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「ガルパンは騒がしい内容なのに全ての音がはっきり聞こえる」──聴覚障がいのアニメファンが語る岩浪音響監督の丁寧すぎる仕事っぷり

 2020年3月、あるツイートが話題となった。
 聴覚障がい者であるくらはしさんが、アニメ音響監督の岩浪美和さんの手掛けた作品がいかに聞きやすいかを記したものだ。

  岩浪音響監督は「サイコパス」シリーズ、『ガールズアンドパンツァー』、『ソードアートオンライン』、「ジョジョ」シリーズなど、数多くの人気作を手掛けている。

 くらはしさんは、このツイートの後、これまでに視聴したアニメ作品の「聞こえやすさ」についてのメモを取っていることを明かしていた。

 くらはしさんは、エンジニアとして音声認識のマシンの開発などを行っているという。
 「聴覚障がい者」であり、「音響」に詳しく、そしてガチのアニメファンであるというくらはしさんだからこその考察は、健常者がアニメを楽しむ上でも、大いに参照できるものだからこそ、話題のなったのだと思う。

 
 ツイートの中で「この2年で241本しか見ていないし、主観的な評価ですけども……」と控えめな前置きをした上で、
 「飛行機の音などホワイトノイズと呼ばれる広い帯域にまんべんなく広がった音は聴覚障害には荷が重すぎて処理しきれません。」「聞き取りには音像定位も大事で、BGMが全面から聞こえているとその中から声を抽出するのが難しいです。」
 などなど……。
 専門的な知識を交えながら、聴覚障がい者ならではの「アニメの聞こえ方」について綴っていた。

 筆者はこれまで、視聴したアニメリストや感想をメモしている人には出会ったことがあるが、「聞きやすさ」に特化して、数百という数のメモを取っている人は、見たことも聞いたこともなかった。

 どんなメモを取っているのか。くらはしさんはいったい何者なのか? 強く興味を持った筆者は、取材を申し込むことにした。
 コロナ禍でのリモートでのインタビューとなったが、くらはしさんは自作の資料を用意してくださり「聴覚障がい者の聞こえ方」と「聞こえやすいアニメとは何か」について、とても熱心かつ丁寧に説明してくださった。
 「聞こえ方メモ」も実際に見せてもらうことが出来た。

 本インタビュー記事は、くらはしさん作成の資料を交えて構成した。「アニメの聞こえ方」という視点が、皆さまのアニメ視聴を楽しむヒントの1つになれば幸いだ。

 

取材・文:金沢俊吾


──本日はよろしくお願い致します。

くらはし:
 よろしくお願いします!

──あの……後ろに貼られている「ライムありません」って何でしょうか?

くらはし:
 「病気の恋人の名前を壁に書いて貼っておくと病気が来ない」っていう話があるんですよ。
 コロナの恋人といえばライムかなと思って、試しに貼ってみました(笑)。

──なるほど、コロナビールにかけてコロナ除け(笑)。

くらはし:
  『江戸前エルフ』っていうマンガに書いてあったネタなんですけどね。

──いま、私の声はスピーカーから流れていて、それを補聴器で聞いている形なんでしょうか?

くらはし:
 いえ、違うんです。この補聴器、Bluetoothがついてるんです。iPhoneと補聴器がBluetoothでつながっていて、非常にクリアに声が聞こえていますよ。

──なるほど、イヤホンみたいに使えるんですね。

くらはし:
 そうなんです、Bluetoothイヤホンと同じですね。

──くらはしさんは、どの程度の聴覚障がいをお持ちなのでしょうか?

くらはし:
 障害者手帳だと「身体障害6級」という程度で、身体障がいでは比較的軽いほうなんですけども。でも、補聴器なしだと耳元で割と怒鳴っていただけないと聞こえないですね。

──普通の音量で話されたら聞こえないと。

くらはし:
 そうですね。例えば、コンビニとかで店員さんに話しかけられても、補聴器なしではもう全くわからないです。

『ガルパン』の音響がすごい理由

──さっそくアニメ音響についてお話を伺いたいです。事前にご連絡した際、『ガルパン』がお好きだとお伺いしたのですが。

くらはし:
 え、ガルパンが嫌いな人っているんですか?

──失礼いたしました!(笑)。爆発音や走行音が多い作品なのに、すべてきれいに聞こえるっていうことを仰っていて。

くらはし:
 そうなんですよね。聞こえない要素がたくさん入っている作品なのに、なぜか全部聞こえちゃうっていうのが本当にうれしいですね。

画像は筆者作成。

──どういう調整をすると、そういうことが出来てしまうんだと思いますか?

くらはし:
 ガルパンの場合、盛り上がるシーンも音量をただ上げるんではなくて、音量感が上がるように調整されてるっていう印象を受けてます。

──音量感が上がる、っていうのはどういうことでしょうか?

くらはし:
 アニメでちゃんと聞こえる「ささやき声」って、音量を下げてるわけじゃなくて、声の質が違うんですよね。ささやき声の演技をしっかり聞こえるように調整するんです。
 節度を持って調整するといいますか、音量の幅を作品内であまり変えずに、音の表情を残したまま、音量を一定の領域に収める。岩浪監督はその「節度をもった調整」が抜群に上手いと思います。

『サイコパス3』はエコーが上手い!

──同じく岩浪音響監督の『サイコパス3』についてもお聞きしたいです。

くらはし:
 『サイコパス3』はとにかく、臨場感があるのに音もきれいなんです。
 声、SE、音楽がそれぞれ、最適の音量と周波数特性に調整されて、一番聞こえやすい領域の中にきちんと収まってるっていうそういう印象があります。

 あと、この作品はエコーが上手い!

画像は「サイコパス3公式ホームページ」より引用。

──エコーが上手い、とは?

くらはし:
 現実世界では、柔らかい壁って高音を吸収するんでね。逆に、コンクリートの壁は音をすごく反射します。
 なので、本当は場所によって、エコーのかかり方が全て変わってくるはずなんです。この作品ではシーンごとにリアルにエコーが調整されています。

──ええ、そうなんですか!? 全く意識せずに見ていました。

くらはし:
 例えば、ドローンの中での会話シーンがあるんですが、アルミパネルっぽい軽い素材に反射してる音がちゃんと聞こえるっていう。
 岩浪監督は他の作品でもエコーの調整をしっかりされていて、『ガルパン』の戦車の中のシーンだと、やっぱり分厚くて硬い材質の中で音が響いているように感じますね。

画像は筆者作成。

──すごいですね。それはきっと、意識的にやられてるってことですよね。

くらはし:
 そうでしょうね。登場人物がどういう部屋にいて、どういうエコーがかかってるっていうのは、多分意識的に変えられてると思います。

──そこまで気づく人って多分ほとんどいないと思うんですが。

くらはし: 
 いや、まあ、僕は変態ですんで(笑)。「何でこういう音響にしたんだろうな」って考えちゃいますよね。

──作り手の意図を探りたくなるっていうことでしょうか?

くらはし:
 そうですね。僕も仕事でいろいろ機械製品を作っているんですが、「何でこういう作りにしたのか」ってユーザーが気付いてくれたらすごく嬉しいじゃないですか。
 あなたも記事を書いて、自分の意図したことが読者に伝わったら嬉しいでしょ?

──はい、それはすごく嬉しいです。

くらはし:
 アニメの作り手もきっとそれと同じなんじゃないかなと思っていて。僕はアニメを見ていても、「こういう意図の音響だぞ」っていう作り手の想いを読み取れる視聴者になりたいなって。

──例のバズったツイートにしても、岩浪音響監督が反応されていたじゃないですか。きっと、監督もうれしかったんだろうなって思いました。

くらはし:
 そうだったら僕もうれしいですけどね。今日のこのお話も、岩浪音響監督へのファンレターのつもりでしゃべっています(笑)。

「聞こえ方メモ」のこと

くらはし: 
 はっきり覚えていないんですけど、「アニメの聞こえ方メモ」で手元に残ってるいちばん古いものが、2017年の秋に書かれてますね。

──おお、手書きなんですね。

くらはし: 
 最初はこんな感じでポストイットにグチャグチャとメモしていた感じです。ある程度たまってからはPCで書くようになりましたけど。

──なぜメモを取ろうと思ったんですか?

くらはし: 
 いろいろアニメを見ていると、どうしようもなく聞こえにくい作品っていうのがいくつかあるんですよ。
 「もしかして特定の音響監督の作品が聞こえにくいんじゃないの?」と思って、アニメを見たら音響監督さんの名前をメモするようになったんです。

──じゃあ、最初は音響監督を知るためにメモを書いていたって感じなんですね。

くらはし:
 そうすると、音響監督毎の特徴と、アニメ作品で聞こえにくいパターンがいくつか見えてきて面白くなってきたんです。それで段々とメモをする内容が細かくなっていったっていう感じですね。

──メモの内容を細かくするにあたって、注意するポイントって具体的にどのあたりでしょうか?

くらはし:
 まず、メインキャラの言葉がはっきり聞こえるか。それから、小声、ささやき声がはっきり聞こえるかどうか。あと、SEとBGMが被らずにしっかり聞こえるか。

画像は筆者作成。

──SEとBGMが被って聞こえにくいというのは、何か具体的にありますか?

くらはし:
 『シンフォギア』は作品の性質上、戦闘シーンで歌うじゃないですか?これを調整するのは本当に大変だと思うんですけど、やっぱりBGMが大き過ぎて聞こえにくいなと思いましたね。

──確かに、自分が「音楽とセリフを聞き分けられる」健常者だから、『シンフォギア』も違和感なく楽しめているのかもしれないです。

くらはし:
 そうですね。とにかく音の要素が多い作品なので、聞こえにくいのは音響監督のせいでは全くないと思います。でもまあ、僕にとっては厳しかったという。ちなみに、作品自体は大好きです!

(画像は「戦姫絶唱シンフォギアXV」公式ホームページより引用。)

──なるほど、メモのポイントは分かりました。実際にメモを見せて頂きたいです。

くらはし:
 メモを全部お見せするのはちょっと恥ずかしいというか、おこがましいので、私が尊敬する岩浪音響監督の作品のメモはこんな感じです。

画像はくらはしさん作成。

──岩浪音響監督の作品はほとんど4か5ですね。

くらはし:
 「本当によく聞こえる」っていうのは5か4ですね。ちょっと聞こえないと3、みたいなイメージです。

──メモを広く公開するつもりはないんですか?こういったメモが200作品分集まっているとなると、 もはや立派な資料だと思うのですが。

くらはし:
 いやいや。僕が補聴器を変えればまた聞こえ方も変わってきますし、主観的なものなので、あくまで自分のためのメモですよ。

──ご自身でメモを読み返すことはあるんですか?

くらはし:
 たまにありますね。聞きやすいアニメに出会ったら、過去に同じスタッフや声優さんが出てるアニメのメモを読み返すんです。で、過去の作品も同じように聞きやすかったりすると「やっぱりね!」ってひとりで納得して楽しんでいます(笑)。

──アニメを見る一環で、答え合わせも楽しむという。

くらはし:
 そうですね、まさに答え合わせだと思います。

聞きやすい声、聞きにくい声

──アニメを聞くうえで「声」も重要だと思うのですが、声質によって、聞きやすい、聞きにくいっていうのはあるのでしょうか?

くらはし: 
 やっぱり、こもった声は聞き取りにくいですね。人間はどうしても歳をとると高い音が出なくなるんですよ。
 声の老化って40歳ぐらいから始まるんです。声優さんなんかトレーニングされてるからあんまり顕著には出ないですけども。

──『新世紀エヴァンゲリオン』の冬月のような、老人役の声はやはり聞こえにくいんですか?

くらはし:
 いえ、そういうわけではないですね。
 老人の演技は「低域の成分が多い声」っていうことで、こもった声とはまた別だと僕は考えてます。

 最近のアニメでいうと、『かくしごと』の声がこもってしまっているように感じてしまうんです。声の質の問題ではなくて、周波数特性のバランスが僕にとって聞き取りにくいのかなって感じています。

──周波数特性のバランスっていうのはどういうことでしょうか?

くらはし:
 録音した声は「低音、中ぐらいの音、高音」って音の成分があるんです。その成分を足したり引いたりして、「自然な人の声」に聞こえるように音響調整するんですね。例えば、低い音が多すぎると、ボンボンとこもったような音に聞こえます。

 実際に『かくしごと』の主人公の神谷浩史さん声、ほかの出演作品と比べて聞くとバランスの違いが分かりやすいかなと思います。

──同じ声優さんの声でも、音響監督や作品によって周波数のバランスは変わってくるということですね

くらはし:
 そうですね。通りすぎる他の声優さんの声を抑えたりとか、いろいろバランスを見て調整しているんだと思います。

画像は「かくしごと」公式ホームページより引用。

──くらはしさんにとって聞きにくい声は、誰にとっても聞きにくいものなのですか?それとも個人差があるんでしょうか。

くらはし:
 多少は個人差あるんですけど、「生の声とかけ離れた音は聞こえにくい」にっていうのは基本だと思います。

聴覚障がい者の聞こえ方とは?

──補聴器をしていないときの聞こえ方を教えていただきたいのですが、まず「小さい音が聞こえにくい」っていう認識であっていますか?

くらはし: 
 もちろん、大きいほうが聞こえやすいです。ただ、耳の構造は普通の人と同じなので、上限はやっぱり同じなんですね。
 上限以上の大きい音を聞くと、もう耳が痛いんですよ。

──なるほど、大音量にすれば健常者と同じように聞こえる、というわけではないんですね。

くらはし: 
 それ、よく言われるんですけど、違うんですよね。

画像はくらはしさん作成。縦軸はデシベル(音量)、横軸は周波数(音の高さなど)を表し、聴覚障がい者は健常者に比べて小さい音が聞こえないことを示している。

──音量以外に、健常者と違って不便なことってありますか?

くらはし: 
 「パーティー効果」ってご存じでしょうか?パーティーでわいわい騒いでる中でも、3メートルぐらい先にいる人の話を意識して聞こうとすると、何となく聞き取れたりしませんか?

──はい、聞こえるような気がします。

くらはし:
 あれ、僕にはまず無理なんですよ。周りの音と混ざってしまって、ひとつの声だけを分離することが出来ないんです。

 「聴覚障がい」って本当に様々なんですけど、私みたいに「音を言葉に変換する能力」が落ちちゃう方も多いんです。例えば音楽を聴いていて、音量は問題なくても、音楽と言葉が重なっちゃって切り離せないんです。

──それは日常生活でも不便ですよね……。

くらはし:
 そうですね。会議室で複数の人が喋っているとか、キーボードの音がパチパチ入ってると、もう何言ってるか聞き取れなくなっちゃいます。

──補聴器をつけていても関係なく聞き分けられないってことですか。

くらはし:
 はい、補聴器つけてもやっぱり音が混ざるものはダメですね。

──音が混ざっちゃうっていうのは、例えばアニメの音だと、BGM、SE(効果音)、セリフが重なるじゃないですか。それぞれの音が識別できずに混ざって聞き取りにくくなるっていうことでしょうか?

くらはし:
 そういうことですね。
 特にBGMって、感動的なシーンだとだんだん音量が上がるんですよね。感動な良いセリフを言ってるのに、BGMがうるさくて何言ってるからわからないんです。

 BGMでも、ピアノの曲とかは、声と全然性質が違うので割と聞き分けやすいんですけども、管弦楽、バイオリンとか、あとはトランペットなんかは、人間の声と区別がしにくいんです。

──バイオリンとかトランペットと人間の声が似てるって、私からするとあんまりわからない感覚なんですけども。

くらはし:
 声も楽器も、「音」っていうのは空気の振動なんです。「周波数」って言葉は聞いたことがあると思うんですが、どれだけ空気が振動したかの数値が周波数で表されるんですね。基本的に、低い音は周波数が低くて、高い音は周波数が高いです。

 それを踏まえて、いまあなたが喋っている声と、バイオリンを鳴らした音の周波数帯がすごく近いんです。健常者って、同じ周波数帯の音をうまく聞き分けることが出来るんです。でも、僕ら聴覚障がいになっちゃうと、それが頭の中で区別できなくなっちゃうんです。

──なるほど。「音を区別する」ってこと自体、全く意識したことがありませんでした。

くらはし:
  健常者の方はそうですよね。

 ちなみに、同じ周波数帯の音を区別するのは、機械でも難しいです。
 私、いま音声認識のプログラムの開発をしているんですが、なかなか上手くいかないんですよ。人間の体って不思議とよくできているんですよね。

──音声認識プログラムの開発をされているとのことですが、お仕事はエンジニアなんですか?

くらはし:
 はい、ずっとエンジニアをしています。「制御のプログラムを書いてくれ」って言われれば書くし、スマフォアプリも書きますね。

──音声認識のお仕事はどういったものなんですか?

くらはし:
 「Hamic BEAR」っていう子どものための音声認識ロボットの開発に関わりました。

 スマホを使えない子どもがロボットに声でメッセージを伝えると、それを音声認識して、親のスマホに文字でメッセージが届くというものです。最初は、親子が使用することを想定して作ったんですが、「これ、耳聞こえない人にちょうどいいね」って話になったんです。

(画像はHAMICの公式ホームページより引用。)

──なるほど、聴覚障がいの方も、文字でメッセージが受け取れるわけですね。

くらはし:
 そうです、健常者は音声、聴覚障がい者は文字でコミュニケーションできると。私にとって、天職とまでは言わないですけど、同じ聴覚障がいの人に役立てるような、良いお仕事をやらせてもらってるなと思っています。

──Hamic BEAR、素敵ですね。デザインもかわいいです。

くらはし:
 すいません、ちょっと宣伝させて頂きました(笑)。

──でも、お仕事で音声に関わっているから、音響にもお詳しいんですね。

くらはし:
 そうですね、最近はもう、趣味と実益を兼ねてるような感じです。

くらはしさんから、健常者の方々にお願い

くらはし:
 最後に、この記事を読んでくださっている方にお伝えしたいことがありまして。

──ぜひお伺いしたいです。

くらはし:
 僕もそうなんですが、難聴になったら、ほぼほぼ治らないです。
 ちょっとでも聞き取りにくいなって感じた方は、なるべく早く耳鼻科に行ってください。早く診てもらえば治ることもあります。

──はい。

くらはし:
 もうひとつ、健常者の方にお願いです。耳が悪い人とお話をするときに、大きな声でゆっくり同じ言葉を返していただきたいんです。

 よくあるのが、「お食事どうします?」って言われたときに聞き返すと、「ご飯どうしますか」って言葉を変えちゃうんです。確かに「ご飯」のほうがわかりやすい単語なんですけども、言葉を変えられちゃうと聞き取ろうとしている言葉が掴めないんです。
 ですので、なるべく同じ言葉を、大きくゆっくり繰り返して欲しいです。

──同じ言葉を大きくゆっくり繰り返す。私も意識します。

くらはし:
 よろしくお願いします!

──音声認識の開発もそうですけど、くらはしさんは聴覚障がいの人が生きやすいようにしたい、という気持ちがとても強いですよね。

くらはし:
 それは本当に強く思っています。僕ら聴覚障がい者は、聞こえない中で上手く生きていくしかないんですよね。
 
 そのためには、健常者の方々に僕らの実態を知ってもらうことが大事だと思っていて。こうやって情報を出すことで、理解してもらうっていうと大げさですけれど、困惑の少ないコミュニケーションが生まれるといいなと思っています。

──くらはしさんが発信されることによって、アニメ業界自体が「聞きやすさ」をもっと意識して、聴覚障がいの方々も楽しめるアニメが増えてくといいなと思いました。

くらはし:
 そうですね。本当にそう思います。
 今日はいろいろ「聞こえにくい」とか偉そうなことを言ってしまって、一生懸命作られている方々に本当に申し訳なかったんですが、「聞こえにくいと思っている人もいるよ」っていうことが、ちょっとでも伝わるといいなと思います。

──最後にひとつ質問させてください。聴覚をあまり必要としない娯楽って世の中にたくさんあると思うんです。その中でも、くらはしさんが「聞こえにくさ」を乗り越えてアニメをたくさん見る原動力って何なのでしょうか?

くらはし:
 そうですねえ……娯楽って、脳みそをイイ感じに休ませるものだと思うんですけど、ただ休ませるだけじゃなくて、誰かに共感をするとか、やっぱり僕は物語が欲しいんですよね。

──物語が欲しい。

くらはし:
 ただボーっとするよりも、物語に触れて、心を動かされたいんです。
 そのなかでも、とても丁寧に作り込まれていて、違和感なく物語の世界に入り込んで楽しめる物語が、僕にとってはアニメなんですよね。

 最近のアニメってとにかくクオリティが高いし、皆が「良いものを作ろう」という努力だけでできあがってるコンテンツっていうのがアニメじゃないかなって思うんです。

──作り手へのリスペクトを感じられる、その最たるものが倉橋さんにとってアニメである?

くらはし:
 そうですね。まあ、作り手のリスペクトだけでアニメ見てるわけでもないですけど。
 単純に僕はアニメが好きで音響に詳しい変態ってだけですよ(笑)。

(了)


 取材中、何度も話にのぼった岩浪音響監督は、特別に「聴覚障がい者のために」と考えて作っているわけではないかもしれない。
 ただただ、くらはしさんの言う「良いものを作ろうという努力」を突き詰めた結果、聞きやすくリアルな音がアニメに宿ることで健常者は違和感なく、聴覚障がい者は聞き取りやすい音響が生まれるのだと思う。

 くらはしさんのお話を聞いていて、とても月並みではあるけれども、「アニメの音ってすごいんだな」と思った。
 以前、「目の見えない人も楽しめる映画館」を取材したことがある。 そこでは、『ソードアートオンライン』『プロメア』『この世界の片隅に』など数々のアニメが、声優のナレーションによる音声ガイド付きで上映されており、視覚障がい者も映画館でアニメ鑑賞を楽しめるようになっている。
 もちろん、アニメは映像を楽しむものでもあるが、「音」だけでも物語の世界に入り込むことが出来る。それはもちろん、声優さんや音響スタッフの並々ならぬこだわりと努力の結果だろう。
 
 アニメは様々な特性を持つ人々が楽しむことの出来るコンテンツだ。きっと、耳が見えないからこそ気付けること、目が見えないからこそ気付けることがたくさんあるのだろうと思う。
 今回、くらはしさんの「視点」と「耳」を通して、まだ見ぬクリエイターの努力の片りんに触れたような気になった。アニメの新しい楽しみ方を教えてもらったようで、これからの視聴が楽しみで仕方ない。

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