ:
はい。そこから企画の詳細をまとめて1ヵ月後には縛りプレイを始めていました。
──羊毛フェルト縛りって、なんとなくゲームプレイじたいはそこまで難しくなく、羊毛フェルトで作るほうの難易度が高そうに見えます。
マサ:
そうですね。やっぱりポケモンを作るのが大変でした。
羊毛フェルトじたい初めて挑戦したので、最初のうちは「どうすればいいんだ?」と困惑しながら作っていました。アチャモのようなデザインが複雑ではないポケモンでもネットや教本を見ながら8時間くらいかかっていました。
ただ、徐々にコツがわかってくるとおもしろくなるもので。グラードンを作ったころには、楽しくて仕方がなくなっていましたね。「樹脂粘土を買ってきて、爪をつけよう!」、「黒い模様には蛍光塗料を塗って光るようにしてみよう」みたいな。必要ないことをいろいろやったりして。
やりたい縛りプレイの企画をやり尽くしたい
──実況をするようになって、さまざまな縛りプレイに挑戦して、ゲームの楽しみかたや向き合いかたは変わりましたか?
マサ:
うーん、無言でゲームをプレイしていたのが喋りながらゲームをプレイするようになったくらいの違いに思っているので、そこまで大きく変わってないかもしれません。
自分が楽しいこと、やりたいことを配信を通して公開しているだけというか。それを視聴者さんが見に来てくれているという感じでしょうか。
──縛りプレイばかりしていますが、普通に(縛らないで)ゲームを遊んで楽しめるものなんでしょうか?
マサ:
もちろん普通に遊んでもゲームは楽しいです! ただ、何度もやりこんだゲームほど新鮮さは薄れていくのはあります。
ですので、縛りプレイと普通のプレイ、半々くらいで遊んでいくのが、自分にとってちょうどいいのかなとは思っています。
──半々でバランスよく、と。実況でプレイするゲームと、それ以外で遊ぶゲームの線引きってあるんです?
マサ:
僕のことをまったく知らない人が見ても「何をやっているか分かって楽しめる内容」かなって思えたら、配信します。
僕の場合はやりたいこと先行なので、「こういうのをやってみたい」というのがまずあるんですけど、せっかくやるんだったら、なるべくたくさんの人にウケるものにしたい。それで、いろいろな人に見てもらうにはどうすればいいかって考えながら作っていく感じですね。
だから、専門用語はできるだけ使わないように意識しています。たとえばヒマナッツ縛りだと、「ひまわりを育てる」っていう誰でも分かることをやっているのに、専門用語を連発して楽しめない人が増えちゃったら、すごくもったいないと思うんです。
──「自分のやりたいこと」がまずありつつ、配信するのなら「可能な限り多くの人に楽しんでもらいたい」、それがマサさんのスタンスなんですね。
マサ:
そうですね。そこは大事にしています。
──ちなみに2年連続でやっているヒマナッツ縛りですが、第3弾って期待しても?
マサ:
たとえばシリーズを『ブラック・ホワイト』にしてできなくはないんですが、『ハートゴールド』まででおもしろいことはやり尽くしたんじゃないかって気もしているんですよね。
同じルールでやったら、もう倒す敵とマップが違うだけなので、新しいドキドキはないかもなと。やるとしたら改めていろいろ検討しないとは思っています。
──なるほど。では今後はどんな縛りプレイをしたいや、どのような活動をしたい、など今後の展望って何かあったりするんでしょうか?
マサ:
とりあえずまだ思いついた企画(縛りプレイ)を全部できていないので、まずはそれを全部やり尽くしたいと思っています! ゲームでも現実でもいろいろやるのでこれからもよろしくお願いします。
(了)
やりこみプレイ魅力について、「ゲームに対して普段以上に本気になれる」「新作ゲームをはじめてプレイしたときに近い新鮮さやワクワク感を味わえる」と語るマサさん。
確かに、ムックルやビッパと命がけの戦いを繰り広げ、むしとりしょうねんに苦戦することは普通にプレイしていればなかなか体験できないことだろう。ほとんど下調べ(ロケテ)を行わないと聞いたときは驚きもしたが、新鮮さやワクワク感を楽しむためと考えると、理にかなっている。
たとえ詰んでしまったとしても、「詰んだら詰んだ状況を楽しめばいい」。
やりこみプレイでの条件を設定する際には、「いかにきびしい縛りにしつつ、詰まないギリギリのライン」を攻めるのがよくある考えかただとイメージしていたので、この言葉も印象的だった。配信でプレイしているから、詰んだとしても詰んだという結果が残りゼロにはならない、そう語るマサさんの話を聞いて、なるほどなと思った。
うまくプレイできれば楽しいし、難しい部分がでてきてもそれを乗り越えたときにはすごくうれしい。そんなゲームの楽しさを新鮮な気持ちでより楽しむため、縛りを課して(難易度を設定して)プレイする。
マサさんにとってやりこみプレイとは、ゲームを楽しむひとつの手段なのだろう。
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