新海誠は『君の名は。』でアナ雪に疲れた女性を救った 『ゼブラーマン』漫画家 山田玲司が語る
『ゼブラーマン』 『Bバージン』などで知られる漫画家の山田玲司が、テレビでは語れないような角度から話題のニュースを斬りまくる「山田玲司のヤングサンデー」。
今回取り上げるテーマは、今年空前絶後の大ヒットを記録している新海誠のアニメ映画『君の名は。』。年齢性別問わず日本中でヒットしているが、特に女性から強い支持を得ているという。
そんな『君の名は。』について、2014年に大ヒットした映画『アナと雪の女王』と大胆に比較。「『少しも寒くないわ』なんて無理!」「恋愛飢餓で爆発寸前!」など、自由気ままな指摘が飛び出す!
乙君:
今回はこれ行っちゃいますか。皆さんお待ちかね。映画『君の名は。』。
山田:
やっぱり美しかったですよ、あの隕石。上空の無音の世界がまた非常に良くできている。そして必ず陰影には紫を入れる、これは印象派の基本です。新海誠は印象派ですからね。
乙君:
印象派なんですか?
山田:
「新海誠はモネだな~」なんて思って見ながら見てましたよ。非常に内省的なモノローグで、「私というモノの中で完結している世界観」っていう。「はいはい。ご存知セカイ系ですね」と。これゼロ年代感あるよなって。ちょっと懐かしいよね。隕石とか自然表現に関するリアリティがものすごいのに対して、人間ドラマが非常にファンタジーだというのが。入れ替わりがあったりとか。
乙君:
ああ、いわゆるみんなが言っている「設定矛盾がひどすぎる」とかそういう。
山田:
もうとにかくさ、そんなことだらけじゃん。この嘘もこの嘘も入って、3つ目4つ目って。「最後は何でもありなんだ」みたいな感じになっちゃう。それをノイズと思ってしまう人は受け入れられずに「なんなの?」ってなるのもわかる。
乙君:
「男子高校生がカフェなんか行くかよ」みたいな。
山田:
だけど新海監督はそんなこと言いたいんじゃないんだよ。新海はそんなことどうでもいいんだよ、誠は(笑)。誠がいいたいのは、「赤い糸はあるんです!」ってそれだけなんですよ。運命の人はどこかで絶対待ってるんですと。
乙君:
なるほど。
山田:
あと野田洋次郎(RADWIMPS)の破壊力がパネェ。誠マジックに洋次郎マジックが重なって、「みんな運命の人はいるんです!」っていうのを言いつつ、それが「いるの?」「いないの?」みたいな。高校の演劇部みたいなもんじゃん。それでバーンっと。
乙君:
高校の演劇部ですか?
山田:
俺は間違えて高校の演劇部を見に行っちゃったことがあるんだよ。泣いちゃったからね。本気だから、奴ら本気で来るから。誠の本気と洋次郎の本気が来るからさ、すべての矛盾を吹き飛ばす。
乙君:
なるほど。
山田:
「やっぱりどこかに運命の人はいる」って信じたい。どこかみんな思ってたんだよ。それが、いわゆるティッピング・ポイント(臨界点)。環境問題でよく言うところの「一定の環境破壊が起こると、そこから雪崩を打ったように止まらなくなる」という点をティッピング・ポイントって言います。
乙君:
はい。
山田:
要するに、「恋愛飢餓のティッピング・ポイント」が来ちゃったの。みんな爆発寸前だったわけですよ。そこに「運命の人っているんですよ」って新海誠が言ったから、みんなが「やっぱり独り無理!」って。
乙君:
無理でしたか。
山田:
「少しも寒くないわ」って歌詞が流行ったけど、『君の名は。』を見たあとは「私は寒いわ」っていう素直な感じになっちゃった。人間ですから。いくらそこで「私寒くないわ!」とか言ったところで、カラオケで『アナと雪の女王』を歌い上げて、帰ると「ベッドが広いわ」みたいになるわけだよ。「寒くないわ」のはずなのに……。
乙君:
なるほど。
山田:
女子は『アナと雪の女王』のエルサと『君の名は。』の三葉の間に立っているんですよ。今までは大きくエルサに寄ってたんですよ。氷の女王なんで寒いんですよ。寒いので、糸守町(『君の名は。』の舞台)に行きたくなっちゃったんですよ。だって、そっちだと逢えるんだもん。「きっと逢えるよ」って。
乙君:
逢えるよと。
山田:
新海誠は今回は裏切らないで、「逢えるんだ!」っていう答えを出してくれたわけですよ。そしたら男子もいるわけだよ。「俺もう別にいいっす。俺の嫁は二次元なんで」みたいなことを言ってたやつが、「ちょっと待って」みたいになっちゃって。
乙君:
男も来ちゃった。
山田:
あと俺が言いたいのは、誠マジックを決定づけた川村マジック。川村元気っていう東宝のプロデューサーがいるんですけど、彼のチューニングだと思うんだよね。「川村チューニング」、ここにポイントが出てきました。川村チューニング!
乙君:
ダダダン!
山田:
川村チューニングっていうのがやっぱりでかくて、いらないノイズを消してるんだよね。
乙君:
例えば?
山田:
東京にずっといると、東京そんなに素敵じゃないって知ってますよ。東京きついっすよ。人だらけでウンザリですよ。でも、違うんだよ。上京前はキラキラなんだよ渋谷は。るるぶです。るるぶ映画ですあれは。
乙君:
ああ、いいところをピックアップしていい写真を撮って。
山田:
「田舎嫌だよ。何もないよ。カフェに行きたいよ!」っていうのが、日本中の地方の人たちのチューニングにピタリと合って、誰も野暮なツッコミをしないわけだよ。それは共感されるでしょ。東京行ったら嬉しいし、キレイなものがいっぱいある。これつまりるるぶやはとバスなんだけど、みんなが見たいやつにチューニングを合わせるんで。
乙君:
あー、なるほどね。
山田:
これ、結構難しいチューニングをやってたなって思う。
乙君:
そう言われてみると絶妙だなあ。コントロールいいですね。岩隈くらい良いですね。
山田:
あと、「運命の人に出会える」っていうのと、もう一個でかいのが、誰もが思ってる「震災前に戻りたい」って気持ちを正直にぶつけたっていうね、
乙君:
あー。
山田:
みんなが体験したアレ以前とアレ以後っていうのを、しっかりと避けずにぶつけたっていう。バーンと一発カタストロフィが来ちゃって、目が冷めちゃった。やんなきゃいけない、瓦礫の処理をしなくちゃいけない、いろんなものを解決しなければいけない。だから、モヤモヤしている状態はやめて、ハッキリさせなきゃいけない。
乙君:
なるほどね。
山田:
切ないよね。本当は無理なんだよ。「ヴァーチャルで我慢しろ」って、無理なんだよ。
乙君:
夢物語だと。だから。みんな乗れるんだと。
山田:
ただ問題は、「努力しないで会える」っていう、80年代の名残が残ってる。幻想みたいなものの延長上にまだあるんだよ。「努力したほうがいいんじゃないんですか?」っていうことですよ。
乙君:
あっ、苦い顔になった。
山田:
でも努力って楽しいんだよね。実は。待ってるのに疲れたら努力した方がいいんじゃないですかね?って思います。