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オリジナルアニメ制作のために1年半かけて小説を作る!? 『Vivy -Fluorite Eye’s Song-』に詰め込まれたオリジナルアニメの可能性

 TVアニメは大きく2種類に分けられる。マンガや小説などの原作が存在する原作つきアニメと、原作が存在しないオリジナルアニメだ。

 しかし、4月から放送されたTVアニメ『Vivy -Fluorite Eye’s Song-(ヴィヴィ-フローライトアイズソング-)』(『Vivy 』)はそのどちらでもない。オリジナルアニメ制作にあたって、ゼロから小説が書きあげられ、それを原案としてアニメが作られた特殊な作品なのである。

 独特な制作方法に関して、『Vivy』のアニメのシリーズ構成・脚本を手掛けた長月達平氏(『Re:ゼロから始める異世界生活』原作者)はこう語る。

「オリジナルアニメは原作ものと異なり、内容のおもしろさを先に判断できないのが難しい。一方、原作ものはネタバレを避けられない問題がある。原案小説を書くやりかたは原作もののアニメ化と同様の材料が先に揃い、それでいてネタバレを気にしなくてもいい。これはおもしろいじゃないかと」

 また、本作の特異性はもうひとつある。

 原案小説を長月氏ひとりではなく、アニメ『リゼロ』にて脚本を手掛けた梅原英司氏と共同で作られていることだ。普段それぞれ独立して活動しているクリエイターがコンビを組んで小説を作り上げるのは異次元の行為に見える。

 『Vivy 』はなぜこのような特殊な制作方法で作られたのか。原案小説を共作し、それを元にシナリオを書き上げることのメリット・デメリットは何なのか。小説、シナリオ、完成した映像へと作品を練り上げていく過程で、さまざまな形でコミュニケーションが行われ、どのように作品が変化していったのか。

 アニメ『リゼロ』の原作者・脚本家として出会ったふたりの才能と才能が掛け合わさり、「おもしろさ」に至る軌跡を、ぜひたどってみてほしい。

 文/前田久(前Q)
編集/竹中プレジデント

オリジナルアニメ制作にあたり小説を書くところから始める

──この作品は、原作のないオリジナルのアニメ企画ですが、最初にシナリオを書いていく通常の作りかたではなかったそうですね。まずおふたりが原案小説を書き下ろし、その内容を元に、あらためてアニメのシナリオを作り上げた。

長月:
 そうです。オリジナルアニメを制作するうえで、まず原案として小説を書き、それをアニメ化する。企画を聞いたときは、珍しくておもしろい試みだと思いました。

 ただ、やる前から薄々感じていたし、実際にそうでしたけど、とにかく時間がかかる。アニメの脚本の作業に入る前、小説を書くだけで1年半ぐらいかかったんです

──1年半……作品によっては同じ時間で、脚本がほぼ完成するところまで行けますね。

長月:
 そこからシナリオの作業に入って、作品が完成するまでで、大体5年くらいかかりました。それだけ時間がかかるのは、はっきりとこのやりかたのデメリットです。

梅原:
 逆に言えば、デメリットは時間がかかることだけ。あとはメリットしかないです。オリジナルアニメではありますが、原作ものを手掛けるときと同じ、安心感がある

長月:
 原案小説を先に書く手間はかかるんですが、原作ものの脚本会議を始めるときとほぼ同じ材料が、オリジナルアニメでも揃う。

 しかも、脚本を書く人間の原作の理解度は、最初から100%。そういう意味でいうと、スタートを深いところから始められはしますね。……最初に小説を書く労力に、メリットが見合っているかはわからないですけど(苦笑)。

梅原:
 (苦笑)。しかもその間、その小説は関係者にしか読まれない。

長月:
 そう、そこも厳しい。結局、原案小説は単行本で4巻分になったんですけど、それだけの文章量を世の中に発表することなく書き続けるのは、なかなかに孤独な作業です。

 俺は梅原さんといい形で共同作業ができたからまだよかったけど、ひとりで書いていたら、精神的にしんどかったと思いますよ。発狂ものです。

──コンビで活動される小説家の方もときどきいますし、シナリオであれば、もともと多くの方のアイデアを集約して作り上げるわけですから共作もわからなくないのですが、普段はそれぞれご活躍されているクリエイターが小説を共作するというのは、かなり異次元の行為に思えます。

長月:
 おっしゃる通り、普通はやらないことです。今回、梅原さんといっしょにひとつの作品を作っていくにあたっては、いつも以上に詳細なプロットを書くよう心掛けました。

 ひとりで書く場合は「自分でわかっているから頭の中をすべて書かない」ことが多いんですが、共作の場合はそういうわけにもいかない。各エピソードの起承転結、その展開ごとの起承転結に至るまで16分割くらいには細かく構成を考えましたね。

 実際に作ってみて身に染みて感じたのですが、俺は梅原さんがいっしょじゃなかったら、今回のように作品を作れなかったと思います。俺と梅原さんの相性がすごくよかったからできた。

──それは『Vivy』という作品作りにおいて、共作だからこそ化学反応が起きた、ひとりでは描けなかった展開やシーン、セリフが生まれたということでしょうか。

長月:
 どちらかというと、アイデアの早出しができた印象です。俺と梅原さんは、好きなものだったり、作品の方向性が似通っていて、意見の相違からくるぶつかり合いがほぼないんです。

──「好みが似ている」というのは、たとえば好きな映画や小説、マンガが被っているんでしょうか? それとも、「こんな展開が好き」みたいなツボが被っている?

長月:
 観ている映画だとかはあんまり被ってないんですよ。ただ、勧めてもらったものを見たら普通におもしろいと感じる。だから後者でしょうね。物語の勘どころの好みが近い。

 「こういうことがしたい」と伝えると、「それをやるためには、こうするともっといいですよね」みたいな返事が来て、建設的に話し合いが進む。

 もちろん、なかには大きく内容を変えるような提案をするときもあるんですけど、そういうときにも1を説明したら10わかってくれる。だから、書いたものを往復させる時間じたいはかかるものの、やりとりはスムーズでひとつの作業を50対50で分担して進められた感覚でした。

梅原:
 基本的に、僕も長月さんも後ろから考えるタイプなんです。物語のオチ(結末)が決まっていて、そこに向かうなかで最適な構成、美しい構成を目指して考えていく

 その展開が結末にとっていいのか悪いのか、物語にとって最適なのかおもしろいのか、そこの判断の感覚が似ている部分があって、すべてを言語化しなくても、わかり合える、通じ合えるんだと思います。

長月:
 あと、ひとりで考えていると、思いついたアイデアが本当におもしろいかどうか、わからないときがある。

 たとえば、アニメ2話でヴィヴィのファンである霧島モモカという少女が飛行機事故に巻き込まれて亡くなってしまうシーンは、物語にとって、ヴィヴィにとって重要な意味を持つし、展開として絶対やるべきだと思いつつ、「もしかしたらそう思うのは俺だけなんじゃないか?」と不安になる気持ちもあったんですよ。

梅原:
 わかります。そういう瞬間は、書いていると常にありますよね。

長月:
 加えて、「俺がやりたいだけで、見てる側は全然望んでないのでは?」という考えが頭によぎるときもあって。そういうときに、「めっちゃいいです、絶対に残しましょう!」と言ってくれる人がいるのは、大きい。

 だから今回は、自分がおもしろいと思うものを自信を持って、躊躇なく出しきれたと思っているんです。原案小説でも、アニメのシナリオでも。

作品に表れた長月さんの個性、梅原さんの個性

──物語の勘どころの好みが近く、物語の作りかたの考えかたも同じ。そんな長月さん梅原さんですが、逆に「それぞれの個性(カラー)が作品に出ていると感じた部分があればお聞きしてみたいです。

梅原:
 それでいうなら、すべての話数のAパートの最後と、次回への引きですかね。いわゆるクリフハンガーと呼ばれる要素。そこの展開は、ほぼ長月さんの色というか、決断によって盛り込まれたものです。

長月:
 そうですね。クリフハンガーは得意……というのもなんですけど、物語を作るうえで絶対にやらないといけないなと思っている要素なんです。

 『Vivy』ではそこを重視したいと意識していましたし、実際にうまく機能してくれたと考えていたので、梅原さんにそう言っていただけるとうれしいですね。

梅原:
 もう、経験が違いますよ。「小説家になろう」での連載は、今、どれくらい続いているんですか?

長月:
 何話だろう……正確な数字はパッとわからないですけど、600万文字くらいは書いてます。

梅原:
 600万文字……もう、僕からすると想像もつかない文章量ですよ。

長月:
 そこまで続けていくためには、クリフハンガーで読者の興味を引き続けないといけない。たしかに、ウェブ小説の経験が、シナリオのその部分にはすごく生きています。それが自分の作品が多くの読者にウケた要因だとも分析していました。

──では逆に、長月さんから見て梅原さんのカラーがよく出ているところは?

長月:
 1話あたりの映像の尺(時間の長さ)が限られているなかで、ドラマを最大限に見せるためのセリフの使いかたですね。

 たとえば、アニメ4話の締めのところでヴィヴィがいう「……悔しいな」のひと言。完成したシナリオを読めば、そのひと言にどういう意図があって、何を見せたいのか、全部わかる。わかるんですけど、俺は書けない。

梅原:
 書いたのは僕なんですが、ホン読み(脚本を読むこと)の場で「これは悔しいなでいきましょう」と背中を押してくれたのは長月さんなんですよ。

長月:
 いや、俺に梅原さんの出す最適解は出せないので、「悔しいな」に対して、俺が悔しいなぁ……です(笑)。

 俺はだらだら書きたくなっちゃうタイプなんですよ。それはさっきの話とは逆に、制限なく好きに書いていいウェブ小説をずっと書いてきたことの弊害なんですが。『リゼロ』(『Re:ゼロから始める異世界生活』)の現場でもめちゃくちゃ多かったんです、こういうこと。

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