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日本アニメが世界ヒットしても何故クリエイターにお金が届かなかったのか? エヴァでヨーロッパにアニメ再ブームを起こしたイタリア人の戦い

ヨーロッパで大ヒットでも、原作者にお金が届かない謎

吉川:
 そこで日本のアニメ業界と初めて触れたわけですか?

コルピ:
 いろんなアニメーターさんと仲良くなりました。東映動画(現・東映アニメーション)さんの演出家や虫プロのアニメーターともすごく仲良くなって。
 そこで虫プロの給料にびっくりしたのを覚えています。お金を節約するためにひとつの6畳の部屋を5人で借りている。みんな会社のアニメーターだから、どのみち5人が同じ時間に同じ部屋にいることはないのです。
 東映動画さんはもっと待遇が良かったんですけれど。それでも、なんで給料がこんなものなのか? と疑問に思う金額でした。その一人がやっていた『とんがり帽子のメモル』【※】はイタリアですごく人気があったのに、きっとヨーロッパで報告しないでお金を抜いたりするが人いるのだろうと思ったんです。「これを調査して、アニメの仕事にしよう」と。

※『とんがり帽子のメモル』
1984年放送。地球へやってきてとんがり帽子をかぶった小さな宇宙人メモルたちと、地球人の女の子マリエルの交流を描いた作品。現在の『プリキュア』シリーズへと続く東映動画による、朝日放送の日曜朝8時30分枠アニメの第1作。

『とんがり帽子のメモル』
(画像はAmazonより)

数土:
 実際には、どうだったのですか?

コルピ:
 ちょうど永井豪先生のダイナミック企画と知り合いになった頃で、「それじゃあ、調査して欲しい」と頼まれました。
 「自分たちの作品がイタリア、フランス、スペインで大人気になっていて、おもちゃの売り上げだけで60億円、80億円と聞いているけど、うちには1円も入ってきていない。それはなぜなのか?」と、不思議に思っていたようです。
 最初の仕事は、イタリアの出版社とかテレビ局に「おたくはどこを経由して作品を買ったのか」の調査。それからフランス、スペイン……。電話をかけたり、FAXを送ったりしました。

吉川:
 それは現地に行かずに電話で?

コルピ:
 最初は電話でした。ただ、実は現地の出版社やテレビ局の方が、すごくびっくりしていました。当時は『グレンダイザー』も『マジンガーZ』も本当に大人気だったので、まさか原作者がそれを知らないとは思わなかったんです。だから、とても協力的でした。

 結局わかったのは、最初はヨーロッパ側でお金を抜いている人がいると思っていたのですが、意外なことに日本側にもそれをやっていた人がいたことでした。永井豪先生の場合は、東映動画が正式に契約していたものの、その契約先の人間が契約で認められている権利の範囲を遥かに超えて、商品化権や出版権をいろんな会社に高額で売ったケースが多くありました。他の作品ではアフレコスタジオから素材が流れていたとか、地方局から素材が流れていたとか、いろんなケースがありました。

数土:
 それは違法に売っていたということなのですか。

コルピ:
 というより、その作品の権利をそもそも持っていない人が売っていた、ということですよね。

左からドワンゴ・エグゼクティブ・プロデューサー 吉川圭三、ジャーナリスト 数土直志

日本アニメシェア70%以上、ヨーロッパに会社を設立

吉川:
 そこから「お金をきちんと回収しよう」と?

コルピ:
 「これだけ人気があるのにお金が返ってきていない、何かできないか」と永井豪先生と話をしているうちに、ヨーロッパに子会社を作って直接販売しようという話になりました。ただ当時のダイナミック企画はそこまでの財力がなかったので、子会社ではなくて現地の人たちも集めて提携会社を各国に作ろうということになりました。1995年12月から98年の頭ぐらいまでのことですね。イタリアにまずDynamic Italia ( Dynit )を、さらにフランス、スペイン、ポルトガル、ドイツ、オランダで次々に作りました。

 最初は永井豪先生の作品だけでやろうと思っていました。けれども、やっているうちに他の会社からも、「実はうちも金が入っていないから一緒にやってくれない」と声を掛けていただいて。それでいつの間にかヨーロッパで日本のアニメ市場シェアがトップの会社になってしまって…… ピーク時にはヨーロッパで放送される日本のアニメの70%が、うち経由でテレビ局に販売され、パッケージ化されるようになったんです。

数土:
 すごい、大成功ですね。何がよかったんですか?

コルピ:
 ひとつは吹き替えに力を入れたことです。客観的に見てそれまでの吹き替え、翻訳が本当にひどかったんです。
 当時、日本アニメは暴力的だとか、性的だとかとてもバッシングされていましたし、それではいつまでたっても市民権を得られない。そこで「吹き替え、翻訳にしっかりお金をかけよう」と、有名な俳優さん、女優さん、声優さんを集めました。
 これで良い吹き替えができて、テレビ局もすごく評価してくれました。「今までのアニメはひどかったけどこのアニメは面白い」と。別にそのアニメが面白くて、前がつまらなかったわけではなくて、あくまでも吹き替えのレベルが違っただけだったのです。
 最初の作品が『ドラゴンボール』の劇場版シリーズ、それから『らんま1/2』。これがものすごく人気になってどんどん広がっていきました。

吉川:
 そもそもなぜ翻訳がひどかったのですか?

コルピ:
 それまでのヨーロッパの仲介会社は、日本から買ったアニメをテレビ局に売って、その売り上げの見込み額の範囲内で吹き替えを作る予算を決めていたという仕組みだったんです。仲介会社からすれば吹き替えにお金をあまり掛けない方が、自分たちの収益率が高くなります。

 うちはそのやり方を変えて、テレビ局に対して吹き替え込みでアニメを売りました。じゃあうちがどこからお金を回収するか? というとパッケージです。当時DVDじゃなくてVHSだったので、VHSを売って、回収できたところでテレビ局に放映権を許諾していました。

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