「音楽教育を守る会」への質問事項および受け取った回答全文

 ニコニコ生放送今、音楽著作権の管理を考える【JASRAC理事長も出演】で取り上げた音楽教室からの著作権使用料の徴収に関して、「音楽教育を守る会」に事前に質問を送付、いただいた回答の全文を掲載したものとなります。
(番組中では抜粋した内容を読み上げ)

1.今回、JASRACの請求に対して、債務不存在確認訴訟を提起されましたが、どのような趣旨・背景からでしょうか。

 音楽教室のレッスンにおいては、著作権法に定める第22条演奏権はおよばないと考えておりますが、音楽教室事業者が法を勝手に解釈してはなりませんし、著作権等管理事業者であっても勝手に運用してはならないところです。そのため、これを司法に判断いただくために訴訟を提起しました。

 1970年の現行著作権法制定時、立法者が音楽教室からの徴収を意図してなかった事は明白です。著作権法が制定された1970年ヤマハ音楽教室では30万人、河合楽器の営む音楽教室も16万人の生徒が在籍していたなど、すでに多くの事業者が音楽教室を行っており、社会的にも無視できない存在でありました。もし、著作権法制定時に音楽教室からも著作物使用料を徴収すべきだと考えていたのであれば、著作権法第22条があの様な文言である筈がなく、確実に徴収を可能にする文言が採用されていた筈です。立法の経緯をみても、音楽教室の授業での演奏について、演奏権を及ぼす意図が無かったことは明白です。

 また、JASRACはカラオケ法理を持ち出して、生徒の演奏も教師の演奏も教室事業者を演奏主体としてお考えなのかもしれませんが、当時、カラオケから著作物使用料を徴収するためには、お店を主体として捉える必要があった上での判断であり、音楽教室での演奏にまでそれを拡張して適用することは無理があると考えています。音楽教室においては、レッスンでは先生に対し生徒1人あるいは数名でありますから「公衆」にあたるのかどうか、また、その生徒の演奏は音楽や演奏技術を学ぶためのものであって、練習途中の演奏は人前では披露しないのですから、「聞かせる目的」でもないと考えています。

2.「音楽著作物の『実演』(演奏?)をビジネスの重要な素材として使用し、利益を得ているのに、その使用の対価を権利者に支払わないのはおかしい」との意見に対して、どのように考えますか。

 レッスンで用いる「テキスト(楽譜)における複製権」、それに「発表会での演奏権」の申請はしており、管理事業者に著作物使用料の支払いを行っております。第一回口頭弁論のJASRACの浅石理事長の意見陳述では「受講料収入から1円たりとも創作者に還元しない(と守る会側が主張している)」とありますが、テキストや発表会の申請実態をご存知ないはずはなく、どのような意図なのか伺ってみたいところです。

 また、JASRACは、創作のサイクルのためということを理由に挙げられておりますから、分配について視点を移せば、テキストの申請では使用楽曲リストを添付しますし、発表会の申請では演奏楽曲を記載した会のプログラム(出演者と演奏楽曲が記された冊子)を送付しており、きちんと権利者に分配がなされていると信じております。しかし、演奏権については、ファンキー末吉さん事件やネットでも指摘があるようですが、分配の透明性について権利者や利用者に十分に納得できる説明をしていただきたいし、それができないのであれば、創作のサイクルも叶わないのではないでしょうか。

3.今回請求の対象となっているのは、ヤマハ・カワイを中心とした、「音楽教室」ですが、いわゆるピアノ教室以外の楽器教室、カラオケ教室、その他専門学校での楽器教育等、公的な教育以外の私的な音楽教育ビジネスは多岐に渡ると考えられますが、どこまでが使用料支払いの対象で、どこからが支払い対象外と考えていますか。
その基準はどのように考えていますか。

 質問の1の回答と重複しますが、教室での演奏が、著作権法に定める第22条演奏権がおよぶ範囲であるかどうかであると考えております。音楽の専門学校や音楽大学については著作権法第38条1項で権利制限されるという意見もあるようですが、そのように整理してしまうと講師の報酬について、「演奏者への報酬」に該当しないのか、生徒からの授業料が「聴衆から料金を徴収」することにあたらないのかなどの疑問が生じますので、音楽教育は著作権法第22条演奏権がおよばないと整理したほうが自然のように思えます。なお、カラオケ設備を用いるカラオケ教室の事業者の事情はわかりませんが、歌謡教室の運用基準が「カラオケ規程の範囲内で」としている以上、カラオケ設備を用いないボーカルレッスンとは区別する必要があると考えられます。

4.アメリカではすでに「音楽教室」での音楽著作物の使用に関して演奏権の対象として、使用料が徴収されていますが、このことをどのように考えますか。

 米国その他の諸外国と、我が国の著作権法・司法制度・国策としての文化振興のあり方・市場の理解等々多くの点で異なりますから、音楽教室での著作物の利用を徴収対象とする国も、そうではない国もあろうかと思います。特に米国は第107条フェアユースの規定と第110条一定の実演の免除の規程もありますので、どういった事由で制度化されているのか確認する必要があるものと考えています。

 なお、司法の判断がなされたあとで、演奏権のおよぶ範囲である・徴収対象であるとなれば、その料率については協議の場面や文化審議会等で参考になるかもしれません。

5.その他、「niconico」の利用者に対してメッセージがあれば、お願いいたします。

 niconicoの利用者に対するメッセージになるかはわかりませんが、この問題は大きな注目をいただいておりますので、著作権や音楽教育、それにJASRACという機関を考えるきっかけとして捉えていただければと思っております。

 多くの方が音楽を愛し、音楽に囲まれて暮らしてほしい。街に音楽がいつも流れていてほしい。そこに無理なく権利者に創作の対価が還元されることが重要だと考えます。しかし、JASRACの徴収の方針やその方法が、窮屈な制度やシメツケとなって街から音楽が消えてしまってはとても残念なことです。新聞の社説等でも、音楽教室での演奏から著作物使用料を徴収する方針について「音楽文化を細らせることにつながらないか」「著作権収入が増えても音楽文化や音楽産業の根が腐るようでは本末転倒」「音楽文化のさらなる発展を願うのであれば再考する余地があってもよい」などの意見も多く目にするようになって来ました。音楽教室によって、音楽の演奏家や愛好家が増えることは明らかですから、同じく第一回口頭弁論の意見陳述からの引用になりますが、この問題を契機にJASRACが単なる著作物使用料徴収機能から、信託された楽曲をより多くの音楽ファンにより活用してもらえる音楽マーケット拡大に向けた施策を併せて行える組織、機能に生まれ変わり、結果としてより多くの資金が権利者に還流する事を望みたいです。


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