VRの理想と現実「二次元のキャラに会えると思ったらゾンビばかりだった」『狼と香辛料』作者がVRアニメで萌え作品を作るに至った理由が切なすぎる
累計発行部数420万部を超える小説を原作とし、2度のアニメ化も果たした電撃文庫の大人気シリーズ『狼と香辛料』。
本作を題材とする新作VRアニメ『狼と香辛料VR』が2019年にリリースされる。そう、ついに人類はアニメの世界に入るという長年の夢を叶えられるのだ。
●『狼と香辛料VR』公式サイト
●SpicyTails@Twitterアカウント
そんな二次元と三次元を繋げる夢のかけ橋をかけてくれたのが、『狼と香辛料』作者であり、『狼と香辛料VR』企画・シナリオを担当する支倉凍砂氏。
支倉氏は、2017年に世界初の萌え系長編VRアニメ『Project LUX』を手がけており、VRアニメ界における先駆者でもある。
今回は、そんな支倉氏がVR市場で活動することになったきっかけや、そもそもVRアニメとは何なのか、さらには今後のVR市場の展望など、VRアニメというジャンルについていろいろ聞いてみた。
二次元のキャラに会えると思ったらゾンビしかいなかった
──支倉先生と言えば、僕のような30代のオタクにとって『狼と香辛料』という小説の作者というイメージが強いのですが、VR市場で活動するようになったのは何かきっかけがあるんですか?
支倉凍砂氏(以下、支倉):
2013年くらいだと思うのですが、理研(理化学研究所)で脳の研究をされていた藤井直敬先生が書いたVRの前身のようなSR(代替現実)システムの本『拡張する脳』を読んで「すごい!」と感じて、すぐにメールを送り体験させてもらったんです。
体験してみて、「まるで『SAO』の世界じゃねえか」と、いち消費者として世に出てくるのを楽しみにしていたんですけど、全然萌え系のコンテンツが出てこなくて。これは自分で作ったほうが早そうだなと思ってVRの世界に飛び込んだのが最初のきっかけです。
──それで飛び込めちゃうのはバイタリティがすごいですね。
支倉:
二次元のキャラに会える、というのが僕の中で大きかったんです。でも、現実はゾンビとかFPS系のゲームばかり出ていて……なら自分でという感じでしたね。
──そこから2017年にVRアニメ『Project LUX』をリリース、そして今回『狼と香辛料VR』の制作に至ったと。そもそもVRアニメという言葉がそこまで聞き慣れないものなのですが、どういったものを指す言葉なのでしょう?
支倉:
明確な定義が難しくて、便宜上そう呼んでいるというのが大きいです。ゲームではなく物語という要素が強い、というのがひとつの特徴ではあります。
実際に体験した場合、アニメというより演劇に近いかたちです。その場にいて、二次元の演劇を観るという感じですね。
──VRアニメとはまだ明確なジャンルではないと?
支倉:
そうですね。僕たち制作者側もお客さんたちもゾーニングできておらず、しっかりとわかっていない状況だと思います。
VRアニメは、ゲームともアニメとも演出が違い独特の見せかたというのがあって、それをまだ誰も確立できていないので、正直、ゲーム側からもアニメ側からも物足りなかったり、至らない点が多いかと思います。
アニメ業界の人が見れば「これはアニメとしては至っていないよね」となるし、ゲーム業界の人が見れば「これはゲームとしてちょっとどうかな」という。
──そういう状況の中、あえて『Project LUX』、『狼と香辛料VR』の2作品でVR“アニメ”と謳ったのにはどのような狙いが?
支倉:
VR市場はまだゲーマーが大半を占めていて、ゲーム以外のコンテンツは肩身が狭いです。“アニメ”という言葉をつけることで、動画、物語もあるよ、というのを表現したいという想いがあります。
──前作のオリジナルタイトルから一転、『狼と香辛料』という有名IPをVRアニメ化したのには何か意図があるのでしょうか?
VRアニメに興味を持ってもらう入口になれたらなというのが一番の目的です。
後、VRアニメでオリジナルはきびしいというのもあります。まずVRに興味を持ってもらうのがけっこう辛くて。クリエイター業をやっている人たちでも、聞いたことあるけど……みたいな反応の鈍さなので、そのうえでオリジナルコンテンツってなると、相当大変です。
バーチャルYouTuberの流行で気づいた視聴者との意識の差
──2018年初頭からバーチャルYouTuberが大流行していて、これってVR市場にとって影響が大きいのでは、と個人的には感じているのですが、実際何か影響はあったのでしょうか?
支倉:
まずVR機器が売れていますよね。後、VRという単語がみんなの頭に浸透したのも影響のひとつだと思います。
また、制作者側としては、世間の人たちの反応を見やすくなったのも大きいです。
──反応というと?
支倉:
たとえば、VRアニメーション、3Dでアニメーションを作っている人たちは、ポリゴンのめり込みをものすごく気にするんですね。それを修正するのに手間もかかってかかる予算もどんどん増えていって……。
でもバーチャルYouTuberの方でそんなの気にする人はいないですし、視聴者もそれでみんな楽しんでいて。そういうのって制作者側にいると段々わからなくなってきてしまうので、それらの反応や声を聞きやすくなったのは、バーチャルYouTuberの流行で助かった部分でもあります。
──先生ご自身の中で何か考えかたが変わった部分はあるんですか?
支倉:
じつは変わっていなかった、というのをさきほど【※】ねこますさんとお話していて気づきました。古い考えで見ていたなと……。なのでむしろいまから変えていかないとなと思っています。
※9月16日に放送された記念特番生放送後
──ちなみにねこますさんとはどのようなお話をされたんですか?
支倉:
いまだとコンテンツを作る人たちが、1個ずつゲームのパッケージを作っているんですが、それって毎回システムを組んで、モデルを作って、背景を作って、と全部1個ずつ出さないといけないんです。
それを、たとえばバーチャルキャストのような共通のプラットフォーム上でコンテンツを作るようになることで、そのプラットフォームで作った自分のアカウントでいろいろな世界に行けるようになる可能性もあるなと。
──それってまさに『SAO』の世界ですよね。
支倉:
そうなんです。どこかの世界で冒険して手に入れたアイテムを持って、別のコンテンツに行ける可能性もあって、それこそ『SAO』の“ザ・シード”のような。
後、制作者側としても、ネットワークが絡むと同人では無理なので、そういう意味でもいまのバーチャルYouTuberの統合環境みたいなのはVRコンテンツの制作に影響するのではないか……というお話をされて、確かにってなりました。
VR機器の普及、強いAIの出現がVRアニメ流行のカギ
──今後、VRアニメが普及、流行するうえでの課題とは?
支倉:
なにより、ヘッドマウントディスプレイ(ゴーグル)の普及ですね。
──VRを見るためには必須な機器ですが、値段的にまだまだお高いので手を出しにくいイメージがあります。今日の生放送でも最高品質で見ようとすると20万円くらいかかるというコメントもありましたし。
支倉:
実際そこまでするのは買わなくていいのかな、というのはありますね。見て楽しむだけならもう少しリーズナブルなもので十分です。
後、VR機器の開発は日進月歩なので来年には爆安になっているはずです(笑)。
──品質がいいものでも10万とか15万とか、リーズナブルなものだともっと安く手に入ると。
支倉:
そうですね。購入する際は自力で調べるのをやめてお店に行って相談したほうがいいと思います。開発のスピードが速くて追いかけられないので本当に。
今後の課題として、もうひとつは強いAIの出現でしょうか。現状、アニメといっしょで、VRアニメで尺を増やそうとすると予算がものすごい増えていくんですよ。ビジュアルノベルゲームだと、立ち絵さえできてしまえば、シナリオを増やしてもそこまで激しく予算は増えていきませんが、VRアニメだと純粋に尺が2倍なら予算も2倍、キャラが1人から2人になればさらに倍に増えていきます。
──それだと必然的に、尺も長くしにくいですし、登場人物も増やしにくい、という縛りができてしまいますね。
支倉:
そこをAIが自動でモーションを制作したり、ある程度簡単なやり取りは処理してくれるようになったら、コンテンツの幅がすごく広がってきます。
そもそも、VRアニメを普及させるということが古い考えなのかもしれません(笑)。全然別の何かのほうがVRに向いている可能性もあるのかなって、さっき(ねこますさんと話して)思ったので。
──まさかの違う可能性が!? ちなみにいまの段階でなにかビジョンってお持ちだったりします?
支倉:
最高なのは、人間と区別がつかない強いAIを搭載したアニメキャラクターの登場ですね。物語制作者は世界観や目的を設定して、後はプレイヤー自身に好きに動いてもらう。多分それがVRアニメの進化なのかなと。
『狼と香辛料VR』ではホロの耳や尻尾をモフモフできる
──『狼と香辛料VR』の魅力を教えてください。
支倉:
アニメの中に入って、アニメの舞台に立てることです。視聴者はロレンス視点で動けるようになっていて、ホロの耳を触ったり、尻尾を触ったりもできて、ちょっとした反応がもらえます。
──登場するのはホロとロレンスの2人ですか?
支倉:
そうですね。声もアニメ同様、ホロを小清水亜美さん、ロレンスを福山潤さんが担当しています。
──まさにアニメと同じ世界に入り込めるんですね、楽しみです。最後に『狼と香辛料VR』を待ち望んでいるファンの方へひと言メッセ―ジをお願いします。
支倉:
ぜひVR機器を持って体験してみてください。実際触れないとわからない体験があるので、ぜひよろしくお願いします。
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